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FEBRUARY 2008 58
大手コンサルティング企業のアクセンチュアは昨年、欧米の大手荷主企業を対象に海外市
場におけるSCM戦略についてのアンケート調査を行った。 その結果、荷主企業の多くは
海外のSCMにおいて、コスト削減とサービスレベル向上の両立に苦しんでおり、現地の
3PLパートナーの仕事ぶりには決して満足していないことがわかった。 この調査の概要
を同社のシニア・マネジャーであるエリッヒ・ガンペンリーダー氏が解説する。
(取材・編集 本誌欧州特派員 横田増生)
欧州サプライチェーン&ロジスティクス会議?
アクセンチュアSCフルフィルメント調査
海外市場における調達物流戦略の転換
SCMで差異化図る
企業の経営環境がめまぐるしく変わってい
く今日においても、各産業における優良企業
は、同業他社との競争から抜け出すことので
きる高機能のビジネスモデルを持っています。
われわれアクセンチュアでは、そうしたエクセ
レント・カンパニーは図1のような五つの要
素を共有していると考えています(図1)。
五角形の図を左回りに見ると、まず利益率
にはじまり、成長力から、将来に向けたポジ
ション作り、業務の一貫性となり、その四つ
の要素を満たすと企業の寿命が延びて長寿企
業となります。
企業が常に革新的であり、投資家の期待
に応えるためには、次の三つの要素において、
うまくバランスのとれていることが必要だと、
これまではいわれてきました。 一つはマーケ
ット・フォーカスで、市場における長期的な
ビジネスモデルが確固としていること。 二つ
目は同業他社に抜きん出た技術力。 そして三
つ目が、サプライチェーン業務をビジネスモデ
ルに合わせて改善していく力です。
もちろん今もマーケット・フォーカスやビジ
ネスモデルは依然として重要ですが、それ以
上に重要性を増しているのが、この三つ目の
要素です。
テレビやコンピュータといった成熟した製品
では、上位企業が技術力で他社に差をつける
ことが非常に困難になるほど各社の技術水準
が上がってきました。 そうした状況下におい
ても企業は、価格でリーダーシップを発揮す
ることと、優れた顧客サービスを維持すると
いう二つの方法によって差異化を図ることが
できます。 ただし、それを実現するには、サ
プライチェーン業務を中心とした現場の業務
を、本社で描いたビジネスモデルに合わせる
力が必要です。 その力の違いが企業の優劣を
分けるようになりました。
荷主企業にとって、サプライチェーン業務が
重要になってきているもう一つの理由は、メー
カーなら海外での生産、小売りなら海外から
の調達が活発になってきているからです。 メ
ーカーは人件費が安い、また消費地に近いと
いった理由から工場の海外移転を進めてきま
した。 小売りも、より安価な製品を仕入れる
ために、サプライチェーンを海外に伸ばして
います。
欧州に本社を置くあるメーカーは、欧州域
内のサプライチェーンを見直そうとしたとき、
事前に以下の点を検討しました。
生産については、?どのサプライヤーを使う
のか、?生産拠点をどこに置くのか、?どの
製品をどの工場で作るのか、?製品の配送に
ついては、工場からの直送とするのかハブと
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なるセンターを経由してからにするのか──。
次に物流センターについては、?物流セン
ターをどこに構えるのか、?どの物流センタ
ーでどの製品を取り扱うのか、?各物流セン
ターがカバーする範囲はどこまでとするのか
──。
輸送については、?どこで客先への仕分け
をするのか、?インバウンドとアウトバウンド
でどんな輸送モードを使い分けるのか、?配
送頻度や配送時間の枠をどのように設定する
のか──という一〇項目です。
こうした点を熟考した上で、このメーカー
は欧州の中心に当たる北フランスにハブ拠点
を設置し、それに加えて十一カ所の物流セン
ターを作ることにしました。
コスト削減かサービス向上を選択
二〇〇七年に我々アクセンチュアは、欧米
の荷主企業二六九社を対象に、サプライチェ
ーンの調達部分に焦点をあてたアンケート調
査を行いました。 調査の目的は次の三つです。
?荷主企業がサプライチェーンのネットワー
クや戦略を変える理由は何か。
?海外に伸びるサプライチェーンにおいて、企
業は何を望んでいるのか。
?海外でロジスティクス業務を外注する際の
心配事は何か。
まずは荷主企業を取り巻く経営環境を知る
ために、海外において調達ネットワークを作
り、戦略をたてる上で重視する五つの項目に
ついて尋ねました(図2)。
このうち一〇〇社以上が優先すると答えた
のが、「客先への正確な配送」と「品揃えの改
善」です。 この回答からは、多くの企業が海
外において高品質のサービスと低価格を両立
させるために苦労していることがわかります。
客先への正確な配送を中心とする顧客サー
ビスレベルと品揃えの充実は、産業を問わず、
どんな企業にとっても関心事です。 しかし同
時に、企業間の競争が国際化するにつれて、
各企業は販売価格の引き下げのプレッシャー
にさらされています。
こうした現状を踏まえて、先に挙げた三点
についてのアンケート結果を見ていきたいと
思います。
最初の項目は、サプライチェーンのネットワ
ークや戦略を見直した理由についてです(図
3)。
ここでは、コスト削減と同時に品揃えの充
実を中心としたサービスレベルを向上させた
いという企業の心理が表れています。 一般的
にいえば、品揃えを充実させるには在庫を増
やす必要があり、コスト削減とはトレードオ
フの関係にあります。
この二つの項目がアンケートで上位を占め
るということから、多くの企業がSCMを企
業の価値を作り出す原動力としてよりも、コ
ストが発生する企業活動とみなしていること
がわかります。
この二つの項目については本来、各企業は
事前に優先順位をはっきりとさせておくこと
が必要なのです。
米国のある小売業者が、それまでパッチワ
ーク的に積み上げてきたことで複雑になって
しまった国内のサプライチェーンを大幅に見直
そうとしたときのことです。
それまで翌日配送の比率は三三%だったそ
図1 エクセレント・カンパニーの5 要素
成 長
一貫性
利 益
長 寿
高機能型の
モデル
将来性
図2 調達で重視する5 項目
?顧客への正確な配送
?品揃えの改善
?在庫の削減
?国内における
SCMコストの削減
?SCMにおける
コントロールの強化
?海外における
SCMコストの削減
?市場への新たな
チャネル作り
?返品物流業務の改善
?その他
回答社数0 20 40 60 80 100 120 140
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の企業がまず決定しなければならなかったこ
とは、翌日配送の比率は四〇%で満足して年
間六〇〇万ドルのコスト削減を果たすのか、そ
れとも翌日配送の比率を八〇%にする代わり
に年間三〇〇万ドルのコスト削減でよしとす
るのかでした。
もし翌日配送の比率を八〇%にして年間六
〇〇万ドルのコスト削減が果たせれば、より
よい結果となりますが、実現可能なソリュー
ションなしに高すぎる目標を設定すれば、サ
プライチェーンの現場に混乱をきたします。 荷
主企業がどちらに重心をおくのかを最初に決
めなければ、その後の戦略策定において一貫
性を欠くことになります。
3PL業務は陳腐化する
次の項目は、海外のロジスティクス業務に
おける満足度です(図4)。
「信頼性」、「品質」、「リードタイム」、「顧客
サービス」の四項目について、満足度を尋ね
た結果、海外のロジスティクス業務に対する
荷主企業の満足度は決して高くないことが分
かりました。
図4には表示していませんが、当初の予算
より一〇%以上のコスト削減を達成できたと
する企業は、全体の二九%に過ぎませんでし
た。 現状では、海外でのサプライチェーン業
務の効率化に成功したために、利益率に貢献
しているという事例はまだ少ないといえます。
また荷主企業は海外でのロジスティクス業
務を展開することのメリットを、コスト削減
という物差し以外でも計ることが必要になっ
てきています。 このため、業務を効率化する
のに、SCMをコントロールするシステムや、
すでにコントロールされているモデルを導入す
ることが不可欠になります。
三番目の質問項目は、サプライチェーン業
務を外注する際の心配事です(図5)。
ここでは、サプライチェーンが海外へ伸び
ることで業務が複雑になり、可視性が低くな
ることで、在庫水準やサービスレベルに対す
るコントロールを失いつつあると感じている
様子がうかがえます。 しかし荷主企業がサプ
ライチェーン業務へのコントロールと自信を取
り戻さない限り、海外進出によるメリットを
達成することはできません。
荷主企業の多くは、海外で3PL企業に外
注する際のモデルケースが出来上がっておら
ず、また外注する際に、支払いコストに厳し
い制限を加える傾向があります。 このために
3PL企業は下請け業者を使わざるを得なく
なり、そのことが可視性を低下させる一つの
要因となっているようです。
コストの削減要請はまた、3PL企業の既
存のサービスメニューの範囲内で業務を行うこ
とになったり、複数の荷主企業の業務を同時
に行ったりすることを招き、サービスレベル
の向上を難しくします。
荷主企業は、サプライチェーン全体の一貫性
が取れるような形で、海外業務におけるサー
ビスレベルを設定する必要があります。 また
海外で3PL企業を選ぶときは、現地でどの
ようなサービスが可能かを押さえた上で、企
図3 サプライチェーンのネットワークや戦略を見直した理由
?コスト削減
?サービスレベルの向上
?業務内容をビジネス戦略に
あわせるため
?同業他社に対抗して
製品を値下げするため
?海外からの
調達戦略の変更
?企業規模の変化
?新たな地域への進出
?業務を顧客の生産戦略に
あわせるため
?企業買収
?顧客の企業規模の変化
?顧客のロケーションの変化
?法規制の変化
?税金対策
80
70
60
50
40
30
20
10
0
(%) (複数回答)
図4 海外におけるロジスティクス業務の満足度
信頼性
品質
リードタイム
顧客サービス
45
40
35
30
25
20
15
10
5
0
(%)
高いまあまあ低い無回答
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リップス、イタリアの衣料品メーカーのベネト
ン、フランスの化粧品メーカーのロレアルなど
です。 インバウンドとアウトバウンドの両方の
業務を引き受けた例としては、米国のコンピ
ュータメーカーのコンパック、日本の家電メー
カーのパナソニック、スウェーデンの通信機器
メーカー、エリクソンや英国の小売業のセイン
ズベリーなどがあります。
(1ユーロ=一六一円で換算)
業規模や企業文化に配慮して最適なパートナ
ーを選ぶことが必要となります。
一方、3PL企業側について言えること
は、荷主に要求されたことしかやらない場合
には、そのサービスはすぐに陳腐化してしま
い、他の業者にとって変わられるということ
です。 3PL企業には、どうすれば自分たち
の業務を、荷主にとってのコスト負担から高
付加価値サービスへと変化させることができ
るのかを考えて行動することが求められます。
そうすることが、自らの利益率を高めること
にもつながるのです。
4PLとしてアクセンチュア
サプライチェーンを海外に伸ばすとき、業
務における不確実性や不十分なIT(情報技
術)は、確実にコスト高となって跳ね返って
きます。 企業の意思決定をサポートするよう
な最適ソフトのような技術なしには、可視性
を高めることは難しくなります。
というのも、サプライチェーン業務の最適化
は、厳密な科学というより、試行錯誤的な要
素を多分に含んでいるからです。 サプライチ
ェーン上に問題が現れた時には、全部まとめ
て解決するより、一つ一つ潰してくことが必
要です。 頭では簡単に理解できる解決策でも、
現場で実行しようとすれば複雑になり、時間
がかかることが少なくないからです。
海外に伸びるサプライチェーン業務を最適
化するにあたって、唯一の正解は存在しませ
ん。 産業によって、企業規模によって、顧客
によって、正解はさまざまに変わってきます。
また、企業が成長を続ける限り、サプライチ
ェーン業務も変化していくので、これで終わ
りということはなく、常に改善が要求される
仕事となります。
コンサルティング企業である我々アクセンチ
ュアは、ノンアセット型の4PL企業として、
これまでさまざまな国際企業に対して、サプ
ライチェーンに関するコンサルティングの実績
を積んできました。
インバウンドにおいては、小売りでは米ウ
ォルマートや仏カルフール、独メトロや英テス
コがあり、石油産業のロイヤル・ダッチ・シ
ェルなどがあります。 アウトバウンドでは、独
フォルクスワーゲン、オランダの家電大手フィ
図5 サプライチェーンを外注する際の心配事
?SCM における
コントロールを失う
?顧客サービスにおける
信頼や品質
?在庫への可視性や
業務の柔軟性を失うこと
?顧客サービスの
レベルダウン
?SCM の複雑化
?ロジスティクス・コストの
増加
?ふさわしい3PL 業者を
みつけること
?言葉や国ごとの
規制によるカベ
0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20(%)
調査の概要
調査はウェブと通常の調査用紙の両方を使って行っ
た。 荷主企業二六九社から回答が寄せられた。 回答
者の役職や企業の国籍、産業、売上高別に見ると次
のとおり。
回答者の三三%がロジスティクス担当者で、二六%
がSCM担当者、一〇%が調達担当者、七%がCO
O(最高執行責任者)、四%がM&A担当者だった。
回答企業のうち、一九%は英国企業、一七%がベネ
ルクス三国の企業、一四%がスペインとポルトガルの
企業、十二%がドイツ企業となり、五%を占めるのが、
それぞれ米国、カナダ、イタリア、ギリシャ、スイス
の企業。 四%がフランス企業で、そのほかにも、アジア、
オーストリア、デンマーク、東欧、フィンランド、ノ
ルウェー、スウェーデン、トルコの企業が回答を寄せた。
産業別に見ると、二八%が日用雑貨産業、一〇%
が自動車関連、九%が小売業となり、全部で二〇産
業の企業から回答が寄せられた。 売上高別に見ると、
七五%の企業が売上高一億ユーロ(一六一億円)以
上で、六%が五〇〇〇万ユーロから一億ユーロの間、
二%未満の企業が五〇〇〇万ユーロ以下となっている。
従業員数では、三四%の企業が一万人以上、十一%
が五〇〇〇人から一万人、一〇%が二五〇〇人から
五〇〇〇人、一六%が一〇〇〇人から二五〇〇人、
二九%が一〇〇〇人以下となっている。
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