*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。
SEPTEMBER 2005 42
増益計画の達成は困難に
同社の売上高は約一二〇〇億円(二〇〇
四年十一月期)。 全国に約三〇〇〇台のトラ
ックを擁する食品物流の最大手である。 マヨ
ネーズ最大手のキユーピーの倉庫部門を発祥
とし、デリケートな卵製品の物流で培ったノ
ウハウを生かした事業を展開。 とくに食品メ
ーカーを対象にした共同配送事業に強みを持
つ。 近年ではコンビニエンスストアやスーパ
ーの専用物流など川下分野にも業容を拡大
しており、川下の比率は売り上げの三割程度
を占めている。
足元の業績は芳しくない。 二〇〇五年十
一月期の中間決算は連結売上高が前年同期
比六・七%増の六三二億七九〇〇万円とな
ったものの、営業利益は同一九・四%減の
十三億八九〇〇万円。 経常利益は同一四・
五%減の一四億一一〇〇万円、当期利益が
同十一・〇%減の六億一九〇〇万円と、増
収大幅減益となった。
約四〇億円の増収は、?食品関連業者や
外食チェーンなどからの専用物流の受託や共
同物流事業の受注拡大で約二二億円、?「そ
の他事業」セグメントにおいて、グループ会
社向けの燃料販売事業での販売価格上昇や、
車両販売の増加で約一八億円――という内
訳となっている。
営業利益は前年同期比で三億三〇〇〇万
円減少した。 その要因としては、?売り上げ
増加による要因(一億円強のプラス)、?コ
スト削減および減価償却費減(五億円強の
プラス)、?大型案件立ち上げ費用および顧
客の物流再構築への対応費用の発生(四億
円弱のマイナス)、?燃料単価の上昇(二億
円弱のマイナス)、?物流サービス向上に伴
うコスト、労務費の増加(四億円強のマイナ
ス)――が挙げられる。 世界的な原油高を背
景に燃料費が上昇する一方で、荷主への価
格転嫁を実現できず、さらに新規案件立ち上
げに伴う初期コストの負担増が重くのし掛か
った格好だ。
同社は、通期計画の売上高一二四三億円
(前年同期比二・五%増)、営業利益三八億八
〇〇〇万円(同四・〇%増)、経常利益三七
億五〇〇〇万円(同四・七%増)、当期利益一六億三〇〇〇万円(同一・一%増)を据え
置いたが、足元の事業環境を踏まえると、利
益面での達成はもはや困難であると言えよう。
株価も冴えない。 同社の株価は八月八日
の終値で一五七五円。 過去一年の最高値よ
りも一四%程度低い水準にとどまる。 企業評
価の物差しであるバリューエーションの観点
から見ると、四季報予想に基づく株価収益
率(PER)は十二・三倍、株価純資産倍
率(PBR)は〇・九倍となっており、時価
総額が同程度の陸運セクター銘柄の平均であ
るPER一七倍、PBR一・三倍をいずれ
も下回っている。 高騰している燃料費、荷主
からの単価値下げ圧力など足元のファンダメ
第15回
キユーソー流通システム
キユーソー流通システムの株価が低迷している。
利益成長への期待感が薄まっていることが背景に
ある。 同社が得意とする食品物流のマーケットは
規模が拡大しているが、原油高に加えて単価下落
が続くことで事業環境は厳しい。 今後は食品向け
路線便事業や求貨求車システム事業など新規ビジ
ネスの育成が大きな課題となりそうだ。
中島伸
ゴールドマン・サックス証券
投資調査部
ヴァイス・プレジデント
43 SEPTEMBER 2005
ンタルズの悪さに加え、株式市場における流
動性の低さ、将来の利益成長に対する期待
感の薄さが、同社の株式市場での評価の低さ
につながっていると考えられる。
物流外注化が追い風に
もっとも、同社を取り巻く環境がおしなべ
て悪いかといえば、そうでもない。 むしろ現
在、同社は二つの追い風を受けている。 第一
に食品メーカーを中心に物流アウトソーシン
グのニーズが高まっていることが挙げられる。
食品物流は衛生管理や賞味期限管理、品質
保持の高度なノウハウと設備が要求されるた
め、他業種に比べ物流コストは相対的に高い。
上場食品メーカーにおける売上高に占める物
流コストの割合は三〜五%程度(日本ロジス
ティクスシステム協会によると、社内物流費
を含めると七%程度)と言われている。 した
がって従来は自社物流を行っていた食品メー
カーが、コスト負担
を軽減する目的で、
専門的なノウハウを
持つ食品物流会社
に物流業務をアウト
ソーシングする動き
が活発化することが
考えられる。
第二に、ライフス
タイルの変化に伴う
食品業界の質的変
化がある。 女性の社
会進出や核家族化
は食生活の?個食化〞を促し、その結果、中
食や外食が増加している。 実際、九四年から
二〇〇二年までの我が国のトラック輸送量
(トンベース)は実質GDPと連動してほぼ
横這いであったのに対し、食品工業品(営業
用)の輸送量は年率五・六%で伸びている。
このような事業環境の中で規模を拡大し、
勝ち組となるには営業力がカギを握る。 同社
の売り上げに占めるキユーピー向け業務の比
率はすでに二〇%を切っており、外販獲得に
向けた営業力には定評がある。 これに対して、
他の食品メーカー系物流子会社には未だ収
入の七割程度を親会社に依存しているケース
も少なくない。 燃料費の高騰など利益面の圧
迫要素には注意が必要であるが、むしろ現段
階では売り上げの伸び率に注目したい理由が
ここにもある。
主力の食品物流事業のほかには、「スルー
便事業」と「QTIS(求貨求車情報シス
テム)事業」に着目している。 両事業ともニ
ッチなマーケットニーズを捉えており、成長
ポテンシャルは高い。
スルー便事業は食品向け小口配送で、食
品を対象にした路線便であると考えればいい。
全国に在庫拠点を持たずに、中小ロットで全
国配送できるため、とくに物量の少ない中堅
以下クラスの食品メーカーは、このサービス
を利用することで物流費の大幅削減が可能に
なる。 二〇〇〇年に事業を開始し、二〇〇
四年十一月期の売上高は六二億八六〇〇万
円だった。 オペレーションの改善や料金体系
の変更、営業強化などによって、二〇〇七年
十一月期には売上高一〇〇億円の達成を見
込んでいる。
QTIS事業は「貨物」を求める運送会
社と、「トラック」を求める荷主企業を仲介
して手数料を得るビジネスである。 荷主側か
らは配送する商品やその物量、希望金額など
の条件を、運送会社側からは空車日時や場
所、希望金額などの条件をインターネットで
同社のサーバーに入力してもらう。 同社は両
者から提示された条件を照らし合わせて最適
な組み合わせを提示して契約を交わす仕組み
になっている。
もともと同社ではQTIS事業を「幹線ト
ラックの積載率向上のための取り組み」と位
置付けていたが、近年では与信リスクの管理
やシステム改善などを実施し、収益事業の一
つとして積極展開を図ろうとしている。 新Q
TIS事業は来年初頭にもスタートする計画だという。 株式市場は投資対象としての会社の利益
成長に期待を寄せている。 同社が市場で評価
されるためには、スピーディーかつ積極的な
事業展開を進め、いかに明快な利益成長スト
ーリーを描けるかに掛かっていると言えるだ
ろう。
キユーソー流通システムの過去10年間の株価推移
|