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DECEMBER 2006 2
――日本でも3PLが普及してきた
と言われているが、まだアウトソーシ
ング先を一社に集約する動きにはな
っていない。
「一社にすべての物流を一括して委託
するというのは、さすがに度胸が要る。
相当の信頼関係がないと難しい。 そ
の意味では、物流子会社の買収が一
つの手段になり得るでしょう。 物流
子会社の従業員ごと当社が引き受け
る形であれば、荷主側も動きやすく
なる。 安心して業務を任せられるし、
雇用の問題もクリアできる」
――しかし、従業員ごと引き受けて
利益を出すのは容易ではない。
「繰り返しになりますが、二〇一〇
年ビジョンを実現する上で、最大の
課題となるのが人材です。 新卒を採
用して一人前にするまでには五年か
ら一〇年かかる。 とても二〇一〇年
には間に合わない。 物流子会社の買収は、即戦力人材の確保という面で
も当社にとっては必要なんです」
――物流子会社の売却は本格化して
いるとはいえない。 景気が回復した
ことで、むしろ売却の機運は低くな
っているのでは。
「一進一退はあるでしょう。 しかし
マクロ的には後戻りはしない。 今年
から来年、再来年と徐々に動きが見
えてくるはずです。 実際、生産分野
3PLで年商五千億目指す
――二〇一〇年度ビジョンで総売上
高五〇〇〇億円を目標に置いている。
かなり強気の計画だ。
「高いハードルであることは承知し
ています。 山本博巳前社長時代の三
年間に当社は年率五%増のペースで
順調に売り上げ規模を拡大させまし
た。 しかし、従来のやり方を踏襲し
ているだけでは、目標は達成できない。
ギアチェンジが必要です」
――統計を見る限り、日本の物流需
要は増えていない。 そのなかで大幅
にシェアを伸ばすことは可能なのか。
「物流業界の市場規模やシェア自体
はあまり重視していません。 ただし物
流業界には日本通運やヤマト運輸の
ような一兆円企業がある。 五〇〇〇
億円を超えないと、我々の存在感を
示せない。 物流業界で三〜四番手に
は入っておきたい」
「また当社の業績推移の内訳を見る
と、社内で?システム物流〞と呼んで
いる3PL事業は年率一五%程度の
ペースで伸びてきている。 現在も3P
L事業には受けきれないほどの引き
合いがある。 それに対応していくので
精一杯という状況で、この勢いは当
面続くと見ています」
――3PL事業拡大の課題は何か。
「3PLビジネスは結局、人を増やさ
ないと売り上げ規模も増やせないと
いう構造になっています。 既存のセン
ターの売り上げを何倍にも増やすこ
となどできません。 成長するには新し
いセンターを立ち上げるしかない。 そ
のためには現場の指揮をとるセンター
長クラスの人材が必要です。 当社で
言えば四〇歳前後の課長クラスです。
その階層の人材をどれだけ厚く抱え
ることができるかで、3PL事業の
業績が決まってくる」
「実際、当社が業績をここまで伸ばす
ことができたのも、センター長クラス
の人材が揃ってきたことが大きい。 日
立製作所から転籍してきた団塊の世
代と入れ替わるかたちで、プロパー入
社の人材が育ち、第一線で力を発揮
するようになってきた。 それに比例し
て業績も拡大してきた」
「今や当社の総売上の七割を3PL
事業が占めています。 同じビジネスモ
デルを持ったライバルは他に見あたり
ません。 必要とする人材も、日本通
運のような大手特積みやヤマト運輸
のような宅配会社とは違います。 そ
れだけに人材の育成や評価が難しい。
しかし、そこをクリアできるかどうか
に当社の成長はかかっています」
日立物流
鈴木登夫
代表執行役社長
「年率
15
%の成長が今後も続く」
二〇〇二年度以降、年率一五%増のペースで3PL事業の売
上高を伸ばしている。 グループ向けを含めると、その規模は〇
五年度で二〇三九億円にも上る。 これを今後五年間で四四〇〇
億円にまで拡大する計画だ。 そのために物流子会社の買収と海
外事業の拡大を積極化する。
(聞き手・大矢昌浩)
では日系メーカーでも工場単位の売
却が珍しくなくなっている。 同じ流れ
が物流にもくるのは必至です」
「メーカーにとって重要なのは、や
はりものづくりや販売です。 私自身
もともと日立製作所の重電事業の出
身なのでよくわかる。 重電事業では
コストの約六割を材料や部品の購買
費が占めている。 二割が製造と設計
です。 物流コストは数%に過ぎない。
それだけ物流の重要度は低い」
「ところがメーカー系の荷主企業を
見る限り、生産と物流の切り分けは、
まだまだ不十分です。 いまだに多くの
メーカーが物流部門を抱えている。 そ
こはいずれ手放されることになるでし
ょう。 M&Aなどを通じて当社はそ
の受け皿になりえる」
――二〇一〇年ビジョンでは売上高
で七〇〇億円規模のM&Aも織り込
まれている。 その主な対象が物流子
会社ということになるか。
「そうなると思います。 既に要請を
受け、買収の検討を進めている会社
が複数あります。 ただし金融機関等
から持ちかけられた案件では、買収
が検討されていることを相手の会社
自身は知らないかもしれない」
――昨年七月にはクラリオンの子会
社(クラリオン・エム・アンド・エ
ル)を買収している。 その後、今年
一〇月に日立製作所はクラリオンの
買収を打ち出した。 子会社の買収が
親会社を先行したかたちだが、これ
は当初からのシナリオだったのか。
「子会社の買収は親会社の動きとは
関係ありません。 弊社独自の判断で
す。 幸い買収の経過は順調に来てい
ます。 クラリオンの国内の仕事だけで
なく海外の調達物流などに仕事の範
囲が広がりつつある」
――親会社を含めたグループ会社向
け以外の売上比率、いわゆる外販比
率が既に七割以上にも及んでいる。 日
立グループに属して、社名に「日立」
という看板を掲げることのデメリッ
トも出てきているのでは。
「そうは思いません。 当社にとって
は?日立〞の看板が今でも大きなア
ドバンテージになっています。 ブラン
ドに対する信頼は絶大です」
――しかし、親会社の競合に荷主を
拡大していくには一つの制約になる。
「そんなことはありません。 とりわけ
海外事業では、日立製作所のライバ
ルメーカーの仕事を当社が受託して
いるケースは珍しくありません。 そも
そもメーカー自身、ライバルメーカー
から部品を調達したり、逆に販売し
たりということが今や日常茶飯事になっている。 さすがに国内工場に、競
合企業のロゴの印刷された車両が出
入りするのには抵抗感があるかも知
れませんが、海外では全く制約はな
い」
欧米系には手出しさせない
――海外事業も二〇一〇年には〇五
年比で三倍増となる二〇〇〇億円ま
で拡大する計画だ。
「これまで当社は、外販はもとより、
日立製作所以外のグループ会社の海
外事業にあまり手を出していません
でした。 というより、国内の引き合い
に対応するのに手一杯で、海外にま
で手を回す余裕がなかったというのが
実態に近い。 しかし今後は海外事業
のアクセルも踏んでいきます」
「もっとも海外で現地の物流企業と競
合するような仕事にまで手を出そう
とは考えていません。 対象はやはり日
系メーカーです。 それでも大幅な事業
規模拡大は可能だと考えています。 実
際、私自身営業に回っていて、国内
よりもむしろ海外で当社を使いたい
という話をよくいただく。 国内物流
は既に安定している。 既存の協力会
社を切り替えるまでもない。 しかし海
外は別。 国際調達や海外拠点での加
工業務などを既存の協力会社に任せ
るのは難しい。 そう判断している荷主
が海外では当社を使いたいと言って
くださっている」
――海外事業では、国際インテグレ
ーターや3PLなどの欧米企業もラ
イバルになるか?
「欧米の有力3PLに仕事をとられ
てしまうという心配はそれほどしてい
ません。 日系メーカーの物流は海外
でも日系の物流企業が担っていくと
見ています。 それだけ日系メーカーの
要求は厳しい。 欧米の3PLも簡単には手出しできないはずです」
3 DECEMBER 2006
鈴木登夫(すずき・たかお)
1 9 4 6 年1 月、東京生まれ。
69年3月、東京工業大学工学
部卒。 同4月、日立製作所入社。
日立工場電力設計部長、電力
統括営業本部長、システム事業
部長、中国支社長等を歴任。
03年、執行役。 06年1月、執
行役常務。 同4月、日立物流代
表執行役副社長。 同6月、代表
執行役社長。 現在に至る。
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