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国内物流を釜山にシフト
今年九月一日、ホームセンター大手のホーマック、
カーマ、ダイキの三社はDCMJapanホールディ
ングスを設立し経営統合を果たした。 狙いの一つは物
流の効率化だ。 ホームセンターで扱う商品には長尺物
やカサ物など大型商品が少なくない。 それだけ輸送費
や保管費の負担が大きい。
経営統合に先立つ二〇〇四年に三社と三井物産が
出資する共同仕入会社のDCMジャパンは、韓国・
釜山の甘川港に新拠点を着工している。 中国やAS
EAN諸国で調達した商品を現地で保管し、三社分
を混載することでコンテナ単位に物量をまとめ、日本
に多頻度輸送を行っている。 これによって輸入品の在
庫回転率を高め、割高な国内物流を避けようという
狙いだ。
同様に今年七月、内田洋行は釜山新港における物
流オペレーションを開始した。 オフィス家具類を釜山
に保管。 現地で組み立てや流通加工を施して、日本
や海外のユーザーに直送する。 「日本国内の拠点を経
由していた従来と比べて、二割以上の物流コスト削減
ができるはずだ」と、釜山港のポートセールスをサポ
ートするJ&Kロジスティクスの原瑞穂社長はいう。
食品スーパーの共同調達機構、CGCジャパンも
海外で調達した生鮮品を釜山で加工。 海上コンテナ
輸送で北海道や東北の地方港に陸揚げして、加盟ス
ーパーに納品している。 既にコンテナ一〇〇〇本分の
処理実績がある。 従来、輸入食品は東京港などの主
要港で陸揚げし、国内の物流センターで加工・保管、
トラック輸送で各地のスーパーに納品していた。 それ
を釜山から地方港への直送に切り替えたことで、割高
な保管費や流通加工費だけでなく、国内のトラック輸
割高な国内輸送を回避
――J&Kロジスティクス
国内の在庫拠点を東アジアのハブ港に移し、日本のユー
ザーに直送する。 これによって割高な日本国内の輸送やオ
ペレーションを回避する物流の海外シフトが起こっている。
一定の条件を満たした案件では2割、3割の大幅なコスト
削減も夢ではないという。 (大矢昌浩)
OCTOBER 2006 26
送の利用を抑えた。
一般に日本企業の物流コストは、トラック輸送の支
払い運賃が最も大きな割合を占めている。 多頻度小
口化の進展で、その負担は増す一方だ。 しかし運賃水
準は既に底値にはり付いている。 大幅な値下げは期待
できない。 むしろドライバー不足や燃料高騰の影響で
今後は値上がりが懸念されている。
国内の主要港を経由せずに、東アジアのハブ港から
ユーザーに近い地方港へ直送することで、トラック輸
送の負担を軽減することができる。 末端配送に宅配便
を使う場合でも、東京から北海道や九州まで送付すれ
ば一個一〇〇〇円以上かかる。 それを現地の地方港
からの発送に替えれば、同一エリア内料金で済む。
J&Kロジの試算によると、輸入品を北海道、東
北、九州の顧客に納品する場合には、物流拠点の海
外シフトによって一割〜三割のトータルコスト削減が
可能になるという。 日本市場向け輸入品の二割程度
がこれに該当する。 日本の地方港とのアクセスと海上輸送のリードタイ
ムを考慮すると、国内拠点の移管先となるハブ港は上
海か釜山に絞られる。 いずれも出荷した翌日には日本
の港に届く。 注文から顧客に納品するまでのリードタ
イムは、早ければ翌日、通常でも翌々日。 首都圏から
北海道や九州にトラック輸送する場合と、ほとんど違
いはない。
既に上海には多くの日系企業が在庫拠点を構えて
いる。 現地で生産あるいは調達した商品を港湾地区で
保管、実需に応じて日本をはじめ欧米の消費地に輸
送するサプライチェーンが出来上がっている。 さらに
近年では中国の国内市場向けの中央物流拠点として
の機能も備えるようになってきている。
それに対して釜山は、これまで陰が薄かった。 人件
第2部物流アイデア商品の使いみち
` W
27 OCTOBER 2006
費、税制、規制、保管料、アクセスなどを比較すると、
人件費は上海のほうが安く、それ以外は釜山に分があ
る。 ただし、上海は後背地に巨大市場を抱えている。
そのため例えば日系の大手食品メーカーは一時、釜山
に拠点を設置する方向に傾いていたが、中国の国内市
場への供給を重視して結局、上海を選んだ。
釜山はハブ港としての地理的条件には恵まれている。
日本の五七の地方港に定期航路も開設している。 九
〇年代中頃には、アジアのハブ港として日系企業をは
じめとした外資系企業から注目を集めたこともあった。
J&Kロジの原社長も当時、福山通運の社員として
現地に赴いた一人だ。 合弁企業を設立する計画だっ
た。 しかし「詳しく調べてみると、当時の釜山は法律
や税制が全く整備されていなかった。 他の日系物流企
業にしても、話題になっているわりに実際に進出して
いるところは皆無といってよかった。 結局、合弁会社
の設立は実現しなかった」と振り返る。
その後、韓国は九七年のアジア通貨危機の影響で
深刻な構造不況に見舞われた。 同じ時期、お隣の中
国で猛烈な経済成長が始まった。 中国の台頭は韓国
とりわけ釜山港には大きな打撃となった。 国内企業が
拠点を海外に移管することで、突然荷主が消えてしま
う。 そんな事態が繰り返された。
この間も統計上は釜山港の取扱量は増えている。 し
かし「実際には、港の使用料を事実上タダにしたり、
躍起になってなんとか荷主をつなぎ止めてきたという
のが実情だった」と原社長。 国内産業の空洞化は日
本の比ではなかった。 事態を重く見た韓国政府は、国
を挙げて産業振興策に動き出した。 その目玉が釜山の
スーパーハブ港化だった。
今年開港した釜山新港のインフラ整備に韓国は官
民合わせて総額一兆円を投じる。 ハードと並行してソ
フト面での整備も進めた。 新港の開港に合わせて法令
を改正。 外資とりわけ日系企業をターゲットに大胆な
優遇策を実施すると共に、自由貿易地区の施設を格
安で提供した。
土地の年間賃貸料が一平方メートルあたり四五円。
施設使用量が同七二五円という設定で、最長五〇年
間の使用が可能だ。 税制面では関税や付加価値税な
ど間接税の免除に加え、当初三年間は直接税(法人
税、所得税、取得税、登録税、財産税、総合土地税)
を一〇〇%免税。 その後二年間も五〇%免除する。
日系物流企業が入札に殺到
その第一陣として落札したのは、福岡運輸、バイク
便のダット・ジャパン、そして現地の大宇ロジスティ
クスによるジョイントベンチャーだった。 冒頭の内田
洋行を主要荷主として、九州や北海道向けの家具や
加工食品などをターゲットに3PL事業の拡大を狙っ
ている。 第二陣には十七グループが入札。 日本郵船や福岡の初村第一倉庫、一〇〇円ショップのダイソーな
ど七グループが落札した。 今年秋には第三陣として十
一グループの落札が決まる。 これによって釜山新港に
は計二〇万坪のセンターが日系合弁物流企業によっ
て建設されることになる。
新港の一連の入札はこれでひとまず終了する。 今後
は荷主が新港への拠点移管を実施する場合には、土
地を落札した合弁物流企業を3PLとして利用する
ことになる。 J&Kロジの原社長は「これまで当社は
韓国の監督官庁から依頼を受けて釜山新港の開発事
業をサポートしてきた。 今後は荷主に対して、現地の
適切な物流企業を紹介する役割を担って行きたい」と
考えている。
J&Kロジスティクスの
原瑞穂社長
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