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徹底調査:トラック実勢運賃
トラック実勢運賃は現在「昭和60年タリフ」の基準運賃
の水準にある。 3年前の前回調査から相場は大きく上昇した。
10年以上続いた運賃下落のトレンドが今や反転している。
90年の「物流二法」に始まった規制緩和の時代が、つい
に終わりを告げた。 (大矢昌浩)
「東京→大阪」八万一七一一円
トラック運賃が上昇に転じている(図1・図2)。
一〇トン車を東京から大阪まで貸し切りで走らせた
時の平均実勢運賃は現在八万一七一一円。 三年前
の七万七六六五円から五・二%値上がりした。 二ト
ン車や四トン車を使った近距離のルート配送では三
年前と比べて一割以上も値上がりした地域が出てき
ている。
特別積み合わせ便(特積)も、昭和五六年認可運賃、
同五七年といった極端に安いタリフはほとんど姿を
消した(図3)。 昭和六〇年タリフが相場として完
全に定着し、より新しい平成二年、六年、十一年タ
リフの利用も今では珍しくなくなっている(タリフ
をはじめトラック運賃の基礎知識については本特集
第五部を参照)。
二〇〇八年度はさらに強含みで推移しそうだ。 軽
油の値上がり分を運賃とは別建てで徴収する燃料サー
チャージ制の導入を行政が強力に進めていることに
加え、一九九七年以降下落し続けていたドライバー
の人件費も上昇する。 連合が三月一四日にまとめた
二〇〇八年春闘の賃上げ一次集計によると、今年の
運輸産業の一人当たりの賃上げ額は五一〇一円で前
年比一三五四円増の大幅な伸びとなった。
ドライバー不足には拍車がかかっている。 厚生労
働省の調査によると、運輸業の「労働者過不足判断
D
.
I
.
」(不足と回答した事業所の割合から過剰と回
答した事業所の割合を差し引いた値)は、全業種平
均のおよそ二倍の水準に達しており、昨年十一月時
点の調査では、「不足」の五四に対して「過剰」が
二という極端な人手不足を示している。
とりわけ大都市圏は深刻で「思い切った条件で募
APRIL 2008 12
第1 部
13 APRIL 2008
集をかけても応募自体が全くない。 燃料費の高騰や
規制強化によるコストアップを、これまでは人件費
削減で吸収してきたが、肝心のドライバーがいなくなっ
てしまえば商売自体が成り立たない。 運賃を上げる
か、それとも商売をやめるかという二つに一つを迫
られている状況だ」(都内中堅運送会社)。
不採算荷主に対して運送会社側から取引の打ち
切りを求めることも珍しくなくなっている。 ライバ
ルの少ない、地方の有力運送会社からは「今春は
一〇%の値上げを条件に運賃交渉を行っている。 感
触は悪くない。 少なくとも当社では、昨年から完全
な値上げ基調になっている」との声もあがっている。
カサイ経営の実勢運賃調査
トラック運賃に定価はない。 料金は荷主と運送会
社との相対の交渉で決まる。 その具体的な金額は当
事者でなければ基本的には知り得ない。 使用する車
両のタイプと輸送距離が同じであっても、実際に適
用されている運賃には大きな開きがある。 荷物の形
状や荷役作業の軽重、納品条件、あるいは物量の波
動や年間の取引金額などに運賃は大きく左右される。
それでも相場はある。 中長期のスパンで相場の推
移を振り返ると、バブル崩壊からやや遅れて九〇年
代の前半に運賃は史上最高値を付けた。 その後は
一〇年以上にわたって下落し続けている。 その間に
過積載の取り締まりや環境規制の強化、軽油の高騰
など、運送原価のコストアップが相次いだが、景気
の後退に伴う物量の低迷と、運送事業者の増加によ
る競争激化が相場を押し下げた。
こうしたトレンドは、日本銀行の「企業向けサー
ビス価格指数」や全日本トラック運送協会の「トラッ
ク運送業界の景況感」などの指標で確認できる。 た
昭和55年昭和57年昭和60年平成2年平成6年平成11年
50
40
30
20
10
0
(%)
(円)
上限
基準
下限
昭和55年昭和57年昭和60年平成2年平成6年平成11年
図3 現在採用している特積み運賃タリフの水準──2002年調査と2008年調査の比較
50
40
30
20
10
0
(%)
(年度)
(年度) (年度)
(年度)
上限
基準
下限
カサイ経営資料より本誌が作成
昭和
60年
昭和
63年
平成
6年
平成
10年
平成
13年
平成
16年
平成
19年
図1 距離制地区別運賃の推移(昭和60年調査=100)
90
95
100
105
110
115
120
125
130
昭和
60年
昭和
63年
平成
6年
平成
10年
平成
13年
平成
16年
平成
19年
図2 車種別8時間制運賃の推移(三大都市圏平均)
50,000
40,000
30,000
20,000
10,000
0
名古屋地区
大阪地区
3地区平均
106
121
116
108
110
113
99
116
109
99 96
99
107
127
120
116
111
113
100
104
122
116
108
107
108
東京地区
15トン車
10トン車
2トン車
4トン車
18,523
19,713
24,354
25,021
24,740
22,917 22,516
22,900
24,157
27,153 28,397
28,514
26,744
27,811
35,187
34,006
37,033
41,217
39,076
35,338
38,760
48,148
43,525
49,887
2002年調査2008年調査
APRIL 2008 14
だし、そこには具体的な料金水準は示されてはいな
い。 そのため〇三年に通達を廃止した旧・運輸省の
公示タリフが、いまだに運賃相場を示す尺度として
市場で使われている。
それに対して物流コンサルティングのカサイ経営で
は、荷主を対象に実際の支払い運賃をアンケート形
式で集めた調査を八五年に実施し、その後もほぼ三
年間隔で定点観測してきた。 直近では〇五年の調査
結果をまとめた「二〇〇五年版業種別トラック実勢
運賃がわかる本」(絶版・本誌では〇六年四月号特
集でその概要を紹介)が刊行されている。
前回の調査から三年目を迎えた今年、本誌は物流
コンサルティングのロジスティクス・サポート&パー
トナーズと共に、カサイ経営から許可を得て「二〇〇八
年版」の実勢運賃調査を実施した(書籍は今年六月
に弊社から発行予定)。 カサイ経営の河西健次代表
が〇六年四月に他界したことに伴い同社が営業を終
了した後を、本誌が引き継いだかたちだ。
規制緩和時代の終わり
その結果、右記のような実勢運賃の上昇が明らか
になった。 九〇年の「物流二法」による規制緩和以
来初めて運賃相場の本格的な反騰が確認された(回
答数二四六社、詳しくは「調査の方法と回答者属性」
を参照)。
“異変”は他にもある。 事業者数の減少だ。 九〇
年度に約四万社だった日本のトラック運送事業者数
は、直近の〇六年度には約六万二〇〇〇社にまで増
えている。 九〇年以降、毎年約二五〇〇社が新たに
市場に参入し、退出が五〇〇社程度にとどまってい
たことで、年間二〇〇〇社ペースで総事業数が増え
続けた。
業種分布地域別
売上規模年間支払い運賃
素材型製造業
5.7%
加工型製造業
17.1%
〜10 億円
13%
〜1 億円 1%
〜50 億円
24%
〜100 億円
11%
〜1000 億円
34%
1000 億円
以上
17%
関東
(茨城、千葉、栃木、
群馬、埼玉、神奈川、
山梨、東京)
52.4%
近畿
(大阪、京都、
兵庫、滋賀、
奈良、和歌山)
21.5%
北陸信越(新潟、長野、富山、石川)
4.1%
中部(愛知、静岡、岐阜、三重、福井)
11.8
四国 1%
九州 2% 北海道 0.8%
中国(岡山、鳥取、
島根、広島、山口)
4.1%
未回答
34.1%
12 億円以上
23.0%
〜12 億円
13.5%
〜3 億6000 万円
13.9%
〜1200 万円 1.2%
〜3600 万円 5.2%
〜6000 万円
2.8%
〜1 億2000 万円
6.3%
その他 2.4%
食品関連
製造業
9.8%
卸売・小売業
28.9%
運輸業
36.2%
東北(青森、秋田、岩手、
宮城、山形、福島)
1.6%
カサイ経営が八五年から〇四年まで、ほ
ぼ三年ごとに計六回にわたって行ったトラッ
ク実勢運賃調査を踏襲した。 本誌のアンケー
トに回答した二四六社の支払い運賃を集計
し現状の相場を調べるとともに、過去の調
査結果と比較して全体の推移を求めた。 ア
ンケートは今年一月二〇日から二月八日に
かけて行った。
回答者の属性は左図の通り。 業種分布は
メーカーと流通業と運輸業がそれぞれ三分
の一ずつ。 地域分布は、ほぼ産業分布通り。
事業規模は売上高で一〇〇億円以上、年間
支払い物流費で十二億円以上の大企業が中
心になっている。 今回の回答者は主に本誌
読者であり、その顔ぶれはカサイ経営時代の
調査とはかなり異なっている。
調査の方法と回答者属性
15 APRIL 2008
ところが、このたび本誌が全国各地の地方運輸局
をヒアリングした結果、今年三月末で締める〇七年
度の事業者数は、複数の地域で横ばいから減少に転
じることが分かった。 運賃相場の反転と同様に、こ
れも九〇年以降初めてのことだ。 北海道や東北、中
国において新規参入のペースが鈍ると共に退出が急
増している。 大都市圏はいまだ増加基調にあるため
総数としては増えても、従来の増加ペースに陰りが
出たのは明らかだ(図5)。
日本に約一〇年先行して運送業の規制緩和に踏み
切った米国や英国では、規制緩和後に新規参入が急
増し、供給過剰によって運賃が大幅に低下した。 そ
れと並行して運送業従事者の平均給与も下がり続け、
労働組合の組織率は激減した。 結局、規制緩和で最
も得をしたのは大手荷主企業であり、損をしたのは
ドライバーと労働組合だったとされる。 規制緩和の
定石だ。 日本もこれまで同じ道を歩んできた。
ただし、違いもある。 欧米では新規参入の増加と
同時に競争激化による運送業の倒産が相次いだ。 市
場の混乱は約一〇年続いた。 その間に米国では大手
運送会社の半分が倒産や吸収合併などで入れ替わっ
た。 そして実運送だけでは存続できなくなった運送
事業者のなかから、付加価値の高い新しい物流サー
ビスを提供する3PL事業者が現れた。
それに対して日本では規制緩和から一七年経った
今日まで倒産件数はそれほど増えず、再編も進んで
いない。 変化の速度が格段に遅い。 その分、市場の
混乱も小さかった。 既存の運送業者にとっては幸い
だったと言えるだろう。 しかし喜んでばかりはいら
れない。 運賃が反転し規制緩和の時代が終わったこ
れからが、むしろ日本市場の本格的な淘汰の始まり
となるかもしれないからだ。
トラック運送事業者数が純減に転じるエリアも出てきている
図5 各地方運輸局における一般貨物運送事業者の新規参入・廃止(退出)の状況
東北運輸局
関東運輸局
北陸信越運輸局
中部運輸局
四国運輸局
九州運輸局
北海道運輸局
昨年12月末時点の実績は参入83・
退出79と拮抗。 06 年度の参入
125・退出69とは大きくトレンドが
変わり、07 年度通期では減少の可能
性も。
今年2月末時点の実績は参入87・
廃止92。 06 年度(通期、以下同)
実績は参入121・廃止67。 06
年度までの増加基調から、07年度
は減少に転じている。
今年1月末時点の実績は参入51・退
出50で、増加はわずか1 社のみ。 廃
止の数は例年並みだが参入が減ってき
たことで事業者数は頭打ちに。
昨年11月末時点の実績は参入421・
廃止215。 06 年度の実績は参入
645・廃止265。 参入のペースは落ち
てきているが、増加は続いている。
今年2月末実績は参入228・廃止
139。 06 年度は参入243・廃止
152。 依然として増加基調が続いて
いる。
今年2月末時点の実績は参入51・廃
止37。 06 年度は参入73・廃止
46。 参入は減少傾向にあるが、廃止
の数はまだ例年並みの水準。
今年1月末時点の実績は参入
148・廃止89。 06年度は参
入209・廃止76。 参入数が減
少傾向にあるのに対して廃止は
増加している。
昨年12月末時点の実績は参入261・
廃止163。 総数としてはまだ増加傾向
にあるものの、07 年度は退出数が増え、
3 四半期分だけで既に前年度実績に達し
ている。
今年1月末時点の実績は参入99・
廃止114で、廃止が参入を上回って
いる。 90 年以降、総事業者数は初
の減少へ。
中国運輸局近畿運輸局
増加減少
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