ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2005年7号
ケース
トミー――SCM

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JULY 2005 38 メーカー垂直統合の崩壊 日本の玩具市場は家電などと同様、長らく メーカーによる支配が続いてきた。
一般消費 者への販売を担当するのは商店街の小規模店 舗や百貨店のおもちゃ売り場が中心で、そこ にメーカー→メーカー販社→地域の二次卸→ 三次卸という段階を経て商品を供給する。
そ して店頭ではメーカーが設定する価格で商品 を販売することによって、メーカー、卸、小 売りの三者がそれぞれ一定の収益を確保して いた。
しかし、こうした?メーカーによる垂直統 合〞の構図はこの二〇年で大きく様変わりし た。
まず販売チャネル。
九〇年代に入ると、 街の玩具店は徐々に姿を消し、それに代わっ て「日本トイザらス」に代表される大型の専 門量販店が台頭。
さらに最近では外食チェー ンの店舗や駅の売店、コンビニでも商品が陳 列されるようになるなど玩具の販売を担うプ レーヤーたちの顔ぶれは年を追うごとに多様 化している。
中間流通にも大きな変化が起きた。
かつて この分野で幅を利かせていた地域卸は、廃業 や経営規模の縮小など苦境に立たされている。
大型量販店がバイイングパワーを武器に、卸 の?中抜き〞、つまりメーカーとの直取引を 実現しているためだ。
メーカー〜小売り間の 直取引の割合が年々高まっていくにつれ、卸 の弱体化はさらに加速し、現在では市場での 生産〜販売までの物流を一元管理 物流子会社は企画・管理業務に専念 中国や東南アジアからの調達物流 を統合。
さらに販売物流用の国内物 流拠点6〜7カ所を1カ所に集約し た。
これを機に物流子会社の位置付 けを改めた。
現場オペレーションは アウトソーシングに回し、新たにサ プライチェーンの企画・管理会社と して機能させることにした。
トミー ――SCM 39 JULY 2005 存在意義そのものを問われるまでに至ってい る。
そして玩具市場を牛耳ってきたメーカーも また、往時の勢いを失いつつある。
百貨店や 玩具店の定価販売が下支えしてきたメーカー 各社の収益力は大型量販店のEDLP(エブ リデーロープライス)戦略の煽りを受けて、 ここ数年悪化の一途を辿っている。
その結果、 体力のない中小零細メーカーが淘汰され、一 方で大手も企業買収や合併といった再編の波 に晒されている。
マーケットにおける主導権が川上から川下 へシフトしたことで、玩具メーカー各社はビ ジネスモデルの見直しを迫られている。
サプライチェーンはメーカーなど供給サイドの都 合で市場に商品を送り込む「プッシュ型」か ら、小売りや消費者の需要動向に応じて必要 量だけを供給していく「プル型」へ。
それに 伴い、物流も川下の意向を強く意識した仕組 みに改めることが求められるようになった。
実際、大手メーカー各社は過去の成功体験 を捨てて、時代のニーズに即した新たなサプ ライチェーンづくりに向けて動き出している。
「トミカ」や「プラレール」を主力商品とす るトミーもそのうちの一社だ。
同社は二〇〇 三年にグループ横断のSCMプロジェクトを スタート。
今年四月には物流体制を刷新した。
トミーグループの物流子会社であるトミー 流通サービスの合田邦正社長は、SCMプロ ジェクトを立ち上げた経緯をこう説明する。
「物流コストの上昇を抑えるために、協力物 流業者に配送料の値下げを受け入れてもらう という選択肢もある。
ただし、そうした小手 先の取り組みだけではいずれコストダウンに 限界が訪れるのは明らかだった。
もう少し大 きな枠組みで捉えて、物流のあるべき姿を探 っていこうという話になった」 調達物流を一元管理 トミーの製品は大部分が中国を含めた東南 アジア諸国で生産されている。
そのサプライ チェーンは、中国やタイの製造子会社や協力 工場→トミー→グループ販社(ユーエース) や地域卸→販売店、という流れになっている (図1)。
ただし、有力量販店とは直取引に応 じているケースもある。
直取引の最大の相手 は「日本トイザらス」で、すでに同社との取 引額はグループ売り上げ全体の一〇%強を占 めている。
海外の工場から商品を仕入れる輸入元は、 トミー本体のほかに、雑貨や食玩を扱う「ユ ージン」、小物玩具の「ユーメイト」、海外メ ーカーの玩具を輸入・販売する「トミーダイ レクト」など商品カテゴリー別に九つの法人 に分かれている。
その調達物流はこれまで各 社がバラバラに管理していた。
一方、卸から 販売店に至る販売物流は、物流子会社のトミ ー流通サービスが九社分を一元管理するとい う体制だった。
「メーカーによって取扱商品や会社設立の 経緯や時期が異なっていたため、これまでは 調達物流も別々に管理してきた。
しかし各社 がそれぞれ日本向けの海上コンテナを仕立て るので積載率が上がらない。
海外から送られ てくる商品を荷受けする当社の物流センター でも、入荷のタイミングがバラバラだったり、 トミー流通サービスの合田 邦正社長 図1 トミーのサプライチェーンと物流体制 《製造子会社》 《協力工場》 中 国 中 国 《トミー流通サービス》 タ イ メ ー カ ー の 国 内 物 流 拠 点 (全国6〜7カ所) 地域卸 量販店一括物流センター 販売店 販売店 販売店 販売店 販売店 メーカー販社(ユーエ ース)の物流も担当 生産 事前に入荷情報を提供してくれないメーカー もあったりして、作業の平準化が図れないと いった問題が生じていた」と合田社長は指摘 する。
そこでトミーでは販売物流と同様、調達物 流の管理もトミー流通サービスに一本化する ことにした。
メーカー各社から物流の権限を 奪い、代わってトミー流通サービスが市場の 販売動向を見ながら、必要な商品を必要な量 だけ、必要なタイミングで海外から調達する ルールに改めた。
それに伴い、「製造子会社・協力工場〜メ ーカー」間の国際輸送を担当する物流業者も 一社に絞り込んだ。
物流業者は各工場で生産 された商品を集荷・混載して日本に送り込む。
それによって輸送の頻度を減らすとともに、 コンテナ一本当たりの積載効率を高めること で、無駄な物流コストを発生させないように した。
トミー流通サービスが調達物流をコントロ ールすることで、メーカー各社は製造子会社 や協力工場から必要な量だけ商品を仕入れる かたちになるため、無駄な在庫を抱えなくて 済む。
その結果、「グループ全体の在庫回転 率が向上し、キャッシュフローの改善にもつ ながるはずだ」と合田社長は期待している。
日通にセンター運営を委託 販売物流にもメスを入れた。
前述した通り、 これまで「メーカー〜卸」、「メーカー〜販売 店」(直取引)、「メーカー販社〜販売店」の販売物流はトミー流通サービスがコントロー ルしてきた。
千葉県・流山市と柏市の二つの 物流センターをメーンに、栃木や大阪などを 含め全国各地に計六〜七カ所の物流拠点を用 意。
そこから得意先に向けて商品を供給して きた。
もっとも、玩具の出荷量はクリスマスシー ズンなど繁忙期になると、通常の一〇倍以上 に膨れ上がる。
そのため繁忙期には六〜七カ 所のほかに臨時で倉庫を数カ所賃借して、物 量増に対応するという状態だった。
モノの流れがメーカー→卸に限定されてい た時代には、拠点が分散していてもそれほど 効率は悪くなかった。
メーカー→卸の物流は 大量一括納品が基本だったためだ。
ところが、 大型量販店との間で直取引がスタートして以 降、非効率な部分が徐々に目立つようになっ てきた。
例えば、大型量販店から「メーカー九社分 の商品の一括納品」を要求されたとしよう。
各メーカーの商品在庫が各地に点在していた ため、物流拠点では商品をクロスドッキング するための横持ち輸送が頻繁に発生する。
それだけではない。
「複数の拠点を利用し ていると、拠点ごとに伝票を打ち出す機械が 必要だったり、それを操作する作業員を配置 しなければならなかったり、あらゆる面で無 駄なコストが掛かっていることが分かった」 と合田社長。
こうした問題を解消するため、トミーでは 全国各地に分散していた物流拠点を一カ所に 集約することを決めた。
そして、これを機に 物流センターの建設と現場のオペレーション をすべて物流業者にアウトソーシングするこ とにした。
販売チャネルの拡大など今後の流通構造の 変化に柔軟に対応していくためには、できる だけ自社で物流資産を持たないほうがいい。
現場のオペレーションも物流の実務について ノウハウが豊富な物流専業者に任せたほうが、 生産性が高いという判断だ。
アウトソーシングへの移行に伴い、トミー 流通サービスの役割も見直された。
もともと 同社はセンター運営から得意先への配送まで JULY 2005 40 今年4月に稼働した「トミー舞浜流通センター事業所」。
施設は延べ床面積約3万7000平方メートルの5階建て を請け負う作業会社だったが、拠点集約後は トミーグループ全体の物流をコントロールす ることに専念する企画・管理会社として生ま れ変わることになった。
「これまで当社はメーカー各社や販社の指 示に従って、作業を行うだけの受け身的な立 場だった。
しかし今後は生産から販売までの サプライチェーンをコントロールする?司令 塔〞として機能していくことが求められてい る。
トミーグループ内での位置付けが変わっ た分、物流に対する責務も大きくなった」と合田社長は説明する。
販売物流の方向性が決まったところで、ト ミーでは物流専業者十数社を集めてコンペを 開いた。
その結果、拠点の建設とセンター運 営を日本通運に委託することになった。
これ を受けて、日通は今年四月に「トミー舞浜流 通センター事業所」(千葉県浦安市、延べ床 面積約三万七〇〇〇平方メートルの五階建 て)をオープンした(=写真)。
同施設を簡単に紹介す ると、三階および四階部 分がメーカー九社用の商 品在庫保管スペースにな っている。
二階はグルー プ販社であるユーエース 用、一階は入出庫作業を 行うスペースだ。
三階と 四階は保管庫であるため、 ラックのみのシンプルな 構造になっているが、二 階部分ではバラ出荷に対 応するためのマテハン機 器が随所に見られる。
定 番商品をピースピッキン グするための「デジタル ピッキングシステム」や、 チェーン小売りの店舗別 に商品を仕分けるための チルトトレイソーターな 41 JULY 2005 どが導入されている。
来年三月にタカラと経営統合 トミーでは一連の物流改革によって大幅な コスト削減を期待している。
まず今期(二〇 〇六年三月期)は連結ベースの物流費を前期 比で五%減となる三八億円まで圧縮する。
そ して二年後にはさらに三億円減らして三五億 円まで削減する計画だ。
その結果、トータル でプロジェクト発足時に比べ物流費を二〇% 程度減らすことができると見込んでいる。
二〇〇三年にスタートしたSCMプロジェ クトは、今年四月の新センター稼働でようや く一段落を迎えるはずだった。
ところが、こ こにきて新たな課題に直面することになった。
「チョロQ」や「ベイブレード」などの商品で 知られるタカラとの経営統合が決定したため だ。
両社は来年三月に合併して「タカラトミ ー」として再出発する。
「現段階ではタカラと経営統合することが 決まっただけ。
来年三月以降の物流体制がど うなるのかなど具体的なことはまだ何も決ま っていない。
両社の物流担当による話し合い はこれから」と合田社長は説明する。
トミーの新物流体制にタカラの物流をその まま組み込むのか。
それとも合併を機に、物 流のあり方をゼロベースで見直すことになる のか。
いずれにせよ、トミーのSCMプロジ ェクトが延長戦に突入することだけは間違い なさそうだ。
(刈屋大輔) 3階4階部分ではメーカー在庫を保 管。
センターで管理する商品アイテ ム数は約3000に達する トミカやプラレールなど定番商品のピ ッキングにはデジタルピッキングシス テム活用。
トータルピッキングした後、 ソーターで販売店別に仕分ける 販売店別に商品を仕分けるチルトト レイソーター。
2階部分に設置して いる。
シュート数は120 卸や小売りへの配送は日通のほかに 数社に委託。
販社(ユーエース)分 以外は大半の商品がカートン単位で 出荷される 新センターの作業の様子

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