ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2008年6号
特集
巨大物流企業の攻防 「日本の航空産業は衰退する」

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

 世界的に航空自由化が進み、アジア各国はハブ争いに しのぎを削る。
しかし、日本はこうした流れから取り残 されている。
政府は航空会社保護という誤った考え方を 捨て、国民と国家を第一に考えてインフラを構築し、戦 略的に航空政策を進めるべきだ。
  (聞き手・梶原幸絵) 木下達雄 キノシタ・エビエーション・コンサルタンツ 代表 JUNE 2008  22 「日本の航空産業は衰退する」 政府が言う自由化は自由化ではない ──航空輸送の自由化は世界的な潮流ですが、日本 の状況は。
 「三〇年前と全く変わっていません。
日本では航 空輸送は最も規制の厳しい産業の一つです。
未だに 相手国との二国間協定により、当該路線への航空会 社の乗り入れ、輸送力、運賃などが規制され、航空 会社は需要に応じて自由に、好きな所へ飛んでいく ことができません」  「世界の航空輸送はこれまで二国間協定で決めら れ、国際的な産業でありながら非常に非国際的な枠 組みに置かれていました。
しかし状況は変わってい ます。
米国は国際航空輸送の制限を撤廃して自由化 する『オープンスカイ』を提唱し、今では、世界九 一カ国・地域(今年三月時点。
貨物のみも含む)と オープンスカイ協定を結んでいます。
EUも域内の 自由化を達成し、単一の航空市場を形成している。
さらに、国単位ではなくEUとして、域外国と包括 的航空協定を結ぶことで、自由な航空市場を広げよ うとしています」  「今年三月三〇日には、米国とEUとの間のオー プンスカイ協定が発効しました。
米国の航空会社の 飛行機はEUのどの空港でも飛んでいける、EUの 航空会社の飛行機は米国のどの空港にでも飛んでい けるということです」 ──二大勢力が自由化政策を採ったわけですね。
ア ジア太平洋諸国の動向は。
 「アセアン域内、アセアンと中国間などで自由化が 進められています。
また米国とは韓国、台湾、フィ リピン、マレーシア、タイ、シンガポール、インドネ シア、オーストラリア、ニュージーランドなどがオー プンスカイ協定を締結済みです。
中国も米中間の輸 送力を段階的に五倍に拡大するという“セミ・オー プンスカイ”とも言える協定を結んでいる。
世界の 主要国でオープンスカイ政策を採っていないのは日 本だけと言ってもいい」 ──昨年五月に策定した「アジア・ゲートウェイ構想」 に基づき、政府は韓国やタイなどと航空自由化で合 意しています。
航空政策を転換したようにも見えま すが。
 「同構想により推進されている航空自由化は成田 と羽田を除外した自由化です。
それでは自由化とは 言えません」 ──日本はなぜ自由化に踏み切らないのでしょうか。
 「端的に言えば、日本航空を筆頭とする航空会社 を競争から守るためでしょう。
これに対して欧米は 消費者の利益を第一としている。
旅客にしても貨 物にしても、オープンスカイの利益は計りしれない。
便数の増加、消費者の選択肢の拡大、競争原理の導 入によるサービスの向上、運賃の低廉化といった効 果が考えられます」  「一方で、競争力のない航空会社は淘汰されてい くでしょうが、それは各企業の問題です。
万民の利益、 国家経済の繁栄を犠牲にしてまで守る必要はありま せん」  「オープンスカイには別の側面もあります。
二国間 協定では航空会社の所有と支配に関する国籍条項が あり、乗り入れ航空会社の外資の出資比率などに規 制がありました。
しかし、自由な航空市場が形成さ れれば、国籍の制限はなくなります。
これは国境を 超えた投資と資金調達が可能になるということです。
エールフランス航空とKLMオランダ航空の合併が いい例です」 Interview 23  JUNE 2008 きのした・たつお パンアメリカン航空ア ジア・太平洋地区貨物本部長、全日本空輸 貨物郵便本部調査役などを歴任し、航空会 社経験は35年に及ぶ。
元日本大学経済学 部・商学部非常勤講師、元関西大学大学 院商学研究科非常勤講師。
著書に「国際 航空貨物運送の理論と実際」、「21世紀の 国際物流ー航空運送が創る新しい流通革命」 など。
PROFILE 成田 羽田 中部 関西 仁川 (韓国) チャンギ (シンガ ポール) 香港 台北 (台湾) 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 図1 日本の空港の着陸料は突出している 出典:国土交通省資料 注)ジャンボ機(B747−400F型)の場合。
羽田は国内線料金で算出 単位:万円 運用時間6時〜 23 時 24 時間 24 時間 24 時間 24 時間 24 時間 24 時間 24 時間 特 集巨大物流企業の攻防 日本は航空後進国 ──このまま日本の空が閉じた状態が続くとすると、 今後どのような事態が予想されますか。
 「航空会社が日本に乗り入れる意味がどんどん薄 れてくるでしょう。
技術の進歩により、今では給油 のための日本への着陸も不要になってきています」  「アジアの国々は日本を尻目に、着々と力をつけ ています。
例えばシンガポールです。
海上輸送のハ ブの地位を確立し古くから自由貿易港として栄えて きた同国は、航空輸送でも同政策を採り、国土の二・ 八%を占める大規模な空港を建設しました。
この二・ 八%という面積比を日本に当てはめると、四国の半 分に相当します。
しかも、空港はジュロン・ポート という海港に直結している。
そして、アジアではい ち早くオープンスカイ政策を採り、航空便を誘致し ています」 ──中国や韓国、タイ、マレーシアなども大規模な 空港を建設しています。
 「お隣の韓国について言えば、日米間では従来型 の航空協定の制限があるのに対し、米国と韓国との 間は自由化されている。
仁川空港の着陸料は日本の 二〜三分の一の水準です。
しかも二四時間発着でき る。
米国の航空会社にとっては韓国に乗り入れた方 がおトクということです。
このため、仁川空港をハ ブとしたルートが出来上がりつつあります。
中国に ついても同様です」  「日本の空港がハブになれないのは誰の目にも明 らかです。
空港施設は貧弱で、特に成田では建設も ままならない。
着陸料は世界一高額。
自殺的とも言 える料金です。
荷役や他の諸費用も高い。
これでは 人・モノ・おカネを運んでくる航空会社に、結果的 日本の空港に来るな、と言っているのと同じです」 ──用地費や人件費などから、利用料は高くなって しまう。
 「空港の経営では役人の天下りを排除し、純粋な 民営として優れた経営を行うとともに、国益に基づ いて一般会計から資金を導入して利用料を抑えるべ きです。
空港を航空会社が入り易い、費用の安い、 規制の少ないインフラストラクチャーに今すぐに作り 直す必要があります」 ──海上輸送でも日本港湾の地位低下が言われて久 しい。
   「航空輸送もそうなりかねません。
成田は現在、 国際航空貨物取扱量では世界第三位ですが、それで 喜んでほしくない。
空港の受益者である国民・国家 を第一義に考えて開かれた空港を作り、世界に対し て航空自由化を提案すれば、世界有数の輸出産業が あり、購買力があり、旅行好きで可処分所得を持つ 国民が存在する我が国には、世界中の航空機が集ま ってくるでしょう」 ──日本は現状に甘え、周辺国との競争の土俵にも 上がっていないということですね。
 「我が国はいろいろな意味で航空後進国です。
空 港はどこも未完成、国家としての航空戦略はなく、 既存の航空会社の横やりもあって新規参入は容易で はない。
政府による保護の結果として、日本の航空 会社はムダが多く、コストが高く、競争力の低い体 質になってしまっている」  「このままいけば、そのツケは国民に回ってくる ことになります。
徐々に、ゆっくりと、日本の航空 輸送は衰退していくでしょう。
アジアと欧米を給油 なしで楽に飛べる、航続距離の長い次世代航空機が 就航する二〇一二年頃が境目です」

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