ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2009年4号
物流指標を読む
トラック事業者の受難はまだ序章に過ぎない

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

APRIL 2009  80 物流指標を読む トラック事業者の受難はまだ序章に過ぎない 経営分析報告書─平成19 年度決算版─ 全日本トラック協会 第4 回 ●輸送量・運賃水準の低下で運送事業収入が減少 ●営業収益営業利益率は未曾有の低水準に悪化 ●利益を確保できる運送事業者はごく少数に限定 さとう のぶひろ 1964 年生まれ。
早稲田大学大学院修了。
89年に日通 総合研究所入社。
現在、経済研究部研 究主査。
「経済と貨物輸送量の見通し」、 「日通総研短観」などを担当。
貨物輸 送の将来展望に関する著書、講演多数。
業界全体が赤字転落  二月に全日本トラック協会がとりまとめた「経 営分析報告書─平成一九年度決算版─」による と、業界全体の営業利益率が五年ぶりに赤字に転 落するなど、二〇〇七年度においてトラック事業 者の経営状況が大幅に悪化していることが明らか になった。
 売上高営業利益率、営業収益営業利益率とも マイナス〇・四%で、〇六年度と比較してそれぞ れ〇・六ポイント、〇・五ポイントの大幅な低下 となっているが、これは、輸送量の減少に伴い売 上高および営業収益が大きく低下する中で、売上 高・営業収益の低下率が営業費用の低下率を上 回ったからである。
 ポイントを整理してみよう。
 輸送量  一社平均の輸送量(輸送トン数)については、 〇五年度:五万六一六一トンに対し、〇六年度: 五万四五九三トン(前年度比マイナス二・八%)、 〇七年度:五万二一一一トン(同マイナス四・ 五%)となった。
ちなみに、マクロベースでのト ラック事業者(霊柩を除く)一社当たりの輸送量 の推移をみると、〇五年度:四万九四一二トンに 対し、〇六年度:四万九七七五トン(前年度比プ ラス〇・七%)、〇七年度:四万九八五八トン(同 プラス〇・二%)となっている。
このように、輸 送量水準には大きな差はみられないものの、増減 率については異なるベクトルを示しており、その 差は、〇六年度が三・五ポイント、〇七年度は四・ 七ポイントと非常に大きい。
 こうした違いは、おそらくサンプルの相違によ るものだろう。
今般の全ト協調査の対象となって いる事業者の属性をみると、従業員三〇一人以 上の事業者は一社もなく、日本通運、ヤマト運輸、 佐川急便など巨大な事業者は含まれていない。
な ぜならば、本調査の目的は、中小トラック事業者 の経営活動の実態を計数的に把握することにある ため、特別積合せ貨物運送事業者や傭車売上比 率が二〇%超の事業者等、輸送量が非常に多いと 推測される事業者は対象外としているためである。
 国土交通省の統計によると、トラック保有車両 数が二〇台以下の事業者が約四分の三を占めてい る。
ゆえに、全ト協の調査結果にみられる数値の 方が、より実態に近いのかもしれない。
全ト協と マクロベースの数値を比較することで、ここ二年 間においては、大手は輸送量を伸ばす一方で、中 小の事業者は輸送量の大幅な減少に見舞われてい るという実態が浮き彫りになったと言えよう。
 売上高、貨物運送事業収入(営業収益)  〇七年度の売上高は二億八五八万円で、前年 度(二億二一一〇万円)比マイナス五・七%、貨 物運送事業収入(営業収益)は二億六九七万円 で、前年度(二億一九二八万円)比マイナス五・ 六%の減収となった。
貨物運送事業収入の大幅 な減少については、輸送量の減少が主たる要因で あるが、輸送量の減少率以上に貨物運送事業収 入(営業収益)の減少率が大きいことから、運 賃水準は引き続き低下傾向で推移したものと推測 される。
全ト協の調査結果をみても、運賃料金 の判断指標は水面下での推移となっている。
 ちなみに、日通総合研究所が実施している「企 81  APRIL 2009 なかで燃料油脂費の増加率が四・三%にとどまっ たのは、経済走行の徹底などトラック事業者によ る努力ももちろんあったであろうが、輸送需要の 減退に伴い総走行距離が大幅に短縮したことによ る部分が大きいものとみられる。
また、自動車リ ース料の増加や修繕費が微減にとどまった背景に は、新車の買い控えがあるのではないか。
すなわち、 経営状態が厳しいなかで、新車を買う代わりにリ ース車両を使用したり、車両の使用年数が長期化 している現状が窺える。
今秋まで回復のメド立たず  繰り返しになるが、輸送量が減少し、かつ運賃 水準が低下するなかで貨物運送事業収入が減少し、 その一方で、営業費用がそれほど下がらなかった 結果、〇七年度のトラック事業者の経営状況は大 幅に悪化した。
 しかし、これ はまだ序章に過 ぎない。
前稿で も書いたように、 昨秋より荷動き が急激に減退し ており、少なく とも今年の秋口 までは貨物量の 激減が続くもの とみられる。
 そこで、極め てラフではある が、「経営分析 報告書─平成一九年度決算版─」の数値をベース に、〇八、〇九年度のトラック事業者の営業収益 営業利益率についてシミュレーションを行ってみた。
 前提は以下のとおり。
?一社平均輸送量:マクロベースで〇八年度:前 年度比マイナス六・〇%、〇九年度:同マイナ ス七・〇%  前述のとおり、中小トラック事業者の場合、一 社平均輸送量はマクロベースのそれを四ポイント 前後下回っている。
したがって、中小トラック事 業者の一社平均輸送量を、〇八年度:マイナス一 〇・〇%、〇九年度:マイナス十一・〇%と想定 した。
?貨物運送事業収入:輸送量の増減率と同様の 増減率で推移 ?人件費(運転手):輸送量の増減率と同様の 増減率で推移 ?燃料油脂費:軽油価格は〇八年度:一一三・ 〇円/ℓ(前年度比プラス八・二%)、〇九年 度:八〇円/ℓ(同マイナス二九・二%)  燃料油脂費の増減率は、便宜的に軽油価格の 増減率と輸送量の増減率の足し求め、〇八年度: マイナス一・八%、〇九年度:マイナス四〇・二% と想定した。
?その他の費用は便宜的に〇七年度のままとする  仮に上記のようなシミュレーションを行った場 合、中小のトラック事業者における営業収益営業 利益率は、〇八年度がマイナス七・〇%、〇九年 度がマイナス七・四%と予測される。
そうしたな かで、利益を確保できるトラック事業者はごく少 数に限定されることとなろう。
業物流短期動向調査」によると、〇七年度のト ラック(一般、特別積合せ)の運賃動向指数は概 ね緩やかな上昇基調で推移していた。
 このように両者の調査結果に大きな相違が生 じたのは、トラック事業者でも、大手と中小とで は、収受する運賃水準が大きく異なっているため と考えられる。
中小の事業者の場合、大手と比較 して一般に運賃交渉力が弱いと考えられる。
また、 元請けから下請けに仕事を回す段階で取次料が収 受されることから、下請けの中小事業者の収受す る運賃の水準は抑制されることになる。
 営業費用  前述のとおり、〇七年度の売上高および貨物 運送事業収入(営業収益)はそれぞれ前年度比 でマイナス五・七%、マイナス五・六%となったが、 営業費用は二億七八二万円で前年度(二億一九 一〇万円)比マイナス五・一%にとどまった。
そ の結果、売上高営業利益率、営業収益営業利益 率ともマイナス〇・四%と赤字に転落した。
 費用の内訳をみると、前年度比では減少して いる費目が多いものの、燃料油脂費(プラス四・ 三%)および自動車リース料(プラス二・〇%) が増加したほか、修繕費もマイナス二・九%と小 幅な減少にとどまっており、これらが営業費用の マイナス幅を抑えた主たる要因となっている。
言 うまでもなく、燃料油脂費の増加は燃料価格の高 騰を反映したものである。
石油情報センター資料 によると、燃料油脂の大半を占める軽油の価格(イ ンタンク納入価格:軽油引取税込み)は、〇七年 度平均で一〇四・四円/ℓと、〇六年度平均(九 四・九円/ℓ)を九・九%上回った。
そうした トラック事業者の営業収益シミュレーション 一般管理費 206,967 186,270 165,781 207,824 199,349 178,004 178,823 170,348 149,003 78,560 70,704 62,927 34,369 33,750 20,183 65,894 65,894 65,894 29,001 29,001 29,001 -857 -13,079 -12,224 -0.4 -7.0 -7.4 年度 2007 2008 2009 営業収益(百万円) 営業費用(百万円) 営業損益(百万円) 営業収益営業利益率(%) 運送費 人件費 燃料油脂費 その他

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