ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2007年2号
CSCMP報告
ケロッグの返品マネジメント

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

FEBRUARY 2007 68 「アンセラブル(unsaleables:販 売不能)」とはサプライチェーン上 で販売できなくなった商品のことで あり、その削減が解決すべき課題と なっていた。
小売業者も製造業者も、これまで は組織内の担当者を任命してアンセ ラブルの削減にあたらせてきた。
そ れは改善に向けたスタートではあっ たが、しかし長期的に好影響をもた らす本質的な改革を行うには、新た なゴールとアプローチが必要だった。
ケロッグは、真の改革を成し遂げ た。
アンセラブルを減らすことでは なく、収益性を高めることをゴール に定めた。
プロセスの効率アップ、 顧客満足の向上、そして顧客とケロ ッグ双方にとってのコスト削減とい った目標を達成することで収益性を 高めることを目指したのだ。
そして、その責務をただ一人に負 わせるのではなく、すべての部署が 責任の一端を担う、全社的な取り組 みに発展させた。
この画期的なアプローチを「クロ ーズドループ式・返品マネジメント システム」と呼んでいる。
この手法 の導入で、ダメージがこの五年間で 七五%減った。
さらに、数百万ドル のプロセス改善効果がもたらされた。
こうした効果をどのように実現し たのか、具体的に説明していこう。
ゴール 二〇〇〇年の時点で、ケロッグU SAのモーニングフーズ製品(シリ アルやポップタルトなど)のダメー ジ率は、店頭の陳列棚ベースで売り 上げの〇・八%相当あった。
目標は ダメージ率を減少させることだった が、同時に、その取り組みはプロセ スの効率を高め、顧客と消費者の満 足度を向上させ、コストを削減する ものでなければならないという明確 な方向づけがあった。
マネジメント層は、具体的なタイ ムテーブルを設定せず、特定の削減 率を強制するようなこともなかった。
すべての目的を達成し、長期的な結 ケロッグは、売り上げの〇・八%相当あった製品ダメージを五年間 で七五%削減した。
目標をダメージの削減に留めず、長期的な収益性 の向上を目指したことが「クローズドループ式・返品マネジメント」の 成功のカギだった。
プログラムの担当ディレクターが取り組みの詳細 を説明する。
ケロッグの返品マネジメントケロッグUSA ゲリー・ピーコー リマーケティング&リターンズマネジメント担当ディレクター カロライナ・サプライチェーン・サービス(CS CS) ジーン・ボデンハイマー パフォーマンス・リサーチシステムズ担当バイスプレジデント HEB テッド・レクナー リバース・ロジスティクス担当マネジャー スピーカー ケロッグUSAのゲリー・ ピーコーリマーケティ ング&リターンズマネジ メント担当ディレクター 69 FEBRUARY 2007 果を確実に得るためには、発展型の ビジネスプロセス改善によってプロ グラムのレベルを高め続けることが 必要であると認識していたからだ。
イニシアチブ 鍵となるイニシアチブを導入する 五年前に、リソースを投入し、返品 マネジメントを学びランドスケープ を理解するための基礎を築いた。
そ のうえで、鍵となるイニシアチブで ある「クローズドループ式・返品マ ネジメントシステムシステム」を二 〇〇〇年に導入した。
「クローズドループ(閉じた輪)」 のサプライチェーンは、従来型のフ ォワード(動脈)のサプライチェー ン活動と、返品(静脈)マネジメン トの付加的な活動を包括している。
返品マネジメントは、「製造業者 と小売業者の双方の収益性を高める ためにサプライチェーンマネジメン トの役割を強化するプロセス」であ ると定義できる。
返品された製品の フェイラーアナリシス(失敗分析) を行い、顧客の倉庫や店舗での製品 の状態を評価することにより、返品 マネジメントプロセスは、製品・パ ッケージング・流通・マーケティン グ・販売それぞれのプロセスを改善 する機会を生み出した。
ケロッグの改革は、データ収集に 終始せず、クローズドループのサプ ライチェーンを、全部門に支持され るアクション指向型の結果モデルに 発展させた。
そのモデルはデータを知識・情報 へと変化させ、測定し、アカウンタ ビリティーをもってその輪を完結す る。
それなしには、データ収集によ る発見が、収益性の目的を達成する アクション指向の結果に変化するこ とは不可能だ。
アプローチ モーニングフーズ製品のアンセラ ブル率を引き下げるために、「アン セラブル・チーム」を組織した。
メ ンバーは、カスタマーサービス、D C(物流センター)、ロジスティク ス、マーケティング、マーケティン グプロモーション、パッケージング、 工場、リマーケティング&リターン ズマネジメント、リサーチ、小売り 営業、販売、品質、パッケージング サプライヤーなど多くの部門から集 めた。
リマーケティング&リターンマネ ジメントのディレクターの指示の下 で、チームはデータから得られた発 見や、サードパーティ・サプライヤ ーであるカロライナ・サプライチェ ーン・サービス(CSCS)によっ て提出された結論をレビューした。
各部門の壁を壊すこの取り組みは、 発見を評価し、それを同意したアク ションに移すために極めて重要だっ た。
組織の一部門がコスト削減を提 案しても、全体としてはセービング 以上のロスを引き起こしてしまうこ とがあるからだ。
ケロッグはこの問 題を、身をもって経験している。
九 〇年代後半に、梱包材のコスト削減 がセービング以上のアンセラブルを 出してしまったことがあった。
ケロッグのクローズドループ式・ 返品マネジメントシステムは、 図1 のコンティニュアム(連続体)のと おり、鍵となる四つのリンクをもち、 それぞれが他のリンクに情報を与え る仕組みになっている。
リンク1:データ収集 膨大なデータを定期的に収集した。
CSCSとともに、当社および顧客 のサプライチェーンにおけるデータ 収集計画を立てた。
計画は、何のデ ータを、どのように収集し、どんな 測定基準を使うかのガイドラインも 含んでいた。
基準となるベースライ ンを設けるため、データ収集に二年 を費やした。
リンク2:情報・知識 データを情報・知識に変化させた。
このために、当社とCSCSの上級マネジメント層は、CSCSのオー ディット(調査)プロセスや、ケロ ッグおよび顧客のプロセス、ケロッ グの内部組織としての知識を含む、 お互いのオペレーティングプロセス の理解を深めた。
リンク3:測定 既存の測定スコアカードを発展さ せた。
データを情報・知識へと変化 FEBRUARY 2007 70 させたことで、鍵となる領域で測定 を行う機会の存在が明らかになった。
以下がその例である。
●製造工場やDC 製造工場やDCを継続的に測定し てランク付けできるようなスコアカ ードシステムを導入した。
そのスコアカードは、不具合を引 き起こす問題を、不具合対応の無償 出荷を行うケロッグの能力を測定す ることで顕在化させた。
これは、ど こに改善の取り組みをフォーカスす べきかを知る手がかりとなった。
●マーケティング・販売・品質 シップ・ライフ(輸送期間)、シ ェルフ・ライフ(陳列期間)、製品 の販売ベロシティ(速度)の関係を 役員に説明すべく、小売りでの賞味 期限切れの割合を計算した。
賞味期限切れに伴うコストを概算 し、そのモデルの改善を進めるため に、異なる製品、SKU(Stock Keeping Unit:在庫管理の最小単 位)、販売チャネルごとに、輸送期 間、陳列期間、賞味期限切れ製品の 数理モデルがつくられた。
陳列期間 を長くする、あるいは輸送期間を制 限することにより得られる年間のセ ービングを計算することができた。
リンク4:アカウンタビリティ ー すべての部門にアカウンタビリテ ィー(責任)を持たせた。
データ、 情報・知識、測定を用いることによ り、アンセラブル・チームは上級マ ネジメント層の全面的な支持を受け、 すべての部門がパフォーマンスに責 任を持つ仕組みを整えることができ た。
また、製造工場やDCのランク 付けが健全な内部競争を生み出した。
誰もが一番になりたいと願い、誰も ビリにはなりたがらない。
測定の対 象となるものが注目を集め、フォー カスされ、最終的に改善を生むとい うわけだ。
最初の二、三年で得た発見をもっ て取り組みを終えることもできたが、 そうしていたらダメージの削減率が 七五%に達することはなかっただろ う。
ケロッグの責務は、収益性を高 め、ビジネスの理解を深め、顧客と 消費者の満足度を高めることをすべ ての部門において確実にするための 継続的な改善だった。
このプロセスを通じて、改善のた めの多くの機会が発見された。
とは いえ、こうした機会を実行に移すに は、長期的なコスト削減と収益性を 実現するための先行投資を必要とす る場合がある。
ケロッグのアンセラブル・チーム が取った方法は、問題を財務的な視 点で説明する、つまり、すべての意 思決定の選択肢をROI(投資対効 果)としてドルで示すことだった。
数字という共通言語を用いて説明し、 上級マネジメント層と財務部門を意 思決定プロセスに取り込んだことで、 意思決定者に影響を与え、財源を確 保することができた。
投資 ケロッグは、パッケージング、輸 送キャリア、プラットフォーム、オ ーディットプロセスなどに年間一二 〇〇万ドル以上を費やしている。
オ ーディットプログラムに投資を行い、 また、百年以上の歴史で蓄積した経 験の知識を備え、返品マネジメント チームをリードする四人の正社員を 配置している。
結果 返品マネジメントアクションのコ ンティニュアムに従って得られた改 善例をいくつか紹介しよう。
改善例1 ――発見 商品ケース表面の接着がはがれて しまっていた。
――解決法 小売りでのハンドリングに耐えら れるように接着の強度を二倍にした。
――学習したこと 成功している企業は、製造から消 費者の手元に届くまで耐えられるよ うに検証を重ねて設計を行う。
――継続的な改善のステップ 71 FEBRUARY 2007 パフォーマンスを測定する、小売 りにおける継続的なオーディット。
改善例2 ――発見 スリップシート(段ボール材でで きた紙)に載せて出荷した製品は、 顧客倉庫で通常より一六〇%多くダ メージが発生する。
――解決法 スリップシート出荷のインセンテ ィブプログラムを廃止し、パレット による出荷に移行した。
――学習したこと ダメージによるアンセラブルのコ ストが、プラットフォームコストで のセービング額よりも多い。
――継続的な改善のステップ プラットフォームのタイプとユニ ットロード寸法のダメージレベルの 測定を行う。
ユニットロードデザイ ンや寸法、プラットフォームのタイ プ、出荷形態によるダメージレベル を予想するモデルを構築中。
改善例3 ――発見 増強なコルゲート(段ボール板) を使用することで、ケースのダメー ジが大幅に減少した。
――解決法 より頑丈なコルゲートに年間五〇 〇万ドル以上を投資した。
――学習したこと 増強した梱包によるセービングの 効果は高く、顧客満足度も増す。
――継続的な改善のステップ 顧客倉庫で識別しやすいようにケ ースに星印をつけ、改善度合いをモ ニタリングした。
その後も、可能な 限り高い品質のパッケージングを行 っているという、顧客に対するコミ ットメントを示す印としてこの星印 を残している。
ケロッグにとっての効果 社内の部門横断チームの参加が、 効果的な返品マネジメント組織にと って不可欠だと分かった。
各メンバ ーが、データを組織が理解できる情 報に変換し、組織がその情報をもと に改善を行えるようになった。
部門横断チームが、オーディット に参加することで?ビリーバー(信 者).となった。
CSCSのオーデ ィットをよりよく理解したり、改善 の機会や以前の改善イニシアチブの 良い結果を直接理解できたりするよ うになった。
ケロッグの顧客への効果 一連の改善活動は顧客にも利益を もたらした。
自社におけるプロセス 改善の真摯な努力を示し、顧客のプ ロセス改善を手伝うことで、取引の パートナー関係がより強力になった。
返品マネジメントチームは、ディ ストリビューターにおけるアンセラ ブルやオペレーションの専門家と協 力して取り組みを進めている。
また、 当社のチームやCSCSによるレポ ートにより、顧客に改善の機会分析 を提供している。
研究結果は常に顧 客と共有し、質の改善、アンセラブ ルの減少、効率性や収益性の向上に ついての議論も絶えず行っている。
このプロセスは、ケロッグと顧客の 取引関係を強固にするものである。
クローズドループ式・返品マネジ メントシステムがもたらした、モー ニングフーズのダメージ率七五%減 少は、一つのプロセスからくるもの ではない。
プロセスの効率向上、顧 客および消費者の満足度向上、ケロ ッグと顧客の双方にとってのコスト 削減といった目的を達成する一方で、 マネジメント層や部門横断チームの サポートを得て、データ収集からア カウンタビリティーまでの四つのリ ンクの結果型プロセスに従い、その 結果を継続的な改善に確実につなげ ていくという、すべての取り組みの結果なのである。
( 翻訳 岩田佐和子) ※このレポートは米CSCMP年次総会で の講義内容を本誌編集部がまとめたも のです。

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