ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2007年7号
特集
ICタグの使い方 ウォルマート流を乗り越える

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

メーカーはうんと言わない 今年一〇月、ICタグの国際標準化団体・EPC グローバルに「家電アクショングループ:Consumer Electronics Action Group」が発足する。
日本の家 電メーカーで組織する家電電子タグコンソーシアムの 働きかけによるもので、家電製品に貼付するICタグ の規格や通信手順の標準仕様を決定する。
このアクショングループの活動を通して、「今まで ウォルマート主導で進められてきたICタグの標準に、 日本の家電メーカーの意見を反映させたい」と、家電 電子タグコンソーシアムの事務局を務めるみずほ情報 総研の紀伊智顕コンサルティング部シニアマネジャー は抱負を述べる。
ICタグの標準化運動やサプライチェーンにおける 活用で、これまでメーカーは小売り側に押される一方 だった。
ウォルマートやヨドバシカメラなどの大手量 販店にICタグの貼付を命令され、渋々応じてはいた ものの、出荷時の手間とコストが増えただけで、他に 利用価値を見いだせない状態だった。
家電メーカーは将来的なICタグの活用シナリオと して、偽造防止やリサイクル、リコール発生時の回収 などを想定している。
しかし現状で小売り側が求めて いるパレットや外箱レベルのタグでは、それに対応で きない。
製品自体にICタグを貼付して、最終的に製 品が廃棄されるまで、タグと製品が一体で保持される 仕組みを作る必要がある。
その場合に使用するタグの種類や情報管理の仕組 みも、現行のウォルマートモデルとは違ってくる。
ウ ォルマートモデルは、タグの単価を重視してタグに持 たせるデータ量や機能を絞り込んでいる。
タグには最 初にID番号を記録させるだけで後から書き換えはし ウォルマート流を乗り越える 小売り主導の米国型モデルは機能しない。
使い捨てタ グは限定的にしか普及せず、量産による低価格化も実現 しない。
タグの回収と再利用を前提にして活用シナリオ を書き換えろ。
ウォルマート流とは別の道を行く日本型 モデルは工場と物流センターが主導する。
(大矢昌浩) JULY 2007 16 ない。
ID番号以外の情報はネットワーク上のデータ ベースに蓄積し、必要に応じてアクセスするという設 計だ。
それに対して家電メーカーは、ユーザーが自由に使 える一定のメモリー機能をタグ自体に持たせたい考え だ。
SCMや製品ライフサイクル管理に必要となる製 品番号や販売情報などを、そのつどタグに書き込んで いく。
タグに保証書の役割を持たせることも検討課題 に上っている。
EPCグローバルを巻き込みながら、 その具体像を二〇一〇年までにまとめることが、家電 メーカーの当面の目標だ。
小売りからの圧力に対するメーカーの反撃が始まっ た。
もともとメーカーは標準化運動やオープンなIC タグ活用では守勢に立たされていたものの、サイト内 での運用ノウハウには一日の長がある。
富士通の藤原 達郎ビジネスインキュベーション本部開発部マーケテ ィング担当課長は「既に日本でも工場内のICタグ 活用は一般的になっている。
大手と呼ばれるメーカーであれば、今や何らかのかたちでICタグを使ってい る。
実際、当社では既に五拠点でICタグを実用化 している」という。
メーカーのICタグ活用は、工場から出発して物流 分野にも波及している。
東芝ドイツでは昨年から、生 産工場の出荷時点でノートパソコンの外箱にICタグ を貼付している。
物流拠点における検品や備品類のセ ッティング作業の負担を軽減し、入荷から出荷までの リードタイムを短縮する狙いだ。
同様にソニー・ヨーロッパは今年から、物流センタ ーを置くオランダからドイツに出荷する全製品にIC タグの貼付を開始した。
導入の狙いはシュリンケージ、 サプライチェーンにおける盗難の防止と出荷作業費の 削減だ。
高額なAV製品は盗難の標的にもなりやすい。
そのため従来は出荷時に製品の外箱に貼り付けた出 荷ラベルを一つひとつビデオカメラで撮影し、クレー ムが発生した時の証拠資料としていた。
出荷ラベルをICタグ付きに変更することで一連の 手間を軽減した。
パレットに積みつけた荷物にフィル ムを巻き付けるシュリンク包装機を囲む形でゲート型 のICタグリーダーを設置。
一括検品を実施するとと もに、読み取ったID番号をビデオテープの画像に焼 き付けるシステムを構築して撮影の手間を省いた。
閉じた環境での取り組みながら、ソニーと東芝のい ずれの取り組みも、使用するタグの量はそれぞれ一〇 〇万枚規模に上っている。
大手量販店に嫌々ながら 付き合わされていた従来の姿勢から一転し、メーカー が自分のためにICタグの実用化に踏み出している。
その一方、小売り主導でベンダー側に負担を強制す るアプローチは行き詰まりを見せている。
そもそも日 本市場には、ICタグ導入でサプライチェーンの旗振 り役を務めようという小売りがヨドバシ以外には出て くる気配がない。
日本GCI推進協議会(GCIジャパン)電子タ グワーキンググループで副座長を務める大日本印刷の 中野茂ICタグ本部事業戦略推進部プロジェクト戦 略推進チームチームリーダーは「三年ぐらい前までは、 『アメリカはどうなっているんだ』、『ウォルマートは何 をしてるんだ』という問い合わせばかりだった。
それ が昨年あたりから変わってきた。
メーカーの首に縄を つけて強引に引っ張ろうとしても日本では無理。
そん な認識が定着してきた」と指摘する。
小売り主導の米国式に代わって、GCIジャパンで はカゴ車やパレット、オリコンなどの「RTI: Returnable Transport Item(回収可能な輸送アイテ ム)」の管理にICタグを活用することに着目してい 17 JULY 2007 る。
RTIの紛失によって年間数千万円単位の損失 を被っている会社は珍しくない。
紛失を防止できれば タグの投資は回収できる。
「RTI」から始めよう 三菱化学物流は、〇四年六月からそれを実行に移 している。
液体化学品のリターナブル容器に金属対応 型のICタグを貼付。
容器の在庫ステータスを「見え る化」した。
その結果、容器の紛失を防いだだけでな く、容器の洗浄、液体の充填、配送などの作業計画 が容易になり、コストが削減され、容器不足による納 品の遅れを解消できた。
「バーコードは汚れや水に濡れると読めなくなって しまうためリターナブル容器には向かない。
しかも容 器にカバーをかけている場合には、スキャンするのに いちいちカバーを外さなくてはならない。
ICタグな らカバーを外さずに済むうえまとめて検品できる。
単 価は高くても半永久的に使える。
十分元は取れる」と同社の児崎豊満総務部部長はいう。
まずは自社だけの閉じた環境で使う。
次のステップ でメーカー〜卸間、卸〜小売り間など、相手のいる環 境で双方にメリットの出る使い方に進む。
「そうやっ て段階を踏んでいくことで、時間はかかるけれども着 実に普及が広がっていくという日本型のシナリオをG CIジャパンで検討している」と、大日本印刷の中野 チームリーダーは説明する。
事業者間で使用するRTIの管理では、既に加工 食品卸大手の菱食(本誌〇六年一〇月号参照)や日 本パレットレンタルなどが、レンタル式のRTIにI Cタグを貼付する取り組みを開始している。
メーカー や卸、物流会社が主導する日本型のICタグ活用が 静かに動き出している。
みずほ情報総研の紀伊 智顕コンサルティング 部シニアマネジャー 三菱化学物流の児崎 豊満総務部部長 富士通の藤原達郎ビジ ネスインキュベーショ ン本部開発部マーケテ ィング担当課長 ICタグを使えばカバーの上からデータを 読み込むことができる(三菱化学物流)

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