*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。
65 JULY 2007
佐高信
経済評論家
改憲論者のはずの慶大教授、小林節が『週
刊朝日』の六月八日号で、「安倍政権に改憲さ
せてはいけない」と強調している。
これを読んで私は、現首相の安倍晋三らは
改憲論者ではなく、壊憲論者なのだと納得し
た。 憲法を改めるのではなく、その原理をも
壊す壊憲論者は、改憲論者の小林には耐えら
れないのである。
小林は、二〇〇五年秋に自民党が発表した
「新憲法草案」について、「新憲法」と言いな
がら明治憲法に戻ろうとするレベルの低い内
容の案だとして一蹴する。
たとえば、その草案では、国を愛する義務
を国民に課しているが、愛するか愛さないか
は現憲法が保障する「良心の自由」そのもの
であり、草案にもそれは残っている。 こんな
ことまで説かなければならないのかという感じ
で、小林はその後をこう続ける。
「にもかかわらず、国民に愛国の義務を課す
のは矛盾している。 なのに自民党は自分たちが
矛盾していることさえ気づいていない。 男女の
関係で考えればわかるように、愛は強制するも
のじゃなくて魅力で勝ち取るものでしょう」
大体、「美しい国」「美しい国」とやかまし
いが、安倍は本気で、いまの日本が魅力ある
「美しい国」だと思っているのだろうか。 そも
そも、その判定者は国民であるはずなのに、判
定される側が勝手に「美しい国」などという
点数をつけている。
私は小林の次の指摘に大賛成である。
「政治家がいい政治さえしてくれれば、自分
はこの時代、この国に生まれて良かったとい
う愛国心が自然に芽生えるもの。 自分たちが
いい政治をしていないことを棚に上げて、憲
法で国民に愛国心を押しつけようなんて、明
治憲法下の教育勅語と同じ発想です」
また、自衛軍の海外派兵については法律に
委ねるとしているが、これは「時の国会の多
数決で、海外派兵がどうにでもなる」ことを
意味しているという。 よく、壊憲側は現憲法
を「アメリカの押しつけ」と批判するが、壊
憲も「アメリカの押しつけ」であることは明
らかである。
小林自身が、アメリカの高官などから、
「日本はいつになったら、アメリカのパート
ナーとしてともに行動をしてくれるのか」
と何度も尋ねられた。
そして小林は改めて、安倍らの「憲法観」
のまちがいを正す。
「そもそも憲法とは、何のためにあるのでし
ょうか。 国家が存在する目的は、そこに暮ら
す国民の幸福のために決まっています。 国民
が幸福に暮らせる生活を実現するための道具
として、国家権力や組織はある。 それが誤作
動しないように、国家が国民によいサービス
をし、人権が侵害されないように、国家に枠
をはめる。 つまり権力を規制するのが憲法の
役割なんです。 ところが安倍首相や自民党の
憲法観は、権力者がわれわれ国民を管理する
という発想で、強いものが弱いものを支配す
る構造なんです。 自民党の人たちは二世三世
議員が多いから、自分たちはずっと権力の側
にいるという前提で考えているんでしょう。 だ
から国民に国を愛せだとか、いまの憲法は権
利が多すぎて義務が少ないなんておかしな主
張が出てくる」
自民党の「新憲法草案」の実際の中身は人
権否定の軍国主義だと断ずる小林は、どこが
非戦闘地域かと聞かれても自分にわかるわけ
がないと放言した小泉前首相などを指して、
「そんな雑な思考の連中に政治を任せられな
い。 彼らが使いにくいと思って考えようとす
る憲法は、使いにくいようにそのままにして
おくのがいい」と主張する。
もちろん、いわゆる護憲派に対しても注文
があり、護憲派は「憲法を守ろう」というの
ではなく、権力者に「憲法を守らせよう」と
強調すべきだ提案している。 説得力に富む提
言である。
改憲論者の小林節慶大教授もあきれる「新憲法」
憲法の原理を否定する安倍首相ら?壊憲〞論者
|