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提案書を作成し、商談時にプレゼンテーション
を行うことが物流会社の提案営業だと捉えている
人が多い。 間違いである。 提案営業とは、荷主に
とって役立つこと、すなわち売り上げが伸びるこ
と、経費が下がることなどを提示して、自社と付
き合うメリットを認めてもらい、納得してもらっ
て仕事を獲得する営業である。 提案書はそのため
のツールの一つに過ぎない。
例えばアパレルを扱う既存荷主に対して業界新
聞(繊研新聞など)のコピー、それも物流をテー
マにしている記事や競合他社の動きなどが書かれ
た記事のコピーを持参する。 トップや経営幹部で
あれば日々それらに目を通していることが多いが、
センター長や物流部長クラスでは目にする機会が
なかったり、回覧までに時間がかかったりするた
め、いちはやく行動すれば先方に喜ばれる。 これ
も立派な提案営業の一つである。
自社のセンター機能が整っている場合には、荷
主の担当者を現場に招いて「御社のお仕事を受け
させていただいた場合には、このスペースを活用
して、このようなピッキングを行い、最後のこの
レーンで検品を行います」といった説明を行う。 新
規荷主に対して現場視察による提案内容のイメー
ジ化を図ることも重要な提案営業の一環である。
提案営業とは何かという問題を改めて問いかけ、再
度原点からスタートを切ることで、どんな会社で
も提案を実行できるのである。
物流会社のマーケティング活動、営業活動は他
の業界に比べて総じて脆弱である。 ちなみに全産
業の広告宣伝費の平均は売上高の三〜五%と言わ
れている。 物流業はその半分にも満たない一〜二%
という調査結果がある。
もちろん販売促進にかける金額そのものが重要
なわけではない。 しかし、法人相手の物流事業は
順調に取引が進めば開始から三年ほどで年間数千
万円の取引額に膨らむことも多いことを考えると、
現状の新規案件を取り込むマーケティング、営業
活動は貧相だといえる。
このような旧態依然としたスタイルを続けてい
れば、売り上げが拡大しないだけでなく、今後は
仕事を他社にとられてしまうことも覚悟しなけれ
ばならない。 以下に物流会社の販促ツールの例を
三つほど挙げる。 いずれも我々、日本ロジファク
トリー(NLF)がこれまでの活動を通じて、そ
の効果を確認できたツールである。
?提案型名刺「物流アドバイザー」や「物流カウンセラー」など
の肩書きを氏名の横に入れた提案型名刺を使うこ
とで、その担当者の物流に関する専門性が高いこ
とをアピールできる。 これによって一般の営業と
比べて、荷主側の公開する情報量が飛躍的に増え
る。 何もこれらの名称に臆することはない。 難し
い内容や知らないことを聞かれた時には宿題とし
て持ち帰り、後日きっちり応えればいい。
?機密保持誓約書
物流会社の営業がうまく進まない理由の一つに、
営業先の現状や実態を掴みきれていないことが挙
げられる。 物流会社側の入手している情報の量と
物流会社の現場改善
「11の鉄則」
事例で学ぶ現場改善
日本ロジファクトリー青木正一代表
物流会社にとって現場は経営の原点だ。 改善もコス
トダウンだけが目的ではない。 強い現場を実現するこ
とが、既存の荷主を維持し、新規荷主を獲得するため
の最大の武器になる。 以下に現場改善の「11の鉄則」
を紹介する。 規模の大小に関わらず、全ての物流会社
に共通する勝利の方程式だ。
第5部特別版
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質の双方に問題がある。 事前に充分な情報が得ら
れなければ、提案するポイントや見積方法、また
自社で対応できる仕事であるか否かなどの判断は
つかない。
一般に荷主は、業務を委託するか決まっていな
い段階で物流会社に重要な情報を公開することに
は躊躇する。 競合他社にその情報が洩れてしまえ
ば不利益を被るかもしれないからだ。 そこで情報
漏洩に対して過敏な荷主に対しては、最初に情報
漏洩を厳守する誓約書を取りかわす。 それを裏付
けとして提案営業に必要な情報を公開してもらう
のである。
?業務案内ビデオ
センター業務や流通加工をメーンとする物流会
社が紙媒体で会社をPRするのは容易ではない。 こ
のような場合は「静」のツールだけでなく、「動」
のツールを検討する。 PRすべきポイントがピッ
キングや梱包、ラベル貼りであれば、その動き、作
業そのものをビデオに録画し、CDに焼き付ける。
そしてパソコンを用いて先方に見てもらうのであ
る。 このツールは編集時間が長く過ぎても短すぎ
ても効果が薄れる。 一五分から二〇分にまとめあ
げるのがポイントである。
右に挙げた三つの販促ツールのほかにも、提案
書やホームページなどがあるが、既にその内容は
他で述べられているので、ここでは省略する。
原油高騰やドライバー不足による賃上げなど、物
流会社の置かれている経営環境は依然として厳し
い。 今や物流業は走れば走るほど利益の出ない構
造になってしまった。 売り上げの約五〇%を占め
る人件費、そして右のような燃料・油脂費の高騰、
高速代など、原価の抑制が効かないのである。 単
純な輸送サービスは価格競争を避けられない。 走らない物流サービスを開発する必要がある。
そして人件費にメスを入れる。 今日も成長を続
け、高い収益を上げている物流会社は、いずれも
それを実施している。 具体的には流通加工やセン
ター業務を受注し、正社員ではなくパート・アル
バイトで運営するのである。 「鉄則6」で詳しく述
べるが、この場合には現場のパート比率が業績に
直結する。 目安として売り上げに占める人件費の
割合が五〇%以上の会社は赤字、五〇%未満に抑
えている会社は黒字と明暗が分かれる。
いわゆる「5S(整理・整頓・清掃・清潔・し
つけ)」や現場スタッフの挨拶、マナーが徹底して
いる現場を物流会社のショールームとして活用する。
現場こそが、「ここなら任せることができる」とい
う荷主の確信を勝ち取る最大の営業の場である。
社長のビジョンは素晴らしい。 営業担当者の対
応もよい。 料金も我々の要望を聞き入れてくれた
――いよいよ正式な契約という段階に来て、最後
に現場視察がある。 ここで依頼主である荷主の期
待を裏切ってしまう物流会社を、これまで山ほど
目にしてきた。 どんな立派に表面を取りつくろっ
ても最後は「現場力」である。
車両別の原価計算を行い、それに基づいた対策
と業務改善に即、着手せよ。 月別管理から始めて
日別、そして荷主別と展開させていくことが不可
欠である。 車両を所有する会社にとって車両別の
損益勘定は死活問題となる。 「鉄則3」で述べた通
り、売上高に占める人件費の割合、そして燃料・
油脂費、タイヤ、チューブ費、修理費、高速費の
「運行五費」にまず着手することが重要である。
?人件費…ドライバーの給料が中心となる。 歩合
制による変動費化、出来高制、業請制による残
業代の削減などを行っている会社が多い。
?燃料・油脂費…ドライバーの燃費走行の徹底。
拠点が数カ所ある場合は購入給油所の一元化の
検討が必要である。
?タイヤ・チューブ費…?と同様に運転の仕方で
タイヤの消耗度合いは大きく変ってくる。 運行
管理者がデータをもとに口うるさく指導しなけ
ればならない。 またタイヤメーカーによっても消耗度、耐久度に大きな差が出るため、自社の業
務内容を加味したデータ比較が必要である。
?修理費…最近、車両知識の無いドライバーが増
えている。 採用後、研修もなく横乗りをして数
カ月後には現場に出されている現状では当然だ
ろう。 そのため部品さえあれば自社で簡単にで
きるランプの交換などでも、すぐに近くの修理
屋やディーラーに任せてしまう。
本格的に修理するのか、応急手当をしてもう少
し乗るのかという判断を、ドライバー自身に任せ
てはいけない。 そのような場合には運行管理者や
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配車責任者など、しかるべき部署と立場の人間が
許可を出す体制に変える。 修理費の中には車検代
も含まれるが、日々のメンテナンスは車検代にも
影響してくる。
そして最大のコストダウンはやはり車両事故を
なくすことである。 運輸業界の損益計算書を分析
すると、多額の利益を出しているにも関わらず最
後に「事故費」という勘定科目で大きなマイナス
が出て、赤字に陥っているケースが目立つ。
?高速費…長距離輸送を減らすことに尽きる。 一
般道を活用して高速道路を使用しないという選
択肢もあるが、その場合にはドライバーと配車
の状況判断が重要になる。 次の仕事が残ってい
たり、新たな仕事が発生していれば、帰り道で
も高速道路を使って帰社させることで機会損失
を免れる場合がある。
またETCの時間割引も、長距離ドライバーを
割引時間の適用される深夜零時まで周辺のパーキ
ングで待機させることは避けたい。 集中力が切れ
るためかえってドライバーの疲れは増し、重大事
故につながる懸念がある。 本末転倒のないようし
っかりと状況判断をしなければならない。
コンビニエンスストアや外食チェーンなどは店
長を除く全てのスタッフをパート・アルバイトで
運営している。 その比率は一対九。 こうした流通
業と同様に物流業もサービス業の一つである。 い
かにパート・アルバイトを戦力化できるかが、利
益に直結する。 これからは「パートの、パートに
よる、パートのための」業務と職場が物流の現場
になる。 その前提となるのが前述の通り、流通加
工やセンター業務などパートが活躍できる業務を受注することである。 ちなみに音楽産業のある物流会社はパート三〇
〇人に対し社員が二人、米国のフェデラルエクス
プレスでは臨時雇用者五〇〇〇人に対し社員一人
でセンターを運営している。 またハマキョウレッ
クスの大須賀正孝社長によると、パート約一〇〇
人で運営している同社の本社センターは、社員が
一週間不在でも運営に支障が出ないという。
センター作業の効率はロケーションに大きく左
右される。 在庫型センター(DC)や保管倉庫で
は、ロケーションの整備が重要である。 商品特性
にもよるが、ロケーション変更の目安は三カ月に
一回の頻度で全体を見直し、小さな変更は随時と
いうルール化が望ましい。 昨今は商品サイクルが
短くなり、三カ月前には最も多く出荷されていた
ものが、今ではほとんど出荷されないといった事
態が頻繁に発生している。 そのスピードに、物流
現場におけるアイテムの改廃や棚番地の変更など
がついていけないケースが目立つ。
下図のようによく出る商品を最小限の作業動線
で出荷できるようするのが基本だ。 そのために商
品を「金額」と「数量」ではなく、「出荷頻度」で
集計・分析し、上位からA・B・C・Dのランク
付けを行う必要がある。 一般に出荷頻度上位二
〇%の商品が、全体の八〇%の商品を占めている。
我々NLFは「投資ありき」の現場改善を行う
ことはない。 しかし入出荷の検品には、荷主側の
要請や費用支援がなくとも、物流会社が自発的に
システムを導入すべきであると最近は強く感じて
いる。 検品業務の品質向上は人手では限界があり、
非効率である。 そしてシステム化によって在庫差
異の原因を明確にできることが理由である。
最近では在庫差異の発生に対して、物流会社が
荷主にペナルティを支払うような契約もある。 そ
の金額を考えれば、IT機器の低価格化もあって、
システム投資は恐らく一年以内にペイできる。 業
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務品質向上、責任の明確化、そして営業面でのP
R効果も含め、検品のシステム化には充分な投資
効果がある。
「鉄則5」でも述べた通り、物流会社における車
両事故対策は経営の最重要テーマである。 車両事
故を激減させた会社の秘策をお伝えしよう。
■眼精疲労はドライバーが最もコントロールできな
いリスクだ。 パチンコ、テレビ、深酒などをプロ
として控えるよう徹底指導する。
■部長クラスがドライバーの家庭を訪問すること
により、会社と家族の両方から事故の重要性を
伝え、理解してもらう。
■配車のやり取りにおいて、ドライバーに「焦り」
「プレッシャー」を喚起させる「伝え方(言い方)」
を禁止する。
従来のような無事故手当や交通事故のビデオ、
JR西日本の日勤教育などと違って罰則重視の対
策ではないことが特徴だ。 この一〇年でドライバ
ーの負担は格段に大きくなっている。 納品時間、検
品、荷扱い、受領伝票、アイドリングストップな
ど、ドライバーの業務は多岐にわたり、求められ
る精度もタイトになってきている。 そのような状
況でドライバーにプレッシャーを加えるような事
故対策を講じるのは逆効果である。
また事故がない、あるいは少ない会社の共通点
として、?あいさつ、マナー、5Sがしっかりし
ている。 ?車両がいつもきれいに保たれている。 ?
利益が出ている、なども挙げられる。 詳しくは別
表に掲載した「現場チェックリスト」を参照して
もらいたい。
強い会社、成長している会社、利益率の高い会
社は、人材教育の前工程とも言える「採用」が強
い。 採用媒体の選定、採用基準の明確化、採用〜
入社までのプロセスなどが整備されているのであ
る。 社内教育で人材を育てるのは容易ではない。 こ
れを裏返せば、教育しなくても成長する優秀な人
材を獲得することが重要なのだ。
そして「採用」の工程が強い会社は、?トップ
自らヘッドハンティングに走り回る、?人材紹介
会社を活用する、?優秀な人材が「ここで働きた
い」「この人と働きたい」というトップや会社のビ
ジョンづくりなどに力を入れている、ことなどが
特徴である。
教育において、全体をレベルアップさせること
ほど難易度の高いものはない。 選択と集中が必要
である。 物流業は「所長産業」である。 所長の能
力、資質で現場運営の九〇%が決まってしまう。
物流業の現場において教育する対象に優先順位を
つけるとするならば?所長、?センター長、そし
て?パート・アルバイトである。
現場管理職としての所長およびセンター長には
主に以下の能力が求められる。
■数値管理能力
■リスク管理能力
■労務管理能力
■緊急対応力
■コミュニケーション力
■情報のタテ・ヨコ組織への伝達力
■現場改善能力
■執行管理能力
社員とパート・アルバイトに共通して注力しな
ければならないのが、ジョブローテーション、いわ
ゆる積極的な配置転換である。 所長・センター長
クラスでは、担当のセンターしか分からないとい
うケースがこれまで多く見られたが、これからは
一人で複数のセンターや事業所を運営管理する能
力が必要になる。
パート・アルバイトにも、ピッキング、検品、補
充といった一人三役が求められる。 それによって
欠員の対応や、応援体制が組めるようになれば、セ
ンターの大きな財産となる。 パート間の休日の調
整もやりやすくなる。 普段と違う現場を体験する
ことで、持ち場とのギャップを認識し、現場改善
の意識向上にもつながる。 生産管理における多能工化と同じである。 以上、「十一の鉄則」を全て実行するのは、そう
容易なことではない。 しかし、これをヒントにし
て自社なりの方法を考えて実施してみる。 あるい
は、できることから挑戦していくことで御社の?現
場改善〞に弾みがつくはずだ。
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29 SEPTEMBER 2005
チェックリストの活用法・・・各項目について、現状を「A―できている」「B―どちらかといえばできている」「C―どちらかと
いえばできていない」「D―できていない」の4段階で評価する。 また誌面の都合上割愛したが、「評価」のほかに各項目の「調
査方法」も、「H―ヒアリング」「S―資料」「G―現場チェック」「E―その他」に分類する。 また※印を付けた項目には、具体的
にどのような方法・体制・指標なのか備考として記す。
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