ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2008年3号
道場
物流センター問題を解く── その1

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

MARCH 2008  68  「でも、締め切りをとっくに過ぎてたわけ で‥‥」  「まあ、それはいいとして、それで来るこ とになったのか?」  「そうです。
ちゃんとスケジュール表に入っ てますよ。
それに‥‥」  女史がさらに何か言おうとしたとき、入り 口の扉が開いた。
「こんにちは」と遠慮がち な声がした。
女史が愛想よく出迎える。
 会議テーブルを挟んで、若い訪問者が大先 生に挨拶する。
 「私、えー、物流技術管理士の六十八期の 修了で‥‥」  「六十八期なんて言われてもわかんないよ。
何年前のこと?」  突然、大先生にいちゃもんつけられて、そ の若い管理士氏は頭が真っ白になってしまっ たようだ。
受講の時期がすぐに出てこない。
 「えーと‥‥ですね、あっ、昨年です。
昨 年」  「あっ、そう。
それで今日は何?」  「は、はい。
実は、部長からですね、突然、 物流センターの見直しを命じられまして、必 要ならコンサルをお願いしてもいいと言われ まして、それを含めまして、今日、いろいろ お話をお聞きしたいと思いまして、はー、お 邪魔いたしました」  大先生の性急な問い掛けに、管理士氏は、  物流センターを見直せ。
上司からそう指示されたものの、ど こから手をつければ良いのか分からない。
迷える物流マンが大 先生の門を叩いた。
物流センターとは、そもそも何のためにあ るのか。
そこから順に紐解いて行くことで、物流マンの眼前に は思いもよらなかった景色がひろがっていくのであった。
湯浅和夫の  湯浅和夫 湯浅コンサルティング 代表 《第67回》 物流センター問題を解く── その1 大先生の日記帳編 第6 回   ついてない訪問者  春らしい日差しが窓から眩しく見える大先 生事務所。
大先生は気持ちよさそうにまどろ んでいる。
そのまどろみを女史が破った。
 「もうじき、お客さまがいらっしゃいます よ」  「お客?‥‥誰に?」  「誰にって、先生にですよ。
お二人は外出 でいらっしゃらないんですから」  「おれに? 誰が何しに来るんだ?」  「まぁ‥‥」と言いながら、女史が説明す る。
 「先週、はじめ頃だったと思いますけど、J ILS︵日本ロジスティクスシステム協会︶の 物流技術管理士講座で先生の講義を聞いたと いう方から電話があったんです。
その方が上 司から物流センターの見直しを指示されたそ うで、コンサルをお願いするかどうかまだわ からないんですけど、ちょっとお話できる時 間を取っていただくことはできるでしょうか、 ということでした」  「へぇー、そんなことあったっけ?」  「ちょうど、先生が原稿に追われていると きでした」  「あー、あのときか。
編集者から、絶対に 今日中ですからねって脅されたときだ。
まっ たくひどい編集者だ」 71 69  MARCH 2008 しどろもどろに答える。
そこに女史がコーヒ ーを持ってきた。
大先生が、「趣旨はわかっ たから、まあ、コーヒーでもどうぞ」と一息 入れるように促す。
ほっとしたように管理士 氏がコーヒーに手を伸ばす。
それを見ながら、 大先生が思い出したように質問する。
 「そうか、あんた、管理士だろ? それな ら、管理士の講座で物流センターについても いろいろ勉強したんじゃないの?」  コーヒーカップを手に持ったまま、管理士 氏がばつの悪そうな顔をする。
 「はぁー、それがですね、なにかついてな いというか、たまたまその講義の時間、どう しても外せない会社の用事が入ってしまい受 講できなかったんです。
受講しなかったのは その講座だけなんです。
ついてないです」  その話に大先生が、楽しそうな顔で頷き、 独り言のように呟く。
 「いるんだよね、そういう、ついてない人 って。
あんた、ついてないなって思うこと、 よくあるんじゃない?」  大先生の言葉に管理士氏が、思い出したよ うに頷き、これまた独り言のように話し出す。
妙な方向に話が展開し始めた。
 「はぁー、実は、これは仲間から『おまえ、 ついてねえな』って言われたんですが、いま 物流部にいるのも、最初、同期の別のやつが 物流部への配属が決まったんですが、辞令が 出る前の日にそいつが辞めてしまって、それ で代わりに私が物流部に回されてしまったん です。
内示では、ある支店の営業に行く予定 だったんです。
中には、支店の営業より物流 でよかったじゃんって言う人もいますけど‥ ‥」  「いや、それはついてない。
絶対について ない」  大先生が断定的に言う。
管理士氏が不安げ に大先生の顔を見る。
それを見て、大先生が とってつけたようにフォローする。
 「まあ、物流部がひどいとこだって意味じ ゃなくて、営業や生産など他部署を経験して から物流にくればよかったなということだよ。
しかし、営業などという非論理の世界じゃな く、物流という論理の世界で過ごすのもいい かもしれないよ」  大先生の言葉に管理士氏は中途半端に頷 く。
決してフォローにはなっていない。
大先 生が気分を変えるように、本題に話を戻す。
  物流部ならではの仕事  「ところで、物流センターを見直したいっ て言うけど、物流センターについて本などで 勉強はしたんだろ?」  「はい、物流センター関係の本はいろいろ 読みましたが‥‥」  「読みましたが、何?」  「もうひとつ見直しの手掛かりがつかめま せん」  管理士氏の正直な答えに大先生の表情がち ょっと変わる。
それを見て、「これはまずい ことを言ったかも」と管理士氏の顔が歪む。
 「手掛かりがつかめないって、何それ?」  管理士氏は、言い訳をするとまたいちゃも んをつけられると思ったのか、観念したよう に黙っている。
それを見て、大先生がぼそっ と言う。
 「本に書いてあるとおりやってるかどうか をチェックするだけでいいんじゃないの?  まあ、本が正しいこと言ってれば、だけど‥ ‥」  「はぁー、そうなんですが、うちの現場は、 本に書いてあるとおりやってるようなやって ないような‥‥なんか、これが問題だって明 確なものが見えてこないんです」  管理士氏が、正直に、消え入りそうな声で 答える。
大先生が「気持ちはわかる」という 感じで頷き、答え易いような質問をする。
 「そこで言う見直しというのは、物流セン ターの作業を見直せということ? つまり、 物流センターのコストを下げろってこと?」  「はぁー、部長には、コストも含めて、将 来を見据えて物流センターを見直せって言わ れました。
どう見直すかは、お前に任せるっ てことでした」 MARCH 2008  70  「なるほど。
なかなかいい上司じゃないか。
教育的な指示ってとこだ。
その意味では、物 流部に配属されたのはついてるかもしれない ぞ」  大先生の言葉に管理士氏が明るい声を出し た。
 「本当ですか?」  「本当ですか、じゃないよ。
要は、あんた 次第だよ。
おれはついてると思うように自分 で仕事を作るってことさ。
将来を見据えてと いうなら、物流センターの見直しは格好のテ ーマだ。
よし、他の部署ではできないような 仕事をやろう」  大先生の気合いの入った言い方に、管理士 氏は、よくわからないながらも「はい」と大 きな返事をした。
 物流センター見直しの手順  「それじゃ、じっくり行くぞ。
まず聞くけ ど、物流センターって何だ?」  「顧客納品のための施設かと‥‥」  大先生の単純な質問に管理士氏が即答した。
 「それじゃ、なぜ顧客納品で物流センターが 必要なんだ? おたくはメーカーなんだから、 工場から直接届ければいいじゃないか?」  大先生の質問に管理士氏は嬉しそうな表情 をする。
この話は大先生の講義で聞いたこと がある。
物流サービスというのは、今後どうなる?  これまで、どうだった?」  予想される質問だったのか、管理士氏が、 これまた即答する。
 「はい、これまでも変わってきてます。
う ちは、消費財のメーカーですが、新しく出た 製品によっては新規の販路を開拓したものも ありますし、最近は、小売直送も増えてきて ます。
その届け先も変わってきてます」  大先生が小さく頷く。
可もなく不可もない 返事に興味を感じなくなってきたようだ。
そ れでも、流れの中で大先生が質問を続ける。
 「ということは、物流サービスも変わって きてるってことだ?」  「そうです。
そうですね、物流サービスが変 われば、物流センターもそれに合わせて変わ ることが必要ですね。
物流センターは物流サ ービスを提供するためにあるんですから。
作 業の仕方はもちろんですが、立地も検討しな ければならないと思います」  大先生が決まりきった質問を続ける。
 「その検討のためには、その前にどんなこ とを調べる必要がある?」  管理士氏は、今度はちょっと間を置いて、 頭の中で整理するように、ゆっくり返事をす る。
 「えー、販売戦略というか、つまり、うち の営業は、将来的に、どこに何を売っていこ  「はい、顧客から要求されている納期内に 届けるには工場からでは間に合わないから です。
物流センターは、物流の論理ではなく、 つまり物流側の都合ではなく、顧客との取引 条件、というより顧客から要求される物流サ ービスを提供するために存在しています」  管理士氏が言葉を選びながら答える。
大先 生がにっと笑う。
大先生の意味深な笑顔を見 て、管理士氏がちょっと構えるが、それにお 構いなしに、大先生が質問を続ける。
 「なるほど、それじゃあ、その要求される 湯浅和夫の Illustration©ELPH-Kanda Kadan 71  MARCH 2008 うとしているのか、届け先別の販売構成は変 わるのか、商品数は増えるのかなどといった ことについて営業がどう考えているかを調べ ることが必要ということです。
うん、なるほ ど、おもしろそうですね」  管理士氏が一人で納得し、おもしろがって いる。
大先生がおもしろくなさそうに呟く。
 「まあ、おもしろいなら、それでいい」  何だかワクワクしてきた  管理士氏は、一人乗ってきたようだ。
会話 が弾んでいる。
 「ある本に、物流センターは、経営戦略か ら考えることが必要だって書いてありました が、そういうことなんですね?」  「そういうことなのかねー? まあ、将来 的な利益拡大計画があって、そのためには販 売はどうする、生産はどうするっていう計画 があって、物流は、当然これに対応しなけれ ばならないという関係にあることは間違いな い。
物流って言うけど、その根幹は、具体的 には物流センターの配置だから、物流センタ ーは、会社としての将来的な計画に合わせて 考えることが必要になることはたしかだ」  大先生がちょっと投げやりな言い方をする。
そんなことなど気にもせず、管理士氏は、自 分の意見を述べる。
饒舌になってきた。
 「なるほど、そうなると、うちの工場の統 廃合や工場間の生産分担がどうなるか、あっ、 それに海外進出やOEMなどの将来動向も 調べる必要がありますね。
それらを踏まえて、 物流としての対応を考えるってことが必要に なるわけですね」  大先生が黙って頷く。
管理士氏が続ける。
 「なるほどー。
これまで考えたこともなか ったことばかりで、おっしゃるように、他部 門では決してできないことです。
営業など に配属されたら、こんなこと考えもしません。
物流に配属されて、私はついてるかもしれま せん」  大先生が黙って管理士氏の顔を見ている。
管理士氏の話が続く。
 「もちろん、私にどこまでそれらを調べる ことができるかわかりませんけど、あっ、そ れに、聞いても明快な答えが出てくるかどう かもわかりませんが、自分の会社の中のこと ですから、あらゆるつてを頼りに調べてみま す。
なんかわくわくしてきました。
おもしろ そうです」  管理士氏が余りにもハイになっている様子 を見て、大先生の方が戸惑った感じだ。
一呼 吸置いて、管理士氏が小さな声で切り出す。
 「それから‥‥」  「え、まだ何かあるの?」  「物流センターの中の見直しなんですが、こ れはどのような切り口で考えれば‥‥」  「作業やレイアウトなどのこと?」  管理士氏が、遠慮がちに頷く。
 「そんなことは簡単だろうに。
まあ、仕方 ないな。
それもやるか。
その前にちょっと休 憩しよう」  大先生の言葉に反応して、女史が顔を出し た。
「何をおいれしましょうか? お茶にし ますか、冷たいものにします? それともビ ールですか?」 ゆあさ・かずお 1971 年早稲田大学大学院修士課 程修了。
同年、日通総合研究所入社。
同社常務を経 て、2004 年4 月に独立。
湯浅コンサルティングを 設立し社長に就任。
著書に『現代物流システム論(共 著)』(有斐閣)、『物流ABC の手順』(かんき出版)、『物 流管理ハンドブック』、『物流管理のすべてがわかる 本』(以上PHP 研究所)ほか多数。
湯浅コンサルテ ィング http://yuasa-c.co.jp PROFILE

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