ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2007年5号
特集
女の物流力 ダイバーシティの損得勘定

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

雇用機会均等法世代が管理職に 日本の男性労働力人口は〇五年をピークに減少を 始めている。
二〇二五年までに約三〇〇万人減る見 込みだ。
男性労働力だけに頼った組織は今後、年を 追うごとに維持が難しくなっていく。
一方で女性労働 力は、人口が減少しても就業率が高まることで、ほぼ 横ばいで推移すると予測されている。
日本企業にとっ て女性活用は、もはや待ったなしだ。
大手企業は既に 本腰を入れ始めている。
日本IBM、ソニー、KDDI、リクルートなど、 国内の有力企業約七〇社は共同で、女性社員の戦力 化を支援するNPO法人「ジャパン・ウイメンズ・イ ノベーティブ・ネットワーク(J-Win)」を、五月をメ ドに立ち上げる。
米国の女性支援団体「カタリスト」 と提携し、会員企業に対し女性活用の国際的なベン チマーキングや各種の情報提供を行う。
米カタリストはフォーチュン五〇〇社を中心に欧米 の有力企業三百数十社を会員に抱えるNPO法人で、 女性社員の活用に関する各種調査や企業向けのコン サルティングなどを行っている。
同社の二〇〇四年の 調査によると、管理職に女性を積極的に起用している 企業は、そうでない企業に比べROE(株主資本利 益率)が三五・一%高かったという。
同様に日本でも、経済産業省が二〇〇三年に国内 約二万五〇〇〇社の企業業績を調査したところ、社 員に占める女性の比率が五〇%に近づくほど、利益 率が高いことが分かった( 図1)。
こうした調査結果 に連動して、日産自動車や伊藤忠商事など、具体的 な目標値を定めて女性管理職の比率を上げようという 日本企業も現れている。
人事コンサルティングを手がけるクレイア・コンサ ルティングでは「昨年後半ぐらいから女性幹部の人材 育成に関する相談が急に増えてきた」と桐ヶ谷優シニ アコンサルタントはいう。
そのため同社では、従来個 別企業に対して行っていた女性社員向け研修を今年 四月から公開講座に切り替えた。
男女雇用機会均等法の施行から二〇年が経ち、第 一期生として入社した総合職の女性社員たちは現在、 四〇代前半を迎えている。
課長や部長などの役職に 手が届く年代だ。
これに合わせて大手企業の多くが現 在、女性管理職に配慮した人事制度や育児支援など の整備を急ピッチで進めている。
日本郵船(NYK)では本社ビルの一角に企業内 保育所として「丸の内保育室」を設け、四歳未満の 子供を持つ社員の育児をサポートしている。
日当たり の良い皇居沿いに約三〇坪のスペースを確保、テラス を利用した園庭も備えている。
小さな子供を連れて通 勤電車に乗ることが困難な社員のために、専用の無料 駐車場も地下に三台分用意した。
利用料金は二〜三歳児を一日八時間預けて月額四 万五〇〇〇円。
相場よりもかなり安い。
現在は一〇 人が月極で利用し、常時三〜四人の保育士が子供た ちのケアに当たっている。
専業主婦を妻に持つ男性社 員が一時利用するケースもある。
他にも同社は二〇〇 三年から育児フレックスや短時間勤務制度を導入す るなど、手厚い育児支援策を実施している。
「こうした支援制度がどれだけ効果を発揮している のか数字で検証することはできない。
しかし女性社員 の定着率は確実に上がっている。
かつては社内結婚す ると女性は退職するというのが暗黙の決まりになって いたが、今は結婚を理由に退職する女性がほとんどい ない。
出産で辞めるという話も最近は聞かなくなって いる」と赤星朋子人事グループ労政チームチーム長は ダイバーシティの損得勘定 女性活用の進んだ会社は利益率が高い。
ただし、女性 比率を増やすと利益が増えるとは限らない。
それどころ か業績に貢献できない女性社員を手厚く支援すれば、利 益を失うことになる。
稼ぐ女性を確保・育成する仕組み を作る必要がある。
MAY 2007 32 第4部 説明する。
ただし福利厚生の充実には当然、コストがかかって いる。
丸の内保育室にしても、利用者から保育料こそ 徴収するものの、ランニングコストは年間約三〇〇〇 万円に上る。
自社ビルのため免除されている家賃や駐 車場代まで含めると実質的には五〇〇〇万円以上の 負担になっているはずだ。
フェデックスを退職後、日本でワーク/ライフ・コ ンサルタントとして活動するアパショナータのパク・ ジョアン・スックチャ代表は「日本の一部の大企業の 育児支援制度は、欧米と比較しても既に手厚すぎる ほどの水準にある。
しかも、出産した社員に奨励金を 出す、育児休業を三年に伸ばすなど、企業にとってコ ストアップにしかならない支援制度まで、まかり通っ ている」と指摘する。
女性活用が進んでいると言われる欧米の先進企業 は事実上、支援の対象を女性管理職もしくは管理職 候補の正社員に絞り込んでいる。
つまり企業への貢献 を期待できる人材に限り、その見返りとして各種の恩 恵を与えている。
付加価値の低い定型業務はそもそも 正社員にはやらせない。
全てアウトソーシングだ。
一方、日本企業の多くは定型的なルーティンワーク にも正社員をあてている。
加えて有期雇用を前提に業 務を設定してある一般職にも、総合職と同じ支援制 度を利用させている。
そのため育児休業の取得直後に 退職されてしまうといったケースが後を絶たない。
個 人と企業のWin ―Winが成立していない。
NYKでも「保育室のような、限られた人しか使え ない施設や制度を作ることに対して、社内に批判が全 くなかったわけではない」という。
保育室については 経営トップの強力な後押しがあったものの、不公平で 過度な支援は、それを利用できない社員にとっては逆 差別ともとられかねない。
ただし同社は二〇〇一年に、それまで一般職、準 総合職、総合職の三つに分けていた職制を統合し、女 性社員二五〇人を含むNYK本社の一七〇〇人全員 を、世界四万八〇〇〇人に上るグループの中核社員 として明確に位置付けている。
補助業務はグループ会 社や外部にアウトソーシングして、NYK本社は女性 社員も長期雇用・長期育成を基本とするかたちに業 務設計を整理したわけだ。
女性社員は利益を生むか? どのような人材に何の仕事を任せるのか。
戦略的な 業務設計を抜きに、女性比率を増やしても利益にはつ ながらない。
女性活用の進んだ会社は企業業績が良い という先の調査結果にしても、女性の活躍が理由で業 績が上がったのか、それとも業績にもともと余裕のあ る会社が女性を多く使っているだけなのか、その因果 関係は明らかになっていない。
少なくとも、個別企業の女性社員比率と利益率の 推移を時系列的に分析した調査では、「女性比率の変 化と利益率の変化との間には、有意な関係は存在し なかった」。
この事実から「女性が活躍できる風土を 持たない企業が単に女性比率を高めても利益率を上 げることはできない」と経産省の報告書は結論付けて いる。
女性活用のキーワードとして「ダイバーシティ」が 現在、注目を集めている。
性別だけでなく人種や年齢、 ひいてはゲイなどの性的マイノリティーまで含めた個 の違いを会社が受け入れ、社員の多様性を活かすこと で競争力を強化しようという取り組みだ。
その趣旨に は誰も反対しない。
しかし、それが企業業績に結びつ かない限り、取り組みは一時的なブームに終わる。
33 MAY 2007 アパショナータのパク・ジ ョアン・スックチャ代表 NYKの「丸の内保育室」。
大きな 窓から皇居のお堀が一望できる

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