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JULY 2005 22
国際インテグレーターに名乗り
ギャラクシーエアラインズ――佐川急便が5月に新設した
貨物専用航空会社だ。 国内の航空宅配便市場に価格破壊を
仕掛けるとともに、中国を始めとした東南アジア諸国にネッ
トワークを拡げることで、国際インテグレーターとしての新
たな一歩を踏み出そうとしている。
航空宅配便の価格破壊を狙う
宅配便の全国翌日配達にはウソがある。 現在、日
本郵政公社の一般小包を含めた宅配便の取扱個数は
年間で約三二億個に達している。 そのうち一割程度が
翌日には届いていない。 首都圏から北海道や九州、沖
縄などに配達する荷物は、通常の宅配便では翌日には
着かない。 国際貨物の翌日配送が可能になっている時
代に、国内でそれができないのは、国内の航空貨物輸
送が脆弱なせいだ。
遠隔地への翌日配送には飛行機を利用するしかな
い。 しかし国内の航空貨物輸送は旅客機の貨物スペ
ースを利用したベリー便を利用するしかなく、宅配便
向けの早期便と最終便(初終便)の庫腹は既に満杯
状態。 売り手市場で運賃も高止まりしている。 その影
響から航空宅配便には、最も小さなサイズでも通常の
宅配便タリフに加えて三割から六割程度の追加料金
が発生する。 荷物のサイズが大きくなれば割増料金は
さらに跳ね上がる。
航空宅配便の価格を下げれば、新たな需要を掘り起
こせる。 そんな狙いから佐川急便は五月、貨物専用航
空会社、ギャラクシーエアラインズを設立した。 エア
バス製の貨物専用機二機を購入し、来年六月に運行
を開始する。 当面は羽田空港をベースに北海道、九州、
那覇を夜間に一日一往復させる計画だ。
ギャラクシーの初代社長を兼務する佐川急便の若
佐照夫常務は「国内貨物輸送のスペースは既に過半
数が宅配便貨物で埋まっている。 当社は初終便全体
の八%しか枠をもらえていない。 これ以上は積みたく
ても積めない状態だ。 しかも今後、国内線の航空機は
小型化していくことが予想される。 後は自分で貨物専
用機を飛ばすしかない。 スペースを確保し、ローコス
第1部
23 JULY 2005
ト・オペレーションを徹底することで割増料金のない
航空宅配便を実現したい」と説明する。
日本の宅配便市場は数十社が乱立する成長期を経
て、今や淘汰の時代を迎えている。 勝ち残った大手企
業同士のサービスには大きな違いがなく、実勢料金の
下落に歯止めがかからない(図1)。 付加価値の高か
った商品が一般化して価格競争に陥るコモディティ化
と呼ばれる現象が進んでいる。 そこで佐川は遠隔地へ
の翌日配送を割増料金なしでもタリフ通りに収受する
ことで、平均単価の改善と新規需要の開拓を狙う。
ヤマト&ANA
VS
佐川&JAL
ギャラクシーのトップには若佐常務と並んで、スカ
イマークエアラインズの大河原順一元社長を招き共同
社長に据えた。 既存運賃の半額で航空業界に参入し、
昨年黒字転換を果たしたスカイマークの経験が、ギャ
ラクシーの事業運営にも役立つという見方だ。 実際、
国内貨物専用機の運航による価格破壊には、スカイマ
ークの時と同様、既存の航空貨物業界からの反発も予
想される。
佐川はギャラクシーの設立に当たって、機体のメン
テナンス等を委託することになるJALを始め、総合
商社やフォワーダーなどに出資を募り、自らの出資比
率を五一%に抑える予定だが、そこにはANAの名前
は含まれていない。 今回の一件に先立つ二〇〇三年
十一月にANAは、ヤマト運輸の要請を受けて旅客
機を使った貨物専用便の運行を開始している。 これに
郵政や佐川などの他の宅配業者が激怒。 ANAは説
明に追われる、という経緯があった。
その後も宅配各社はANAとの取引を継続している
ものの、ヤマト以外の宅配会社との関係に溝ができた
ことは否定できない。 とりわけ佐川とは今後、競合す
る場面が増えてきそうだ。 昨年暮れに佐川が貨物航空
会社を設立するというニュースが公になるや否や、A
NAは国内線では初となる貨物専用機の導入を発表。
これまで旅客機を利用していたヤマト向けの深夜便を
貨物専用機に切り替えていく方針を打ち出している。
これに対して佐川の若佐常務は「当社の動きが既
存の航空会社を刺激している面もあるのかも知れない。
しかし、これまで日本の航空会社は貨物事業に、あま
り目が向いていなかった。 正当な競争はユーザーにメ
リットをもたらす。 日系の航空会社が貨物輸送の利便
性とローコスト化を徹底してくれるのなら当社も喜ん
で利用したい」と、むしろ歓迎する意向を示す。
それというのも、現在の佐川にはANAやヤマトな
どの国内勢と並んで、欧米の国際インテグレーターが
脅威に映っているからだ。 従来、UPSやフェデック
ス、DHLなどの大手国際宅配業者は、佐川やヤマ
トなどの日本の宅配業者とパートナー関係にあった。
ところがUPSやドイツポストが株式公開によって資金を調達し、それをグローバル競争に投入し始めた二
〇〇〇年前後から国際インテグレーターの日本戦略は
明らかに変化し始めている。
UPSはヤマトとの資本関係を清算。 佐川と提携
関係にあるDHLも、自らの資本で日本国内の配送
ネットワーク構築に乗り出している。 その業務領域も
従来の国際宅配から3PL事業さらには国内輸送事
業へ拡大しつつある。 欧米の列強と日本の物流企業
の関係は、もはや提携では済まされない。 物流市場の
国際競争は日本国内にも及んでいる。 これまで頻繁に
国際インテグレーターとの接触を繰り返してきた佐川
の危機感は周囲が考える以上に強い。 それが多大なリ
スクを犯してまで同社をインテグレーターの道に踏み
出させる原動力になっている。
(単価:円)
大手4社の宅配便取扱個数の推移 宅配便単価の推移
図1 宅配便市場は淘汰とコモディティ化が進んでいる
750
700
650
600
550
500
450
400
350
2000
年度
2001
年度
2002
年度
2003
年度
2004
年度
2000
年度
2001
年度
2002
年度
2003
年度
2004
年度
(単価:億個)
12
10
8
6
4
2
0
ヤマト運輸 ヤマト運輸
佐川急便 佐川急便
その他特積
(本誌推定)
日本通運
日本通運
郵政公社
郵政公社
当面は首都圏と北海道、九州、沖縄を貨物専用
機の深夜便で結ぶ。 将来的には中国を始めとし
た国際路線への進出も計画している。 しかし各
飛行場の発着スロットの確保など、計画実現に
は多くの困難も予想される。
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