ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2005年7号
国際物流の基礎知識
原油価格高騰の影響

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JULY 2005 78 原油価格の高騰が続いています。
中国な ど新興経済発展国で石油需要が急増してい ることなどが背景にあります。
原油価格の 高騰は海運会社にとって原油を運ぶタンカ ーの運賃が上昇するというプラスと、船舶 用燃料油価格の上昇によるコスト増という マイナスの二つの側面があります。
今回は 原油価格の高騰が海運会社に与える影響に ついて解説します。
市況に左右されない契約形態 皆さんはワールドスケール(WS)という 言葉をご存じでしょうか? 
廝咾箸論侈を 運ぶタンカーの基準運賃として世界中で広く 使われている指標です。
昨年初めに一四〇〜 一五〇で推移していたWSは昨年末に三〇〇 を超えました。
しかし今年初めには八〇近く まで下落しました。
この一、二年、WSはジ ェットコースターのような乱高下を繰り返し ています。
WSはタンカーの航路ごとの積荷のトン当 たり運賃を米ドルで表示します。
「WS三〇 〇」とは基準となるWSの三〇〇%の運賃を 意味します。
例えば、二〇〇五年に「サウジ アラビア・ラスタヌラ港で積んで、日本・横 浜港で陸揚げした場合」のWSは一三・一四 ドルに設定されており、「WS三〇〇」は三 九・四二ドル(一三・一四ドル×三〇〇%) という計算になります。
WSは一九六九年にロンドンとニューヨー クのワールドスケール協会によって制定され ました。
現在では毎年一月一日に改定、公開 されています。
WSは航路ごとのコストの違 いを反映するかたちで設定されており、運賃 水準の判断や運賃決定を行う際の基準として使われています。
日本の船会社の場合、タンカーの大半を長 期契約で運航しています。
運航ごとにWSに よるスポット市況で運賃を取り決めるのでは なく、荷主との間で三〜五年、あるいは一〇 年といった長期契約を結んで運賃を決めてい ます。
そのため、直接的には市況の影響を受 けません。
長期契約で荷主は安定輸送が可能 になる、一方の船会社には運賃収入が市況に 左右されない、というメリットがあります。
すべてのタンカーが長期契約を結んでいるわ けではありませんが、日本ではプラスとマイ ナスの影響が比較的小さいと言われています。
船舶の燃料には重油が使われています。
そ して船舶用燃料油はバンカー(BUNKE R)と呼ばれています。
日本でバンカーを購 入する場合、船会社は日本の石油会社と「月 極」という特殊な取引をしていますが、日本 以外の国では通常、場所、引き渡し日、引き 渡し方法、数量、粘度などを指定して、その 都度スポットベースで売買されています。
燃料油が取引される場所は補油する港です。
引き渡し方法はパイプラインを使用するか、 艀(バージ)での補油のいずれかです。
粘度 とは重油の粘り具合を数字で表したもので、 数字の大きいほうが高粘度になります。
通常 では一八〇CST(Cenit-Stokes 動粘度)、 二八〇CST、三八〇CSTが使用されてい ますが、高粘度の重油は値段が安いため、最 近では三八〇CSTを選択するケースが増え ています。
高粘度の重油は冬の寒い時期には ほぼコールタール状態になっているため、燃 料油として使用する場合には温めて(ヒーテ ィング)います。
原油価格の指標としてよく使われるのはW TIです。
これは米国のNYMEX(ニュー ヨークマーカンタイル取引所)に上場される 原油価格高騰の影響 《第4回》 国際物流の基礎知識 商船三井 森隆行 営業調査室主任研究員 ワールドスケール(WS)の推移 350 300 250 200 150 100 50 0 04/ 1 05/ 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 2 3 4 (年月) (ドル) 79 JULY 2005 原油先物取引の標準品となる原油種で、米国 テキサス州で産出される原油です。
正式には 「ウエスト・テキサス・インターミーディエイ ト」といい、「西テキサス地方の中質原油」を 意味します。
WTIのほかにも、「北海ブレント」や「ド バイ(中東)産」といった油種がありますが、 ここではWTIと、「シンガポールの一八〇 CST」のバンカーを例にして価格推移を見 ていくことにしましょう。
どちらも米ドル建 てで取引されており、単位はWTIがバレル、 バンカーがトンになります。
ちなみに一バレ ルは一五九リットルで計算します。
さて、昨年初めにWTIは一バレル当たり 三二ドル程度でした。
それが十一月には五〇 ドルを超えました。
その後、WTIは年末から年明けにかけて多少下落しましたが、今年 三月からは再び高値を更新しています。
四月 初めからは五七ドルを超えて推移しています。
これに対してバンカー価格ですが、こちら (シンガポールの一八〇CST)は昨年初め にトン当たり約一六〇ドルでしたが、その後 上昇を続け、昨年一〇月には二〇〇ドルを超 えました。
WTIと同じように価格は年末年 始に少し下がったものの、再び今年二月頃か ら二〇〇ドルを超え始め、四月末には三〇〇 ドルを記録しました。
価格は昨年初めに比べ 二倍近くにまで高騰しています。
船会社のコスト負担額 バンカーの上昇は船会社の収益にどの程度 影響を及ぼすのでしょうか。
日本の大手船会 社では六〇〇隻前後を運航しています。
その ためバンカーが一ドル値上がりすると、数億 円のコスト負担増になると言われています。
燃料費上昇分の一部は荷主から補填されます。
例えば、定期航路ではBAF(Bunker Adjustment Factor )という運賃項目があり ます。
ただし、これですべてをカバーできる わけではありません。
太平洋航路のコンテナ船を例に、もう少し 具体的に見ていきましょう。
太平洋航路の平 均的なサービスは一航海三五日程度、年間で は一〇・五航海になります。
ここにコンテナ 船五隻を投入して一つのサービスを提供して いるとします。
これを一ループと呼びます。
こうしたループを船会社単独あるいは数社で 五ループや八ループを提供した場合の一ルー プ当たりの燃料費を計算してみましょう。
現在、太平洋航路に投入されているコンテ ナ船の一航海当たりの平均燃料消費量はおよ そ四五〇〇トンです。
そしてバンカー価格が 一〇〇ドル値上がりしたと仮定しましょう。
「一ループ」の年間燃料消費量は二四万トン (四五〇〇トン×五隻×一〇・五航海)にな ります。
バンカー価格がトン当たり一〇〇ド ル上昇すると、二四〇〇万ドル(二四万ト ン×一〇〇ドル)のコスト負担増です。
そし て仮にこうしたサービスを八ループ、三社で運航していたとすると、その場合、一社当た りのコスト負担増は六四〇〇万ドル(二四〇 〇万ドル×八ループ÷三社)となります。
コスト負担増の一部はBAFとして運賃収 入の増加として補填できますが、必ずしも全 額が補填されるわけではありません。
石油の 輸送需要が拡大することは船会社にとってビ ジネスの拡大という意味ではプラスに作用し ますが、原油価格の高騰によるバンカー価格 の上昇は経営を圧迫する要因になります。
原 油価格の高騰は船会社にとって決して歓迎す べき現象ではないと言えるでしょう。
もり・たかゆき 1975年大阪商船三井船舶入社。
97年MOL Distribution GmbH社長、2001年 丸和運輸機関海外事業本部長、2004年1月より現 職。
主な著書は「外航海運概論」(成山堂)、「外航 海運のABC」(成山堂)、「外航海運とコンテナ輸送」 (鳥影社)、「豪華客船を愉しむ」(PHP新書)など。
日本海運経済学会、日本物流学会、ILT(英)等会 員。
青山学院大学、長崎県立大学等非常勤講師、 東京海洋大学海洋工学部講師 原油と燃料価格の推移 300 250 200 150 100 50 0 04/ 1 05/ 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 2 3 4 (年月) (ドル) 原油価格(WTI) 燃料価格(シンガポール180CST)

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