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佐高 信
経済評論家
73 APRIL 2009
関心の移り変わりは激しくて、すでにヘベ
レケ財務相・中川昭一の話題も古くなった感
じだが、二月一九日付の『東京スポーツ』緊
急対談(鈴木宗男
VS
佐藤優)はメディアの報
じなかった盲点を衝いていた。
「麻生内閣になってから、日本発の最大級の
ニュースになったという意味では本当にすご
い(笑い)」
と皮肉った佐藤は、こう続ける。
「中川さんは?へべれけ会見?をした理由に
ついて『風邪薬が原因だった』という説明を
しましたが、これが一番まずかった。 なぜなら、
外国だと鼻づまりの風邪薬ですら?麻薬扱い?
されかねないんです。 風邪薬が原因で頭がも
うろうとなったというなら、(中川氏は世界中
から)?薬物中毒者?と思われても仕方がない
です」
これに鈴木は次のように応ずる。
「外国で薬の話はタブーもタブー。 あるいは
トップシークレット。 自分の弱みを見せるこ
とになりますからね。 薬という言葉が使われ、
しかも薬物中毒じゃないかというような間違
った印象を国際社会に与えただけでも、負の
遺産となります。 それにしても、取り巻きも
全く緊張感がなかった。 今回のアテンド(付
き添い)は(イタリアの日本大使館の)大使
ですよ。 中川さんだけじゃなく、責任は大きい」
佐藤は、ああした場合、大使館の人たちは
大臣(中川)に殴られてでも出席を止めなけ
ればならなかった、という。
佐藤によれば、「国家の恥を露出することを
阻止できなかったんだから、特に大使は辞任
すべき」である。
そして、かつて、故池田行彦元外相がペ
ルーで新聞記者の質問にキレ、殴ったときに、
事務官がその記者に土下座して謝って「事を
収めた」例を引き、今回はそういう?瞬発力?
がなかったと指摘する。
それにしても、中川のヘベレケ会見を、な
ぜ記者たちは黙って受けいれていたのか。
この醜態を二月一四日夕のニュースブログで
最初に報じたのは、アメリカのABCだった。
『創』の四月号で、同志社大学教授の浅野
健一がそれをこう訳している。
「悪化する一途の世界経済危機の解決策を探
るため、世界各国の財務相が週末ローマに集
まったが、その場で起きているだけでも、大
変な仕事だったようだ。 日本の中川昭一財務
相はG7の席で眠ってしまったようだ。
皆さん自身でAPTN(AP通信テレビニ
ュース)の映像を見てほしい。
一五時間の空の旅は確かにきつかっただろ
うが、IMFによると、日本の今年度の経済
が二・五%収縮するという予測があり、トヨ
タや日産などの大自動車メーカーが何万人も
解雇している時には、それだけでも目が覚め
てしかるべきだ。 それができないなら、イタ
リアには伝統的な刺激物、エスプレッソがある。
中川財務相は今日行われたガイトナー米財
務長官との会談では起きていることがやっと
できた」
政治家の堕落(もしくは墜落)は、それを
チェックするメディアの堕落と相応する。
前記の『創』で浅野は、二月一八日に配信
された共同通信の署名記事(高橋直人)を引
く。 見出しは「『検証』もうろう会見──な
ぜ私たちは問えなかったか」。
大きな理由は「慣れ」だという。 日ごろの
記者会見や夜回り取材で中川と接する記者は、
酒好きで知られる中川の言動にはもう驚かな
くなっていた。
中川の酒癖の悪さは「公然の秘密」で、あ
の記者会見を取材したある記者は、
「あの問題が大臣の辞任にまでつながるとは。
鈍かったということだろうか」
と漏らしたとか。 自分の前では乱れたこと
がないなどと言った麻生も同罪である。 こん
な首相にあんな財務相。 そして、中川と一緒
に酒を飲んだ記者たちよ、ああ。
米ABCが最初に報じた中川前財務相の会見
報じる価値なしと判断した日本記者団の鈍感
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