ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2008年1号
海外Report
偽造品防止にRFID超える新技術ナノテクの利用でタグ自体を不要に

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JANUARY 2008  62  偽造製品に頭を痛める医薬品業界において、ドイツに本社を置くバイエルは、イギリス のベンチャー企業と組んで医薬品の偽造を防止する画期的な認識技術を開発した。
これま でのホログラムやバーコード、ICタグなどと比べ、識別能力が格段に優れ、しかも導入・ 運営にかかる費用はバーコード並みの低コストで済むという。
バイエル・テクノロジーサー ビスのマーチン・フレデリック博士が、新技術について語る。
 (取材・編集 本誌欧州特派員 横田増生) 欧州サプライチェーン&ロジスティクス会議? 偽造品防止にRFID超える新技術 ナノテクの利用でタグ自体を不要に 独バイエル 偽造市場は八一兆円規模  一八六六年に創業したバイエルは、一八九 九年に「アスピリン」を開発したのを契機に、 医療品の製造に大きく舵を切りました。
現在 は医薬品を開発するヘルスケア事業と農薬関 連のクロップサイエンス事業、それに素材科 学のマテリアルサイエンス事業の三つの事業部 門を持っています。
加えてサービス部門とし ては、ビジネスサービス、テクノロジーサービ ス、インダストリーサービスの三つの部門を持 っています(図1)。
 バイエル全体の二〇〇六年度の売上高は二 九〇億ユーロ(一ユーロ=一六二円で、四兆 六九八〇億円)、最終利益は一七億ユーロ(二 七五四億円)でした。
従業員は世界中に一〇 万六〇〇〇人を擁しています。
その中で私が属しているテクノロジーサービ スの売上高は、三億八二〇〇万ユーロ(六一 八億八四〇〇万円)で、従業員は二一七七人 と、三つの事業分野と比べると、小規模な部 門となります。
主にバイエル社内の事業分野 に対して、工場の作業のエンジニアリングや、 サプライチェーンの最適化、ロジスティクス業 務などを提供しています。
五年前から外販も はじめていますが、まだ大きな数字にまでは 育っていません。
 バイエルが直面する大きな問題のひとつに、 医薬品の偽造があります。
製品偽造は、バイ エルや製薬メーカーだけに限らず、化粧品や 自動車部品、有名ファッションブランドとい った売れ筋の製品を抱えるメーカーの共通の 問題ともいえます。
 偽造製品の実態についてはさまざまな数字 図1 バイエルの組織図 持株会社 バイエルグループ経営委員会 独バイエルコーポレートセンター バイエル ヘルスケア バイエル マテリアルサイエンス バイエル ビジネスサービス バイエル テクノロジーサービス バイエル インダストリーサービス バイエル クロップサイエンス 事業分野 サービス分野 63  JANUARY 2008 があります。
ある調査によれば、偽造製品の 年間の売上高の合計は五〇〇〇億ユーロ(八 一兆円)にものぼり、医薬品の偽造製品が その約一〇%を占めるといわれています。
医 薬品の偽造製品が増加傾向にあることは、ア メリカ食品医薬局(FDA)の摘発数字が増 加していることからもうかがえます(図2)。
また最近の新聞報道によれば、欧州連合(E U)だけに限っても、偽造製品が流通してい るために正規の製品を作っている人たちの仕 事が三万人分もなくなっているというのです。
 これは企業活動にとって大きな弊害となる のに加え、医薬品を扱う場合、偽造品は人命 を危険にさらすことにもつながりかねません。
偽造医療品の四〇%は、有効成分をまったく 含んでおらず、有効成分が入っている場合で も、多すぎたり、少なすぎたりする場合もあ ります。
また人体に危険を及ぼす物質が混入 していることもあるのです。
たとえそれが偽 造品であっても、自社のブランド名がついた 医薬品を服用した結果、人が命を落とすこと につながれば、ブランド名に傷がつくだけで なく、偽造を許したメーカー側の責任を問わ れることにもなりかねません。
 当社のような医薬品メーカーにとって、偽 造品撲滅に乗り出すことは喫緊の課題でした。
偽造品を撲滅するには、サプライチェーン全 体での取り組みが必要となります。
そこでサ プライチェーン最適化を請け負うテクノロジー サービスが主導して、SCMの全工程で、製 品の真贋を確認できるような貨物追跡システ ムを作ることになりました。
ポストICタグの新技術  これまでにも、サプライチェーン上で偽造 品を防止するためにさまざまな技術が利用さ れてきました。
今回当社が導入した新技術に ついてお話しする前に、既存の技術について 長所と短所をおさらいしたいと思います。
 偽造品防止の一番簡単な方法は、製品にホ ログラムや透かしなどをつけるやり方で、誰 の目から見ても明らかなことから「オバート (Overt)」と呼ばれます。
次は、裸眼では見 ることはできない蛍光塗料などを機械で読み 取るやり方で「コバート( Covert)」と呼ば れます。
それ以外にも犯罪捜査などで使われ る「フォーレンシック(Forensic)」という方 法があり、化学反応などを使って個体を認識 するというやり方です(図3)。
 図にまとめたように、「オバート」は安価 に導入できますが、簡単に偽造されてしまい ます。
ホログラムなどは、導入して一、二週 間の間には、コピーされるといわれています。
「フォーレンシック」となれば、コピーするこ とは容易ではありませんが、導入コストがネ ックとなって実用にはいたっていません。
 バイエルでは当初、この数年で普及してき たICタグに偽造品防止の効果を期待して検 証作業を進めてきました。
試験運用の段階で 図2 増加する偽造医薬品 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 60 50 40 30 20 10 0 アメリカ食品医薬局(FDA)が 摘発したケース(件数) 6 4 6 6 20 22 22 58 (年) 図3 既存の偽造防止技術における    費用対効果の比較 コスト 偽造防止効果 低い 高い 安い高い フォーレンシック コバート オバート バイエル・テクノロジーサービス のマーチン・フレデリック博士 JANUARY 2008  64 は、九九%以上の確率でICタグを読み取り、 個別の製品を認識することができました。
し かし現実に実用しようとすれば、使用する条 件において、たとえば読み取り機との距離が ある場合などでその確率は変わってきますし、 タグの値段が高いこともネックとなりました。
 そこで当社は、これまでとは違った技術を 使って偽造製品の撲滅に乗り出しました。
ナ ノテクノロジーを使った技術は、「プロテクシ ョン=ProteXXion」という商品名となりまし た。
この技術は、パッケージや製品偽造防止 の画期的な識別技術として、二〇〇七年にド イツのハノーバー見本市で授与される国際的 な技術賞であるエルメス賞を受賞しています。
 利用した新技術とは、レーザー表面認証シ ステム( Laser Surface Authentication=L SA)と呼ばれ、イギリスの大学で物理学を 教えるラッセル・コウバン教授が率いるベンチ ャー企業、インジニア・テクノロジーが開発し ました。
 新技術は、レーザー光線を個々の医薬品の パッケージや複数の医薬品を詰め込んだ梱包 資材に照射して、それを顕微鏡で読み取り、 データとしてストックします。
裸眼で見れば、 医薬品のパッケージはどれも同じに見えます が、一〇億分の一メートルという単位のナノ テクノロジーを使ってみれば、どれも違う特 徴があることがわかります。
ちょうど、指紋 やDNA(デオキシリボ核酸)を使って人を 識別するように、正確に物質を識別できます。
 バイエル・テクノロジーサービスは、その技 術を使ってエンド・ツー・エンドのソリューシ ョンを提供しました。
具体的には、新技術を 実際の現場で応用したり、導入後の技術サポ ートやコンサルティングの機能を提供してきま した。
 物質の表面の微小な凸凹、光学ではこれを 「斑点( speckle)」と呼びますが、この凸凹 をデジタルコードに変えてデータとして保存し ます。
一〇ミリ×六〇ミリの表面を読み取っ てデータにすると、七五〇バイトの情報量に 収まります。
 この新技術の利点は、以下の三点になりま す。
?現時点では読み取ったデータをコピーする ことが不可能であること。
?ホログラムやラベルを貼ったりする必要がな いので、サプライチェーン上の作業手順の 変更が最小限ですむこと。
?新技術にかかるコストは、バーコードを利 用するときとほとんど同額ですむこと。
小売りのレジで真贋を確認  「プロテクション」をどのようにサプライチ ェーンで活用する方法は、まず工場で医薬品 や農薬が梱包された後、その梱包資材にレー ザーを当ててデータを読み取ります。
ベルトコ ンベアに乗せた状態で、固定式の読み取り機 を使います。
秒速四メートルまで読み取り可 能です。
先ほどお話した七五〇バイトの容量 ですと、六億回スキャンすると、三〇〇ギガ バイトのハードドライブが一杯になります。
こ のデータを「プロテクション」のサーバに保管 します。
 工場から出荷された製品は、卸売り、ロジ スティクス業者や倉庫業者へと移っていくた びごとにスキャンをかけられて、オリジナル のデータと照合して、偽造されていない製品 であることを確認します。
工場を出てからは、 ハンドスキャナーを活用します。
 製品が国境を越えて運ばれるときは、スキ ャンする回数も増えます。
最後に小売りのキ ャッシュレジスターでスキャンして、偽造製品 でないことを確認してから消費者の手に渡す 図4 サプライチェーン上での利用方法  インターネットサーバ (プロテクション) スキャンしたデータ 工 場スキャナー卸売りロジスティクス業者小売り消費者 スキャンしたデータとの照合 サプライチェーン 65  JANUARY 2008 利用している技術ですが、これを使って外販 の起爆剤となればと思っています。
会場とのQ&A Q 高級婦人服メーカーのサプライチェーン担 当ですが、貴社の新技術のタグが必要にな らないという特徴を利用すれば、値札代 わりに使えると思うのです。
当社が扱う婦 人服は、流通経路も限られており、点数 も多くないので、利用可能のように思え るのです。
A「プロテクション」の可能性については、い ろんな引き合いがあります。
けれど、衣 料品の値札代わりという発想を聞くのはは じめてです。
出荷件数が、年間数億点と いう範囲でしたら、可能かもしれません。
Q 欧州に本社を構える時計メーカーですが、 時計の識別にも使えそうですか。
A スキャンできるものは、紙からクレジット カード、紙幣やプラスティックなど幅広い のですが、ただ鏡のように光をはねかえ すものには使えません。
時計ですと、光 をはねかえす部分も少なくないと思うので、 難しいかもしれません。
Q コンピュータの精密部品メーカーで同じよ うに偽造製品に頭を痛めています。
貴社 の新技術は、精密部品にも使えますか。
A これも時計メーカーの方への答えと似通っ てきますが、光学技術の所有者であるイ ンジニア社にテストを依頼することが必要 になると思います。
ことができるようになりました。
偽造製品が 見つかれば、スキャンした履歴をたどること で、どこで偽造製品が紛れ込んだかを絞り込 むことが可能になりました。
 バイエルがこれまで偽造防止に利用してき た技術の中では、「プロテクション」が一番優 れていて、しかもコスト面でも安上がりにで きています。
現在は、バイエルの社内だけで ライチェーンの作業において、これまで のプロセスを変更することなく、個別認 識が可能となる。
しかも、同じ表面の模 様を偽造することは現時点では不可能で ある  仕組みとしては、レーザー光線を照射 するスキャナーが物質の表面をスキャンす る。
ベルトコンベアで流れてくる場合なら、 毎秒四メートルまで読み取ることができる。
物質の?指紋?を一二五バイトから七五 〇バイトまでのサイズで保管する。
スキャ ンした指紋をデータベースから照合する場 合、標準的なパソコンなら毎秒一〇〇〇 万件のデータと照合ができ、スペックの 高いサーバーなら毎秒一億件のデータと照 合ができる。
 スキャナーには、ベルトコンベアなど を移動する物質を測定する固定式スキャ ナーと、ハンドスキャナーの二種類がある。
たとえば、工場で梱包した段階で、スキャ ンしてデータを取り込めば、サプライチェー ン上で認証作業が可能となり、偽造製品 の防止に役立つのみならず、さまざまな 方法で作業を効率化するのに利用するこ とができる。
バイエルと共同で開発した「プ ロテクション」はその一例だ。
(インジニア・テクノロジーのウェブサイトより要約)  インジニア・テクノロジーは、イギリス の名門ダラム大学で物理学を教えるラッ セル・コウバン教授が二〇〇三年にロンド ンで設立したベンチャー企業。
文書、I Dカード、製品パッケージに使用する紙、 プラスティック、金属などの認証と検証 を行う技術を提供する。
 すでに特許を取得したレーザー表面認証 システム( Laser Surface Authentication =LSA)を使って、対象となる物体の 表面をスキャンして、個別の情報として コンピュータに読み取る。
 ナノテクノロジーを使って物体の表面を 読み取ると、人の目で見れば同じように 見える梱包資材や繊維、あるいは機械部 品なども、人間の?指紋?と同じように、 それぞれ固有の模様を持っていることが わかる。
たとえば同じ梱包資材の場合で あっても、違った個体の表面の模様が一 致する確率は、一〇×三〇〜一〇×一〇 〇分の一といったほとんど存在しないよ うな低い数値となる。
 対象となる物質の表面を読み取って照 合するため、これまでのホログラムや透 かし、ICタグといった製品を個別に認 識するために必要だったコードやタグが不 要となったのが大きな特徴。
製造やサプ インジニア・テクノロジーが開発したLSA 技術 (Ingenia Technology)

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