ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2008年1号
特集
日系企業の国際物流 現場で感じた中国物流の水準

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

サン物流開発 鈴木準 代表 現場で感じた中国物流の水準  最新のマテハン機器を導入した高度化物流拠点が中国で次々 に建設されている。
設備面では既に日本の水準を上回ってい る例さえ珍しくなくなってきている。
世界1000カ所以上の 物流センターを視察して歩いた専門コンサルタントが訪中し、 現地のセンターを見て感じた中国物流の現状をレポートする。
上海の一括物流センター  正直に言うと、私は中国の物流を見下していまし た。
中国が現在のような経済成長を遂げるはるか 昔、天安門事件のあった一九八九年に私は北京を訪 問しています。
当時、中国の都市には、スーパーマー ケットが一軒もなく、あるのは国営百貨店と自由市 場だけでした。
店員は仲間同士でおしゃべりし、も のは投げてよこし、サービスの観念は全くありません。
生鮮三品(肉、魚、青果)は自由市場の量り売りで しか買えず、しかもいい加減な秤で、ゴミまで売り つけるという状態でした。
まさに中国は流通の暗黒 大陸でした。
 しかし、二〇〇一年に中国がWTOに加盟して 以降、様相は大きく変わりました。
いま現地の物流 関連施設を回ってみると、設備、運用、そして人 材といったあらゆる面で、むしろ日本の物流を凌駕 しているとさえ感じる場面にたびたび出くわすこと になります。
 とりわけ上海は中国一の経済都市であるためか、 物流も中国のトップクラス、というよりもワールド クラスのものが多くあります。
上海華聯超市もその 一つです。
同社は中国最大の流通企業グループであ る上海百聯グループのスーパーマーケットで、年商 は〇六年現在一五〇億元(二三〇〇億円)に上っ ています。
 私は〇六年四月、上海華聯超市が〇五年一月に 開設した物流センターを訪問しました。
敷地二〇万 平方メートル、建物は六階建て、床面積は二万二〇 〇〇平方メートルです。
同センターの配送先となる 扱い店舗数は九〇〇店、センター従業員は三九〇人、 一日の出荷個数は七万個ということでした。
 建物は既存の倉庫を改装したものですが、一階に は自動仕分け機が設置され、庫内は整然とし、清潔 でした。
WMSやエンジニアリングは岡村製作所が 納入しました。
設備は日本の標準的な物流センター と同等といえるでしょう。
物流品質、在庫回転、サー ビスレベルも日本に劣らないとみました。
 実際、出荷精度は九九・九七七%、在庫回転は七・ 五日という素晴らしい管理水準でした。
同社の物流 スタッフの会話には「ppm」や「在庫回転日数」な どの高度な経営管理用語が飛び交います。
その話し ぶりからも彼らの物流管理水準の高さがうかがえま した。
 同社の発注方式は、店舗からの発注が二〇%、残 りの八〇%は本部の発注で、アロケーションシステ ムによって各店舗に割り当てされます。
店への商品 供給には、店舗直納、通過型(クロスドッキング)、 在庫型の三種類があり、センターは在庫保管機能も 備えていますが、物量の四〇%は店舗直納で、残り の六〇%も基本的にはクロスドッキングで処理して います。
 入荷品の荷受けはHHT(Hand Held Terminal・ 携帯端末)で検収します。
通過品はそのまま自動仕 分機で店別に仕分けます。
在庫品はトラックからパ レットに積み、フォークリフトでバーチカル(垂直) コンベヤに運び、上層階の保管場所に搬送します。
 ピッキングはハンドパレットローダーか、かご車を 引いて庫内を巡回し、ピッキングした荷物にラベル(荷 札)を貼って、近くにある自動仕分機に接続するベ ルトコンベヤに載せます。
なおベルトコンベヤの上の 空間は保管棚として有効活用していました。
 自動仕分機はオランダ製のスライドシューソーター です。
日本でもよく見られるタイプの自動仕分機で、 JANUARY 2008  26 第3部 特集 ラベルのバーコードを固定スキャナーで読み取り、店 別に自動仕分けします。
仕分けられた商品はかご車 に積み、トラックで各店に配送します。
 このセンターの新設により、取扱物量が二〇%増 加しているにもかかわらず、コストは二〇%低下し たそうです。
なお同センターの運用は、華聯物流と いう物流子会社が担当していました。
世界一のタバコ物流システム  さらに圧巻だったのは上海煙草物流発展有限公司 です。
上海煙草の物流子会社で、上海煙草の物流セ ンター運営と配送を受け持っています。
私はたばこ の物流は日本が世界一だと思っていましたが、高度 な機械化という点では上海煙草が世界一ではないか と思い直しました。
 同社は最新の経営情報システムであるGIS/G PS(地図情報システム)、WMS(倉庫管理シス テム)、ERP(統合業務パッケージソフト)等を 導入し、情報処理の迅速化、配送システムの合理化、 物流管理効率化を推進してきました。
 その成果として、上海市内および寧波、杭州の一 般貨物輸送は二四時間以内で配送できるようになり ました。
江蘇省と逝江省の周辺地区も、三六時間 以内というリードタイムです。
ミス率はほぼゼロで、 スーパーマーケット、コンビニ、デパートなど様々な 業態の納品先に対応した物流サービスを提供してい ます。
 上海煙草は新センター建設に当たり、日本たばこ 産業(JT)に視察団を派遣しました。
その結果、 JTの物流子会社であるTSネットワークの関西地 区の物流センターを第一のモデルとしました。
しかし、 自分たちのセンター建設にあたっては、エンジニア リングと自動倉庫はスイス、ピッキングシステムはイ タリア、自動ピッキング装置の「Aフレーム」はオー ストリアなど、欧州の物流機器メーカーを採用しま した。
日本以外のメーカーを選択した理由は貿易収 支を考慮した政府の意思によるものと推測します。
 新センターの投資額は約九〇億円ということでし た。
一日の出荷高は六〇万カートンに上ります。
巨 大な建物はまるで東京ドームのようでした。
天井は 高く、広々として、清潔でした。
センター内は作業 者が目に入らないくらい人影がまばらでした。
それ だけ自動化が進んでいるのです。
 庫内には八〇台の防犯カメラがあり、センター内 を常に監視しています。
パレットは欧州標準の一二 〇〇ミリ×八〇〇ミリを使用していました。
タバコ のカートンを入れる配送用の通い箱はプラスチックコ ンテナで、二五カートン入りと五〇カートン入りの 二種類があり、モジュール化されています。
 スイスの「Swiss Log」社製の自動倉庫のスタッカー クレーンの高さは三三mです。
ピッキングシステムは 三種類を使い分けています。
イタリアの「Senzani」 社製の自動ピッキング装置、オーストリアの「ペーム (SSI-Schaefer-Peem)」社製の小口ピッキング装置「A フレーム」、そしてデジタル・ピッキング・システム(D PS)です。
 上海煙草のたばこの銘柄は三〇〇アイテムあり、 そのうち上位十三の主要銘柄(大量高回転品)を、 Senzani社製の自動ピッキング装置で処理していま す。
自動開封機でダンボールの蓋を開け、タバコの カートンをコンベヤに流し、五列の縦型スタッカーに、 水平に入れます。
ところてんを作る要領でカートン を押し出しプラスチックコンテナに入れます。
プラコ ンは五〇カートン入りで、五列一〇段でプラコンに 27  JANUARY 2008 コンベアの上部を保管棚として活 用していた 庫内作業は物流子会社の華聯物流 が担当 仕分けはオランダ製のスライドシュ ーソーターを導入 華聯超市の店舗。
グループ売上高 は06年度779億元に達している 上海華聯 自動的に箱詰めされます。
 上位十三銘柄に次ぐ中頻度の出荷商品はAフレー ムで処理します。
ペーム社のAフレームは、日本で はトーヨーカネツソリューションズが技術導入し、〇 二年にTSネットワークの北海道地区の物流センター が導入しています。
またTSネットワークの関西の 物流センターはダイフク製の「Iフレーム」を導入 しています。
物流の「見せる化」  こうした高度な物流拠点が見られるのは、上海だ けではありません。
西安の利君製薬有限公司は製薬 企業としてもワールドクラスの企業ですが、物流に ついても高いレベルにありました。
利君製薬の出荷 先は卸売業であり、かつ年間の販売契約があり、原 則として週単位の定期出荷です。
日本のようにピー ス出荷がないので作業は単純ですが、岡村製作所の 自動倉庫を導入していました。
また庫内の現場事務 所は現場事務所とは思えない大きなカーブガラスを 使った超近代的なデザインでした。
 ただし、このような高度な物流設備が、本当に効 率化に結びついているのかは疑問です。
先ほど私は 上海煙草の物流自動化機器を世界一だといいました が、この世界一という評価には効率性は含まれてい ません。
一般に人件費の安い地域や、失業率が一定 の比率を超えている場合は、高価な設備を導入する よりも人海戦術のほうが安くあがります。
 上海や北京など、沿岸部の大都市が目覚ましい近 代化を遂げる一方で、中国はいまだ貧しい農村地域 を地方に抱えています。
そこには潜在失業者が数多 くいます。
今の中国では、いたずらに自動化を進め るよりも、人を使い、人の間違いをシステムでバッ クアップする「人と道具とコンピュータ」によるW MSを構築すべきでしょう。
 今、日本では物流の「見える化」という言葉が流 行しています。
発祥の地はアメリカで「Visibility(可 視化)」という言葉からきています。
物流業務や在 庫管理を可視化して問題を早期に発見し、解決しよ うとする経営管理手法です。
しかし中国の物流は「見 える化」というよりも「見せる化」、つまり「見栄 の物流」なのです。
物流設備は企業のステータスで あり、効率より見え先行、わが社は“中国一”、“世 界一”が優先されています。
 日常生活においても、電力供給が追いつかず工場 が停電で止まってしまうほどだというのに、上海は 不夜城と化しています。
これも見えの現れだと思い ます。
経済の自由化は進んでいても中国の政治は今 も社会主義です。
本当の意味での市場経済でないと ころに、このような“ムダ”が生じています。
 先の上海煙草にしても民営化したとはいえ実質的 には今も国営です。
その豪華な物流施設は、中国は 凄いんだと世界中の人々に宣伝するための国威発揚 のためのものだという印象を受けました。
しかし発 展途上の中国では国民の啓蒙にそれも必要な国策な のかも知れません。
日本の七〇年代をトレース  実態として今の中国の物流は、日本の七〇年代 をトレースしているというのが私の率直な印象です。
現場運営では日本のトヨタ方式が浸透しているよう です。
どこのセンターでも「5S(整理・整頓・清 潔・清掃・躾)」のポスターが見られます。
最も日 本的なのは朝礼です。
全員整列して、指差し呼称し たりしています。
小売業の朝礼と同じです。
さらに JANUARY 2008  28 約90億円を投じたと いう上海煙草の豪華 な物流センター 一日の出荷量は60万 カートンに上るという 庫内には最新のマテハン機器がふ んだんに導入されていた 上海煙草 特集 昼礼をやっている会社もあります。
 インフラ整備も日本の七〇年代を思い起こさせま す。
七〇年に日本では大田区平和島に東京流通セン ターが建設されました。
これに対して中国では現在、 各地に多くの「物流基地」が建設されています。
北 京通州物流基地はその典型です。
 北京通州物流基地は首都・北京を国際経済の中心 にするために北京市が北京周辺の三カ所に物流団地 を設けるという計画の一つです。
天津港と内陸を結 び、空港にも近く、国際物流拠点としても優れてい ます。
計画面積の合計は五〇三・七九ヘクタールで、 着工は〇三年六月。
投資総額は三億六〇〇〇元(約 五〇億円)です。
 北京通州物流基地は「九通一平」と称し、道路、 電力、通信、雨水、汚水、暖房、水道、ガス、C ATVなどのインフラの整備を進めています。
そし てこの基地は付加価値の高い商品のメーカー、流通業、 3PLの進出を歓迎しています。
土地は国有である ために、売買はできないので、五〇年の期限で利用 権を売る方法を取っています。
女性活用と人材育成は日本より上  また日本の七〇年代は、日本物流管理協議会、 物的流通協会が設立され、物流管理士講座がスター トした時代でした。
これに倣って中国でも今「物流 師(士)」の認定講座がスタートしています。
高級 物流士、物流士、物流士補助のコースがあります。
授業料は、国家労働部は一二〇〇元、国家購買(調 達)連合会が二〇〇〇元です。
(一元は一五円)講 習期間は二カ月です。
ほかに国家購買(調達)連 合会では物流職業経理人という認定講座も実施し ています。
 そのほか米国の「登録物流士」講座と英国のIL T(英国王室物流協会)の認定講座も中国で受講す ることができます。
登録物流士の授業料は本土より 高いにもかかわらず、人気は高いそうです。
ILT の認定講座は最上位の四級から最下位の一級まであ り、期間は六カ月、授業料は三級が八〇〇〇元、二 級が六〇〇〇元です。
なお、四級と一級の講座は まだ開設していません。
こうした人材育成の面では、 日本を掛け値なしに凌いでいると感じさせるものが あります。
 さらに女性の活用です。
利君製薬の物流センター 長は妙齢の美人でした。
パワーポイントを使って、 センターの概要を滔々と説明します。
質問すれば的 確な回答が返ってきます。
中国では社会主義国家 になってから男女平等であり、女性の社会進出が進 んでいます。
物流センター建設のプロジェクトなど、 あらゆる物流会議もメンバーの三分の一以上は女性 です。
これに対して日本では、女性のセンター長は ほとんど見られず、関連セミナーに出席する女性は 一桁のパーセンテージに過ぎません。
 中国では大学も積極的です。
北京市街の東二〇キ ロメートルの通州区にある北京物資学院は約二〇〇 〇人の物流学部生を擁し、実習室にはAGV、DP S、ミニロードなどの設備を備えています。
私の知 る限り実機のある実習室を持つ大学は、世界でも米 国とドイツの一部の大学だけです。
日本の大学には 実習室どころか物流学部もありません。
 中国政府は経済発展に物流は欠かせないものと認 識し、物流のインフラ整備と人材の育成に力を入れ ています。
七〇年代から現在まで日本が三〇年かけ て達成した物流の高度化を、中国は今すさまじい勢 いで駆け上がっているのです。
29  JANUARY 2008         鈴木 準(すずき・じゅん) 1933 年、東京生まれ。
東京経済大学商学部 卒業。
長崎屋で物流部・電算部部長・システム 本部副本部長等を経て、同社の物流子会社・サ ン商品センター社長に就任。
その後、サン物流 開発を設立し代表に就任。
現在に至る。
これま でに世界1000 カ所にもおよぶ物流センター を視察している。
2006 年(社)日本ロジスティ クスシステム協会 物流功労賞受賞。
庫内の事務室もガラス張 りで近代的なデザイン 利君製薬では若手の 女性センター長が対 応してくれた 利君製薬

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