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子会社政策
日立物流
資生堂から譲り受けた物流子会社が
初年度に5億円の営業利益を確保
「物流子会社再構築事業」の試金石
「私の最大のミッションは、日立物流に移っ
てくる一六〇〇人近い人たちの不安感をいか
に取り除くかにあった。 本当は一年目から人
員削減をやらなければいけない部分もあった。
しかし、そこには一切手を出させなかった」。
昨年四月に発足した日立物流コラボネクスト
(旧資生堂物流サービス)の初代社長を務めた
一年間を、日立物流の関山哲司副社長はこう
振り返る。
日立物流は二〇〇七年四月、資生堂から物
流子会社の資生堂物流サービスを正式に譲り
受けた。 資生堂が一〇〇%保有していた物流
子会社の株式のうち九〇%を日立物流が約二
八億円で取得。 全国に九カ所ある物流センタ
ーは、土地・建物を物流不動産大手のプロロ
ジスが、施設内にある機械設備を日立キャピ
タルが計一八三億円で買い取った。
この資産譲渡に伴い、日立物流と資生堂は
二〇一二年三月を期限とする新たな物流アウ
トソーシング契約を締結。 これによって日立物
流は大型の3PL契約を手中に収め、代わり
に〇七年三月期に一七〇億円程度(契約時の
試算値)だった資生堂の支払い物流費を、五
年後に約一五〇億円(物量が同じと仮定した
場合の数値)まで引き下げることを約束した
(本誌〇七年二月号参照)。
新会社は日立物流コラボネクストと命名さ
れ、昨年四月二日に再出発した。 ?コラボネ
クスト?という聞き慣れない言葉は、関係者
が話し合うなかで案出された造語だ。 これか
ら事業パートナーとして資生堂とコラボレーシ
ョン(協調)していくことと、新会社自体は
3PL事業者として次のステージに進もうと
いう意思が込められている。
コラボネクストの初代社長には、冒頭にもあ
る通り関山氏が就任した。 親会社の一〇分の
一にも満たない規模の子会社のトップに、兼
任とはいえ本体の営業責任者が就くという異
例の人事だった。 買収した企業の処遇にこれ
ほど気を遣ったのには理由がある。 日立物流
にとってこの案件が、目先の売上高を伸ばす
のとは次元の異なる重要性を持つものだった
からだ。
日立物流は三年後の十一年三月期に、連結
売上高五〇〇〇億円、営業利益二五〇億円を
めざす経営目標「二〇一〇年ビジョン」を掲
げている。 〇八年三月期決算では売上高三三
八二億円、営業利益一四〇億円で五期連続の
増収増益という好業績を維持している。 しか
し「二〇一〇年ビジョン」を実現するために
昨年4月に発足した日立物流コラボネクスト(旧
資生堂物流サービス)が、初年度の決算で約5億円
の営業利益を計上した。 日立物流の「物流子会社
再構築事業」の将来を左右する大型案件が順調に
滑りだした。 資生堂に約束したコスト削減を達成す
るために、今後は人材の有効活用が課題となる。
日立物流の関山哲司副社長
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は、現在の成長率の維持に加え、複数の大型
買収を積み上げることが欠かせない。
その具体的な戦術の一つとして「物流子会
社再構築事業」と名付けた施策を推進してい
る。 将来性を描けずにいるメーカー系物流子
会社を日立物流が人材ごと引き受け、同社の
ノウハウを注入することで再生させるという
ものだ。 今回のケースはいわば同事業の試金
石であり、失敗の許されない案件だった。
3PL事業の新しいアプローチ
周知のように日本には物流子会社が一〇〇
〇社近くある。 単独決算中心の時代には相応
の役割を持っていた物流子会社だが、日本の
会計基準が連結決算重視に変わったことなど
から存在価値は失われつつある。 グループ構
想から外れ、将来ビジョンを描けなくなって
いるケースも少なくない。
こうした物流子会社は、ほぼ例外なく?人
の問題?に悩まされている。 過去に親会社の
都合で送り込まれた余剰人員や、物流専業者
に比べて相対的に高い給与体系などが、物流
マーケットで競争力を発揮できない原因にな
っている。 企業の人員削減に依然として厳し
い視線が向けられている日本的雇用慣行の中
では、親会社からの独立は容易ではない。
このような企業を人材ごとグループ内に受け
入れ、蘇らせようというのが日立物流の「物
流子会社再構築事業」である。 同事業の第一
号案件は〇五年六月に買収したクラリオンの
物流子会社だった。 買収時の年商は約二〇億
円。 四〇人余りの人材が新たな職場を見出し、
親会社のクラリオンもコスト削減を実現でき
た。 この経験が日立物流の成功体験となって
いる。
それ以前にも同社では、3PL案件の受託
に際して荷主の物流部門の人材を引き受ける
ことが珍しくなかったという。 関山副社長は
「暖簾代を支払ったのはクラリオンさんが最
初だが、物流業務を一括受託するケースでは、
以前から人材を受け入れてきている。 我々に
は人はもちろん会社そのものを受け入れる覚
悟がある」と強調する。
二つの定例会議で意思を疎通
もっとも、一七〇億円余りの売上規模と一
六〇〇人近い従業員を擁する資生堂物流サー
ビスを、日立物流グループ内に吸収し定着さ
せるのは簡単ではなかった。 〇六年十二月の
資産譲渡の基本合意から、翌年四月のコラボ
ネクスト発足までのわずか四カ月の間にも、や
るべきことは山積していた。
このとき日立物流は三つのプロジェクトチ
ームを立ち上げた。 ?新会社に移行する人た
ちの給与体系や就業規則などを資生堂と一緒
に人事・総務面から検討するチーム、?物流
インフラを実用面から精査するチーム、?基
本合意を最終契約に落とし込んでいくチーム
である。
一連のプロジェクトには延べ四〇人近い日
立物流の社員が参加した。 とくに二番目の
「物流資産の精査」では、基本合意の際に実
施した資産査定(デューデリジェンス)を中心
とする調査とは異なり、ロジスティクス・エ
ンジニアリング部の技術者が全施設と設備を
一点ずつチェックする必要があった。
人事・総務面については、賃金などを従来
のまま三年間維持するという資生堂と日立物
流の合意が既に成立していたため、大幅に見
直す必要はなかった。 ただし健康保険につい
ては、健保組合の状況に若干の差異があった
ため、あらかじめ関係者に納得してもらう必
プロロジス
日立キャピタル
資産売却
賃借
株式売却
〈子会社〉
物流サービス
日立物流コラボネクスト
(旧 資生堂物流サービス)
日立物流グループ
資生堂日立物流
物流施設
(土地、建物、設備等)
10%株式保有90%株式保有
物流アウトソーシングのスキーム
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要があった。 新たなアウトソーシング契約を含
む最終契約を締結するまでに、必要な作業を
一つずつこなしていった。
こうして〇七年四月に正式にコラボネクス
トが発足した。 資本系列が変わっても業務水
準は同じであることを、まずは証明する必要
があった。 資生堂との新たな情報交換のあり
方を模索した。 毎月の定例会として、日々の
業務について議論する「SH定例会議」と、
資生堂と新製品情報などを共有する「業務連
絡会議」の二つを設置することになった。
「SH定例会議」は毎回、コラボネクストの
月例の所長会議と同じ日程で開催する。 資生
堂のロジスティクス部門の関係者と、コラボネ
クストの役員およびセンター長が参加して、物
量やコスト、物流品質などの問題点と改善計
画について経営指標を見ながら話し合う。 在
庫差異や輸送トラブルなどの原因究明や対策
もここで講じる。
「業務連絡会議」には、資生堂からは同じ
くロジスティクス関係者が出席するが、コラ
ボネクストからは主にスタッフ部門の社員が参
加。 資生堂がマーケットに投入しようとして
いる新製品の販売情報などを共有する。 いず
れも日立物流の他の3PL案件でも欠かせな
い情報共有ではあるが、今回の案件ならでは
の特徴もある。
一連のプロジェクトを主導し、コラボネクス
トが発足してからは同社の取締役を務めてい
る日立物流・グローバル営業開発本部の福本
新会社が発足する一カ月ほど前に、日立物
流の代表として全国を訪問。 さらに四月に入
ってコラボネクストが動きだすと、今度は社
長として各センターを回った。 新たに契約相
手となった各地の資生堂の販売部門や、同じ
エリアで活動している日立物流グループの関
係者にも声を掛けて、コラボネクストの従業
員たちとの交流を促していった。
関山氏は結局、一年間で各センターをそれ
ぞれ四、五回ずつ訪問した。 だが現場レベル
の業務にはあえて口を出さなかった。 二〇年
以上にわたって化粧品の物流を手掛けるコラ
ボネクストは、この分野のプロだ。 品質面な
どでは、むしろ日立物流が学ぶべき点も少な
くなかったという。
こうした地道な努力の甲斐あって、コラボ
ネクストは順調に動きだした。 従来は手掛け
ていなかった資生堂グループの仕事も新たに
担うようになり、資生堂グループ以外の仕事
も既に二件スタートした。 その結果、初年度
の決算は売上高一七六・五億円、営業利益
も約五億円を計上。 当初見込みでは、ある程
度の混乱も予想して収支トントンもしくは赤
字になることを覚悟していたことを考えれば、
予想以上の滑り出しだった。
発足時、コラボネクストの従業員数は一五
六一人(社員二五三人、パート・アルバイト・
派遣社員など一三〇八人)だった。 これが一
年後には一五二三人人(同二五四人、同一二
六九人)と三八人減ったが、約束通り雇用に
和哉担当部長は、「原価の開示を前提として
いるため、かなりの情報をお互いに共有でき
るよう資料で提供している」と説明する。 情
報開示の内容を事前に契約で取り決めていた
わけではないが、元々すべてを知る相手だけ
に何も隠しようがなかったようだ。
モチベーションの維持に腐心
今回の案件では、既存の従業員を新体制に
スムーズに移行させ、同時に荷主の物流コス
トを削減していく必要がある。 従業員のモチ
ベーションを維持し、日立物流グループのな
かで新たな活躍の場を与えられるかどうかが
カギになる。 そのため、まずは人心の掌握に
全力を注いだ。
関山氏が初代社長に就いたこと自体、この
案件に対する日立物流の姿勢を関係者に示す
という狙いが大きかった。 実際、コラボネク
ストの経営面の実務は、実質的には初年度か
ら日立物流出身の海野和則常務(現社長)が
担当。 関山氏は全国九カ所の物流センターを
行脚するという役割に徹した。
日立物流・グローバル営業開
発本部の福本和哉担当部長
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は手をつけていない。
もちろん日立物流としても、資生堂にコス
ト削減を約束している以上、いつまでも現状
の体制を維持することはできない。 この点は
コラボネクストの社員にもすでに明言してい
る。 当面の課題は、間接業務に携わっている
社員数が多すぎる点にある。
成功のカギは本体の成長
従業員のクビを切らずに総人件費比率を減
らす現実的な方法は二つある。 グループ内の
他の成長部門で人材を活用するか、
あるいはコラボネクストの事業規
模を拡大させるかだ。 この二つを
組み合わせた人材活用方法に既に
着手している。
コラボネクストの社員に希望者
を募り、今年四月から一四人を日
立物流本体に出向させた。 出向者
は主に三〇歳代。 その大半は日立
物流の3PL部門で営業活動につ
いて学んでいる。 中国に渡って国
際物流の勉強をしている者もいる。 今後二、
三年で3PL営業のノウハウを持つ人材に育
て、彼らがコラボネクストに戻ったときに独
自の営業活動を展開できるようにする。
こうした出向者を少なくとも四〇人まで増
やしていく方針だという。 日立物流自身の売
り上げが伸びているために、成長分野で人材
を活かし、人件費を吸収することができる。
コラボネクストの生え抜きの幹部も、こう
した変化を好意的に受け止めている。 「かな
り前から資生堂物流サービスの行き詰まりを
感じていた。 一番大きかったのは、ここ一〇
年ぐらい新入社員が入っていなかったことだ。
将来どうなるのかという思いはあった」と日
立物流コラボネクストの小林貞雄取締役。 中
堅社員の出向で人件費負担が軽減している間
に、新規採用を再開し社員の年齢構成を適正
化していけることを歓迎している。
現場をより効率化していくための対策も講
じた。 実はコラボネクストの現場には従来、出
荷検品のためのハンディターミナルが入ってい
なかった。 ツールに頼らなくても十分な検品
精度を確保できたからだ。 しかし、このこと
がベテラン作業者に依存する一因にもなって
いた。 小林取締役は以前からハンディターミ
ナルの導入を主張していたが、資生堂本体の
許可が下りなかった。 それがコラボネクスト
になってすぐに許可され、新たな設備投資を
伴う作業改善に道が拓けた。
二年目以降は物流ネットワークのスリム化
にも本腰を入れる。 現状では九カ所あるセン
ターのうち、少なくとも一カ所は他センター
に統合する。 センター内の過剰設備について
も少しずつ見直していく。
さらに関山副社長は、「当社はM&Aあり
きでは動かないが、このレベルの案件を国内
であと三つは作らなければいけないと思って
いる」と明かす。 物流子会社の処遇に悩む親
会社にとっては、日立物流のソリューション
が有力な選択肢の一つになりそうだ。
(フリージャーナリスト・岡山宏之)
日立物流コラボネクストの
小林貞雄取締役
日立物流コラボネクストの「関東物流センター」
ピッキング後の検品・梱包ライン6 箱搭載の電動ピッキングカート
アパレル通販の物流を新規受託した稼働時よりかなり軽量化した仕分け機
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