ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2005年7号
道場
物流ABC――物流事業者編

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JULY 2005 44 物流事業者にとって、物流ABCを 導入するメリットは何でしょうか? いきなり質問をはぐらかすようで恐縮で すが、最初に「メリット云々をいっている場 合でしょうか?」という話からしたいと思いま す。
もし御社が、荷主から物流ABCで算定 したコストを出してほしいとか、物流ABC による料金契約を検討したいと言われたら、物 流事業者としてどのように対応されるおつも りなのですか? もちろん、これが滅多にないやりとりなので あれば心配は無用ですが、いま物流ABCに 関心を持つ企業は、業種を問わず、会社規模 の大小も問わず、確実に増えています。
物流 ABCの中身はよく知らなくても、こうした 数字に基づいて物流管理する手法が必要と考 えている荷主まで含めれば、もはや無視できる ものではありません。
そして、このような荷主が、物流ABCに ついて自ら勉強するよりも、算定は物流の専 門家である物流事業者に任せて、自分たちは 結果だけをもらって管理に使いたいと考える のは、ごく自然なことです。
この場合、協力物流事業者の立場で、物流 ABCなど知らないとか、算定できないとい う回答をするのは現実的ではありません。
もは や物流ABCは、物流事業者にとって必須に なりつつあるのです。
さらにいえば、物流ABCを算定するため に、決して特殊なデータが必要なわけではあり ません。
アクティビティごとにどれだけの処理 をしているか、どれだけの時間がかかっている かという数字は、物流事業者ならば本来、当 たり前のように把握しておくべきものです。
こ のような数字があるからこそ、荷主とのビジネ スライクな交渉も可能になります。
つまり、これからの物流事業の展開におい 《この連載について》 「物流コンサル道場」では、物流マンに「ものの見方・ 考え方」を学んでもらうことを目的に、湯浅コンサルティ ングの湯浅和夫社長に連載記事を執筆してもらっている。
いつもは湯浅氏の長年の経験に基づくエピソードを小説 形式のフィクションで綴ってもらっているが、先月号から 4回は∧番外編∨と題して、湯浅コンサルティングの若 手コンサルタントが実務に関する解説記事を執筆中だ。
テ ーマは「物流ABC」と「在庫管理」の二つ。
前回の「物 流ABC」(荷主編)に続いて、今回は物流事業者編をお 届けする。
湯浅コンサルティング 内田明美子 湯浅和夫の 《第 39 回》 〜番外編〜 〈物流ABC――物流事業者編〉 物流ABCは、とりわけ物流業者にとって有効な管理手法だ。
3PL (サードパーティー・ロジスティクス)を標榜する事業者でなくとも、これ までの下請け的な関係から脱して荷主と適正なパートナーシップを結ぼう とすれば、データに基づく意思の疎通が欠かせない。
物流ABC(Activity Based Costing )によるコスト把握が、その第一歩になる。
前号の「荷主編」 に続き、今号では物流事業者が物流ABCを導入する際のポイントをQ& A方式で解説する。
(本誌編集部) 45 JULY 2005 て、物流ABCは欠くことのできない武器な のです。
物流ABCで荷主別の採算がわかる と聞いていますが、うちは人も作業 現場も荷主ごとに分けて運用しているため、 物流ABCをやらなくとも荷主別採算はほ ぼ正確につかんでいます。
この場合、物流 ABCは不要ということでいいのでしょう か? あなたの会社では荷主別の採算をつかん でおられるとのことですが、採算は、把握する だけでは何の意味もありません。
改善に向け た取組ができて、はじめて意味を持ちます。
あ なたの会社では採算が悪い原因をコストで説 明することができますか? 採算を改善する ためには何をするべきか、データから具体的に分かりますか? 恐らく、分からないと思います。
これは我々 が物流ABCについて説明するときに、最初 に必ずお話しすることなのですが、従来の物 流コスト計算は投入要素別のコスト計算であ り、わかるのは「人件費がいくら」、「機械の償 却がいくらかかった」といった結果だけでした。
ここからは、コストと、これを発生させた活動 との因果関係を明確につかむことができませ ん。
この因果関係を明示できるコスト計算手 法は物流ABCだけなのです。
活動との因果関係がわからなければ、採算 を改善しようとか、コストを低減させようとい った現実の管理には使えません。
コストを変 えるためには、活動を変えることが不可欠だ からです。
つまり物流ABCは、採算をつか むと同時に、採算を改善するためにも有効な 技法なのです。
物流ABCでアクティビティ別のコ スト(単価)を出すと、これをもと に複数の営業所間でベンチマーキングを行 って、コストを低減できると聞きました。
し かし、現場を管理する立場から、私はこれ は危険な発想だと思います。
荷主のニーズ は各社各様であり、現場は言い知れぬ苦労 をして、それぞれの荷主の要望に応えてい ます。
荷主ごとの事情を考慮せずに、「同じ 作業なんだから最も安い営業所のコストで できるはずだ」というのは、おかしいのでは ないでしょうか? アクティビティ単価のベンチマーキングは、 全く同じ内容のアクティビティである場合に 限って有効です。
同じ内容だからこそ、最も 安くできているやり方をベストプラクティスと して、これをベンチマーク(真似)していくこ とができるのです。
内容が違えば、当然のことながら単価の比 較は意味を持ちません。
作業内容は荷主ごと に各社各様だとおっしゃるなら、あなたの会 社の場合はアクティビティ単価のベンチマーキ ングは不可能です。
しかし、もう一歩つっこんで疑問を持ってみてください。
そもそも荷主ご とに各社各様という状態は、本当に荷主ニー ズに合っているのでしょうか? 本当の荷主のニーズは、作業の「やり方」と は無縁のはずです。
顧客の注文どおりに、間 違いなく、遅滞せずに届けてほしいというのが 荷主の本来のニーズです。
これさえ確保され るのであれば、作業そのものは最も低コストで やって欲しいと考えるはずです。
物流のプロたる物流事業者としては、「この 作業なら、このやり方が最もコストが安い」と いう自社のベストプラクティスをもっているべ (前回の図表を再掲) JULY 2005 46 きではないでしょうか。
そのうえで、荷主の都 合によってやり方を変えなければならないので あれば、どのアクティビティで、どれだけベス トプラクティスから乖離するのかを、具体的に はっきりさせておくことが?あるべき姿〞だと 思います。
さらに、ここで物流ABCを用いれば、乖 離の結果としてどれだけコストが高くなるのか という計算までできます。
こうしたデータに基 づいて荷主に改善提案をできることが、物流 のプロとして信頼を獲得することにつながるの です。
物流ABCでは「処理量」の測定が 必要ですが、現実には、簡単にデータを取れない作業が少なくありません。
例 えば「台車ピッキング」と「フォークピッ キング」の処理量をとろうにも、台車を使 うか、フォークを使うかは状況に応じて変 わります。
入荷のための「場所あけ」とか、 ピッキングエリアの在庫の補充といったア クティビティにしても、処理量を情報シス テムや帳票類からとるのは不可能。
実測し ない限りわかりません。
こうしたアクティ ビティがたくさんある場合でも、処理量を 毎日、実測すべきなのでしょうか? 実測すべきです。
実測しない限りわから ないのであれば、実測していただくしかありま せん。
とは言え、手間をかけて実測するだけ で、目立った成果は得られなかったという事 態は避けたいものです。
そのためにも、物流 ABCの導入を契機として、自分たちの仕事 のやり方が、本当に望ましい姿になっている のかどうかを、常にチェックする視点を持っ ていただきたいと思います。
あなたが例として挙げられているアクティビ ティをみると、そもそも処理量が取れないこ と自体が、本当にそうなのでしょうかとお聞 きしたくなります。
電話の件数とかトイレの 回数といった処理量であれば、実測しないと わからないのも仕方ないのですが、これらとピ ッキング作業や補充作業は明らかに性質が異 なります。
ピッキングも補充も、本来、物流事業者が 自ら定めたルールに基づいて反復しているはず の基本的な作業です。
どういったの場合に台 車を用い、どの場合はフォークでピッキングす るのか、補充は在庫がどれだけになった時点 でどれだけ補充するのか、そこにルールがあれ ば処理量を把握する手がかりも必ずあるはず です。
ここに明確なルールがなく場当たり的な対 応をしていて、それゆえに処理量がとれないの だとすれば、これは明らかに問題です。
厳しい 言い方になりますが、プロ失格といわざるをえ ません。
こうした処理方法が「状況に応じて 変わる」ようでは、そこで最適の対応がなされ ているとは考えにくく、あなたの会社はまだア マチュア的な体制から抜け切れていないのではないでしょうか。
物流ABCを使って作業効率を管理 するには、すべての作業者が標準時 間(最も効率的にやった場合の時間)で作 業をできるように管理せよ、とされていま す。
しかし、これを実際に行うとパート作 業者は大きなプレッシャーがかかると思い ます。
過剰な負荷をかけるのを避けたいの ですが、どのようなことに気をつければい いのでしょうか?  物流ABCでは「投入要素別原価」、「作業時間」、「処理量」の3種類の データを使って、アクティビティ原価(月間コスト)、アクティビティ単価(1 処理あたりコスト)を計算します。
算定を継続的に行って管理に使う場合 には、アクティビティ単価は一定期間(たとえば半年間)固定し、処理量だ けを毎日把握して、「アクティビティ単価×一日の処理量」という数式で日々 のコストや採算を試算する方法がおすすめできます。
 この場合、アクティビティ単価は半年なら半年間の平均値になるように 算定する必要があります。
 むろん毎月3種類の数字をとってすべてを計算しなおすことも可能で すが、単価を固定した方が簡便なうえ、問題のありかが特定しやすくなり ます。
つまり全体のコストの変化は、処理量の変化との関係で管理するの です。
その一方で、作業効率をアクティビティごとに管理し、効率が上がっ た(下がった)部分は単価を適宜、差し替えるという運用方法をとります。
■物流ABCの継続的な運用 47 JULY 2005 標準時間で作業をさせるということの中 身について、やや誤解があるように思われます。
標準時間で作業するというのは、決して、急 いで作業をするという意味ではありません。
ム ダな動作、本来必要の無い動作をすべて省い たうえで、適正なペースで作業をするというこ とです。
ムダを省くのですから、作業者にとっ ても望ましい作業内容になるわけです。
もう少し詳しく説明すると、標準時間によ る作業と実際の作業との格差は、「個人的ムダ」 と「制度的ムダ」の二種類のムダから構成さ れます。
作業者個人の資質や意欲の格差によって発 生するのが「個人的ムダ」、何らかの理由で作 業ができない?手待ち〞が発生してしまうと か、作業が中断されて二度手間になるという ように、作業者個人に関係なく発生している のが「制度的ムダ」です。
物流現場の場合、アクティビティごとに標 準時間の調査を行うと、標準時間と実際の作 業時間の格差は予想以上に大きく、全作業時 間の三分の二がムダだったという調査例すら あります。
原因の大半は「制度的ムダ」です。
「個人的ムダ」は平均してしまえば知れていま す。
これだけの格差を発生させているのは「制 度的ムダ」に他なりません。
あなたの倉庫にも、個々の作業者の負荷を 増やすことなく取り除くことのできる「制度 的ムダ」が、必ずあるはずです。
これをあぶり 出せることも、物流ABCを導入するメリッ トの一つなのです。
物流ABCで荷主別コストを正確に 把握しても、このコストに応じて料 金を値上げするのは現実には不可能です。
荷主に対して理論武装するという考え方は わかりますが、実際の収益改善には役立た ないのではないでしょうか? 非常によくいただく質問というか、ご意 見です。
しかし、ご指摘をそのまま受け入れる と、「物流事業者には実際の収益改善は不可能 だ」という結論になってしまいます。
それでは 話になりませんので、「実際の収益改善」の中 身を真剣に考えてみる必要があります。
言うまでもなく、実際に収益を改善するた めには、コストを下げるか、収入を増やすかの いずれかが必要です。
コストを下げる上で物 流ABCがどう役立つかについては、前項の 「Q5」で説明したような効果が期待できます。
ここで考えたいのは、収入を増やすために、ど う役立つのかということです。
物流ABCでは、適正な料金を収受できて いない荷主を具体的に明らかにすることがで きます。
利益が出ていないことは予めわかって いたという場合も多いのでしょうが、物流A BCでコストを算定すると、どの作業が赤字 の原因なのか、効率化(作業単価の低減)でどこまで収益改善できるか、コスト低減をし てもなおかつ赤字だとすれば、その赤字金額 はいくらになるのかといったことまで試算でき ます。
これ以降は荷主との交渉になるため、ご指 摘のとおり、一度や二度の交渉で適正な料金 を受け入れてくれる荷主はむしろ少数派でし ょう。
認めてもらえるまで、粘り強く交渉を 繰り返すしかなく、データがあれば必ず認めて もらえるという保証も無論ありません。
しかし、 少なくともデータがなければ、ビジネスライク な交渉は極めて難しいはずです。
コストがわか 物流ABCの計算手順 アクティビティを設定する 作業を区分しフローを整理する 投入要素別原価を把握する 経理データから「人件費」「機械設備費」 などの投入要素別に原価を把握する 配賦基準を把握する 作業時間比率、スペース使用面 積比率など、それぞれの投入要素 を各アクティビティがどれだけ使っ ているかを調査する アクティビティ原価を算定する 投入要素別原価をアクティビティに使 用比率に応じて配分する 処理量を把握する 「段ボール梱包数」のように各アク ティビティの処理量を調査する アクティビティ単価を算定する 各アクティビティの一処理あたりコスト を求める:アクティビティ単価=アクティ ビティ原価÷処理量 (前回の図表を再掲) いますが、それでも作業会社が自らのアクティ ビティごとの作業単価を把握しておくことは有用です。
「Q6」で述べたように、コストデ ータがなければビジネスライクな料金交渉のテ ーブルに着くことすらできませんからね。
さらに、こんな例もあります。
ある現場では、 元請会社が限られたスペースにたくさんの荷 物を詰め込んでしまうために、作業会社は作 業が極めてやりにくく、効率が落ちているとい う不満を持っています。
ラックが常に満杯状 態で、入庫スペースをつくるために荷まとめ作 業を頻繁にやらなければならないとか、パレッ トを置きすぎているので通路が狭くピッキング の際にフォークが通れないなど、具体的な支 障が発生しています。
しかし、元請会社は何 の対処もしてくれず、料金値上げの要請にも とりあってもらえません。
元請としては荷物をたくさん詰め込んだほ うが荷主からの保管料収入が多くなりますし、 一方で、作業会社への下払いはケース単価で す。
ケース単価は荷主からの荷役料収入から 逆算して利益が確保できるように設定してあ るので、元請にとっては、作業効率が悪くて も何ら痛痒は無いわけです。
ここで作業会社が泣き寝入りしないために は、物流ABCで元請の責任を明らかにする 必要があります。
「荷物の過剰な詰め込み」が、 どのアクティビティにどれだけの作業効率の低 下を生んでいるか、これがどれだけのコストア ップにつながっているのかを数字で示すべきな のです。
コストが高いのは決して作業会社の責任に よるものではないことを明らかにしながら、今 のコストで必要な作業料金、必要な荷役料は いくらになるのかを具体的に提示すべきです。
現実のビジネスのなかで、こうした交渉を進め るのは容易ではありませんが、実態を数値で 把握することが活路を開くための出発点にな るはずです。
JULY 2005 48 って、はじめて荷主との交渉のテーブルにつけ るというわけです。
作業会社の者です。
元請会社が物流 ABC導入したいとのことで、とて も詳細な作業日報を記録するように指示さ れました。
うちにとってはあまりメリットが 感じられず、ただでさえ忙しいのに手間ば かり増えて、やりきれない思いです。
作業 会社がメリットを得られるような、物流A BCの活用方法はあるのでしょうか? 結論から言うと、むしろ作業会社こそ、物 流ABCを積極的に活用するべきだと私は考 えています。
元請けとの料金契約のやり方に はいろいろな方法があるのでしょうが、最も論 理的な契約方法は、アクティビティをベース とした契約です。
アクティビティごとに単価を 設定し、これに実際の処理量を乗じて料金を 計算するのです。
これは作業負荷を明確に反映できる料金体 系でもあり、荷主から「コスト低減」への協 力を求められた場合にも、作業効率(単価)は 作業会社が責任を持って管理する、処理量に ついては元請が責任を持って荷主と交渉する、 という明確な責任区分の下で話を進めること ができます。
実際にアクティビティ・ベースの契約で仕 事をしている作業会社は、まだ多くないと思 うちだ・はるこ1987年慶應義塾大学経済学部 卒業。
日本債券信用銀行(現あおぞら銀行)を経て 98年日通総合研究所に入社。
物流ABC導入コンサ ルティング等に携わる。
2004年5月湯浅コンサル ティングに入社し、現在に至る。
著書に『手にとる ようにIT物流がわかる本』(共著、かんき出版)ほ か。
湯浅コンサルティングhttp://yuasa-c.co.jp PROFILE

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