*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。
JUNE 2008 24
日の丸インテグレーター離陸
日本通運/近鉄エクスプレス/全日本空輸
全日本空輸を貨物輸送のキャリアとして、日本の大手フォ
ワーダーが株主に名を連ねる日の丸インテグレーターがいよい
よ離陸する。 事業に参画する各社の同床異夢を懸念する声は
小さくない。 それでもエクスプレス便幹線輸送の共同運行は、
国際物流事業の新たなモデルを提示する可能性がある。
(大矢昌浩)
二〇時に集荷してアジアに翌日配送
国際インテグレーターは現在、エクスプレス便の首
都圏の集荷締め時間を一七時から一八時に設定して
いる。 集荷した荷物の通関を切って、その日のうち
に成田から出荷するためのタイムリミットとなるから
だ。 これに対して七月に営業開始予定のオールエクス
プレスは他社よりも二〜三時間、集荷締め時間を引
き延ばすことができる。 ハブ拠点を日本に置く和製
インテグレーターの強みだ。
首都圏からの輸送には成田ではなく羽田を使う。 羽
田で通関を切って深夜〇時一五分の関西空港行きの
貨物便に乗せる。 これによって二〇時〜二一時に首
都圏のオフィス街で集荷した荷物をその日のうちに出
荷できる。 現在、七月の営業開始に向けて羽田の通
関許可を税関と調整中だ。 関空から上海や香港向け
のフライトは深夜三時。 五時半には現地に到着する
ので午前中に配達が完了する。
二〇〇九年下期にはハブを関空から沖縄の那覇空
港に移す。 国際インテグレーターはアジアのハブを東
南アジアや中国に置いている。 それより飛行機で数
時間分、日本寄りにネットワークの支点がシフトする。
フライト四時間圏の円内に中国を始めとしたアジアの
主要都市と羽田、関空が収まる。
全日本空輸(全日空)が貨物専用機一〇機を沖縄
ハブに投入し、アジア主要都市間をピストン輸送する。
具体的には、上海、華北、香港、台湾、ソウル、ハ
ノイ、バンコクの七地区と那覇を単純往復させてハ
ブ・アンド・スポークで結ぶ。 さらに一〇年までには
大型機四機を含む延べ一四機を投入する計画だ。
エクスプレス便のブランド名は「アレックス(AL
LEX)」。 その事業計画をオールエクスプレスの吉冨
紹道社長は「営業初年度となる今期の売上高が二二、
二三億円。 十一年度には六〇〇億円を見込んでいる。
そのうち日本発着の貨物は四割程度、二四〇億円と
弾いている。 市場シェアは十二、三%になる。 残り
の六割は日本以外のアジア主要都市間の翌日配送需
要を取り込む」と説明する。
今年四月に設立した同社には三六%を出資する全
日空を筆頭株主として、日本通運と近鉄エクスプレス
(KWE)がそれぞれ三〇%を出資している。 さら
に郵船航空サービスと商船三井ロジスティクスも一・
四%ながら出資者に名を連ねている。 日本の航空貨
物業界が総出でエクスプレス企業を立ち上げた格好だ。
もともと那覇空港に二四時間稼働の国際貨物基地
を設置して日の丸インテグレーターを飛ばそうという
計画は、安倍内閣がまとめた「アジア・ゲートウェ
イ構想」に、全日空が同調したものだ。 いわば日本
の国策だ。 ただし、当初のプレーヤーは日通とKWE、
そして日本航空のはずだった。
日通・KWEの両者は昨年、欧米の国際インテグ
レーターに対抗して合弁でインテグレーターを設立す
ることで合意した。 キャリアは日本航空に資本参加
を打診していた。 しかし財務問題が深刻化していた
日本航空が決断に踏み切れなかったことから、急遽
パートナーを全日空に切り替えた。
全日空は現状で一〇〇〇億円余りの貨物事業を一
五年に七〇〇〇億円に引き上げるという大胆な拡大
計画を掲げている。 機材を増やすだけではとうてい
目標は達成できない。 エクスプレスやロジスティクス
などに事業領域を思い切って拡大する必要があった。
しかし、これまで全日空は営業をフォワーダーに依存
してきただけに、荷主とのパイプがなかった。
吉冨社長は「当社にとってはそれが貨物事業拡大
25 JUNE 2008
特 集巨大物流企業の攻防
の一番のネックだった。 従来から当社はエクスプレス
事業には魅力を感じていたが、フォワーダー抜きでは
とても事業をスタートできなかっただろう」という。
しかも相手が日通、KWEとなれば、営業力だけで
なく末端の集配業務でも協力を期待できる。 合弁事
業の申し出は、まさに渡りに船だった。
フォワーディング市場も成熟化
日系の大手フォワーダーやヤマト運輸、佐川急便と
いった国内の主要物流企業は、国際インテグレーター
にとって、かつては有力な提携先だった。 海外と国
内でネットワークを補完し合うことができた。 実際、
ヤマトとUPS、日通とフェデックス、佐川とDHL、
KWEとTNTという組み合わせで戦略的提携が結
ばれていた。
しかし、そのすべてが今では破談になるか有名無
実化している。 対象貨物をエクスプレスから一般貨物
に拡げ、世界的な輸送ネットワークの構築に乗り出し
たインテグレーターは、日本の有力物流企業に買収に
よる傘下入りを望んだ。 しかし、日本企業はそれを
拒否した。 水面下で買収交渉が浮かんでは消え、実
を結ばないまま時間だけが過ぎていった。 そのうちイ
ンテグレーターの関心は日本から中国やインドに移っ
た。 経営スピードが違いすぎる。 日本では必要最小
限の集配ネットワークを自社で構築するにとどめ、リ
ソースを成長市場に集中させようと戦略を転換した
のだ。
日本の物流企業はハシゴを外された。 国内市場は
既に成熟し、このまま内にこもっていては衰退を免
れない。 しかし単純なフォワーディングではもはや利
益が出ない。 荷主の支払う航空貨物運賃は〇四年以
降、大幅に上昇した。 ただし、上がったのは燃油サ
ーチャージだけで、それを除いた正味運賃はむしろ低
下傾向にある。
近鉄エクスプレスの辻本博圭社長は「航空貨物は
儲からなくなった。 ザックリ言えばアジア圏の運賃は
今やキロ当たり三〇〇円だ。 それも運賃が二〇〇円
に対し、サーチャージが一〇〇円もかかっている。 昔
は一〇〇〇円したことを考えると大変な値下がりだ。
しかもサーチャージは今後ますます上がっていくだろ
う」という。
売り上げは伸びていたとしても、数字にはゲタが
履かされている。 荷主から収受した燃料サーチャージ
はそのままキャリアに渡る。 右から左に通過するだけ
だ。 いたずらに売り上げ金額だけが膨らむ。 そして
サーチャージの高騰は、正味運賃の値下げ圧力となっ
て降りかかる。 輸送費を抑えるために、航空貨物か
ら海上輸送へのシフトも顕著になっている。
日系企業の国際物流の主戦場はアジアだ。 今やア
ジアの域内輸送が総需要の過半を占めている。 欧米
に輸送するのとは違ってアジア域内であれば船便でも
リードタイムは三〜四日で済む。 その程度の差であれ
ば、運賃の安い方を選ぶ荷主が増えている。 日本の
航空貨物輸送の市場規模は〇四年以降、三年連続で
横ばいで推移している。 これまでずっと右肩上がり
で推移してきた市場がここにきて頭打ちになった。
荷主の国籍による棲み分けも崩れている。 日本通
運の藤居憲二航空事業部長は「このところ欧米のイ
ンテグレーターは、荷主が本社を置く東京の都心部で
はなく、特定の工場にハッキリと的を絞って、北関
東など地方に営業拠点を配置するようになっている。
日系メーカーが組織のスリム化で調達の決定権を本社
から現場に移していることをよく分かっている」と
舌を巻く。
沖縄
華北地区
ソウル
関空羽田
上海
台北
ハノイ香港
ホーチミン
バンコクマニラ
クアラルンプール
シンガポール
ジャカルタ
沖縄ハブ路線(予定)
サービス展開予定地
沖縄展開時のネットワークイメージ
全日空資料より
航空フォワーディング事業では、自動車や家電、精
密機械などのグローバルメーカーと並んで、そこに部
品を納入するサプライヤーが最も重要な顧客セグメン
トとなっている。 小さな荷物が多いため、エクスプレ
スもよく利用する。 インテグレーターの格好のターゲ
ットだ。 日系フォワーダーには大きな脅威だ。
こうして国内の環境が厳しくなる一方、アジア域
内のエクスプレスは急拡大を続けている。 それを日系
物流企業が取り込むには、巨額の投資を覚悟して単
独でインテグレーターに名乗りを上げるか、あるいは
他社と手を組むか、今となっては選択肢は限られて
いる。 〇五年に日本貨物航空を連結子会社化した日
本郵船、〇六年にギャラクシーエアラインズを設立し
た佐川は前者を志向する。 それに対して日通とKW
Eは全日空を巻き込み後者を選んだ。
藤居航空事業部長は「当社の物量ならジャンボ機
二、三機を常に満載にすることができる。 直接的な
コストはスペースを買うより有利かもしれない。 しか
し、溢れた分だけキャリアにお願いするというのでは
十分な協力は得られない。 そのために当社は利用運
送に徹し、自社飛行機などのアセットは持たないとい
う方針を従来から明確にしている」という。
日系航空フォワーダー大手三社のなかでも日通の事
業規模は群を抜いている。 それだけキャリアに対する
影響力も強い。 ライバルとの差別化の武器になって
いる。 その強みを投げ打って、大きな賭けに出るこ
とには慎重にならざるを得ない。 インテグレーターの
ビジネスモデルに対する疑念もある。 買収を重ねて巨
大化したものの、現状では期待された通りの強さを
発揮しているようには思えない。 買収された会社の
社名が変わっても、実態はそう変わらない。 従来と
同様に各社がバラバラに活動している印象だ。 ビジネ
スモデルを追随することはない。
むしろ「日本の特殊なマーケットで培ったノウハウ、
キメの細かなサービスは外資系企業にも間違いなく
ウケる。 世界で通用する。 まだビジネスモデルとして、
はっきりとしたかたちを示すことはできていないが、
当社はインテグレーターとは違う日本型のグローバル
プレーヤーを目指していきたい」と藤居事業部長は
考えている。 エクスプレスでライバルと手を組んだオ
ールエクスプレスが、その試金石になりそうだ。
組織の統合に課題
国際インテグレーターは現在、エクスプレスとフォ
ワーディング、3PLという全く性格の異なる事業を
同じグループ内に抱えている。 日本の宅配便と同様に、
エクスプレスは高度にパッケージ化された商品で、サ
ービス品質と集荷力が勝負になる。 そこでは現場の
労務管理が大きくものをいう。 それだけに自国で培
ったノウハウを海外に移転するのは容易ではない。
一方、フォワーディングと3PLには顧客仕様に
カスタマイズした柔軟なソリューションが求められる。
顧客の懐に深く入り込む営業力と、高度なロジスティ
クス管理のノウハウを兼ね備えたエリート人材を、ど
れだけ社内に確保できるかで事業規模が左右される。
人事制度から収益構造まで装置産業のエクスプレスと
は正反対のビジネスだ。
これらすべての統合に成功した事例は今のところ
見当たらない。 逆にTNTはロジスティクス部門とフ
ォワーディング部門を売却し、エクスプレスとメール
に特化する方針転換を打ち出している。 フェデックス
もエクスプレスの獲得につながらない関連事業は切り
捨てる傾向にある。 グローバル市場の勝敗はまだつい
ていない。
JUNE 2008 26
140
120
100
80
60
40
20
0
35
30
25
20
15
10
5
‘97 ‘98 ‘99 ‘00 ‘01 ‘02 ‘03 ‘04 ‘05 ‘06 ‘07
(上位3 社、単位:万トン)) (業界全体、単位:万トン)
業界全体
日本通運
近鉄エクスプレス
郵船航空サービス
図1 日本発JAFA混載実績
出典:日通航空資料より
日本通運の
藤居憲二航空事業部長
特 集巨大物流企業の攻防
27 JUNE 2008
──当面は欧米系を相手に価格攻勢をしかけていく
ことになりますか。
「無理に値段を下げて荷物を集めるようなことは
しません。 料金は他の国際インテグレーターと同じ
水準になります。 エクスプレスの実勢料金やサービス
はどこも既に均質化しています。 荷主がエクスプレ
スを選択するポイントは、サービスの信頼性や、使
いたい路線にうまく時間帯が合致しているかといっ
たことであって、値段を安くすることではありませ
ん。 当社の一番のセールスポイントは、あくまでも
他社より集荷の締め時間を引き延ばせるところにあ
ります」
──料金表はオールエクスプレスが一律で決めるの
ですか。
「もちろんタリフは当社が作ります。 代理店に卸
す値段も決めます。 ただし当社はあくまでもエクス
プレスの卸業者です。 荷主の支払う市場運賃はフォ
ワーダーが各荷主と相対で交渉することになります。
各荷主のボリュームその他の取引条件が当然、そこ
には反映されることになるでしょう」
——日系大手フォワーダーが既存顧客に本気で売り
込めば、相当な荷物が獲得できそうです。 それだけ
の顧客は握っている。
「アジア域内のエクスプレスは今後確実に物量が増
えていきます。 そこに当社は参入していくわけで
すが、既存の荷物を他社と奪い合うというのではな
く、新たな需要を作りだし取り込んでいくことを狙
っています。 とはいえパートナーの日通はこれまで
提携を結んでいるフェデックスに、KWEはTNT
に、それぞれエクスプレスの荷物を回してきたわけ
ですから、これからは当社を利用してもらえると期
待しています。 そのためにも、まずは実績を積んで
サービスに対する信頼を築いていかなければなりま
せん。 今年七月のスタートから三カ月間のオペレー
ションが特に大事だと考えています」
──フォワーダー側から見れば、全日空からキャリ
アとしての最大限の協力を引き出すことを、全日空
出身の吉富社長に期待しているはずです。
「十分承知しています。 全日空自身にとっても当
社は、沖縄ハブ構想、大型フレーター(貨物専用機)
の投入と並んで、中期経営計画における貨物事業拡
大政策の三本柱の一つとして位置付けられています。
全日空の経営トップが自ら音頭をとって当社を強力
にバックアップしています。 実際、当社のニーズに
合わせた、日系キャリアならではのフライトスケジ
ュールが組まれています」
──末端の集配網はどう組織しますか。
「当面はパートナーの既存のネットワークに頼るこ
とになります。 日本国内の集配は、日通にお願いし
ます。 中国本土も日通、香港はKWEに委託するこ
とになります。 しかし、将来はアジア各国にそれぞ
れ当社自身の現地法人を置いて自社集配網を作るつ
もりです。 特定のフォワーダーの色の付かない中立
的なエクスプレス企業として活動するためです」
──オールエクスプレスの二〇一一年度の売上高目
標は六〇〇億円。 また全日空自身では一五年に貨物
事業で七〇〇〇億円という大胆な目標を掲げていま
す。 ハードルはかなり高い。
「もちろん簡単な目標ではありません。 従来通り
のキャリアの貨物事業のやり方では目標を達成でき
ないのは明らかです。 これまで全日空の貨物事業
は空港から空港へ、単純に輸送しているだけでした。
このやり方ではジャンボ機一機で年間一〇〇億円程
度の収入規模を得るのがやっと。 いくら機材を増や
しても目標には追いつきません。 しかしエクスプレ
スは、キャリアにとって旅客で言えばビジネスクラス
のようなもの。 もちろんコストはかかりますが、一
機当たりの収入規模はグンと跳ね上がります」
「日系キャリアの地の利を生かす」
オールエクスプレス 吉冨紹道 社長
Interview
商 号 株式会社オールエクスプレス
(英文名) All Express Corporation
代表者 代表取締役社長 吉冨紹道(よしとみ・つぐみち)
本店所在地 東京都大田区羽田空港3丁目2番6号
設立日 2008年4月1日
営業開始日 2008年7月(予定)
資本金 2億1千万円
出資比率 全日本空輸株式会社(36.38 %)
日本通運株式会社(30.38 %)
株式会社近鉄エクスプレス(30.38 %)
商船三井ロジスティクス株式会社(1.43 %)
郵船航空サービス株式会社(1.43 %)
商品ブランド名 『ALLEX』(アレックス)
|