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最新現地レポート
欧州ロジ スティクス通信
JULY 2005 74
大衆消費財業界の傾向
アメリカ東海岸のボストンに本社を置くジ
レットは、ヨーロッパではスイスのジュネー
ブに欧州本部を置いています。 そして私はヨ
ーロッパ全体のサプライチェーンを管轄する
立場にあります。 ジレットはカミソリやその
関連製品を扱う業界のリーダーとして知られ
ていますが、同時にアルカリ電池や歯ブラシ
といった製品でも大手であることはあまり知
られていません。 デュラセルやオーラルB、
ブラウンや女性用品を扱うジレット・ヴィー
ナスなどのブランドもジレットの傘下にある
のです。
それら全てのブランドの製品をどうやって
効率的に卸や小売店に供給していくのかにつ
いての計画と実行が私の役目です。 ヨーロッ
パにおけるジレットのサプライチェーンのネ
ットワークは、一四カ所の工場(ないしOE
M工場)を出発点として、四カ所の倉庫、六
カ所の物流センターとなります(
図1
参照)。
まずは、ファースト・ムービング・コンシ
ューマー・グッズ(FMCG)と呼ばれる日
用雑貨におけるサプライチェーンの最新トレ
ンドから話を始めたいと思います。
FMCGの分野では、サプライチェーンは
複雑になっていく半面、全体の効率を上げる
ことが求められています。 複雑になっていく
のは、材料の調達先が今まで以上に頻繁に変
化したり、OEM工場が短期間に変わったり
するからです。 そのたびにネットワークが複
雑になって負荷がかかります。 供給源が東欧
や中国へ移っているというのが現在の大きな
特徴です。
製造業者のサプライチェーンを担当する側
としては、?どうやってモノの動きをシンプ
第6 回
ジレットの3PL活用術
大手日用雑貨メーカーの大手であるジレットのヨーロッパ部門は、3PL業
者と二人三脚でサプライチェーンの効率化を進めている。 主力製品のカミソリ
だけでなく、乾電池や歯ブラシなど別ブランドも含んだサプライチェーンだけ
に、仕事はより複雑だという。 同社でヨーロッパ全域のサプライチェーンを管
理するロレンゾ・フェルナオリ氏が、欧州3PL会議で同社の取り組みについ
て語った。
(構成・
欧州特派員 横田増生
)
★工場(ないしOEM工場)
在庫を抱える倉庫
物流センター
図1 欧州ジレットのサプライチェーンネットワーク
スピーカー
ジレット ロレンゾ・フェルナオリ
東半球輸送最適化マネージャー
75 JULY 2005
ルにして無理なく流れていくようにするのか、
?どうやって適正在庫を確保するのか、?リ
ードタイムを短くするにはどうしたらいいの
か、?物流センターや車両をどうやれば無駄
なく使うことができるのか――といった問題
に取り組まなければなりません。 ジレットは、
ネットワークを完全にコントロールしたいと
思う反面、全部を自分たちでやることができ
ないこともわかっています。 だから、3PL
業者との連携が不可欠となります。
長・中期的な戦略
ジレットでは、サプライチェーン戦略を三
つの時間軸に分けて考えています。 まず長期
的な戦略としては、効率のいいネットワーク
をつくることを掲げています。 工場や配達先
の変化が、サプライチェーンにどのような影
響を与えるのかを分析して、その上で?ハブ
となるセンターをどこに置くのか、?工場か
らの直送とするのかそれともセンター経由で
配送するのがいいのか、?また、センターや
車両を自社の所有とするのか、?3PL業者
に任せるのか――などを精査します。
中期的には、物流の現場を調整したり、イ
ンコタームと呼ばれる貿易条件(特に製品の
輸送過程における責任範囲の条件)や輸送モ
ードを決定したりすることです。 輸送モード
を決めるというのは、外注する3PL業者を
決めることでもあります。
3PL業者を決めるときの選別の要件は、
?輸送エリア、?ITによる貨物のトラッキ
ング能力、?これまでの実績、?価格、?F MCG業界への精通度、?柔軟な体制――な
どが挙げられます。
輸送エリアについては、発地の集配能力だ
けでなく、着地でどれだけ確実な仕事ができ
るかを重視しています。 ジレットにとっては
着地より発地での仕事ぶりのほうが見えやす
いのですが、客先である着地で通関が遅れた
り、通関後の配送が遅れたりしては意味があ
りません。 発地以上に着地で確実に、かつ正
確に仕事ができる3PL業者を選ぶようにし
ています。 そのために、着地での評価として、
定期的に客先からアンケートをとり、その結
果を集計して、3PL業者に提示するように
しています。
コスト高の改善提案
先に挙げた六つの条件の中で、ジレットが
もっとも重視する要素を挙げるとするなら、
二番目のITによるトラッキング能力です。
日々の業務の中で、貨物の行方がわからなく
なることは残念ながら起こります。 見失った
貨物をどれだけ速く探し出せるのかは、3P
L業者のIT能力にかかってきます。 FMC
Gの世界では、「時は金なり」という考えで
動いています。 製品の遅配・誤配は、売り上
げ機会のロスに直結するのです。 価格も大切
な要素ではありますが、もっとも重視しているというわけではありません。 以前、違う業界のサプライチェーン担当者
にこんな質問を受けたことがあります。
「もし、今まで付き合いのなかった3PL
業者が、ジレットのサプライチェーンを徹底
的に分析した上で、素晴らしい改善提案を持
ってきたとしよう。 ただし、料金は現在使っ
ている業者よりも二割高い設定になっていた
とする。 君ならどうする」
私なら、その3PL業者にこう答えるでし
ょう。
「まずやってみてください。 サプライチェー
ンの一部でもいいからあなた方の提案通りや
ジレットのロレンゾ・フェルナリオ氏
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ってみて、実際に効果が上がることを証明し
てください。 私のほうでは、これまでの料金
とは別に二割増し分の料金も予算として確保
しておきます。 そして本当に効果が上がった
ら、喜んで二割増し分を払いましょう」
残念なことに、これはあくまでも仮説の質
問であって、これまで実際に3PL業者から
このような提案を受けたことはありません。
後で詳しくお話しますが、製造業でも小売業
でも、そのサプライチェーンの担当者の多く
は、このような積極的で意欲的な提案を待ち
望んでいるのです。
短期ではコミュニケーション重視
短期的な目標としては、日々の業務の遂行
と円滑なコミュニケーションを掲げています。
この二つの項目は表裏一体といっていいでし
ょう。 日々の業務とコミュニケーションを重
視することに何も目新しい点はありません。
しかし日常の業務とはこれまで言われ尽くし
てきたことの繰り返しなのです。
ジレットでは、3PL業者にジレット担当
者を決めてもらいます。 できるだけ、その担
当者と話をするだけで、交渉が済むようにし
たいのです。 しかし3PL業者の規模が大き
な場合、国ごとや地域ごとに独立採算制をと
っていることがあります。 そうすると、同じ
3PL業者であるにもかかわらず、A支店で
はOKだった取引がB支店ではダメだという
ことが往々にしてあるのです。 理屈はわかり
ますが、荷主の立場からすると、同じ企業な
ら同じ条件で仕事をしてもらいたいものだと
思います。
契約更新時も、3PL業者との絶好の話し
合いの機会となります。 特に運賃を決める際
には、十分な話し合いが必要です。 物量の上
下に応じた固定相場制とするのか、それとも
実際にかかった経費にプラスアルファをつけ
るようにするのか。 KPI(重要目標達成指
標)を定めて、基準をどれだけ上回ればボー
ナスの対象となり、どれだけ下回ればペナル
ティーの対象となるのか。
また、ジレットの物流センターに常駐する
3PL業者の社員は、支払い料金に含まれる
のか。 オンサイト要員というのは、些細なこ
とに見えるかもしれませんが、常にジレット
と発送先の双方と接触するために非常に役に
立つ存在となるため、契約の際にはできるだ
けこの項目を含めてもらうよう交渉します。
リードタイムについても細目を分けて記録
をつけて、日々の業務の改善に役立てます。
例えば、工場から出て一五日で客先にまで届
ける製品があったとすると、どの段階でどれ
だけの時間がかかったのかを集計して、問題
点を話し合います。
社内の説得にも有効なKPI
さらに、月に一度は物流センターごとにレ
ビュー会議を開き、年に一度は、本部のわれ
われと、ジレットの物流センターの責任者、
3PL業者の責任者が四日間かけて次年度の取り組みについて話し合います。 3PL業者との話し合いは、具体的なデー
タに基づいて進めるのが大切です。 そのため
にはわれわれ本部の人間が、何をKPIとす
るのかをしっかりと考え、どの項目が重要か
を優先順位をつけて提示する必要があります。
サプライチェーンを効率化するには、KPI
をとらえて、常に問題点を把握してその改善
に努めなければならないからです。
KPIのデータは、予算を立てる上でも不
可欠です。 明確な数字なしでは、社内を説得
することができないからです。 経営トップは、
サプライチェーンにお金をかけるのが、どれ
ほど経営のプラスにつながっているかという
図2 ジレットのサプライチェーン戦略
長 期 最適なネットワークの構築
中 期 物流現場の調整
短 期 日々の業務と円滑なコミュニケーション
●3つの戦略はいずれも密接に関連がある
●日々の業務と円滑なコミュニケーションはサプ
ライチェーンのパフォーマンスを向上させ、期
待値に近づけるための重要な要素
欧州ロジスティクス通信
77 JULY 2005
視点で見ています。 KPIはそんな経営トッ
プを説得する手段になるのです。
対外的なコミュニケーションと並んで、社
内でも円滑なコミュニケーションを持つこと
が大切です。 調達部門や財務部門、マーケテ
ィング部門とは常に連絡を取っておく必要が
あります。 例えば、最近、スペインの工場か
らイギリスへと輸送する手段を、これまでの
船便をやめて料金の安いトラックに変えよう
としました。 その時は、マーケティング部門
に、船便と比べるとリードタイムは長くなる
が、料金が安いので理解してほしい、と事前
に話をつけました。
3PL業者に望むもの
サプライチェーンを効率化するためには、
調達と保管、輸送の三つを有機的に結びつけ
る必要があると思っています(
図3
・参照)。
この三角形をバランスのいいものにするため
には、リードタイムや在庫量、ロジスティク
ス資産の有効利用などを考慮に入れる必要が
あります。 また、この三角形を完成するには、
3PL業者の積極的な関与が必要です。
最後に、ジレットが3PL業者に望む項目
について話したいと思います。
3PL業者と頻繁に意見が食い違うのは、
料金の支払いについてです。 為替が変動した、
割増料金が発生した、予定以上の料金がかか
った、などです。 料金の支払いをできるだけ
簡単にするために、ジレットは料金を一括で
請求するように求めています。 そして請求書
には、その作業に関するKPIの数字もわか
るようにしてもらっています。 そうすれば、ど
んなサービスに対して、いくらの料金を支払
っているのかが一目でわかるからです。
ジレットが3PL業者にもっとも望んでい
ることは、プロ・アクティブな態度で仕事を
してくれることです。 何かを言われてから反
応する(react
)ではなく、自分から進んで行
動する(pro-act
)な仕事です。 例えば、貨物
がなくなったときでも、どうしたらいいのか
をわれわれに尋ねるのではなく、自分たちで
いくつかの選択肢を用意してわれわれに伝え
てほしいのです。 そのためには、情報システ
ムの中に、貨物が通常とは違う動きをしたと
きに警告を発するようなプログラムを組むだ
けで、お互い仕事のロスが減ります。
また現在、中国から調達する際、Xという
3PL業者がコンテナに入った半製品を運ん
できて、ヨーロッパの工場で完成した製品を
別のYという3PL業者が同じコンテナに入
れてアメリカへと運ぶケースがあります。 問
題は、アメリカに行ったコンテナをどうやっ
て中国に持って帰ってくるか。 空のコンテナ
だけを運ぶのに、通常通りの運賃を払う必要
があるのか。 それとも、3PL業者の工夫で
どうにかなるものなのか。
複数の3PL業者を使っていると、3PL
業者同士の連携が取れていないことがありま
す。 いつもはライバル同士であっても、同じ
荷主の仕事をしているときは、企業間の垣根
を取り払って貨物を運んでほしいと思ってい
ます。
※米P&Gは二〇〇五年一月、ジレットを日本円にして
六兆円近い金額で買収すると発表した。 買収によって、
日用品の最大手となることで、小売業者との交渉を有
利に進めようとしたためと見られている。 これによって、
それまでブラウンやデュラセルなどを買収してきたジレ
ットが、今度はP&G傘下に入ることになった。
図3 サプライチェーンの3つの要素
生産コスト
調 達
在庫水準
在 庫
配送スピード
配 送
サプライチェーンの
最適化
●リードタイム
●サイクルタイム
●在庫
●物流資産の活用
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