ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2005年10号
ケース
丸善――情報システム

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

OCTOBER 2005 34 インターネット経由で情報を共有 昨年九月、東京駅北の玄関口前に完成し た複合商業施設「オアゾ」に、丸善の丸の内 本店がオープンした。
五八〇〇平方メートル という国内最大級の売り場面積をもち、蔵書 数が一二〇万タイトルにものぼる大型店だ。
この新店舗には、売り場の各フロアに合わ せて二〇台の書籍検索用キオスク端末(誰で も自由に利用できる情報端末)が設置されて いる。
来店客にとって大型書店は、品揃えの 豊富さが何よりの魅力だ。
しかしその半面、 膨大な点数の書籍が並ぶ棚から欲しい本を探 し出すのは一苦労でもある。
そこで丸善は、来店客が自由に書籍を検索できるキオスク端末を設置することにした。
これを使えば、在庫の有無とともに、売り場 の位置まで瞬時に検索できる。
検索画面には 書籍のあるフロアと棚のロケーション、およ びその地図が表示される。
印字も可能だ。
来 店客は広い店内で、効率よく本を探し出すこ とができるようになった。
こうした検索サービスは、店内の在庫をリ アルタイムで管理する仕組みがないと提供で きない。
それを可能にしたのは、丸善が昨年 春から各店に導入を進めている新POSシス テムだ。
これはインターネットを利用して店 舗の販売情報および在庫情報をリアルタイム で管理できるシステムである。
従来、丸善が運用してきた旧POSシステ リアルタイムで店の書籍在庫を管理 作業負担減らし売場の活性化めざす 大手書店チェーンの丸善が新しい POSシステムの導入を進めている。
販 売情報だけでなく、「どの棚に何冊ある か」という売り場の在庫情報まで、イン ターネット経由でリアルタイムに一元管 理できるシステムだ。
店内に設置した端 末から顧客が瞬時に在庫の有無を調べら れる。
発注・返品管理の精度アップによ って売り場の活性化を狙う。
丸善 ――情報システム 35 OCTOBER 2005 ムは九七年に稼動した。
このシステムを導入 する以前は、一日の売り上げを管理するため に、売れた本のスリップ(短冊)を整理して、 印字されたISBNコード(書籍コード)を いちいちチェックしていた。
POSレジの導 入はこの作業を不要にし、瞬時に単品レベル の売り上げを管理できるように変えた。
ただし、この旧POSシステムは、各店舗 のサーバーで売り上げを管理したものを定期 的にまとめてバッチで処理する仕組みだった。
閉店後に店舗から本部のサーバーへデータを 送信して集計する。
それからでなければ全体 の実績を把握することはできず、これがオペ レーションをする上でいくつかの問題につな がっていた。
例えば、売り上げの管理こそスリップレスになったものの、発注については相変わらず スリップを使っていた。
店内のサーバーで管 理する売り上げ情報を各棚の発注担当者が共 有できる環境になく、担当者には翌日になら ないと実績がわからなかった。
担当者は、一 日の販売が終了した後でスリップを数え、ど の本が何冊売れたかをチェックしながら発注 を行わなければならなかったのだ。
また返品管理にも膨大な手間を要していた。
システムによる在庫管理が行われていなかっ たため、長期間に渡って売れていない本を見 つけ出すには、本に挟まれているスリップを 一点一点チェックして発注日を確認しなけれ ばならなかった。
その中から古いものを順に ピックアップして返品に回す。
手間のかかる 作業のため、通常業務のなかではこなせず、 半期に一度の棚卸の際などにまとめて実施す るのが常だった。
こうした業務を改め、店舗オペレーション の効率化と標準化を図るため、丸善は二〇〇 二年に新POSシステムの導入計画を店舗事 業本部が中心になって立ち上げた。
新システムでは、販売情報とともに在庫情 報も管理する。
そのために店舗では新たに商 品のロケーション管理を実施する。
またサー バーを各店舗には置かず、インターネットを 利用して本部のサーバーで店舗の情報をリア ルタイムに集中管理する方式を採用する。
そ れによって、店舗がサーバーを管理する負担 をなくすとともに、リアルタイムで処理した 情報を本部と店舗が共有できるようにする― ―これが導入計画の骨子だった。
この方針のもとに同社は、小学館の関連会 社ビジュアルジャパン製の「WEBPOS Customized for BOOKSTORE」に独自機 能を追加した新POSシステムの導入を決め た。
二〇〇三年末に津田沼店でテスト稼動さ せた後、二〇〇四年四月から順次、各店舗へ の導入を開始。
九月にオープンした丸の内本 店には初めて書籍検索用のキオスク端末も設 置して、フル機能を整えた。
すでに、これまでに一七店舗に新POSシ ステムを導入した。
このうち大型店を中心に 五店舗にはキオスク端末を設置。
来春までに全二三店舗に新システムを、また一〇店舗に キオスク端末を導入していく計画だ。
タイトル別にロケーション管理 新POSシステムでは、本のISBNコー ドと棚のロケーション番号とを紐付けしてロ ケーション管理を行う。
運用に当たっては取 次とのEDIを活用するが、そのプロセスは 既刊本と新刊本ではやや異なる。
既刊本は、売れたら補充発注をするのが基 本で、ロケーション番号は原則として固定だ。
取次にEDIで本を発注する際には、単品ご とにISBNコードとロケーション番号を紐 付けした発注データを送る。
取次からは、こ のデータをもとにロケーション番号のついた 店内に置かれたキオス ク端末に入力 検索結果の画面 納品情報をEDIで返してもらう。
さらに取 次が書店への出荷時に作成するスリップにも、 このロケーション番号を印字してもらう。
商品が入荷すると、店舗ではPOS端末の 画面に納品情報を呼び出して、検品を行いな がら一冊ずつ在庫登録していく。
この時点で、 客から取り置き依頼のあったいわゆる客注本 を抜き取ることも可能だ。
在庫登録が終わったら、スリップに印字さ れたロケーション番号に従って売り場の棚に 本を補充していく。
登録データはインターネ ットを経由してリアルタイムで本部のサーバ ーで処理され、タイトル別にロケーション管 理を行う。
商品とロケーションが一対で管理 されるため、販売や返品の際にISBNコー ドをPOS端末に入力すると、自動的に店舗 内の在庫情報も更新される。
新刊本についても、店舗オペレーションは 基本的に同じだ。
ただし既刊本と違って、事 前にロケーション番号の付番というプロセス が必要になる。
これは棚構成に関連するマー チャンダイジング上の重要なプロセスだ。
新刊配本の際には通常、本のタイトルや価 格、内容、版型などを記した「書誌情報」(商 品マスター)が取次から書店へ送られてくる。
丸善では以前から、この情報を取次からED Iで入手して、本の入荷前に新刊会議で棚構 成の検討を行っていた。
新POSシステムの運用に当たり同社は、 本のジャンルや内容にあわせて取次に仮のロ ケーション番号をタイトル別に付番してもらい、書誌情報とともにEDIで送ってもらう ようにした。
そして、新刊会議で棚構成を検 討する際に、取次の付けたロケーション番号 が同社の商品分類に一致しているかどうかを 吟味した上で、最終的に決定する。
在庫ゼロになったら自動発注 丸善では一〇年ほど前から、EDIによっ て商品マスター・発注・納品・請求・返品情 報の交換を取次と行ってきた。
すでに取引の 八割(数量ベース)をEDI化できた。
新シ ステムを導入した背景には、こうした情報連 携の拡大があることも見逃せない。
販売・在庫情報のリアルタイム管理を実現 する新POSシステムの導入によって、店舗 のオペレーションは一変した。
まず発注業務 を著しく効率化できた。
新POSシステムで は、発注業務を行う各棚の担当者が、パソコ ンから情報をいつでも閲覧することができる。
このため、画面で売り上げ・在庫状況を見な がら発注を行うことができ、業務の完全なス リップレスが実現した。
しかも、新POSシステムには新たに自動 発注機能が付加され、一部の本については、 発注の自動化も実現した。
自動発注とはいっ ても?在庫がゼロになったら〞発注するとい うシンプルな仕組みで、既刊本のなかで店に 在庫を一冊しか持たない本がその対象だ。
平 台に何冊も積み上げて陳列する新刊本や売れ 筋本は、自動発注の対象からは外れている。
一二〇万タイトルという丸の内本店の蔵書 数からもうかがえるように、大手書店チェー ンは膨大な品揃えをしている。
そのすべてに ついて適正在庫数を設定することは到底不可 能だ。
また、仮に全タイトルについて最低二 冊ずつ在庫を持つとすると、店の在庫冊数は 一気に膨れ上がってしまう。
このため、大半の本は棚に一冊だけ在庫して売れたら補充す る形をとっている。
丸善の場合、その比率は タイトル数で七〜八割にのぼる。
従来はこういう本もいちいちスリップをチ ェックして発注していた。
新POSシステム ではこれを、在庫がゼロになったら自動発注 する仕組みにすべて切り替えた。
これによっ て、発注件数の六割、発注冊数全体の四割が システムで自動的に行えるようになった。
返品管理や棚構成を見直す作業のプロセス も大きく変化した。
新POSシステムでは、 本のタイトル別に在庫数と期間内販売数を管 理して、返品推奨リストを作成することがで きる。
同様に、自動発注の対象になっている 本のなかで、長期的に動きのないものを棚か OCTOBER 2005 36 店舗事業部の石塚充データ センター長 37 OCTOBER 2005 らはずして別のタイトルと入れ替えることも 容易になった。
こうした機能によって、店舗 での作業負担を大幅に軽減した。
丸善の店舗では、棚に並ぶ本のおよそ二割 のタイトルが一年間で入れ替わる。
以前は、 店舗事業本部の商品企画部門が売上データか ら資料を作成して分析を行い、半年に一度く らい店舗に棚変えを指導していた。
資料づく りには大変な時間がかかるうえ、店舗の現場 は発注業務に追われてデータ分析をする余裕 がなかったため、このような体制でしか棚替 え作業を実施できなかったのである。
これが新POSシステムによって、データ 分析が容易になり、何よりも「担当者自身が 日常業務のなかで、情報を見ながら入れ替え をするべきかどうかの判断を下せるようにな った」と店舗事業本部店舗事業部の石塚充デ ータセンター長は強調する。
店舗側から棚構成の変更を提案することも 可能になった。
店舗と本部が情報を共有でき るため、提案内容を本部で検討して決定する までのプロセスも短くてすむ。
月に一度棚変えする店も このように、発注業務の省力化で生じた余 力を、返品管理や棚構成のきめ細かな見直し 作業に振り向ける。
店のオペレーションを変 えて、売り場の活性化を図ることこそ新PO Sシステムを導入した真の狙いだ。
このため、新POSシステムの稼動時には 本部から店に指導員を送り、「毎日画面を見て発注する」とか「月に一度は返品対象のリ ストを作成する」など、発注や返品管理につ いてのルールを作成。
新しい業務フローの浸 透を図っている。
導入当初はどの店舗も、一時的に業務時間 が延びて人的コストはかえって上昇した。
シ ステムへの未習熟に加え、新たな業務が加わ ったことが原因だった。
例えば、店ではそれ まで返品業務を半期に一度しかやっていなか った。
「あまりに膨大な作業量になるため、や りたくてもやれなかった」(石塚センター長) のが実情だった。
それがシステム稼動後は、 日常業務のなかで返品管理をできるようにな り、棚担当者にとっては日々こなすべき業務 内容も広がった。
これが、かえって店舗での 業務負担を増やす結果を招いた。
ただし、導入から四カ月ほど経過すると、 新しい業務にも習熟してくる。
たいていの店 がおおむね以前の水準に回復するのだという。
店によっては、月に一度の頻度で棚構成を見 直すところも出てきた。
「業務の標準化はだ いぶ進んできたと思う。
次のステップでは、 自分の店だけでなく、ほかの店の売り上げ状 況なども参考にしながら独自の商品展開につ なげていくようになるのが理想だ」と石塚セ ンター長は言う。
一方、取引先とのシステム連携によって、 運用をさらに高度化することも考えている。
例えば、入荷時の検品は現在、本を一冊ずつ 伝票と照合しながら行っているが、EDIで 取次から送られてくる納品情報を活かして、 いずれ梱包単位でバーコードを入力するだけ の検品レスを導入したい考えだ。
現状では出 荷ミスが二〇〇〇件に一度くらいの頻度で起 こるためまだ難しいが、取次の出荷体制が整 うのを待って導入を進めたい考えだ。
また、ICタグにも注目している。
出版業 界では、出版社・取次・書店の各業界団体 の上部組織である日本出版インフラセンター が中心となって、ICタグを出版物に装着す る実証実験を行うなど導入に向けた取り組み を進めている。
仮に将来、ICタグの装着が 実現すれば、新POSシステムによって、入 荷時の検品はもちろんのこと返品処理についても業務を大幅に効率化できると丸善として は期待している。
出版物の売り上げは昨年度、わずかな増加 に転じたものの、まだ出版不況から抜け脱し たとはいえない。
ミリオンセラーの出現に望み をかける一方で、売れる本を確実に売るため に、出版社・取次・書店がそれぞれの立場で 出版流通の改善に取り組んでいる。
書店にとっては、単品での販売・在庫管理 を徹底して、早期に売れ筋と死に筋を発見し、 売り場を活性化することが改善への具体的な 道筋となる。
その意味で丸善は、新POSシ ステムによって今後の書店経営に欠かせない ツールを確保したと言えるだろう。
( フリージャーナリスト・内田三知代)

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