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350 兆円市場の業界勢力図
国際物流資本による買収攻勢が峠を越した。 グローバルプ
レーヤーの集約が完了した。 しかし勝ち残った国際インテグ
レーターのビジネスモデルには亀裂が走っている。 一方、世
界市場の激しい淘汰をよそに、これまで無風で過ごしてきた
日本の物流業界は今ようやく重い腰を上げ始めた。 周回遅れ
の参入に勝算はあるのか。 (大矢昌浩)
物流メジャーの誤算
世界の貨物運送市場は現在、三五〇兆円規模とさ
れる。 そのパイを奪い合い、政府も巻き込んだ国を
挙げての国際競争が本格化している。 ほんの一〇年
前まで、貨物運送市場は、外航海運のキャリアを除
けば、国ごとに事実上分断されていた。 さらに同じ
国内でも貨物の大きさやリードタイムによって、それ
ぞれ独立した市場が形成されていた(図1)。
しかし、グローバル化の進展と規制緩和をきっかけ
に、業界の垣根が一斉に崩れ始めた。 各業界の淘汰
を勝ち残った有力企業が隣接市場のプレーヤーを次々
に買収、サービス範囲と営業エリアを拡大し、グロー
バル市場へと歩を進めた。 先進諸国の郵便事業民営
化が、こうした動きに拍車をかけた。
このグローバル市場の頂点に立つのが、国際インテ
グレーターと呼ばれる巨大物流企業だ。 米国のUP
Sとフェデックス、欧州のドイツポストとTNT(オ
ランダ)の四社がそれに数えられる。 いずれも幹線
輸送用の航空貨物機を資産として抱え、末端の集配
作業まで一貫して自社管理するドア・ツー・ドアの
国際宅配便「エクスプレス便」を武器にしている。
もともとエクスプレスはビジネス書類やサンプル品
など、急を要する小さな荷物の個建て輸送を対象と
した、高額でニッチなサービスに過ぎなかった。 ただ
し、日本の宅配便と同様にインフラビジネスであるた
め、物量の増加に伴い生産性は高くなる。 規模がそ
のまま収益に直結する。 勝ち組が利益を輸送ネット
ワークやITなどインフラの拡充につぎ込めば、さら
に格差が広がり、上位集中が進む。
世界最大の国内市場を抱える米国で、この勝ちパタ
ーンに乗ったのがUPSとフェデックスの二社だ。 両
者は豊富な資金力をバックに年間一〇〇〇億円規模
のIT投資を継続するとともに、エクスプレスから一
般貨物、3PLへとサービス範囲を拡大し、米国の
物流市場を丸ごと手中に収めた。 その勢いで現在は
世界制覇に乗り出している。 米国で成功したスキー
ムを世界で展開しようという戦略だ。
一方で欧州ではドイツポストとTNTが、伝統的な
郵便事業に見切りを付け、エクスプレスを軸とした総
合物流業への脱皮を図った。 株式公開で得た資金で
各国の有力企業を買収、サービスメニューと活動拠点
を整えた。 改革は急を要した。 国内郵便事業の独占
による利益が続いている間に業態を転換する必要が
あったからだ。
こうして九〇年代後半から二〇〇〇年代中頃にか
けて、世界の物流市場でM&Aが吹き荒れた。 その
結果、欧米の主要国から国際インテグレーターと呼ば
れる物流メジャーが誕生した。 その勢力図は図2の通
り。 既に主要プレーヤーは絞られた。 外資に門戸を閉
じていた日本市場だけが蚊帳の外に置かれた格好だ。
しかし、出遅れを嘆く必要はないかもしれない。 自
前の物流ネットワークを運用して、フルラインのサー
ビス商品をメニューに並べる国際インテグレーターの
ビジネスモデルは、世界市場ではまだその有効性が証
明されていない。 現状では自国内で稼いだ利益を海
外への投資で食い潰している状態だ。
大型買収を重ねた組織の統合は遅々として進まず、
シナジー効果は現れていない。 サブプライム問題に端
を発した景気の反転は今後の業績見込みに暗い影を落
としている。 買収攻勢は既に完全に鳴り止んだ。 今
や株式市場はインテグレーターに対し、これまでの拡
大戦略の精算を迫っている。 そして膨張した組織の
足元では深刻な労使問題が火を吹き始めている。
JUNE 2008 12
フェデックス・エクスプレス 2兆3815億500万円
フェデックス・グラウンド 6345億1500万円
フェデックス・フレート 4815億3000万円
その他 1999億円2000万円
3兆6974億7000万円(07年5月期)
米国内貨物 3兆2534億2500万円
国際貨物 1兆795億500万円
サプライチェーン&フレート 8847億3000万円
1兆7627億2000万円(07年12月期)
メール 2兆4774億8000万円
エクスプレス 2兆2198億4000万円
ロジスティクス 4兆1182億4000万円
金融サービス+その他 1兆3464億円6000万円
2兆975億円(07年12月期)
2兆832億円(07年12月期)
5496億9285万円(07年12月期)
8683億2300万円(07年12月期)
エクスプレス 1兆481億6000万円
メール 6774億4000万円
その他 371億2000万円
10兆1619億2000万円(07年12月期)
同日
時間指定
日付指定
(1─2日)
日付指定
(3─5日)
不確定
1kg
書類
30kg
小包
250kg
パレット
1t
フルロード
一般貨物
出典:TNT 資料より
20t
バルク
エクスプレス便
クーリエ
インテグレーター
トラック運送
一般的な小口輸送利用運送海上輸送
通常便
5兆2176億6000万円(07年12月期)
2兆5846億2600万円(08年3月期)
物流事業 5242億4700万円(NYKロジスティックス、郵船航空サービスなど)
航空運送事業 922億円1700万円(日本貨物航空など)
1兆8320 億円(07年3月期、旧日本郵政公社の郵便事業売上高)
国際郵便 817億円
1兆9014億3300万円(08年3月期)
運送事業 1兆6009億8800万円
(海外売上高 4026億9200万円)
1兆2259億7300万円(08年3月期)
デリバリー事業 9811億4100万円
BIZ-ロジ事業 956億9200万円
8692億6800万円(07年3月期)
デリバリー事業 7900億6000万円
ロジスティクス事業 838億600万円
2922億3300万円(08年3月期)
図2 主要グローバルプレーヤーと日本の大手物流企業の業績と分布
図1 貨物輸送市場のセグメント
特 集巨大物流企業の攻防
13 JUNE 2008
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