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JULY 2008 20
バブル崩壊以降、日本企業は時間をかけて人材を育て
技術を継承するという長期的な視点を失った。 ピンハネ
業を解禁した1999年の規制緩和がそれに拍車をかけた。
時計の針を規制緩和前まで巻き戻す必要がある。 それに
よって最大の影響を受けるのは物流業だ。
(聞き手・大矢昌浩)
派遣ユニオン 関根秀一郎 書記長
「労働規制強化が物流現場を襲う」
ピンハネ解禁の経緯
──グッドウィルやフルキャストの主な派遣先は物流
現場です。 日雇い派遣を禁止すれば物流への影響が
避けられません。
「そもそもグッドウィルやフルキャストは物流業そ
のものです。 振り返れば偽装請負が社会問題化した
二〇〇六年にターゲットになったのはキヤノンやトヨ
タなどの製造業でした。 そして昨年はグッドウィル
やフルキャストの日雇い派遣問題が表面化した。 も
の作りが偽装請負、物流が派遣。 日本の産業構造の
基幹となっている部分が、タコ部屋労働や日雇いな
ど非常に劣化した雇用によって担われているという
構図は、極めて大きな問題であるはずです」
──そうした事態を招いた引き金は、やはり一九九
九年の人材派遣業の規制緩和でしょうか。
「必ずしもそれだけではないと思いますが、九九
年の規制緩和が大きなターニングポイントになったこ
とは確かです。 しかし、その前にバブル経済の崩壊
があった。 その頃から、日本企業は長期的な視点を
急速に失っていきました。 時間をかけて人材を育て、
技能を継承していくという考え方をなくし、とにか
く安くて雇用調整しやすい労働力を追い求めるよう
になった。 短期的な視点へと一気に流れていったのが、
バブル崩壊以降の流れだったと思います」
「それを体系的に提言したのが、日経連が九五年
に発表した『新時代の日本的経営』という報告書で
した。 この提言を受けて九〇年代の後半には、雇用
の流動化を実際に進めるための規制緩和が行われま
した。 労働基準法や人材派遣法、職業安定法など
が次々に緩和されていった。 それが決定的になった
のが九九年の人材派遣の自由化でした。 それはまさ
に?ピンハネ?の解禁でした」
──労働法の規制緩和は日本に限った話ではなく、
九七年にILO国際労働機関は人材派遣業の原則自
由化を打ち出しています。
「九七年のILO第一八一号条約には、派遣を解
禁しろとは一言も書かれていません。 全ての派遣業
務について、きちんと労働者保護を徹底しろと言
っているだけです。 それを国や財界が意図的に曲解
するかたちで派遣業解禁の理由に使ったに過ぎない。
解釈が明らかに間違っています」
「また雇用の流動化は確かに日本だけの動きでは
なく、米国の新自由主義経済が世界を席巻していく
流れのなかで起きた現象です。 しかし、それによっ
て各国でワーキングプアが生まれているのも事実で
あり、欧州のようにそれに抵抗している国々もまた
あります」
──物流人材派遣ベンチャーも、その規制緩和に乗
って登場してきたわけですね。
「正確にはフルキャストは九二年、グッドウィルは
九五年に事業を開始していますから規制緩和の前に
なります。 当初は軽作業請負という名目で非合法
でスタートしたわけです。 それが九九年に合法化さ
れたことで急成長を遂げていく。 合法化がなければ、
その後の成長も株の公開もなかった」
──しかしグッドウィルは身売り、フルキャストも事
業縮小と事実上、派遣ベンチャーは息の根を止めら
れました。
「当然のことだと思います。 私自身、実際に経験
したので分かりますが、物流の仕事は実にきつい。
それに見合うだけの高収入と安定雇用でなければ、
人が集まらないはずです。 ところが現実にはコスト
カットの連続で限界を超えるところまでコスト削減
Interview ワーキングプア問題の波紋
特集もう派遣には頼れない
21 JULY 2008
せきね・しゅういちろう 1964年、東京
生まれ。 岩手大学中退。 専門誌編集記者時
代に個人加盟を前提とした地域型労働組合
の東京ユニオンに加入。 94年、東京ユニオ
ン専従スタッフ、同書記長、同執行委員長
などを歴任。 2005年に派遣ユニオンを結
成。 現在、派遣ユニオン書記長、NPO派
遣労働ネットワーク事務局次長。
派遣ユニオン
派遣スタッフやパート、契約社員などの
非正規雇用労働者を中心に2005年に設立
された独立系労働組合。 グッドウィルユニ
オン、フルキャストユニオン、KDDIエボル
バユニオンなどの運動体を傘下に組織して
いる。
PROFILE
してしまった。 その結果、もはや安定雇用ができる
ような業界ではなくなってしまった。 定番の労働者
を募集しても誰も来ない」
「そのためグッドウィルやフルキャストを使って、
物流業界に労働力をむりやり流し込むような人の集
め方をした。 例えば五〇人もの日雇い派遣労働者を
物流現場に送り込む。 その大半は『こんなきつい仕
事を、こんな値段でやってられるか』と次の日は来
ない。 それでも次の日は別の五〇人を流し込む。 そ
んなやり方が物流業界に広がってしまった」
──日雇い派遣を禁止しなくても、今となってはグ
ッドウィルやフルキャストには人が集まらないのでは。
「世間や行政の監視の目が厳しくなったことで、
さすがにグッドウィルやフルキャストもコンプライア
ンスに配慮せざるを得なくなっています。 その結果、
物流会社は従来のように前日ではなく、三日前まで
に日雇い派遣のオーダーを出さなくてはならなくな
っている。 しかし、それも三番手以降の派遣会社に
仕事が流れているに過ぎません。 ピンハネ自体を禁
止する必要があります」
登録型派遣を禁止
──九九年の規制緩和前の状態に戻せという声はナ
ンセンスだという批判もあります。 派遣事業は真っ
当なビジネスであり、原則的には自由化すべきだと
いう考え方です。
「自由化した結果を見るべきです。 低賃金、不安
定雇用、労働災害の多発という三つの大きな問題点
を抱えることになってしまった。 派遣制度というの
は基本的にピンハネ業であり、原則として禁止すべ
きです。 とはいえ、急速な変化に対する緩和措置も
必要でしょう。 そのため我々は、九九年以降に新た
に解禁された業務についての登録型派遣を禁止する
という措置を提言しています」
「そして九九年以降の自由化によって拡大した業
務とは、メーンは製造と物流です。 このうち製造派
遣は既に、労働者の確保が困難になっていることから、
常用化に急速に進んでいる。 一方、物流は日雇い派
遣がいまだに大手を振っている。 つまり登録型を禁
止して常用型だけにするという規制は、具体的には
物流における派遣を禁止していくということなんです。
それによって物流業界からは、それでは困るという
声が上がるかもしれない。 しかし、日雇い派遣など
なかった時代にも物流業は営まれていたのですから、
そこに戻るだけです」
──登録型を禁止するということは、日雇いでなく
てもダメということですね。
「そうです。 仮に日雇いが一カ月契約になったと
しても、低賃金、不安定、労働災害の問題は一向に
解決されない。 この三つの問題を解決するには常用
型派遣しかない。 従って現在の日雇い派遣業は常用
型派遣か、あるいは許可をとって有料職業紹介業に
転身するしかない」
──契約期間が三ヵ月以上でも登録型は問題ですか。
「不安定雇用であることに変わりはありません。
先日、グッドウィルから東和リースに派遣され、さ
らに港湾荷役の笹田組に二重派遣されて、港湾労働
で大ケガを負った労働者に話を聞きました。 彼は怪
我をするまで六カ月間そこで働いていた。 それでも、
彼は『こんな危険な現場に自分たちのような素人を
派遣するのだから事故など起こって当たり前だ』と
言っていました。 つまり三カ月どころか六カ月であ
っても、非正規雇用ではプロを育てることなどでき
ないんです」
●グッドウィルの給与表
9H 7,500 7,750 8,000 8,500 8,750
8H 6,500 6,750 7,000 7,500 7,750
7H 5,600 5,750 6,000 6,500 6,750
6H 5,000 5,000 5,250 5,500 5,750
5H 4,500 4,500 4,750 5,000 5,250
4H 4,000 4,000 4,000 4,500 4,750
(30 分) 590 605 625 665 685
9H 8,500 8,750 9,000 9,500 10,000
8H 7,500 7,750 8,000 8,500 9,000
(30 分) 760 785 805 850 895
E
スターター
拘束
時間
D
アシスター
C
サブリーダー
B
リーダー
A
チーフ
日勤
(日給)
日勤
短時間
(日収)
残業
夜勤
残業
出典:「日雇い派遣」派遣ユニオン、斎藤貴男著(旬報社)より
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