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佐高 信
経済評論家
MARCH 2009 82
「かんぽの宿」のオリックス不動産への売却
をめぐって疑惑が噴出している。 『週刊朝日』
の二月十三日号の「怒りのスクープ第3弾!」
のタイトルは「?偽装入札?の全貌」。
それには、総務大臣の鳩山邦夫が売却に「待
った」をかけたことに対して、新聞各紙が「き
ちんとした手続きの競争入札だ」「民間のこ
とに口を出すな」と反論したと書いてある。
その「新聞各紙」には『朝日新聞』が含ま
れる。 これほど新聞が権力の疑惑に甘く、週
刊誌がそれに厳しいことを対照的に示す例も
ないだろう。
『朝日』は一月一八日付の社説で「競争入
札を経た結果に対し、さしたる根拠も示さず
に許認可権を振り回すのでは、不当な政治介
入だと批判されても抗弁できまい」と毒づき、
翌一九日付けの『産経』では、郵政民営化
ならぬ郵政?会社?化を推進した竹中平蔵が、
小泉内閣で規制改革会議の議長を務めたオリ
ックス会長の宮内義彦が「郵政民営化にかか
わったというのは、ほとんど言いがかりのよ
うなもの」と弁護した上で、「報道によれば
入札によってこうした手続きは正当に行われ
ている」と力んでいる。 しかし、疑惑の火の
手はそれから高くなった。 一月二二日付の『日
刊ゲンダイ』には、ある経済ジャーナリストの
声として、売却しようとした日本郵政とのこ
んな関係が紹介されている。
「宮内氏と日本郵政社長の西川善文氏は、
西川氏が住友銀バンカーだったころからの旧
知の間柄です。 さらに、日本郵政の社外取締
役を務める奥谷禮子氏は、宮内氏と規制改革
会議で一緒だった。 オリックスは彼女の会社
の第二位株主でもある」
竹中は、宮内が「郵政民営化にかかわった
というのは、ほとんど言いがかりのようなもの」
と、それこそ言いがかりをつけたが、前記の『週
刊朝日』が、二〇〇一年六月に出した宮内の
『経営論』(東洋経済新報社)の一節を引く。
「日本の企業経営にいま求められているのは、
一言でいえば『アメリカに向かって走れ』と
いうことではないでしょうか」
そして、「かんぽの宿」を「こうした施設」
として、「官営経済」への論難が続く。
「こうした施設に民間のホテル、旅館業が対
抗していくのは容易ではありません。 国民の
税金をもとにした莫大な資金力を背景に造ら
れていますから、一介の私企業がかなうはず
もありません、そもそもなぜ、国の機関が宿
泊事業をしなければならないかを根本から問
い直すことも必要でしょう」
しかし、問い直した結果、その果実を破格
の安値で当事者が手に入れるのでは、「出来
レース」と言われても仕方がないだろう。
この問題を追及してきた社民党衆議院議員
の保坂展人は「公正な競争入札であれば、最
後の入札公告で提示した売却内容を途中で変
えるなどありえない」とし、「我々の説明要
求に日本郵政が出してきた資料で当初使われ
ていた『企画提案』という用語が、最近に
なって『競争入札』にこっそり書き換えられ
ていた」ことを明らかにしている。
いずれにせよ、竹中が「手続きは正当に行
われた」という「報道」、特に『朝日』のそ
れは不正確というか浅薄なものだったことが
露呈された。
最初から、小泉「改革」の推進者の竹中
や宮内に軍配を挙げたが故のミスリードだっ
たのである。 それでも未練がましく『朝日』
は一月三一日付の社説で「総務相には問題の
全体像を見てほしい」などと言い、「談合の
ような不正や不適切な事務処理があったなら」
「問題点を具体的に示してほしい」と注文を
つけて、担当大臣なのだから、ただ「疑問あり」
では済まない、などと格好をつけている。
しかし、私たちが『朝日』を含めて新聞に
期待するのは「問題点を具体的に示」すこと
であり、竹中や宮内をとにかく擁護すること
ではないのである。
かんぽの宿売却疑惑をめぐる新聞各紙の怠慢
浅薄な結論ありきで疑惑解明を最初から放棄
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