ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2008年10号
特集
共同物流入門 運輸業主導型の算盤勘定

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

共同物流入門特集 27  OCTOBER 2008 日本通運──専用ITとJRコンテナを活用  仕事帰りに居酒屋で酎ハイをあおっていた日本通運 営業企画部の北村竹浩課長は、手にしたグラスにふ と目をとめた。
二〇〇五年のことだ。
世は焼酎ブー ム。
その大部分が産地の九州から関東や関西の消費 地に運ばれている。
遠距離であることに加え、一部 の希少銘柄を除けば、日本酒や洋酒に比べて単価は 低い。
物流はどうしているのか。
 翌日、担当営業や九州の支店の知り合いに電話で 話を聞いてみた。
案の定、焼酎メーカーの大部分は南 九州を中心に点在する中小企業で、一ケース単位の 小ロットで問屋や酒屋から注文を受け、毎日のように 路線便や貸切トラックで消費地まで運んでいるという。
「それならいけるかもしれない」と膝を叩いた。
 北村課長は営業企画部で「共配net」の拡販を 任されていた。
従来、日通の共配事業は各拠点単位 で域内配送の積み合わせを扱っている程度だった。
そ れに対して、共配ネットは複数の拠点をネットワーク で結ぶ広域物流が対象だ。
北村課長が営業企画部に異 動になったのは、その情報システムが〇二年に完成し て間もなくのこと。
上司には「君の仕事は共配ネット を全国の拠点に展開することだ」と命じられていた。
 しかし、なかなか適用できる案件がなかった。
荷 主は共配を求めているわけではない。
物流サービスレ ベルを維持したままコストを下げることを望んでいる だけだ。
積み替えの発生する共配のリードタイムは貸 切輸送にはかなわない。
運賃相場も地方の地場運送 会社が相手となると分が悪い。
ニーズが見つからない。
試行錯誤を繰り返すばかりで突破口が見出せない状 態だった。
 しかし、焼酎は条件が揃っていた。
南九州から消 費地への長距離幹線輸送には鉄道が使える。
末端の 集配料を入れてもトラックよりコストは安い。
鹿児島 からは毎日、貨物列車便がある。
現地を朝十一時に 出発した列車は翌々日の午前中に東京に着く。
その日 の午後には顧客に納品できる。
 しかも発駅と着駅に五日間無料(当時)で鉄道コ ンテナを一時保管できる。
その在庫をバッファーにし てロットをコンテナ単位にまとめれば、顧客からの注 文に対するリードタイムを維持したまま、幹線輸送の 頻度を減らすことができる。
もともと焼酎は一度に 生産して在庫保管する商品であるため在庫水準が膨 らむ心配もない。
 すぐに上司と相談して提案書を作成。
営業企画部 のスタッフ三人で現地に飛んだ。
熊本・宮崎を中心に 焼酎メーカーをリストアップし、一〇〇社近くをしら みつぶしに回った。
しかし、まともに相手をしても らえない。
焼酎ブームで注文に追われ物流コストどこ ろではないという状態だった。
〇六年に入ってブーム が沈静化してきた頃に、ようやく核となる荷主と別メ ーカーの計二社との成約にこぎ着けた。
 メーカーの在庫は発地着地のコンテナ保管場にそれ ぞれ五日分。
それを超える分は日通の共配センターに 分散することになった。
しかし荷主は共配ネットの情 報システムで在庫状況を常に把握できる。
工場からの 在庫の補充は一週間に一回程度。
毎日小口出荷して いた手間がなくなった。
路線便のように荷物に専用 荷札を貼る必要もない。
 顧客サービスも向上した。
焼酎専用便で納品するの で、酒問屋や酒屋の指定する荷受け時間や納品方法に 対応できる。
それでも運賃は、共配センターの使用料 を入れても路線便以下。
結局、焼酎共配のスタートか ら半年も経たない間に参加メーカーは一〇社に増えた。
運輸業主導型の算盤勘定  物流専業者が主導する共同配送は、メーカー同士や物 流子会社主導の共配と比べ、荷主の反発は少ない。
た だし、運用に対する協力が得にくい上、核となるベース カーゴを確保する必要もある。
価格競争も熾烈だ。
利益 を上げるのは容易ではない。
事業性のカギはやはり人材 が握っている。
            (大矢昌浩) 第4部  現在、日通では同様の共配事業を全国約四〇セン ターで展開している。
様々な商材を扱う荷主延べ三百 数十社がこのサービスを利用している。
「それほど美 味しい商売ではないので積極的には宣伝していないが、 売り上げは右肩上がりで伸びている。
引き合いも強い。
我々としてはサービスの付加価値で評価してもらいた いところなのだが、荷主にはやはりコストが魅力のよ うで、なかには『ウチは在庫を見れなくてもいいか ら、その分は引いてくれ』と言われることさえある」 と北村課長は頭を掻いた。
名糖運輸──利益の出せる共配のプロを育成  チルド物流二位、全国八〇カ所に拠点を配置し二〇 〇〇台の定温車両を保有して全国に共配ネットワーク を展開する名糖運輸。
その社名は創業時に親会社だ った名古屋精糖に由来している。
ただし名古屋精糖 は一九七一年に経営破綻。
その後、親会社は協同乳 業に変わったが、それも名糖運輸が一部上場を果たし た現在は十三%・五%の株式を所有しているに過ぎ ない。
物流事業の外販比率も九〇%を超えている。
 チルド共配のほか、コンビニやGMSのセンター運 営など、メーカー系子会社としては珍しく川下の物流 を得意としている。
七〇年代に大手コンビニからセン ター運営を依頼されたことをきっかけに川下に進出。
その後、小売り新業態の拡大に乗って事業を拡大した。
さらに、小売りのセンターに商品を納品するチルド食 品メーカーを主な対象として共配事業を本格化。
急成 長を成し遂げた。
 その組織も社風も通常の物流子会社とは正反対だ。
同社の経営陣は社長を除けばほとんどがプロパーの生 え抜き。
前会長に至っては中卒で現場に入った叩き上 げだ。
「それだけ現場と経営陣の距離が近い。
従来か ら当社には経営陣が現場の臨場感を失ったらおしまい だという考えがある」と、中西広明専務取締役管理 本部長はいう。
 車両も幹線輸送を除けば八割以上が自社配送だ。
輸 送品質を維持するため傭車比率は二〇%を限度とし ている。
拠点作業の正社員比率も高い。
チルド物流 の共配は時間との戦いだ。
深夜十二時の受注を午前 三時に出荷することなどがしばしばおこる。
注文を 受けてから処理していたのでは、どんなマテハン機器 を使っても間に合わない。
 そのため事前に注文を予測し出荷準備を済ませてお く。
従来から同社は協同乳業の工場に対して営業部 門に代わって発注指示をかけていた。
「予測受発注」 と呼ぶ。
販売データや毎日の天候情報から需要を予測 し、工場に過度の負担がかからないように生産指示 を出す。
予測が外れればその責任まで自分で背負う。
このノウハウを共配にも生かしている。
 実際の注文を受けた段階で、予測との誤差分だけ を調整する。
顧客からの注文はファクスやオンライン などバラバラ。
それをスピーディに処理するための専 門担当者も配置している。
これら全ての段取りと管 理がセンター長に任されている。
営業本部の土屋茂営 業企画部長は「共配事業の収益性は現場のセンター長 と配車マンの腕次第。
同じ案件でも黒字にもなれば赤 字にもなる。
とても他人には任せられない」という。
 配車マンにはまず、三年から五年かけて、その拠点 の全てのルートの配送を経験させる。
自分でハンドル を握って、納品のタイムリミットや各納品先の荷受け 状況を頭に叩き込む。
実際に配車を担当するようにな れば、物量の変動に応じて車両を融通し合うことにな る、隣接センターの状況まで把握しておかなくてはな らない。
そんなプロが各拠点にそれぞれ三人は必要だ。
OCTOBER 2008  28 日本通運営業企画部の 北村竹浩課長 共配センター (京都洛南) JR 京都 (日通梅小路) JR 発駅 (日通九州) A社蔵元 日通「共配net」の九州発焼酎共配 B社蔵元 大阪府 兵庫県 京都府 奈良県 滋賀県 和歌山県 JRコンテナ輸送 商品保管 方面別仕分 個別配送 共同物流入門特集  彼らが使用する独自の配車システムの開発に昨年か ら取り組んでいる。
受注データから荷台の空きスペー スとルート別の収益を瞬時に把握できる。
従来から配 車管理のパッケージソフトをいくつも検討してきたが、 使用に耐える製品がなかったためにゼロから自社で設 計することにした。
来年度中には完成する予定だ。
 中西専務は「当社はメーカーのロジスティクスから 末端の納品まで、チルド物流のサプライチェーンを全 てカバーできる。
長い時間をかけてそのノウハウを蓄 積し、人材教育を徹底してきた。
私自身みっちりと 教育を受けた一人だ。
人材の厚みこそ当社が最も強み とするところだ」と胸を張る。
南日本運輸倉庫 ──小さな強者連合で大手に挑む  東京の南日本運輸倉庫(南日本)を中核として全国 各地域の独立系定温物流会社三一社で構成する「オ ールジャパンチルドフローズンネットワーク(JFN)」 は今年度、荷主に対して一斉に四〜五%の共配料金 の値上げを要請した。
燃料費の高騰が理由だが、全 ての荷主が値上げを承諾したという。
 南日本の大園博史社長は「当たり前の話ではある が、適正な料金をいただけないのであれば仕事をお 断りするしかない。
我々は大手にはできない価値を提 供している。
そのことは顧客にもきちんと理解いた だいている。
実際、当社の業績はずっと伸びている。
今期も創業来の最高決算を更新する見通しだ」と意 気軒昂だ。
 中心顧客は中堅以下の外食チェーンだ。
先行投資 で汎用センターを建設し、センター運営から店舗納品 まで一括して請け負う3PLサービスの提案をかける。
ラーメン、焼肉、カツ丼、コーヒーなど、直接業態の バッティングしない外食チェーンが同じ施設に入居す る汎用センターは、さながら物流版フードコートだ。
 ここから出荷する荷物を共配便に混載する。
案件 を受託する前に、荷主の店舗の立地と物量から各ルー トの積載率は徹底してシミュレーションしている。
そ れだけ配送効率が高い。
つまり儲かる。
JFNの会 員企業の業績も総じて堅調だ。
いずれも地場の中堅 運送会社だが、エリア内に密な定温配送のネットワー クを敷いている。
 南日本は自らの商圏を関東地区に限定している。
各 地のJFNの?縄張り?も厳格に分かれている。
自 分のエリア外の配送は全て現地のJFNの会員企業に 委託する。
逆もしかり。
南日本が関東で受託した荷 主が地方に店舗を展開する場合には、庫内作業まで 含めて会員に任せる。
そうして会員とやりとりする 仕事は、南日本の売上高の一割程度に過ぎない。
し かし、地方はできないと断らないことで全国規模の 荷主の仕事を元請けとして受託することができる。
 大園社長は「下請け仕事しか持たない運送会社が いくら一緒になっても強くはなれない。
反対に実際 の運送は下請けに流している大手ではコスト競争力が ない。
小さくても地元の定温輸送では大関・横綱ク ラスの輸送網を持つ会社同士が組むからこそ価値が生 まれる。
そのためJFN会員企業を今以上に増やそ うとは思わない」と説明する。
 会員企業の売上高を合計すれば現状で約一三〇〇 億円にも達する。
保有車両台数は五五〇〇台。
倉庫 面積は七万二〇〇〇坪。
大手に充分匹敵する数字だ。
南日本単独の年商は現在約一三〇億円。
経常利益率 は約八%。
「連結だと年商は二二〇億円ぐらい。
今後 三、四年で三〇〇億円は確実にクリアできる。
その後 も五〇〇億円までは見えている」という。
29  OCTOBER 2008 名糖運輸の中西広明専務 取締役管理本部長 名糖運輸の経営陣は現場からの叩き上げが大部分を占め ている 南日本運輸倉庫の 大園博史社長

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