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MAY 2009 40
ビジネスモデル
オークネット
生産者と生花店の取引をITで仲介
自社物流で短時間に荷受・仕分・配送
中古車オークションの革命児
昨年一〇月、東証一部上場のオークネット
はMBO( Management Buy Out :経営陣
による買収)によって上場を廃止した。 同社
が運営するオークションの通信手段を衛星通
信からインターネットに切り替えるほか、料
金制度の変更など事業構造改革によって一時
的な収益の悪化が見込まれることから株式の
非公開化を決断した。
同社は中古車オークションに革命をもたら
した会社として知られる。 今から四半世紀近
く前、まだインターネットも普及していなか
った八五年に、通信を使った中古車販売店向
けのオークション「中古車TVオークション」
を事業化した。 日本はもちろん、世界でも初
ての試みだった。
それまで中古車のオークションといえば、販
売店のバイヤーが会場に出向き、自分の目で
現品を確認してセリに参加するのが常識だっ
た。 出品する車はすべて会場まで運搬しなけ
ればならず、参加者はセリの行われている間
中、会場内に拘束された。 これに対してオー
クネットは、店にいながらオークションに参
加・出品できる仕組みを作った。
当初はレーザーディスクと電話回線を使っ
ていた。 オークションの開催は週に一度。 そ
の前日までに、出品リストと出品車両の画像
を記録したレーザーディスクを宅配便やバイク
便で会員(販売店)に届ける。 会員は会場で
実物を見る代わりに、レーザーディスクの画像
と品質検査情報を参考にして各車両の品定め
をする。 オークション開催日の当日は、電話
回線に繋がれた専用端末の前に座り、テレビ
を見ているような感覚でセリに参加する。 テ
レビでアナウンスされる価格を判断して、 端
末で?買い?を入れると、その信号が電話回
線を通じてリアルタイムでオークネットに送ら
れるという仕組みだ。
この方法なら担当者が現地に出向く必要が
ないことに加え、売り先が決まってから車両
を落札した店に直接送ればよいため、いった
ん会場へ車両を持ち込む手間を省くことがで
きる。 八九年にはレーザーディスクから衛星
通信によって画像を送る方法に切り替え、通
信コストを大幅に削減。 これを契機に会員数
が急速に拡大し、新ビジネスは軌道に乗った。
九三年六月には新たに中古二輪車のTVオ
ークション事業もスタートした。 事業化に当
たり最も力を注いだのは物流体制の整備だっ
た。 落札した商品の輸送に多大な費用がかか
るようでは、オークションに魅力を感じても
らえない。 二輪車を店から店へ、一台から全
国どこへでも低コストで運べる輸送網が必要
だった。
そこで全国各地に中継デポを設置し、デポ
間を共同で幹線輸送する物流ネットワークを
構築した。 オークションで落札された二輪車
は、出品者によって最寄りのデポへ搬送され
る。 その後、デポから幹線輸送網を使って落
生産者と生花店を仲介する花きのインターネット
オークション事業で年間60億円近い取扱高を持つ。
物流システムも自ら構築、産地から物流センターに
入荷した切り花を保冷車でルート配送し、セリの翌
日午前中に店に届けている。 いっそうのスピードア
ップを図るため、生産者との情報連携を強化して
オペレーションの効率化をめざす。
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札した店の最寄りのデポまで運び、落札店が
デポで引き取る。
現在、中継デポは八〇カ所以上あり、全国
どこへでも一週間以内の輸送が可能だ。 会員
に協力を呼びかけ、既存ヤードや駐車場のス
ペースを一部、デポとして提供してもらうこ
とで投資を抑えている。 デポ間の輸送費は落
札店が負担し、同一の車種なら全国一律の料
金が設定されている。 二輪車のオークションシ
ステムには会員の最寄りのデポが登録されて
おり、車が落札されると自動的にデポ間の輸
送計画が作成される仕組みになっている。 同
社はこの物流システムを会員向けサービスと
して積極的に活用し、オークション以外の車
についても全国への輸送を受託している。
花きは多品種少量型
中古車のオークション事業で独自のビジネ
スモデルを確立した同社は、車以外にこのモ
デルを活かせる領域を探った。 電子商取引に
よるリアルタイムの企業間オークションを適用
できる領域として、まず候補に考えたのはセ
リによって売買が成立する業種だった。 青果・
花き・水産物などの市場に着目した。 いずれ
も法規制の強い業種だが、このなかで花きだ
けは民間企業によるオークション事業への参
入が可能だった。
花きの卸売市場は多段階流通のため高コス
ト構造になっている。 加えて九〇年代に入っ
てからは、産地が出荷先を規模の大きい中央
卸売市場に絞り込む傾向が強まり、その結果、
商品がいったん東京などの中央卸売市場に集
められてから地方市場へ転送されることが多
くなった。 転送を受ける地方市場の卸売り業
者は、例え産地が近くであっても、経由する
中央市場の卸売り・仲卸売業者の手数料や転
送運賃を負担することになり、この分が販売
価格に上乗せされる。 このため地方の生花店
では仕入れ価格が上昇し、欲しい商品を思う
ように品揃えすることが難しくなっていた。
生産者側にとっても市場流通には相場が安
定しないという難点がある。 農産物は天候に
よって出荷量が左右される。 出荷量が少ない
と市場のセリ価格は上がるが、逆の場合には
暴落する恐れもある。 不安定な相場は農家の
経営安定化を阻む要因になっている。
さまざまな問題を抱える市場流通に対して、
青果物や水産物などでは大手小売業による市
場外流通が進んでいる。 だが花きだけは今も
卸売市場による流通が主流で、市場経由率は
八割以上と高い。
花きは品種が多い半面、一品目あたりの出
荷・販売単位が著しく小さい典型的な多品種
少量型の商品だ。 また青果物や水産物と比べ
て中小の専門小売店の数が多い。 商業統計を
みても、販売額が年々減少傾向にある一方で、
〇二年まで店の数は逆に増えている。 こうし
たマーケットの非効率性のため、市場に代わ
る流通形態が生まれにくかった。
そこに新しいビジネスモデルを持ち込む余地
があるとオークネットは考えた。 「花きの特性
に合った物流さえ整えることができれば、中
古車オークションのノウハウを使って、全国の
生花店が欲しい商品をいつでも低コストで仕
入れ、生産者も相場安定のメリットを享受で
きる仕組みをつくることは可能だと思った」。
同社の尾崎進花き流通事業部ゼネラルマネー
ジャーはそう振り返る。
こうして九七年に同社は、市場に代わって
生産者と生花店の取引を仲介する花きのオー
図1 IT を活用した取引と独自の物流体制で花き流通を活性化
農家
Growers
データ
Flower
Data
オークネット
データベース
鉢物
宅配便
切花
事前取引販売
予約相対取引
TV
オークション
・先取り取引
・入札取引
・一撃取引
成 約
生花店
生花店
オークネット物流センター
配送便
MAY 2009 42
クション事業に参入した。 現物ではなく情報
をもとにセリを行い、大都市圏の店も地方の
店も同じ条件で全国の産地から欲しい商品を
品揃えできるようにした。 中間マージンが重
複して発生しないため、地方の生花店では市
場を経由するより安く仕入れることができる。
また店にいながらセリに参加できるため、早
朝に卸売市場へ出向かずに済む。
専用の保冷車で午前中に配送
生産者が払う委託販売手数料も市場より安
くした。 卸売市場の手数料は九・五%または
一〇%。 これに対し同社は切り花の手数料を
八・五%に抑えた(鉢物は九・五%)。 花き
単独ではなく、中古車オークションを中核に
展開する事業構造の強みが競争力のある手数
が終わる午後七時頃から商品が入荷し始める。
深夜にかけて荷受け・仕分け・積み込み作業
を行い、早朝三〜四時頃に生花店向けの配送
車が出発する。
市場の場合、産地からのトラックが深夜に
到着してもセリが始まるまでは待機しなけれ
ばならない。 同社はその間に仕分け・積み込
みを行い、配送を開始している。 このため午
前中にはほとんどの店に商品が届く。 市場か
料の設定を可能にした。
価格の安定を望む生産者の期待に応え事前
販売取引も取り入れた。 セリの二日前から、生
産者の希望価格や相場価格を目安に同社の担
当者が商品に値を付けて情報を公開し、相対
取引を行う。 この価格で取引されなかった分
がセリにかけられる。 「下げセリ方式」で、原
則としてセリにかけたものはすべて売り切る。
切り花の需要が倍増するお彼岸や母の日など
物
もの
日び
の前は、生花店が必要数を計画的に仕入
れられるよう注文取引にも応じる。
花きは鮮度が命。 短いリードタイムで鮮度を
保持できるよう自ら物流体制を整備した。 物
流センターを設置し、セリにかける商品を生
産者から物流センターへ送ってもらう。 セリ
の結果をもとに物流センターで仕分けを行い、
保冷車で生花店へ配送する。
切り花のオークションは日・火・木曜の午
後三時半に開始する。 卸売市場では花きのセ
リが月・水・金曜の早朝に行われるため、時
間がかさならないようその半日前に設定した。
生産者にはセリの開始前に商品を出荷しても
らう。 通常であれば、卸売市場に出す商品を
セリの前日(日・火・木曜)に出荷すること
になる。 同社のセリ時間をこのタイミングに
設定することで、生産者は市場向け商品とい
っしょに出荷作業を行える。 しかも、同じト
ラック便で送ることができるため、無駄な物
流費がかからない。
浦安にある同社の物流センターには、セリ
図2
取扱高
バイヤー会員数
(百万)
(年)
(年)
1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008
6,000
5,000
4,000
3,000
2,000
1,000
0
1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008
1,000
900
800
600
400
200
0
57 億
940
(社) 社
4:00〜
午前中
〜14:00
〜2:00
14:00〜
15:30〜
16:00〜
WEB 販売WEB 販売WEB 販売
WEB 販売
セリセリセリ
現場作業現場作業現場作業
デポ出荷デポ出荷デポ出荷デポ出荷
納品納品WEB 販売納品WEB 販売納品
保冷便保冷便保冷便保冷便
月 火 水 木 金 土 日 月
図3
切花取引サイクル
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整備する方針をとっているため、配送エリア
の拡大に時間がかかり会員の数を一気に増や
すことができない。 花き流通事業部企画運営
チームの古山芳明ロジスティック担当マネー
ジャーは「宅配便を使えば全国展開も早いが、
花はデリケートな商品なので物流を丸投げす
ることはできない」とジレンマを語る。
同社は会員登録の際に必ず営業担当者が生
花店を訪問して、付近の道路が配送車の進入
に問題ないかなどの確認を行っている。 最先
端のネット取引や情報提供をこうした地道な
活動が支えている。 最近では同社の物流シス
テムを評価して会員になる生花店も増えてい
るという。 「物流は当社のビジネスモデルのセ
ールスポイントの一つ。 安易な妥協はせず輸
送品質にこだわりながら、なるべく早く全国
のお店に配送できる体制を整えたい」と古山
マネージャーは強調する。
産地情報の活用めざす
昨年一〇月に同社は浦安の物流センターを
二倍に拡張した。 二方面で荷受けできる形
にし、それまでは一万ケースが限度だったが、
最大三万ケースまで処理できるようになった。
今年三月の彼岸前には過去最高の一万八四〇
〇ケースを処理した。
いっそうの効率化とスピードアップをめざ
して現在はオペレーションの見直しを検討中
だ。 浦安物流センターでは荷受けから仕分け・
積み込みまでを、現状ではすべて目視による
手作業で行っている。 産地から商品が入荷す
る頃にはセリが終わり、販売先が決まるため、
産地ごとに仕分け用のシールを作成しておく。
シールには品種や生産者名などのほかに生花
店の会員番号コードと配送車両の番号が印字
してある。 荷受け時にこのシールを貼り、車
両番号や会員コードを確認しながらロールボ
ックスパレットを使い配送ルート別に仕分けを
行う。 入荷数の多い日は作業の負荷が著しく
高くなる。
これを改善するためバーコードシステムの導
入を計画している。 その際に、生産者から送
られる商品情報を現物と紐付けて管理する方
法を検討している。 従来はセリにかける商品
の情報を出荷前に生産者からファクスで送っ
てもらい、それを同社でバネットに入力して
いた。 これを昨年から生産者側でも情報を入
力できるようにシステムをグレードアップした。
その運用が広がれば、産地で入力された商
品情報を物流センターの荷受け時に活用し、バ
ーコードで商品と紐付けて管理することもで
きる。 ゆくゆくは出荷より前の生産段階から
情報を入手して、数量を把握できるようにし
たいと古山マネージャーは考えている。
「スタートのところ(産地)が情報化され
れば、花きの流通はもっとわかりやすくなり、
生産者にも生花店にもメリットが出るはず。 そ
のためのプラットフォームを整備していきた
い」と話している。
(フリージャーナリスト・内田三知代)
ら仕入れるものより早く店頭に出せる。
配送は二〜一〇度の温度帯の保冷車で行
う。 産地から入荷するトラックなど花きの扱
いに慣れた専用車両を利用している。 商品の
劣化を防ぐため、温度帯の近い野菜であって
も混載はしない。 五三台のトラックでルート配
送し、一台平均八〜九軒の生花店を回る。 輸
送品質やサービスを重視して、物量に多少の
変動があってもルートは固定している。
〇四年に通信方法を衛星通信からインター
ネットに切り替え、会員は専用端末を使わず
にネットオークション「バネット」のソフトを
パソコンにインストールするだけでセリに参加
できるようになった。 会員数は現在一〇〇〇
社近い。 一方、生産者・生産団体の登録数は
全国で一六〇〇社を数える。 〇八年度は一日
平均九〇〇〇ケースの取引があり、年間の取
扱高は五七億円に達している。 中堅クラスの
中央卸売市場に相当する規模だ。
ただし「バネット」に登録できるのは今の
ところ宮城・山形から岐阜・三重までの東日
本エリアにある生花店だけ。 自社で物流網を
花き流通事業部企画運営チー
ムの古山芳明ロジスティック
担当マネージャー
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