ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2008年8号
特集
脱デルモデル 自動車産業のアジア物流戦略

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

世界五極にSCM部門を設置  日系自動車メーカーのロジスティクスは現地生産・ 現地販売を基本とする。
自動車は家電やデジタル機器 などと比べて遙かにモノが大きいため輸送費が高くつ く。
関税や為替のほか、貿易摩擦の問題もある。
そ のため各社ともグローバル市場を分割し、ブロックご とにヘッドクオーターを置いて域内のサプライチェーン を管理する体制を敷いている。
 日産自動車では日本のほか、北米(米国、カナダ、 メキシコ)、欧州(ロシアを含む)、中国、アセアンの 五極に市場を分けている。
各ブロックには日本と同様 のサプライチェーン管理組織を設置。
担当のバイスプレ ジデントを配置し、地域内のSCMを統括させている。
 二〇〇一年に同社は日本本社にSCM本部を設置 し、それまで生産事業本部の各部署が個別に行って いたSCM関連業務を統合している。
SCM本部で グローバル・ロジスティクスのコストとパフォーマンス を集中管理し、各組織の目標を策定する体制を敷く ことで縦割りの組織に横軸を通した。
 
咤達曜槁瑤砲蓮■咤達祐覯萇堯⊆嵶省流部、部 品物流部、補修部品物流部、部品物流技術部を設置 した。
このうちSCM企画部はサプライチェーンのネ ットワーク全体の企画と、輸送・生産計画のシステム 開発を担う。
車両物流部は完成車、部品物流部は生 産部品、補修部品物流部は補修部品、そして部品物 流技術は部品の設計段階から関わることで、効率的 な部品輸送を検討している。
 世界五極間の国際輸送も日本本社のSCM本部で 管理している。
「各地域拠点は部品と完成車の出し手 であり、受け手でもあるため、地域間での横軸の連 携が必要だ。
全体的な最適化は地域内で完結する問 題ではない」と日産自動車SCM本部SCM企画部 の松元史明部長は説明する。
 現在、SCM本部が直面する大きなテーマは調達物 流の最適化だ。
自動車メーカーの部品購入費は売上高 の五割近くにも達する。
しかも自動車産業は裾野の 広いピラミッド構造となっている。
「ティア1」と呼ば れる一次調達先を経て二次、三次と続くサプライチェ ーンに数多の部品メーカーがプレーヤーとして参画し ている。
 組立工場の周辺に調達先が企業城下町を形成して いる日本国内であれば、それでも無理なくジャスト・ イン・タイム調達を実施できる。
しかし現在の日産は、 世界で販売する七割から八割の完成車を現地で生産し ている。
完成車を国際輸送で供給しているのは、組 立工場を置くだけの販売規模が確保できない地域に 限られる。
 自動車の現地生産ではまず、日本などから主要部 品を輸入して、組み立てるノックダウン(KD)生産 を行う。
その後、三〜五年の間にサプライヤーを育成 し、現地調達率を高めていく。
日産の海外工場の現 地調達率は既に七割〜九割に達しているという。
 それでも、進出国で一〇〇%部品を調達するのは 技術、コストの両面で必ずしも最善ではない。
新興国 市場の台頭によって生産・販売地域は分散・拡大が 続いている。
その結果、調達部品の地域間(三国間) 輸送が増加している。
松元部長は「昔は世界地図に サプライチェーンの流れを書いてもシンプルなものだ ったが、今では非常に複雑になっている。
二〇〇〇 年頃から地域間の供給が増加し、〇六年頃から加速 してきた」という。
 こうした複雑なサプライチェーンを管理するために、 「PCC(パーツ・コンソリデーション・センター)」と AUGUST 2008  20 自動車産業のアジア物流戦略  自動車メーカーのグローバル・ロジスティクスは、現地生 産・現地販売を基本としている。
これに対して部品メーカ ーは、JIT納品を至上命題としながらも、集中生産による効 率化も無視できない環境にある。
VMIとミルクランが両者 のロジスティクスを繋いでいる。
      (梶原幸絵) 第2部 特集脱デルモデル 呼ぶ部品の出荷拠点を世界各地に配置している。
国 内は横浜、名古屋、北九州。
海外ではタイ、インドネ シア、スペイン、英国、米国に拠点を置いている。
 各地の生産工場の指示に基づき、PCCが地域内 のサプライヤーに部品を発注し、工場に代わって納入 を受ける。
さらにそれを工場からの指示に合わせてコ ンテナに仕立て、出荷する。
部品メーカーの納期・品 質管理も行う。
このPCCを直接の調達先とするこ とで海外工場では輸入部品を現地調達と同様に管理 できる。
 部品在庫をグローバルに管理する情報システムも整 備している。
需要の変動に合わせ、迅速かつ柔軟に 生産計画、調達計画を策定するために、「パイプライ ン・モニター」と呼ぶシステムで調達在庫の見える化 を実現している。
発注から納入までの部品の輸送状 態、工場とPCCの在庫量をすべて把握できる。
 「自動車のマーケットは大きく変化する。
例えば米 国では今年の三月から、原油価格の高騰により小型 車シフトが著しく進んでいる」と松元部長。
この対応 にもパイプライン・モニターが威力を発揮した。
輸送 中のものまで含めた部品在庫を把握することで、マ ーケットの変動に対応している。
リスクに応じて在庫量を変更  一方、サプライヤー側の部品メーカーでは、組み立 てメーカーとは異なる思想でグローバル・ロジスティ クスを運営している。
組立工場に対する納期順守は 絶対条件となるが、現地生産には限界がある。
製品 特性と企業規模のために組み立てメーカーほどには需 要地での現地生産を進めることはできない。
 自動車用ワイヤーハーネス(組み電線)を生産する 住友電装は同分野では世界シェア三位の部品メーカー だ。
ワイヤーハーネスを構成する電線、部品は装置産 業だが、それを製品に組み立てる作業は労働集約型 で人手に依存している。
このため同社は安い人件費 を求め、拠点を海外に移転していった。
今ではグルー プの海外生産比率は九〇%にも達している。
日本で 販売するワイヤーハーネスも七割は海外の生産工場か ら輸入している。
付加価値が高く、製品の容積が小 さいコネクターなどの部品を日本から輸出し、完成品 を海外で組み立てて逆輸入している。
 グローバル化に対応するため、物流面の管理の統合 を進めている。
〇三年には生産・物流の統合情報シ ステムを整備し、情報の一元化も実現した。
その大き な目的の一つがリスク管理だ。
 同社の廣木眞治物流管理部長は「効率化は重要だ が、顧客が定めた納期に遅れるわけにはいかない。
全 てのリスク情報を日本に集めることで、異常事態に迅 速に対応することを可能にした」と説明する。
米国 で港湾ストが予想されれば、数週間分の在庫を積み増 す。
状況が変われば在庫積み増しの解除を即座に指 示するといった柔軟な対応を行っている。
 昨年七月、グループの再編で住友電装は、住友電 気工業の完全子会社化となった。
これに伴い、今年 四月には住友電工の物流子会社エス・イー・アイ・ロ ジテックス(SLT)と住友電装の物流子会社・住 電装ロジネット(SDL)が統合。
SEIロジネット (廣木部長が社長を兼務)が新たに発足した。
 ワイヤーハーネスは住友電装が生産し、住友電工が 販売する体制のため、これまでは生産・販売物流も それぞれSLTとSDLに分かれていた。
それを統 合したことで一元管理体制を強化する。
協力物流会 社選定の一元化、既存施設の相互利用と統廃合、人 材と情報の統合等を図っていく計画だ。
21  AUGUST 2008 日産自動車SCM本部 SCM企画部の松元史 明部長 SEIロジネットの廣木 眞治社長(住友電装物 流管理部長)  グローバル市場は、日本・アセアン、中国、米州、 欧州の四極に区分している。
ネットワークと域間物流 を日本で集中管理し、現地物流拠点は域内輸送を担 当するかたちで役割を分担している。
現状では中国 が最大の生産拠点となっているが、現地の労働市場 が逼迫してきたことから今後はベトナム、そしてタイ の生産拡大を視野に入れている。
アジアのデトロイト  日通総合研究所ロジスティクスコンサルティング部 の山口宗明担当部長は「日系企業は、中国では高く つくため作れなくなったモノの生産を移管し始めてい る。
その最有力候補が中国に隣接し、人件費の安い ベトナムだ。
中国を補完する位置付けにあり、中国の 補助工場といえる」と説明する。
 一方、ベトナム以外のアセアン諸国は、政情の不安 定なラオスを挟むため中国との往来が難しい。
その結 果、アジア市場は日本、中国・ベトナム、アセアン諸 国の三つのブロックに色分けされるようになってきて いる。
このうちアセアンは古くから日系企業が進出し、 産業集積が進んでいる。
なかでもタイは自動車産業が 厚みのあるクラスターを形成し?アジアのデトロイト? との異名を持つ。
 日系の自動車関連メーカーは一九六〇年代には既に タイに進出していた。
当初はタイ国内向けをメーンに 現地生産を行っていた。
しかし、九七年のアジア通貨 危機を境に、部品産業の集積の進んだタイを輸出拠点 として活用するかたちに戦略を切り替えている。
その 結果、昨年はタイの完成車の輸出台数が国内販売台 数を上回った(図1)。
 タイを輸出拠点として利用する戦略は、組み立てメ ーカーの現地生産・現地販売の基本からは外れる。
し かし、完成車でも製品によっては集中生産が有利に なるケースもある。
 三菱自動車は九六年にタイにピックアップトラック の生産を集約した。
「タイを世界市場に向けた輸出拠 点と位置付けた」とタイの生産・販売会社三菱モータ ーズ・タイランド(MMTh)オフィス・オブ・プレ ジデントの桜井健郎コーポレート・ゼネラル・マネー ジャーは説明する。
今ではピックアップトラックの完 成車をタイから米国と中国を除く世界一四〇カ国、K D部品を中南米、アフリカなどに輸出している。
 
唯唯圍茲虜鯒の売上台数のうち輸出販売は八 七%を占める。
輸出のうちピックアップトラックは八 四%、KD部品は一五%。
乗用車が輸出に占める割 合はわずか一%にすぎない。
ピックアップトラックは 比較的ニッチな製品だけに集中生産した方がメリット が大きい。
 それまでピックアップトラックの生産は、タイと日 本の二拠点体制だった。
タイはタイ国内向け、日本は タイ以外の各国向けに生産していた。
しかし、米国 でピックアップトラックに対し高関税が課されたため、 米国向け輸出を停止。
これに伴い、生産拠点をタイに 移した。
もともとタイはピックアップトラックにかか る税率が乗用車に比べて低いため、需要が強い。
部 品メーカーも育っていた。
 現在、ピックアップトラックの部品の現地調達率は 八五%にまで高まっている。
MMThオフィス・オ ブ・プロキュアメントの村上広樹バイスプレジデントは 「調達の購買方針は日本本社が決定するが、具体的な 調達先の選定と管理はMMThが主体的に行ってい る」という。
 工場が立地するレムチャバン工業団地と周辺の工業 団地など、近接地からの調達を主としている。
その AUGUST 2008  22 MMThオフィス・オブ・プ レジデントの桜井健郎コー ポレート・ゼネラル・マネ ージャー 日通総合研究所ロジスティ クスコンサルティング部の 山口宗明担当部長 図1 タイの国内の自動車販売台数と輸出台数の推移 07 年 06 年 05 年 04 年 03 年 02 年 01 年 00 年 99 年 98 年 97 年 96 年 800 700 600 500 400 300 200 100 0 国内販売 輸 出 特集脱デルモデル 調達物流も以前は全て各サプライヤーから個別に部品 の納入を受けていた。
しかし、生産規模拡大と現地 調達率の向上に伴い、部品納入を行うサプライヤーの 数、一回当たりの納入量とも増加したことで、納入 された部品の保管スペース不足に悩まされるようにな った。
 そこで、日本国内同様のジャスト・イン・タイムの 多頻度納入の仕組みを作り上げた。
まず、大型の部 品については「序列納入」という納入方式に改めた。
サプライヤーが生産ラインの組み立ての順番(序列) に合わせ、時間通りに納入する方式だ。
 小型の部品については、サプライヤーからの納入を 取りやめた。
自社でトラックを手配し、ミルクラン方 式による集荷を数年前から実施している。
これまで 物量がまとまらず、納品が一日一回だったサプライヤ ーからも、複数回に分けて部品を調達できる。
現在、 サプライヤー一六〇社のうち、七二社がその対象とな っている。
 
唯唯圍茱フィス・オブ・プロダクションコントロ ールの東田良治コーポレート・エキスパートは「サプ ライヤー数と納品量が年々増加し、工場の敷地内で 部品を保管するのは限界にきていた。
しかし、序列 納入とミルクランの導入により、生産に合わせた多頻 度輸送が可能になった。
今では工場内での部品保管 は四時間から長くても一日程度になっている」と説 明する。
環境変化に適応する海外拠点  日本からの部品輸入でも、輸送頻度を高めている。
発注は月次だが、実際の輸入は週単位に分割。
土曜 日にレムチャバン港に入港するコンテナ船で輸送した 部品を月曜日〜火曜日にかけて通関し、木曜日まで にラインサイドの部品棚に入れ、金曜日から生産ライ ンに順次投入していく、というサイクルになっている。
東田コーポレート・エキスパートは「輸入部品在庫の 余裕は水曜日から木曜日の二日分しか持っていない」 と話す。
 
唯唯圍茲両萢兌屬盍泙瓩神源最塾呂聾什瀁間二 〇万台に達している。
時間当たりの生産台数は一五 台から四〇台に拡大した。
それでも部品の保管スペー スを圧縮し、調達量の増加に対応している。
 アセアンは今、過渡期にある。
日本市場向け供給基 地としてのポジションは中国に浸食されている。
ベト ナム以外は中国市場向けに転換するのも地理的に難し い。
しかし産業集積とオペレーションの蓄積はいまだ 競争力を持っている。
昨今注目されているのはインド だ。
インドでの現地生産から撤退し、タイからの輸出 販売に切り替える家電メーカーも出てきた。
 ただし、「アセアンはインドへの供給拠点にもなり 得るが、一方で中国製品との競合もある。
今後の方 向性はまだ不透明だ」と日通総研の山口担当部長は 指摘する。
それでも現地法人は自立的に生き残りの手 段を模索する。
そこではVMI( Vendor Managed Inventory:ベンダー主導型在庫管理)とミルクラン がロジスティクスの基本戦略となっている。
 
孱唯匹漏こ阿らの輸入部品でも国内同様、工場 の近くに自社の負担なしに部品を保管できるメリット がある。
そして次の段階として、現地調達率が上が ってくると、ミルクランが可能になる。
ミルクランに はサプライヤー側でも納入コストの負担が軽減される、 工場への調達に必要なトラック台数も削減できるなど の効果がある。
輸入部品はVMI、現地調達品はミ ルクランを行うことで海外拠点における調達物流の効 率化を実現している。
23  AUGUST 2008 MMThオフィス・オ ブ・プロキュアメント の村上広樹バイスプレ ジデント MMThオフィス・オブ・プ ロダクションコントロール の東田良治コーポレート・ エキスパート MMThが今年4月に移転・拡張した レムチャバンのエンジン組立工場

購読案内広告案内