ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2007年1号
特集
物流不動産バブル 物流ファンドVS倉庫会社

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

諦めムードの倉庫業界 物流不動産ファンドの大型物流施設が二〇〇七年 春以降、相次いで完成する。
しかもその大半はすでに テナントが決まっているようだ(二八〜三〇頁参照)。
自らは物流資産を持たず、第三者が用意した施設を 賃借するというアセット戦略が、日本の物流マーケッ トにも徐々に浸透しつつある。
ファンドの新設物件は、 賃料が相場よりも割高に設定されているケースが少な くない。
それでもテナントが次々と埋まっていくのに は理由がある。
たとえ賃料が高くても、機能が充実し た施設を利用することで得られる物流コスト削減効果 によって相殺できるからだ。
ワンフロア当たりの面積が小さいという理由から、 多階層の旧式倉庫からファンドが開発した大型施設 へ移転した化粧品メーカーの担当者は「賃料こそ上が ったものの、平屋構造になって?縦持ち〞が発生しな いため、入出荷作業を迅速に処理できるようになった り、従来は各階に配置していた作業員の数が減るなど、 移転によるコストダウン効果は大きかった。
相殺どこ ろか、むしろお釣りがきた」という。
JIT納品への対応などスピーディーなオペレーシ ョンが要求される近年の物流ニーズにマッチした高機 能な物流施設を提供することで、ファンドはテナント との結びつきを強めている。
その一方で、これまで物 流施設の受け皿として機能してきた倉庫会社は、ファ ンドの台頭を背景に市場での存在感を失いつつある。
実際、ファンドが開発した物流施設が全国各地で 立ち上がっていくにつれて、既存の倉庫には空きスペ ースが目立つにようになってきた。
とりわけ深刻な事 態に見舞われているのは延べ床面積一〇〇〇坪以下 の中小型倉庫だ。
ここ数年、荷主企業はSCMやロ ジスティクス改革の一環として物流拠点の集約化を加 速している。
それに伴い、物流拠点の大型化志向が強 まっており、今後はその状況がさらに悪化していくこ とが予想される。
倉庫の仲介サイトを運営するイーソーコに寄せられ る空き倉庫情報の掲載依頼件数は、ここにきて急激 に伸びているという。
同社の大谷厳一副社長は「その ほとんどが中規模クラス以下の倉庫からのものだ。
当 初、倉庫会社は『われわれとはターゲットとするマー ケットが異なる』と不動産ファンドの参入を楽観視し ていた。
ところが、不動産ファンドが用意する大型物 流施設に荷主が次々と移っていく様子を目の当たりに して顔色が変わった。
現在では不動産ファンドの侵攻 に危機感を抱いている」と説明する。
テナントをつなぎ止めようと賃料値下げに踏み切っ たが、流出に歯止めが掛からない。
投資余力がないた め、既存の倉庫をスクラップして物流ニーズの変化に 即した施設を新たに用意することもできない。
テナントの囲い込みにつながる3PLなど付加価値の高い物 流サービスのノウハウにも乏しい││。
危機意識こそ 高まっているものの、倉庫会社の多くは不動産ファン ドへの有効な対抗策を打ち出せずにいるのが実情だ。
M&Aに消極的なオーナー経営者 倉庫業の監督官庁である国土交通省は二〇〇五年 一〇月に「物流総合効率化法」(通称3PL法)を施 行した。
環境負荷の軽減や物流コストの削減につなが る物流拠点の集約化プロジェクトなどに対し、税制特 例など様々な支援措置を講じるというものだ。
国交省では新法によって中小零細規模の倉庫会社 でも大型物流施設を用意しやすい環境が整ったとして いる。
ところが、倉庫会社サイドからは「支援策とし 物流ファンドVS倉庫会社 JANUARY 2007 16 不動産ファンドによる物流施設の新設ラッシュの影響 で、既存の倉庫会社が苦境に立たされている。
ファンド に有力テナントを奪われ、倉庫には空きスペースが目立つ ようになってきた。
もはや行政の後方支援は期待できない。
対抗策を打ち出せない倉庫会社はいずれファンドに飲み 込まれる。
(刈屋大輔) ては中身が不十分だ。
新法は不動産ファンドと互角に 渡り合っていくためのツールにはならない」といった 不満の声が上がっている。
これに対して、総合政策局貨物流通施設課の中村 吉明課長は「フェアな競争環境になかったり、市場の 失敗があれば、政府や行政の介入が必要だ。
ただし、 現行はそのような状況にないと見ている。
業界寄りの 支援策を新たに講じることで市場を歪めるのはよくな い。
倉庫業者とファンドのどちらが生き残るかは市場 が決めていくことだ」と指摘する(囲み記事参照)。
行政のバックアップに期待するのではなく、倉庫会 社の自助努力で不動産ファンドに対抗していく道も残 されている。
選択肢の一つはM&Aだ。
ライバルと手 を組むことで企業規模を拡大し、資金力を身につけて 大型物流施設の開発に乗り出す。
不動産ファンドに 対し正面からぶつかっていく戦略だ。
ただし、現時点でこのスキームが採用されたケース は皆無に等しい。
倉庫会社はオーナー経営者がほとんどで、大昔からの地主など、地元の名士であることが 少なくない。
一国一城の主というポジションを手放し たくないという理由からM&Aに消極的だ。
買収され る側にでも回れば、強い拒否反応を示す。
不動産ファンドとの直接対決を回避する道を選んだ 倉庫会社は、既存の物流施設をオフィスやイベント用 会場などにコンバージョンする動きを加速させている。
事実上、倉庫業からは撤退し、不動産業として再出 発を図ろうという狙いだ。
物流不動産市場では長らく倉庫会社が主導権を握 り続けてきた。
しかし、今やその市場は新興勢力であ る不動産ファンドに短期間のうちに飲み込まれてしま う可能性が出てきた。
倉庫業はその社会的役割を終 えたのであろうか。
17 JANUARY 2007 ││物流不動産ファンドが倉庫業の主力プレー ヤーになりつつあります。
ここ数年で営業倉庫事業者の顔ぶれは大きく 様変わりしました。
もともと日本で倉庫業を手 掛けていたのは各地の地主さんと呼ばれる方々 が中心でした。
しかし九〇年代に入ると規制緩 和を通じて、トラック運送業や異業種からの参 入が相次ぎ、さらに二〇〇〇年以降は不動産フ ァンドがこの分野に進出してきました。
倉庫の ユーザーである荷主のニーズに応えるかたちで、 様々な参入者が切磋琢磨し、よりよいサービス を提供し合う市場環境になったことは歓迎すべ きことです。
││既存の倉庫業者は不動産ファンドにマーケ ットを奪われ始めています。
必ずしも両者は完全なライバル関係にあるわ けではありません。
不動産ファンドにとって倉 庫業者は施設を利用してくれるユーザーの一つ。
しかしその一方で、互いにテナントを奪い合う 競争相手でもある。
つまり両者は協調と競争の 関係にあります。
││倉庫の規模が年々大型化していく傾向があ ります。
全国各地に 小規模の倉庫 を分散していた り、保管・流 通加工・荷揃 えといった作業 をそれぞれ異な る倉庫で処理 していたりと、日本の物流システムは非効率な 状態にありました。
これを解消して物流コスト を削減するとともに、環境負荷の発生を極力抑 えていくといった観点からも、物流拠点の集約 化を進めることは必要です。
二〇〇五年一〇月 に施行した物流総合効率化法は、拠点集約を促 し、それに伴い新たに必要となる大規模物流拠 点の開発を支援するために用意したものです。
││しかし、実際に大規模物流拠点の担い手と なっているのは既存の倉庫業者ではなく、不動 産ファンドです。
倉庫業者は物流ニーズの変化 の波にうまく乗り切れていません。
M&Aで企業規模を大きくして資金力を高め る。
あるいはM&Aまではいかないものの、数 社が集まって共同プロジェクトを立ち上げて大 型物流施設を用意する。
そうした生き残りのた めのビジネスモデルの修正が倉庫業者には必要 だと思います。
ただし、官は『ああしろこうし ろ』という立場にはない。
各社の経営戦略に口 出しするつもりはありません。
││不動産ファンドに押され気味の倉庫業者か ら新たな支援策が求められています。
フェアな競争環境になかったり、市場の失敗 があれば、政府や行政の介入が必要になります。
ただし、現行はそのような状況にはないと見て います。
業界寄りの支援策を講じて市場を歪め てしまうこともできません。
倉庫業者とファン ドのどちらが生き残るかは市場が決めます。
ユ ーザー側の視点に立って魅力あるサービスを提 供できたほうが支持されていくことになるでし ょう。
「生き残るプレーヤーは市場が決める」 国土交通省総合政策局 中村吉明 貨物流通施設課長

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