ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2006年12号
特集
3PL白書 米グッドイヤーの3PL活用

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

3PL業界は依然として年間一〇〜一五%の成長 を見せている。
ジョージア工科大学、キャップジェミ ニ、フェデックスが発表した二〇〇四年3PL研究に よると、アウトソースされるロジスティクスサービス とは、保管(七二%)、出荷輸送(六六%)、関税に 関する手続きの代行(六〇%)、通関手続き(五七%)、 クロスドッキング/混載(五五%)と続く。
またアームストロングアソシエイツ社が発表した統 計によると、フォーチュン五〇〇社のうち、ランキン グの高い会社ほど3PL/4PLを活用している。
つ まり規模の大きい会社ほど3PLを活用する傾向が 強いということだ。
3PLと4PLの違い 図1は有力ロジスティクス・プロバイダーをタイプ 別にマッピングしたものだ。
アセットと能力という二 つの軸で仕切られた四つの四角のうち、いわゆる3P Lのプレーヤーは右下の四角、戦略的視点をもった4 PLのプレーヤーは右上の四角に位置する。
そもそも、なぜ3PLや4PLにアウトソースする のだろうか。
3PLにアウトソースするのは、大抵は タクティカル(戦術的)な理由である。
具体的には次 のような理由だ。
●ロジスティクスがコアコンピテンシーでない ●自社には人材、資産、ITのリソースに限界がある ため3PLコミュニティからリソースを活用する ●リスクを最小限にできる ●コストが削減できる ●IT能力から生まれる高いレベルからのレポーティ ング機能や技術を持っている ●ビジビリティを高められる ●輸送でのロード集約化 ●最適化の技術を持っている ●輸送でのモード代替機会を使うことができる 当社の場合、データは豊富だが、それらを情報に変 換させるのが得意ではなかった。
3PLが情報を集め、 ビジビリティを高める役割を果たすことで、情報が戦 術的な意思決定に活用されるようになった。
一方で、4PLにアウトソースする目的は、ストラ テジック(戦略的)でやや緊急性を伴うものである。
●輸送コストをコントロールできる ●3PLコミュニティの複数プロバイダーを束ねて高 いパフォーマンスを導くことができる ●本社のロジスティクスリソースとして機能できる (例えば我々の4PLであるICGコマースは、ロ ジスティクス・プロバイダーのアカウントごと、倉 庫ごとに専属のスタッフがおり、当社やプロバイダーのスタッフと、所属の垣根を越えて、お互いに協 力しながら働いている) ●根本的原因(ルートコーズ)を究明する分析能力の 高さ(3PLは、問題の核心を解決することができ ない) ●輸送サービスレベルを改善させることができる ●スタッフの生産性を高めることができる ●ネットワークの効率と能力を高めることができる ●効果を測定・分析することができる ●コンプライアンスを高めてくれる 3PLや4PLといったロジスティクスパートナー を選択する際に考慮すべきことのトップテンは次のと おりだ。
米グッドイヤーの3PL活用 ブリヂストン、仏ミシュランと並び世界三大タイヤメー カーの一角を占める米グッドイヤー。
北米事業部のロジ スティクスディレクターが、自社のケーススタディにもと づきロジスティクス・プロバイダーの活用法を指南する。
DECEMBER 2006 40 米グッドイヤー・タイヤ&ラバー テッド・オーガスティン北米タイヤ事業部 ロジスティクス&プロダクトサプライディレクター CSCMP報告2006 第1回 41 DECEMBER 2006 ?将来の戦略的な計画 ?アウトソースする範囲とその理由 ?輸送キャリアやその他の重要なサービスプロバイダ ーとの関係を失う可能性 ?契約の長さと、移行能力 ?スコープクリープとフィークリープ ?オンサイト(倉庫)か否か ?技術能力 ?アセットベースかノンアセットベースか ?地理的なカバー範囲 ?提案されたソリューションやサービスの幅 「?将来の戦略的な計画」では、ロードマップやタ イムラインを設定し、3PLに順守させることが必要 だ。
「?輸送キャリアやその他の重要なサービスプロ バイダーとの関係を失う可能性」とは、直接キャリア を管理するかたちから、3PLが代わりにキャリアと の接点を持つようになることで、競争力の確保に不可 欠なパートナーシップを失う可能性があるということ である。
また、「?スコープクリープとフィークリープ」は、 ユーザー側のスコープクリープ(予定外の変更や追加 でプロジェクトの対象範囲が拡大すること)により、 プロバイダー側が予算内でサービスを提供することが 厳しい状況に陥ることがあるため注意が必要だという ことだ。
「?技術能力」では、3PLのWMSなどの システムとERPの互換性について調査することが必 要である。
3PL業界は、成長しているものの、さまざまな課 題を抱えているのも事実である。
ICGコマースの調 査によると、次のような課題がある。
まず、継続的に値下げの圧力をうけていること。
し かしながら、見落としやすいのは、見積もりの単価が 必ずしも総コストに直結するとは限らないという事実 である。
成功の鍵はプロセスにある。
プロセスが適切 に管理されていれば、高い見積もりを提出したプロバ イダーが、逆に安いプロバイダーになるかもしれない からだ。
当社は、特にフレイトフォワーディングの分 野といくつかの輸送の分野でこのことを既に経験して きた。
次に、顧客のグローバル化に合わせてグローバル展 開を促されること。
そうすることで、荷主は、グロー バルビジネスにおいても、シングルコンタクトを維持 することができる。
また、優秀な人材を見つけ、保持すること。
我々が 実践しているのは、3PLの特にミドルマネジメント クラスの人材に注目することだ。
言い換えると、プロ バイダーが内部のリソースをどのように育てているの かに尽きる。
多くの企業が3PLの人材開発能力を 見ず、ただパイ(マーケットシェア)を気にしている。
また、適切な技術への投資をしているか(IT投資に おけるROI)も重要なポイントである。
顧客の期待が年々厳しくなる中、3PL側の顧客 の選択にもトレンドがあるのは事実である。
事業の収 益性をとるのか、広告に載せるために有名なクライア ントを確保するのかというジレンマに悩むこともある。
実際、収益性がゼロでも、フォーチュン一〇〇社と取 引をするという例は多くあるようだ。
委託先を五社から一社に集約 ケーススタディに入る前に、当社の事業概要を簡単 に説明しておこう。
一〇六年の歴史を持ち、二〇〇 五年度のグローバルの売り上げ規模は約二〇〇億ドル、 販売タイヤ数は約二二億六〇〇万本。
世界の二八カ 国に八五カ所の製造拠点と八万人の従業員を有して いる。
また、ビジネスユニット(事業部)としては、 販売地域ごとに、北米、ヨーロッパ地域(東ヨーロッ パ、中東、アフリカを含む)、南アメリカ、アジアの 四つを置いている。
私がロジスティクスと製品供給を統括する北米事業 部では、二〇〇五年の売り上げ規模は九一億ドルで、 販売タイヤ数は一億二〇〇万本だった。
これは全社の 約半分にあたる。
このうち三分の一が新車用で、三分 の二が交換用だ。
七五〇のOE(O r i g i n a l Equipment:新車用のタイヤ)顧客を持ち、フォー ド、GM、クライスラーといった自動車メーカーだけ でなく、商業用トラックやバイクメーカーにもタイヤ を供給している。
北米と南米でトップシェアを誇り、 アジアとヨーロッパでは第二位の地位を確立している。
サプライチェーンのパフォーマンスを向上するため に、以下の四点を重点的に行った。
一点目は、商品特性に応じた在庫管理手法の導入 だ。
改善前であった三年前には、一万五八〇〇SK Uに及ぶ在庫をすべて同じように管理しており効率が 悪かった。
また、複数の3PLを使っていたため、全 体の在庫状況を把握するのが困難だった。
現在は一 万SKUを扱っており、 売り上げ数量、ベロシティ (動きの速さ)、収益性の違いに応じて、商品別に異な る管理を行っている。
さらに、商品や顧客の優先順位 に応じて、フィルレート(充足率)のターゲットを 別々に設定している。
二点目は、リードロジスティクス・プロバイダー (LLP)戦略の最大限の活用だ。
3PLを五社から エクセル一社に集約し、LLPとしてICGコマース と手を組むことにした。
自社で直接オペレーションを 行う倉庫は十一カ所から二カ所へ減らした。
二カ所残 したのは、LLPと業界のベストプラクティスをベン チマークするためだ。
LLPの活用でオペレーション の複雑性が解消し、コスト削減につながった。
三点目は、注文管理の一元化だ。
以前は、それぞ れの倉庫の受注管理がバラバラに分断されているよう な状態だった。
3PL企業と在庫拠点を集約した上 で、一元的にリアルタイムで注文情報を管理する環境 を整備した。
また、顧客がグッドイヤーの在庫戦略を 理解していなくても発注できるような環境作りに努め た。
例えば、重要顧客の近隣に倉庫を配置するなどし てサービスレベルを高めた。
四点目は、「カスタマー プロミスデート」の設定だ。
これは、注文の商品を完 納する期日を約束するものだ。
二〇〇三年には二二カ所の在庫拠点を持ち、五つ の3PL企業と当社自身を含む計六社がオペレーシ ョンを行っていた( 図2)。
現在は、拠点を二〇カ所 に、3PL企業をエクセル一社に集約した。
現在、エ クセルが3PLとして果たしている役割は大きく次の五点に整理できる。
?従来の倉庫業務(入荷、保管、引当、在庫管理) ?LTL輸送契約を結んでいるプロバイダーの管理 (全LTL輸送のうち約六〇%を管理) ?輸送計画センター管理(最適化ツールを用いてオン ラインで入札を実施) ?コールセンター機能の提供(六倉庫にて、在庫照会 やフォローアップ対応) ?知的財産管理ためのSCMチーム エクセルとの関係の中で、グッドイヤーは技術資産 を所有し、またエクセル管理下の倉庫のリースを保有 する。
倉庫内のマテハン・設備は、エクセルが直接リ DECEMBER 2006 42 ースし、固定、変動費を通じて、グッドイヤーに請求 する仕組みだ。
当社がロジスティクス機能をアウトソースしてきた 経緯を以下に紹介しよう。
■一九九〇年 すべてのロジスティクス機能を自社で保有し、運 営していた。
共同倉庫やDCの数は八十以上に上 っていた。
■一九九〇年後半 アウトソースの第一ステップとして、一カ所の拠 点からロジスティクス・プロバイダーへの委託を始 めた。
■二〇〇〇年 その他の拠点にもアウトソースを広げ、エクセル とTNTを活用し始めた。
■二〇〇三〜二〇〇四年 エクセルを特定の3PLとして位置づけ、ほとん どの戦術的なロジスティクス機能を委託し信頼関係 を深めた。
■二〇〇五年 4PLとしてICGコマースを採用した。
戦略 構築と戦略的調達の面から支援を得ており、当社 に大きく貢献してくれている。
具体的には、ERP などのIT機能支援や、小売り店舗などのマーケテ ィング活動、3PLとの交渉などの支援を行う。
I CGコマースの戦略的方向性に対する分析能力、ま た複数の3PL調停(アレンジメント)を管理する 4PLとしての立証されていた腕前が、採用の決め 手となった。
■二〇〇六年現在 ロジスティクスの全機能はグッドイヤーの最小限 の監督の下でアウトソースされている。
3PLの契約は次のように行っている。
入札のステ ップとして通常、第一段階であるRFI(Request for Information)は、一四〜二〇社に対して行う。
第 二段階であるRFQ(Request for Quotation)は八 社。
そして最終段階で四社に絞る。
二〇〇六年、エ クセル社との新しい五年契約が成立した。
最後に教訓を整理しておこう。
まず、3PL/4 PL市場は依然として進化している。
3PLは、主に 戦術的に、4PLは戦略的にとらえられる。
次に、ロ ジスティクス・プロバイダーが提供できるサービスは、 プロバイダーごとに大いに異なる。
一つのプロバイダ ーが全てのサービスを提供するのは不可能であり、こ の点を理解しておく必要がある。
また、アウトソースする前に、そのプロジェクトの スコープ(対象範囲)を明確に定義しておくことが必要である。
万一の?決別〞を視野に入れて契約を結 ぶことも必要だ。
契約がいつまでも続くものと考えて はいけない。
言うまでもなく、コアコンピテンシーを 受け渡すようなことがあってはならない。
そして、相手の会社のITに依存してはいけない。
当社がマニュジスティックスのTMSを採用し、エク セルに管理を委託したすべての倉庫に導入したのは、 技術資産の所有の一例である。
また、プロバイダーに 変化を促す姿勢が大切である。
プロバイダーのせいで 過去のオペレーションの方法に逆戻りするようなこと があってはならない。
それから、すべてを求めている スコープ内で期待通りにこなしてくれるプロバイダー など存在しないことも知っておいたほうがいいだろう。
( 翻訳 岩田佐和子) 43 DECEMBER 2006 ※このレポートは米CSCMP年次総会での講義内容を本誌編集部がまとめたものです。

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