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なった。 従来は、単年度ごとに競合
見積もりを行い、最も安い見積もり
を提示したサプライヤーを採用してい
た。 その結果、サプライヤーの入れ替
えが頻繁に起こっていた。
リエンジニアリングを機にこれを改
めた。 サプライヤーと三年〜七年の
長期的なパートナーシップを結び、サ
プライヤーがIBMの事業・技術環
境を理解できるようにする。 その上で、
開発段階からの参画による技術的な
コラボレーション等を含む、総合的
な最適調達を目指している。 価格一
辺倒の関係では決してない。
さらに、戦略的なパートナーと認
定しているサプライヤーに対しては、
担当を調達部門に限定せず、相応の
部門から上級管理職の担当者をアサ
インする。 そして、定期的な訪問・
意見交換、相互課題に対する迅速な
アクションなどの対応をとっている。
サプライヤーとのパートナーシップ
構築について、IBMの具体的な施
策を三つ紹介しよう。
?サプライヤーへの情報開示と定期
的な満足度調査による公平性維持
IBMのグローバル調達(Global
Procurement)ホームページ(http:
//www-03.ibm.com/procurement)
では、取引条件(Terms and Condi
tions)から始まって、調達担当役員
(Chief Procurement Officer)から
サプライヤーへのメッセージ(Supp
lier Letters)、遵守すべきガイドライ
ン類、環境要件、梱包要件等、多数
の開示可能な情報が常に最新の状態
で公開されている。 取引の可能性の
あるすべてのサプライヤーに公平な条
件で対応する姿勢を、ホームページ
長期契約で関係強化
IBMの調達改革について、前回
は「強い調達」を実現する上で前提
となる社内基盤整備の取り組みを紹
介した。 今回は、サプライヤーとの関
係強化の取り組みを紹介しよう。
IBMは、大幅赤字をキッカケに、
九三年からリエンジニアリングを推
進してきた。 その過程で、内部調達
(内製)/外部調達の基準見直しを積
極的に行い、自前主義をやめて外部
からの購入を増加させた。 狙いはコ
ストの最適化だった。
外部調達へのシフトに伴い、社外
への支払いが大幅に増加した。 これ
は調達部門がサプライヤーとの関係
構築に本腰を入れて取り組む契機と
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コスト最適化を目指し、外部調達比率を大幅に拡大させた。 同時にサ
プライヤーとの関係を抜本的に見直した。 特定のサプライヤーと長期安定
的な契約を結び、従来の価格一辺倒を改めた。 同じ原則をロジスティク
ス管理にも適用した。 その結果、協力物流企業との関係は一変した。
グローバル調達改革?
最終回
IBMの調達ホームページ
を通じて最大限に表現している。
これに加え、定期的に取引のある
サプライヤーに対しては、ホームペー
ジ上でもフィードバックを行うことの
できる仕組みを提供している。 自社
の改善努力とともに、サプライヤーと
のパートナー関係を重視する姿勢を
示している。
ところで、日本企業の担当者から
「調達品目をホームページ上に掲載し
たが、提案が少ない」といった悩みを
聞くことがある。 IBMでは、サプラ
イヤーにとってのホームページの使い
勝手もサプライヤー満足度調査の対
象に含めて改善に努めている。 そし
て、サプライヤーとのコミュニケーシ
ョンをあらゆる面で最大化をしようと
考え、対策を講じている。 そうした
努力をせずにただ待っているだけでは、
良い反応が得られなくても仕方があ
るまい。
?調達オンブズマン制度
IBMでは、調達に関する意見や
問題を抱えるサプライヤー、さらには
取引関係のない一般の人々にまで開
かれた「調達オンブズマン」窓口を
設けている。 調達部門とは別に置か
れた、IBM内の第三者窓口だ。
バイヤーとサプライヤーの間には、
売り手―買い手の力関係から、取引
時に軋轢が生じることが多い。 また、
モラル上不適切な状況の発生も想定
される。 第三者に相談できる窓口を
設けることで、公正な取引に向けた
コンプライアンス遵守状況の、徹底
した「見える化」を実現している。
?CSR調達
最近、調達ホームページのメニュ
ーに「CSR調達(Supply Chain
Social Responsibility)」が加わった。
日本では、社団法人電子情報技術
産業協会が昨年八月に策定した「サ
プライチェーンCSR推進ガイドブ
ック」がCSR調達について説明し、
チェックリストを設けている。 そのチェックリストの基になっているのは、
IBMなどが開発した「EICC
(Electronic Industry Code of Con
duct)」だ。 IBMでは、EICCを
さらに発展させた、独自の「行動原
則/ガイドライン(IBM supplier
conduct principles/guidelines)」を
持ち、ホームページ上で公開している。
IBMは、このような取り組みを
通じて、サプライヤーに対して常に公
正かつ適切な取引関係を維持してい
く最大限の努力を続けているのである。
調達業務を電子化
前回紹介した社内の組織改革に続
いて積極的に取り組んだのが、「e-procurement(
電子調達)」の仕組み構
築である。
従来の調達業務は、紙・電話ベー
スで、国や地域ごとに独自の個別オ
ペレーションで行われていた。 IBM
とサプライヤーの両方に見積依頼書、
見積書、発注書等のさまざまな書類
作成が必要とされただけでなく、業
務完了までの時間も長くかかり、手
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競争力強化にも結びつき、IBMに
対するサプライヤーの満足度、信頼・
ロイヤリティーの向上にも大きく寄
与している。
我々のコンサルティング実績に基
づくと、一般的な日本企業における
調達担当者の業務時間数の内訳は、書
類作成等の付加価値の低い事務・オ
ペレーション作業に約七〇%が割か
れており、調達戦略を練る、サプラ
イヤーの新規開拓や育成といった専
門性・付加価値性の高い業務は約三
〇%を占めているに過ぎない。 IB
Mを含めた欧米の先進企業では、こ
の比率が逆転する。
この差が発生する一つの要因が、業
務プロセス電子化による生産性の違
いであると考えられる。
日本企業の中には、調達部門は自
部門のための大きな投資に踏み切る
ことが難しく、電子プロセス導入を
はじめとした情報システム基盤の導
入に遅れをとっている場合がある。 そ
の結果、調達部門が日々の業務に追
われて本来行うべき付加価値の高い
業務が行えずに業務の迅速性が下が
ってしまえば、却って社内の足手ま
といになってしまう可能性がある。
ロジスティクスも見直す
IBM全体の構造改革を機に、ロ
ジスティクス部門でも自分達が提供
している価値について検討を始めた。
リエンジニアリング推進当時、市
場は急速なグローバル化の中にあっ
た。 お客様もIBMも、競争力を維
持するために調達と製造のグローバ
ル展開を進めていた。 だが、社内の
ロジスティクスサービスは環境の変化
に追いつけず、お客様のニーズに対
応できなくなっていた。 ロジスティクス部門には、「このま
まではいけない」という危機感が広が
っていた。 全社的な構造改革の流れ
においても、すべての地域のロジステ
ィクス部門でスリム化・効率化が必
須とされていた。
グローバルな市場の要求に対応し、
お客様の競争力を高めるため、ロジ
スティクス部門は「高品質のサービ
スを最適な費用で実現できるグロー
バルな組織体制の確立」を目標に掲
げた。
とはいえ、世界中のすべての地域
で、高品質のサービスをIBMの力
だけで迅速に構築することは困難だ
った。 各地域のロジスティクス業者
が持つ最新のサービスを活用しなけ
れば目標は達成できないと判断した。
世界各国で高品質のサービスを提
供するには、優秀なサプライヤーとの
アライアンス(提携)が不可欠だ。 サ
プライチェーンの供給元と供給先が
グローバルレベルでめまぐるしく変化
する時代に、荷主企業が自らロジス
ティクス関連の長期投資を実施し、そ
れを回収するのは容易ではない。
そうではなく、優れたサービスを購
入し、必要に応じて適切に組み合わせることが最適な方法であると考え
た。 各国の法律や環境の規制に的確
に対応するためにも、現地の事情に
精通したサプライヤーのスキルが必要
であった。
優秀なサプライヤーと協業し、ビ
ジネスプロセスやシステムを必要なと
きに必要なだけ外部から調達する。 そ
れにより固定費を削減し、変化への
対応スピードを上げる。 協業関係を
作業ゆえのミスも発生していた。 購
買部門を通さないイレギュラーな購
入行為も発生していたが、その検出
は十分にできていなかった。
こうした問題への対応策として、市
場分析や購入方針立案から、見積依
頼、価格交渉・契約の仕入先選定に
関わるソーシング業務、発注・納品
検収・支払のフルフィルメント業務
までの調達業務のエンド・トゥー・
エンドをシームレスに連結するグロー
バル共通システム体系「PeS(Pro
curement e-systems)」を導入した。
調達業務プロセス電子化の効果は
大きかった。 例えば日本IBMでは、
二〇〇一年時点で社内の調達業務の
七〇%がシームレスな電子プロセス
に置き換わり、年間約六〇万件の発
注処理に対し約六億円のコストを削
減した。 業務処理のスピードも著し
く向上した。
電子プロセス導入とそれに伴う業
務標準化により、実際に業務を行う
場所も見直された。 日本IBMの購
買事務・オペレーション作業の大半
は、現在、中国の購買センターにて
行われている。 IBM全体で言えば、
調達関連の事務はインド、ハンガリ
ー、中国の三拠点に集約されている。
電子プロセスによる効率的な業務
手順はサプライヤーの業務効率化・
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スピーディに構築し、使命が果たさ
れれば速やかに整理し、新しい投資
に注力していくことを目指した。
戦略の構築とそれを確実に実行す
るための管理機能およびそのためのス
キルを社内に残し、実行作業はすべ
てアウトソースすることを決めた。 こ
れに伴い、ロジスティクス関連の資
産も売却した。
方針の転換により、アウトソース
する内容、アウトソース先との協業
体制が大きく変化した。 従来、一部
で行っていた「アウトソース」は、い
わば「外注化」であった。 物流作業
に関して言えば、プロセスの管理・
改善を中心的に進めるのはロジステ
ィクス部門で、委託先に任せるのは
主に作業(労務)に限られていた。
これを、業務の企画とコスト・パ
フォーマンスの向上までを含めて業
務プロセスそのものを委託するやり方
に改めた。 アウトソース先が自らのノ
ウハウを使い最適なプロセスを実施
できるようにしたわけだ。 購入の対象
が、物流作業からロジスティクス・
ソリューションに変わったのである。
それに伴い、アウトソース先に対す
るマネジメントの方法も変わった。 従
来は、品質やプロセスが安定してい
る国内業者の管理が中心であり、コ
スト管理に重きが置かれていた。 管
理を行う上で複雑な要件は発生して
いなかった。
本格的なアウトソースをグローバル
に進めるに当たり、マネジメントの中
心は、委託先が負担するリスクを管
理し、ある一定期間で業務の品質・
効率を評価してプロセス改善を実施
させることになった。
そこには、「できる会社」とだけ協
業するのではなく、できる「可能性の
ある会社」を、育てながら協業して
いくという視点が追加された。 そこで
は、サプライヤーと深く連携した実
行および改善のプロセスが欠かせない
要件となった。 サプライヤーを、単な
る委託先ではなくパートナーとして位
置付けた。
3PL管理を世界統合
パートナー企業との協業体制の確
立のため、共通の管理指標の導入、判
断基準の共有、明確な指示系統の整
備、荷主企業の社内事情の共有、透
明性の確立、エビデンス(証拠)に
基づく課題解決体制の構築、相互の
多面的な評価といった、選定・評価・
育成のしくみを確立した。
グローバルに、すべてのプロセスを
一社のパートナー企業で実現するこ
とは難しい。 そこには、複数企業に
おいて情報を共有できるしくみ、複
数企業の相互利益を調整していくた
めのコーディネート能力、そして、社
内プロセスとマニュアルの標準化が
必須である。 その上で、それらを言
語や地域、慣習を越えて、世界中ど
こででもできるスキルが必要であった。
グローバルにロジスティクスを展開
していくためには、グローバルに、地
域を越えてロジスティクス業者を管
理する能力が必要となってくる。
しかし実際には、企業によっては、その前提となる各種標準化が達成で
きず、足踏み状態となっている場合
がある。 その結果、物流ステータスの
管理ができないまま現地の物流業者
に委託する、または管理能力は低い
が言語能力のある現地の支社や支店
に管理を一任するという事態を招い
ている。 現在、多くの企業のロジス
ティクスが地域や国ごとに分断され
ている原因はここにあると思われる。
欧米企業においては、とかく価格
重視のドライな関係であると言われ
がちだ。 だが、IBMは優良パート
ナーとの長期的な関係を前提にビジ
ネスを推進する態度で臨んでいるこ
とがお分かりいただけただろう。
一方、日本企業について考えた場
合、「系列システム」に由来するよう
な、バイヤーとサプライヤーの厳然た
る上下関係に根ざした施策を重要視
する企業が多いようである。 自社と
対等以上のサプライヤーと関係をど
う築いてよいか分からずに取引を諦
めてしまう場合もある。 IBMの取
り組みが、そうした企業にとって一つ
の参考になれば幸いだ。
75 JULY 2007
もうり・みつひろ
シニアマネージングコンサルタント
製造業、外資系コンサルティング会社を経て日本
IBMに入社し、IBMビジネスコンサルティング
サービスにて現職。 現在、ロジスティクス・サー
ビスの日本及びアジア・パシフィック地域のリー
ダー。 これまで多くのSCM/ロジスティクスの
改革に従事。 上流から下流まで幅広いプロジェク
ト経験を持ち、グローバルに展開するプロジェク
トの経験が豊富。
てらしまてつふみ
シニアマネージングコンサルタント
外資系コンサルティング会社を経て日本IBMに入
社し、IBMビジネスコンサルティングサービスに
て現職。 現在、製造業(インダストリアル)事業
本部調達購買領域リーダー。 これまで多くの調
達購買改革プロジェクトに従事するとともに、調
達購買マネジメント分野をトータルにカバーでき
る体系的コンサルティング・メニュー確立を推進
している。 購買・調達担当者の交流組織である購
買ネットワーク会にも参画。
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