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価格競争力は増している
――運送市場のプライスリーダーを自負してきた。 そ
れは今も変わらないか。
「この五年ぐらいを振り返ってみても、軽トラック
のコスト面における優位性は揺らいでいない。 むしろ
強まっています。 二トン以上の通常トラックは、排ガ
ス規制の強化による車両の代替でコスト負担が増して
いる。 これまでは償却済みの古いクルマで運行するこ
とで、安い運賃をカバーすることができた。 ところが
現在は、首都圏はすべて償却負担のある車両で運行
されている」
「しかも与信状況の悪化した中小の運送会社に対し
ては、与信会社がとんでもないリース料をふっかけて
いる。 月六万円だったところを七万円にしろといって
きている。 燃料費の値上げの影響も大きい。 軽貨物は
もともとガソリン車で燃費もいい。 一日フルに走った
としても、負担増は五〇〇円程度。 それに対して通常
トラックは軽油を使うディーゼル車で、燃費はリッタ
ー三キロぐらい。 しかも一日二〇〇〜三〇〇キロは走
行するので一〇〇リッター使う。 燃料費だけで一日一
〇〇〇円以上、コストが上がっている」
――つまり通常トラックと軽トラックのコスト差が開
いてきた?
「そうです。 現在、都内で二トン車を一日チャータ
ーすれば二万五〇〇〇円ぐらい、四トン車で二万八
〇〇〇円というところでしょう。 これに対して軽トラ
ックは長期委託で一日一万五〇〇〇円〜六〇〇〇円
程度。 スポットで付帯作業のあるもので一万九〇〇〇
円〜二万円といったところです」
――軽トラックの運賃相場は上がっていないのか。
「この五年ぐらいは横ばいです」
「車両販売と決別して本業に集中する」
軽トラックの一人親方を組織化したフランチャイズチェー
ンで急成長を遂げた。 しかし加盟者に対する車両販売のロー
ン保証が焦げ付き、財務状況が悪化。 巨額の特別損失を余儀
なくされた。 車両販売事業から事実上、手を引き、物流事業
に集中することで再建を図るという。 (聞き手・大矢昌浩)
軽貨急配西原克敏社長
OCTOBER 2006 16
――人手不足の影響はない?
「開業者の募集をかければ頭数自体は集まります。 た
だし、応募者には高齢者が多い。 平均で五〇歳以上
です。 リストラで職を失ったものの年齢のために勤め
口が見つからない。 あるいは、金銭的な問題を抱えて
いるといった社会的弱者が応募者の中心です。 それだ
けに離職率は高い」
――そもそも軽貨急配の「ダブル・アウトソーシング」
というモデルは、自らは車両やドライバーなどのアセ
ットを抱えず、仕事を仲介するだけなので、どんなに
安い運賃であっても軽貨急配自体は赤字にならない。
「その通りです。 安くても運んでくれるドライバーが
いる限り、低価格が提供できる。 ただし、当社には株
式公開企業としての制約もある。 会社に対する社会
的な評判にも耳を傾けなくてはならなくなっている。
極端な低コストで委託することで、ドライバーを生活
苦に陥いれていいのか、という批判にどう応えるのか。
彼らを犠牲にしてまで儲けることが認められなくなってきている」
――また、これまでは物流事業よりも、むしろフラン
チャイズに加盟して開業した個人事業主に高額な車両
を販売することで利ザヤを稼いできた。
「確かに(車両販売の問題点には)目をつぶってや
ったところがあったことは否定しません。 しかし今後
も事業を継続していくために、開発事業(車両販売事
業)の切り離しを進めています。 今年四月からは軽貨
ロジスティクスや船井財産トータルサポートに開発事
業を全面的に委託し、車両販売に関わる特別損失や
風評のリスクなどを回避できるかたちで動いています」
――車両販売を分離すれば利益が確保できなくなる。
「車両販売は、収益は上がるがリスクを伴う。 当社
が今後も生き残っているためには、それは外部に投げ
第1部掟破りの価格破壊を検証する
` W
17 OCTOBER 2006
たほうがいいという判断です。 個人的には二〇〇三年
に名古屋でおきた軽急便の支店爆破事件の影響が大
きかった。 当社のことではなかったが、(社名が似て
いるので)いまだに当社に問い合わせがある。 それだ
け社会に与えた衝撃は大きかった。 当社も販売事業を
続けている限り、このリスクから逃れられない。 そう
思いました」
「車両販売を外部委託して縮小することで、外資系
のアナリストなどからは、何で儲かる仕事を手放すの
か、利益率が下がってしまうなどと批判も受けること
もあります。 しかし彼らは利ザヤだけを見ている。 そ
のつらさを分かっていない」
――その影響もあるのか、株価が極端に下がっている。
「それはファイナンスをやった影響です。 開発事業
を整理にするために資金を調達しました」
――開業者のローン保証に関する貸し倒れの処理で、
一昨年の六〇億円に続き今期も八〇億円という巨額
の特損を出す。 わずか二年の間に、また多額の貸し倒
れが発生したということか。
「一昨年の処理では足らなかったということです。 当
社では平成十三年頃にローンを払えない開業者が急
増しました。 これには消費者金融が多重債務者に対す
る貸し出しをしぼった影響があったのかも知れません。
今後、上限金利の制限が実施されれば、また似たよう
なことが起きる可能性があります。 しかし、特損を出
して債券をきれいにして、車両販売を外部委託するこ
とで当社のローン保証はなくなり、リスクを避けるこ
とができます」
――資金調達のために「MSCB(転換価格下方修
正条項付き転換社債)」の発行を繰り返している。 あ
れは一種の禁じ手だ。 いたずらに発行株式数が膨ら
んでしまう。 金融機関のカラ売りにより株価の暴落
も招く。
「しかし、合法的な資金調達です」
――一般投資家からの風当たりも強くなる。
「それは覚悟しています。 そのために、このところ連
日のように個人投資家向けの説明会を開いて理解を
求めています」
背水の陣で事業再構築
――資金繰りに問題はないのか。
「特別損失は未収金を貸し倒れとして引き当てるだ
けで、キャッシュが出て行くわけではありません。 調
達したキャッシュは手元に残る。 もともと当社は大き
な運転資金を必要としないビジネスモデルで、しかも
運送事業のキャッシュフローはプラスですから、事業
の継続には問題ない」
――車両販売で儲けること自体を辞めるべきでは?
「実際、開発事業を外部委託することで車両販売で
得られる当社の利ザヤは一台二〇万円程度になります。 過去と決別するために今、大きな痛みを味わっている
わけです。 しかしリスクの高い販売事業から撤退して、
物流事業を拡大していくことで長期的にはそれがプラ
スになる。 独立開業者を募るための広告宣伝費も必
要なくなる。 それを投資家の皆さんにも理解してもら
いたい」
――創業以来のモデルが危機を迎えたことになる。
「たとえ大きな損失と株価の下落を招いても、私は
当社の構造改革をやり遂げる。 既に当社の売上高四
〇〇億円のうち、開発事業は約九〇億円に過ぎない。
残りの三〇〇億円以上は物流事業で売り上げている。
今後は物流事業だけでも収益をあげられる会社になる。
それを成し遂げたうえで、経営の舵取りを次の世代に
つなげたい」
今年に入って株価は急落している
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