ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2007年7号
特集
ICタグの使い方 ブームが去り実用が始まる

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

IT先進企業の誤算 今年二月、米ウォールストリート・ジャーナル紙は 「ウォルマートのICタグ導入プロジェクトに不満爆 発 ( Wal-Mart's Radio-Tracked Inventory Hits Static)」という見出しで、同社が開発を進めるICタ グを利用した?超効率的物流〞の実現に、赤信号が 灯っているとブチ上げた。
報道によると、ウォルマートは人件費と在庫コスト を削減するため、主要取引先計一三〇〇社に対して、 同社に納品する全てのケース/パレットに指定のIC タグを貼付することを強制している。
しかし、期待さ れたような効果はこれまで得られておらず、計画の進 捗も大幅な遅れを余儀なくされているという。
ICタグの貼付を義務づけられた取引先ベンダーの 不満は強まる一方だ。
ベンダー側にはタグとハードの 購入費やシステム構築費、タグを貼付する作業コスト 等が新たに発生しているが、サプライチェーンの高度 化や効率化などの恩恵には全く与っていない。
コスト 増を招いているだけだ。
巨大な購買力を持つ顧客に対 して表立った批判はできないものの、ベンダー間には 諦めムードが蔓延しているという。
続く三月、今度はDHLが、二〇一五年までに全 ての荷物にICタグを貼付するという従来の計画を撤 回したと、米インフォメーション・ウイーク誌が報じ た。
DHLは同計画を〇五年に発表しているが、これ を実行に移すには一〇億ドル(約一二〇〇億円)以 上の投資が必要になることが分かり、投資効果の点か ら二の足を踏まざるを得なくなっているという。
ICタグの全面導入に関しては国内の宅配大手も DHLと同様のスタンスをとっている。
「航空貨物を 対象にしたICタグの実証実験では一定の成果を上 ブームが去り実用が始まる ICタグを巡る空騒ぎが沈静化に向かっている。
過 剰な期待は全て裏切られた。
しかし、ロジスティクス の実務家にとっては、これからが本番だ。
バーコード にはないICタグの利点を、サプライチェーンの革新に 活かせないか。
華やかさとは無縁の取り組みが現場で 始まっている。
(大矢昌浩) JULY 2007 14 げることができた。
しかしバーコードをICタグに代 替するとなればコスト高になり、費用対効果を考える と妥当とはいえない(佐川急便)」と、送り状にIC タグを貼付することには各社とも否定的だ。
関係者へのヒアリングによると現行使用されている ICタグの単価は、ウォルマート周辺では二〇円〜四 〇円まで低下している。
ただし、これは現地のICタ グベンダー側の事情による捨て値価格で、日本国内で は一八〇円程度が平均単価となっている。
量産化に よって日本でも二〇一〇年には二〇円レベルまで単価 が下がるとの予測もあるが、仮にそれが実現してもバ ーコードとの比較となれば依然として分が悪い。
「二〇〇七年前後にはICタグがバーコードに置き 換わり、一つひとつの商品や送り状などに使い捨てで 利用されるようになる。
タグの大量生産が可能になり、 大幅な低価格化が実現できる」――ほんの数年前まで は、そんな楽観的な市場予測がICタグの普及推進 団体のみならず日本政府を含めた各種の調査機関によって発表されていた。
しかし、予測はことごとく外れた。
いまだにパレッ ト/ケースレベルでの試行錯誤が続いており、商品単 品レベルの「個品タグ」の普及は全く見通しが立って いない。
一社当たり年間十億個以上の需要が見込め るため、量産化の突破口になると期待された大手宅配 会社の本格導入も、ご覧の通り白紙の状態だ。
普及の遅れは、ICタグ関連のベンダーを直撃して いる。
各社とも販売計画の修正を余儀なくされ、事業 の継続自体を問う声が日増しに大きくなっている。
昨 年一〇月には、ICタグを利用した物流サービスで急 成長を続けていた先端情報工学研究所(Liti)が 一九一億円の負債を抱えて、突如として経営破綻に 陥るというニュースまで飛び出した。
周囲の期待は失 望に変わり、ブームは完全に終焉した。
ところが、ロジスティクスの現場は、世間の動きと は裏腹の展開を見せている。
ICタグの実用化が今ま さに本番を迎えようとしているのだ。
ただし、その活 用モデルはウォルマートを中心としたICタグの国際 標準化団体・EPCグローバルの提唱するそれとは大 きく異なっている。
特定の範囲内だけで使うことで標 準化動向の影響を回避し、ICタグを回収して再利 用することでコストを吸収。
一括読み取りにも期待し ないという限定的な使い方だ。
例えば佐川急便は、物流センター内で使用する小 物の仕分け用ボックスに二・四五GHzの金属対応タ グを搭載して作業の効率化を図っている。
〇三年に東 京江東区のメールセンターにこの仕組みを導入したと ころ、それまで人手に頼っていた作業が自動化され処 理スピードが大幅に向上したことから、他の三拠点に も導入を広げた。
「DHLも決してICタグの利用を諦めてはいない」 と、日本IBMの久保田和孝グローバル・ビジネス・ サービス事業バリューネット事業推進部長は指摘する。
実際、昨年からDHLは輸送中の温度管理にICタ グを本格導入している。
IBMをパートナーに、温度 センサーとICタグを利用した専用ツールを開発。
医 薬品用の梱包箱に装着して、輸送中の温度変化をモ ニターするサービスを開始した。
縦一〇センチ×横三〇センチ大の帯状のツール(写 真参照)の一方の端にHF帯のICタグ、もう一方 に温度センサーを配置。
温度センサー部分を箱の内部 に格納し、ICタグ部分をベロのように箱の外に出し て使用する。
ICタグのデータを読むことで、いつで も箱を開けずに内部の温度変化を確認できる。
破綻した先端情報工学研究所のICタグ事業も、一 15 JULY 2007 部は運営を継続している。
Litiが関東地区の八 カ所に構えていたセンターのうち、スターバックスや 大手アパレルなどの有力荷主向け拠点三カ所の営業 権と、札幌に拠点を置く技術開発部門を、日産自動 車からのMBO(Management Buy Out:子会社経 営陣による子会社株式の取得)で独立した物流会社 のバンテックが買収した。
実用化のシナリオ ICタグの関連ツールやソリューションを販売する のではなく、ICタグを使った物流オペレーションを 売り物とするLitiのビジネスモデルは、世界的に もユニークで、実用化のノウハウでも欧米の先進事例 を遙かに凌駕していると評価されていた。
しかし、本 業とは無縁なITベンチャーへの資金援助や過大な設 備投資などの首をかしげるような経営判断に加え、巨 額の粉飾決算が破綻後に判明している。
有名企業を荷主とする同社の物流事業も、周囲へのアピールを焦るあまり、利益の出ない価格で受託し ていた模様だ。
ビジネスモデルの先進性で金融機関や 投資家の注目を集め、株式公開までこぎ着けてしまえ ば後はどうにでもなる。
旧経営陣はそう考えていたフ シがある。
結局、旧経営陣の野望は頓挫し一攫千金 の夢は断たれたが、ICタグの活用ノウハウは残った。
IBMの久保田部長は「本当の革新は、むしろブ ームが終わった後にやってくる。
実際、日本でも昨年 あたりから通い箱やカゴ車、レンタルユニフォームの 管理などに、ICタグを実用化する企業が増えてきて いる。
これまでユーザーはICタグの使い方が今ひと つ腹に落ちていなかったが、投資を回収できる使い方 がようやく見えてきた。
今年から来年にかけて実用化 の事例は急増するだろう」と予測している。
佐川急便は小物の仕分 け用ボックスに 2.45GHzの金属対応 タグを貼付して作業の 効率化を実現した DHLは温度帯センサーとHF帯のタグを 組み合わせて、輸送中の温度変化をモニ ターする医薬品向けサービスを開始した 日本IBMの久保田和孝グローバ ル・ビジネス・サービス事業バ リューネット事業推進部長 東邦薬品が導入した“光るタグ”。
作業ミスの発生を防ぐための工夫だ。
(本誌2007年6月号参照)

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