ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2005年10号
特集
物流行政の新常識 陸運倉庫──知って得する「3PL新法」

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

OCTOBER 2005 20 業界で話題の3PL新法 「物流総合効率化法って何なの? この法律が施行さ れることによって、われわれは大きなメリットを享受 できると聞いているが‥‥」 ちょうど日本の産業界でクールビズの導入がスター トした頃だった。
本誌編集部宛に物流企業と荷主企 業の双方からこのような問い合わせが相次いで寄せら れるようになった。
聞けば、物流総合効率化法は物流 分野における久々の大型法案として業界内で大きな 話題となっているという。
早速、各方面から膨大な量の資料を取り寄せ、そ れに目を通してみた。
しかし、とりわけ法案の要綱は ?お役所言葉〞や難しい言い回しのオンパレードで読 むに堪えない。
写真や図表などを使い、分かりやすく 説明しようという努力が感じられる資料も少なくなか ったが、法律が目指す全体像こそ掴めるものの、肝心 の詳細部分は判然としない。
正直言ってお手上げの状 態となってしまった。
昔と違って、今は各省のホームページなどを通じて 誰でも簡単に行政関連資料を手に入れられる。
おそら く本誌に尋ねてきた物流マンたちも資料を入手し、読 解を試みたはずだ。
ところが、私と同じように言葉の 壁などに直面し、挫折を余儀なくされたのだろう。
物流総合効率化法とは一体、どのようなものなのか。
そして、この法律は物流企業や荷主企業にどのような 恩恵をもたらすのか。
既存の資料や新聞報道などから 得られる情報だけでは理解を深めるのが容易ではない。
そこで今回、法案づくりを担当した国土交通省に中 身をきちんと解説してもらうことにした。
対応してく れたのは総合政策局貨物流通施設課の松下雄介課長 補佐だ。
何を目的とした法律なの? 物流総合効率化法の正式名称は「流通業務の総合 化及び効率化の促進に関する法律」。
略して物流総合 効率化法だ。
業界内ではサードパーティー・ロジステ ィクス(3PL)法とも呼ばれている。
国土交通省、 経済産業省、農林水産省の三省が連携して法案をと りまとめ、国会に提出。
今年七月の衆院本会議で可 決、成立して一〇月一日に施行された。
最初の質問はこの法律の目的だ。
法案の第一条に は次ページに掲載したような長々とした一文が記され ている。
しかし、それを読んでもいまいちピンとこな い。
行政は法律を施行することによって何を実現しよ うとしているのか。
「この法律が目指すゴールは大きく分けて二つあり ます。
一つは物流のコスト水準を下げることで、日本 の国際競争力を強化することです。
そしてもう一つは CO 2 (二酸化炭素)の削減、つまり環境負荷を軽減 することです。
この二つを実現するためには物流企業 や荷主企業に物流効率化を進めてもらう必要があるわ けですが、国は様々な支援措置を用意して、こうした 取り組みを後押ししていこうとしているのです」 「物流効率化の取り組み」という表現はあまりにも 漠然としている。
この法律では具体的にどのような取 り組みを、物流効率化につながる取り組みであると定 義しているのか。
いくつか想定されている参考例を挙 げてもらった。
「一つに物流拠点の集約化があります。
各地に点在 していた拠点を一カ所に集約すれば、拠点間の横持ち など無駄な輸送はなくなります。
無駄な輸送が発生し なくなれば当然、物流コストは下がるし、CO 2 の排 出量も減ります。
同じような効果が期待できる取り組 倉庫──知って得する「3PL新法」 今年10月、物流総合効率化法が施行された。
別名「3 PL法」とも呼ばれるこの新法には、ロジスティクス改革 を進める物流企業や荷主企業に対する様々な支援措置が 盛り込まれている。
「知らなきゃ損する」と言われている 同法とは一体、どのような中身なのか。
Q&Aを織り交ぜ ながら解説する。
(刈屋大 第5部 21 OCTOBER 2005 みとしては、このほかに共同配送やモーダルシフト、 トラックの自営転換(自家用トラック利用から営業用 トラック利用への切り替え)などを想定しています。
このような物流効率化につながるプロジェクトを、物 流企業や荷主企業にどんどん進めていってもらいたい。
そして取り組んでくれる企業に対しては何らかのイン センティブを与えましょう、というのがこの法律の中 身です」 支援措置を受けるには? なるほど。
この説明を聞いて、物流企業と荷主企業 が注目している理由がようやく理解できた。
双方とも 国が用意する支援措置に大きな期待を寄せているわけ だ。
では物流効率化につながるプロジェクトを検討し ている企業はどのような手順を踏めば、支援措置を受 けられるようになるのだろうか。
「まず企業は、?プロジェクトの内容、?プロジェ クトを実行することによって期待される物流コスト削 減効果、?CO 2 排出量の削減効果、?プロジェクト の実施時期――などを盛り込んだ『流通業務効率化計 画(効率化計画)』を作成し、それを主務大臣に提出 する必要があります。
そして、その計画内容が『流通 業務効率化事業』、すなわち『物流効率化に結びつく 事業である』として認定されれば、支援措置を受けら れるようになります」 もっとも、提出された全てのプロジェクトが認定を 受けられるとは限らない。
認定を受けるには「総合 化」というキーワードが欠かせないという。
単に輸送 や保管といった物流業務の一部が効率化されるだけで はなく、輸送や保管、流通加工などを含めた物流業 務全体の効率化が期待できるプロジェクト、つまり3 PL的なプロジェクトであることが認定条件の一つと なっている。
「総合化や3PLという言葉が使われているため、 『この法律はトータルな物流サービスを提供できる大 手の物流企業のみを対象にしている』と誤解されがち ですが、そんなことはありません。
複数の中小企業が 参画するかたちで展開される物流効率化プロジェクト も対象になります。
例えば、輸送のみを提供するトラ ック運送会社と保管のみを提供する倉庫会社が協力 して物流業務の総合化を図り、それによって効率化の 実現を目指すというプロジェクトでも構いません。
も ちろん、物流企業同士だけでなく、物流企業と荷主企 業による共同プロジェクトも対象に含まれます」 どこまでの範囲をカバーしていれば、「総合化」と 見なされるのか。
その線引きを判断するのは難しい。
そこで、国土交通省では物流効率化プロジェクトを検 討している企業に対して、計画書を提出する前に一度、 地方運輸局に相談することを勧めている。
運輸局では 計画内容が「流通業務効率化事業」に該当するかどうかを事前に確認してくれるほか、計画書の作成方法 などについてもアドバイスしてくれるという。
どんな支援措置があるの? この法律では大きく分けて、?事業許可などの一括 取得制度、?物流拠点・施設に関する税制特例、? 立地規制に関する配慮、?中小企業に対する資金面 での支援――の四つの支援措置が用意されている。
こ のうち?事業許可などの一括取得制度は、物流効率 化プロジェクトを推進するにあたって必要となる事業、 例えば倉庫業、貨物利用運送事業、貨物自動車運送 事業といった事業の許可が、計画の認定を受けた場 合には一括で取得できるようになるというものだ。
あるメーカーが全国各地に分散していた物流拠点を、 OCTOBER 2005 22 東京に新設する大型物流センター一カ所に集約すると いった内容の物流効率化プロジェクトを計画している としよう。
このメーカーはセンターの運営と得意先へ の配送業務を、あるトラック運送会社に一括で委託す ることを検討している。
ところが、受け皿となるトラ ック運送会社は倉庫業の許可や、他のトラック運送 会社に配送業務を外注するために必要な貨物利用運 送事業の許可を受けていなかった。
このような場合でも物流効率化プロジェクトが「流 通業務効率化事業」として認定されれば、このトラッ ク運送会社は倉庫業と貨物利用運送事業の許可を一 括で取得できる。
しかも倉庫業と貨物利用運送事業 の許可をバラバラに申請するよりも、取得までの手間 を大幅に省けるという。
「すでに倉庫業、貨物利用運送事業、貨物自動車運送 事業といった事業の許可を受けている企業は、『流通 業務効率化計画』の中身に合わせて、許可や登録して いる内容を変更することができます。
例えば営業倉庫 の場合、これまでは新しく倉庫を建てるたびに事業の 変更登録が必要でした。
この法律では変更に必要な書 類を計画と一緒に提出すれば、計画が認定された段階 で許可や登録の内容を変更したとみなします」 この制度によって物流子会社の設立が容易になる。
例えば、メーカーなどが物流管理の受け皿として物流 子会社を用意する場合、これまでは会社設立後に倉 庫業や利用運送などの許可を一つずつ取得していくか、 もしくはすでに許可を受けている物流企業の買収など が必要だった。
それがこの法律では「流通業務効率化 計画」の認定さえ受ければ、そうした許可を一括で取 得できるようになる。
荷主企業にとっては朗報かもしれない。
ただし、こ の法律によって物流子会社が増えることは物流効率 化という観点からすれば、決して歓迎すべきことでは ない。
荷主企業と物流企業が直接的に取引している 間に、新たに物流子会社という存在が加わることにな れば、物流はより多段階構造化し、物流コスト削減を 進めるうえでの阻害要因の一つになりかねないからだ。
もっとも、物流子会社が単なる?マージン抜き〞とし て機能するのではなく、センター運営や配送といった 物流の実務を自分たちで請け負うというのであれば話 は別だが‥‥。
どれだけお金が戻ってくるの? ?物流拠点・施設に関する税制特例の対象となる のは、「流通業務効率化計画」に基づいて取得する倉 庫用建物だ。
前述した例でいえば、拠点集約を機に 新たに設ける大型物流センターに関して税制特例が受 けられるようになる。
肝心の税制特例の具体的な内容だが、まず営業倉 庫は「五年間一〇%」の割増償却が認められる(所得税および法人税の減税効果)。
さらに固定資産税お よび都市計画税の課税標準が営業倉庫の場合で「五 年間二分の一」、マテハン機器など付属設備で「五年 間四分の三」、港湾上屋で「五年間六分の五」にそれ ぞれ設定される。
その結果、例えば延べ床面積一万平 方メートル、建物の取得費が一〇億円規模の営業倉 庫の場合、新設してから五年間の合計で約三〇〇〇 万円の減税効果が期待できるという。
「もっとも、税制特例を受けるには条件があります。
対象となるのは普通倉庫、冷蔵倉庫、貯蔵槽倉庫、港 湾上屋、付属設備です。
しかも施設は臨港地区もしく は高速道路のインターチェンジから五キロメートル以 内の区域に設ける必要があります。
さらに施設は?マ テハン機器を有している、?各種情報システムの導入 23 OCTOBER 2005 などIT化が進んでいる、?流通加工用スペースを用 意している――といった条件を満たしていなければな りません」 次に?立地規制に関する配慮。
一番のメリットは 従来に比べ市街化調整区域内における物流センター の建設が容易になることだ。
これまでの都市計画法で は「開発区域の周辺における市街化を促進する恐れが ないと認められ、かつ市街化区域内において行うこと が困難、または著しく不適当と認められる」(第三四 条)場合にのみ市街化調整区域内における物流セン ターの開発が許可されてきた。
しかし今後は総合物流 効率化法の認定を受けた物流センターに関しては「開 発の許可を出しても差し支えない施設の一つである」 と解釈されることになった。
これまで特別積み合わせ事業者(路線便業者)は 許可なしでも市街化調整区域内に拠点を建設するこ とができた。
これに対して、一般のトラック運送会社 や倉庫会社は市街化調整区域内で拠点の建設を目指 す場合は、必ず各都道府県知事の許可を受ける必要 があった。
しかも許可を受けるには「(拠点を建設す る場所が)四車線以上の道路の沿道に隣接する」な どの諸条件をクリアしなければならなかった。
今回、 規制の網が緩められたことで、一般のトラック運送会 社と倉庫会社は拠点の立地条件面で背負っていたハ ンディを克服できる。
「ただし、都道府県知事の許可は残ります。
申請す れば、すべて開発許可が下りるとは限りません。
総合 物流効率化法によって許可を受けやすい環境が整った だけです。
しかもすべての市街化調整区域が対象とい うわけではありません。
あくまでも高速道路のインタ ーチェンジから五キロ以内に建設を予定する拠点が対 象であるという制約があります」 ?中小企業に対する資金面での支援メニューも充 実している。
中小企業信用保険の保険限度額を拡充 するほか、食品を扱うプロジェクトの場合には食品流 通構造改善促進法に基づく債務保証なども行う。
さ らに拠点建設に必要な資金については、日本政策投 資銀行や国民生活金融公庫から低利融資を受けられ るという。
採用される案件の数は? 国土交通省では「流通業務効率化事業」として認 定し、支援措置を講じる物流効率化プロジェクトの数 が最終的には合計で一〇〇〜一五〇件程度に達する のではないかと見ている。
おさらいの意味も込めて繰 り返し強調しておくが、認定を受けるにはプロジェク トが輸送や保管、流通加工などを含めた物流業務全 体の効率化に結びつく内容、つまり3PL事業である ことが条件となる。
輸送や保管といった単機能サービ スしか提供しない拠点は支援措置の対象に含まれないので、ご注意を。
「国土交通省では法律の施行に合わせて事業者向け のパンフレットを作成しました。
そこには計画の策定 など申請の準備から認定を受けるまでの手順が詳しく 書かれています。
参考にしてください。
計画の内容が ある程度固まっていれば、申請から最短一カ月で認定 に漕ぎ着けることも可能です」 現在、ロジスティクス改革の一環として物流センタ ーの集約化や新設を計画している企業は少なくないは ずだ。
自分たちがこれから進めようとしているプロジ ェクトが今回の新法の適用対象になるのかどうか。
税 制特例や立地規制の緩和など享受できるメリットは大 きいだけに、一度申請することを検討してみる価値が ありそうだ。

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