ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2008年9号
メディア批評
政治家の告発など我関せずの「高級紙」気取り「公平中立」という幻想に安住する日本の新聞

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

佐高 信 経済評論家 79  SEPTEMBER 2008  『ジャーナリズム崩壊』(幻冬舎新書)の著者、 上杉隆は鳩山邦夫の秘書を経て、ニューヨー ク・タイムズ東京支局の取材記者となり、日 本のマスコミへの就職を決意して試験を受けた。
朝日新聞と北海道新聞は最終面接まで残った のだが、二社とも「色がついている」として 落とされた。
 「あなたには鳩山という政治家の色がついて いる。
やはり記者となれば公平中立でなけれ ばならない。
一度でも政治家の秘書を経験し ている人物を雇うとなるとそれは正直難しい のだ。
別の職業を選ぶことをお勧めします」  ところが、ニューヨーク・タイムズはそれが 理由で上杉を採用する。
 「本当に私を採用していいのか?」  と問いかける上杉に、東京支局長は言った。
 「何を言ってるんだ。
ニューヨーク・タイム ズは、色がついているから君を採用するんだ。
君は少なくとも五年間も政治のインナーサー クルにいた人物だ。
だからこそそれなりの人 脈もあるのだろう。
何かあった時にその人脈 を頼って話を聞くことができる。
また、それ でわからなくても、少なくとも押すべきボタ ンを知っている。
このボタンを押せばここか ら引き出しが開くとか、さまざまな方法を五 年間の経験で得られたはずだろう。
それでも、 どうしてもわからなかったら、昔の友人に聞 くこともできる。
そういう人物だからこそ君 を採用したいんだ。
もし、君が色のついてい ない新卒だったら、ニューヨーク・タイムズは 一切興味を持たない」  これほど、無色透明な「公平中立」の見方 がありうるという日本のマスコミの幻想を打ち 砕く指摘もないだろう。
?処女性信仰?にも似 たそのおかしな幻想は、多くの読者の同じ幻 想に支えられて、消えることがない。
 上杉は書いている。
 「日本の記者の多くはいまだに『客観報道』 を標榜している。
権力が発表したものを『客 観だ』とする感性は論外だが、真剣に『うち の新聞は客観的だ』と信じている記者が多い のには驚きを禁じ得ない。
この世の森羅万象 の出来事を、また他人の言動や営みを客観的 に報じることができるのならば、それはもは や神の領域である」  日本人のどれほどが、たとえばアメリカの 新聞が大統領予備選の最中に支持する候補を 明らかにしたことを知っているだろうか。
 ニューヨーク・タイムズは、今年一月の段 階で共和党ではジョン・マケイン、民主党は ヒラリー・クリントンを支持すると発表した。
続いて、ロサンゼルス・タイムズは、共和党 がマケイン、民主党はバラク・オバマを推すと 表明した。
支持するからと言って、批判しな いわけではない。
ニューヨーク・タイムズはマ ケインの不倫スキャンダルを厳しく追及した。
 日本の大手紙などにこうした記事が載るこ とはあまりないが、そう尋ねると、政治記者 はこう反論するという。
 「そもそも、スキャンダル報道のようなもの は週刊誌やタブロイド紙の仕事だろう。
うち は新聞だ。
役割が違う」  上杉によれば「政治家の不正を暴くような マネは、高級紙のやることではない」と決め 込んでいるかのようだった。
 しかし、日本の新聞が、勝手に「高級紙」 と思い込んで奉っているニューヨーク・タイム ズには、前記のようにマケインのスキャンダル が載ったわけだし、前大統領のビル・クリン トンとモニカ・ルインスキーの「不適切な関係」 を余すところなく微細に描いて一面トップで 報道したのも同紙だった。
 立花隆の「田中金脈研究」が、なぜ、新聞 に載らなかったのかが、よくわかる話である。
そして、これからも載らないだろうこともよ くわかる。
 自ら「高級」を気取るだけで、実質的には 「低級」な日本のマスコミは、どんどん空疎化 してゆくのだろう。
政治家の告発など我関せずの「高級紙」気取り 「公平中立」という幻想に安住する日本の新聞

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