ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2005年10号
特集
物流行政の新常識 韓国政府の3PL支援政策

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

OCTOBER 2005 24 現在、韓国の物流はいわゆる「自家物流」が中心 である。
物流事業者の多くは輸送や保管など単一物 流機能だけを提供し、しかも経営規模の小さい企業が ほとんどである。
こうした現状に対して、韓国政府は 物流市場を拡大させるとともに、世界の大手物流企 業に対抗できる総合物流企業を早急に育成する必要 があると認識している。
韓国政府は、荷主企業の自家物流支援制度を段階 的に廃止( 注1)して、物流のアウトソーシング化を 進めることで国内物流市場の構造変革を促すと同時 に、市場規模の拡大を図ろうとしている。
本稿では韓 国の物流産業の現状と、韓国政府が提案する「物流 専門企業育成方案」( 注2)の中身とその目的につい ての解説を試みたい。
ただし、方策の具体案などにつ いては、今も論議が繰り広げられていることを念頭に 置いてほしい。
韓国の物流産業の現状 韓国の物流産業を需要サイド(荷主企業)と供給 サイド(物流企業)から見てみよう。
まず荷主企業の 物流だが、これは冒頭でも触れたように「自家物流」 が中心となっている。
大韓商工会議所の「二〇〇三 年物流アウトソーシング実態調査」によると、荷主企 業は「輸配送」以外の物流業務のほとんどを自社でカ バーしているというのが実情である( 図1)。
荷主企業の物流費は売上高の一〇%に相当し、材 料費に次ぐコスト要因となっている(二〇〇三年)。
物 流費の中でとりわけ割合が高いのは輸送費と在庫管 理費で、それぞれ全体の四六・五%と四一・三%を 占めている。
近年、韓国における企業の売上高に占め る物流費の割合は減少傾向にあるものの、日本や米 国に比べて依然として高い水準であることに変わりは ない( 図2)。
一方、供給サイドであるが、現在、韓国では輸送や 倉庫など機能別に物流企業が存在している。
ここ数 年、物流各社の収益は新規参入などに伴う企業数の 急増を背景に悪化する傾向にある。
韓国の物流企業 は中小零細規模が圧倒的に多く、交通開発研究院の 報告によると、物流業(十三万五〇〇〇社)のうち、 従業員一〇〇人未満の企業(十三万四五五九社)が 全体の九九・六七%を占めている。
そして、そのほと んどが運送業(十三万七六六社)を営んでいる。
韓国の物流企業上位七社の売上高平均は約四七一 七億ウォン(約五〇九億円)である。
グローバル物流 企業(陸運中心の)七社平均(約四兆六三七八億ウ ォン=約五〇〇五億円)の一〇分の一程度にとどま っている( 表1)。
このことからも韓国の物流企業が 国際的に見て、いかに小規模であるかを窺い知ること ができるだろう。
物流アウトソーシングを促進九〇年代以降、韓国政府は、韓国を東北アジア物 流の中心地とするため、物流インフラの整備に重点を 置き、港湾施設や空港の高度化に取り組んできた。
さ らに最近では、韓国物流産業の競争力強化のための 政策の一つとして、従来のインフラ整備に加えて、新 たにグローバル物流企業と競争できる総合物流企業の 育成を掲げている。
その具体策が「東北亜物流中心実現のための物流 専門企業育成方案」である。
韓国の「東北亜時代委 員会(以下、委員会)」が盧武鉉大統領の主宰で開か れた第五二回国政課題会議で発表した。
韓国政府は、諸外国に比べ韓国の物流企業の成長 が遅れている理由として、?自家物流中心の市場構 韓国政府の3PL支援政策 東京海洋大学大学院李志明 日本政府と同様、韓国政府も物流企業の3PL化を急い でいる。
税制優遇措置などを用意し、荷主企業に対して 3PLの利用を促す法案を国会に提出している。
それによっ て国内物流市場の拡大と、欧米の有力物流企業と互角に 勝負できる3PL企業の育成を目指している。
第6部 25 OCTOBER 2005 造であること、?中小零細規模の物流企業が多く、競 争力が低いこと、?政府の努力が不足していたこと― ―の三点を挙げている。
これを受けて、「物流専門企業育成方案」では、? 物流市場の拡大、?総合物流企業の育成、?物流企 業の大型化誘導――の三大対策を提示した。
委員会は、 国内物流企業の成長のためには物流市場の拡大が不 可欠であるとして、物流のアウトソーシング化、つま り3PL促進政策を強化すべきであると強調している。
韓国政府がこの方策を通じて得られる効果として最 も期待しているのは、物流市場の構造変化である。
こ れまでの「物流市場の狭小→物流企業の発展を阻害 →自社物流を選択→物流市場の縮小」という悪循環 を、「物流市場の拡大→物流専門企業の発展→3PL の活性化→物流市場の拡大」というサイクルに改める ことを目指している( 図3)。
3PLを利用するメリット 委員会では荷主企業の物流需要を3PL市場に誘 引するための税制支援策を提案した。
その中身は、荷 主企業が総合物流企業に物流業務を委託する場合、荷 主企業が総合物流企業に支払った物流費の二%を法 人税から三〜五年間にわたって控除するというもので あった。
しかしこの支援策は、中小物流企業の倒産を懸念 する一部物流団体の意見を受けて、国会で棄却され てしまった。
これに対して、韓国貿易協会では「誘引 策がなければ、荷主は総合物流企業を利用しないだろ う」と支援措置の必要性を主張している。
この支援策 に関しては現在、多角面からの議論が続いている。
「総合物流業認証制」の創設も提案された。
この制 度は、政府が一定の認証基準による評価で総合物流 企業を認定して支援するもので、認証を受けた物流企 業は二〇一四年まで当初三年間の法人税を一〇〇%、 その後二年間は五〇%減免されるという内容である。
同制度の対象となるのは輸送など単機能のサービス ではなく、総合的な物流サービスを提供できる、一定 規模以上の物流企業である。
ただし、物流子会社は 対象から除外される。
これは、?自家物流支援廃止〞 とも関係がある。
つまり、物流子会社は、親会社の物 流を担当する場合が多いため、物流子会社の支援が 親会社の?自家物流〞を支援する結果となることを 避けるためだ。
評価項目は?大型化、?多様性、?長期成長の可 能性――の三つで構成される。
評価項目ごとに資本金、 売上高、拠点数、3PL業務の割合、情報化投資率 などを加味しながら最終的に判断が下される。
「総合 物流業認証制」は当初の計画よりも半年遅れて二〇 〇六年一月に施行される予定になっている。
「物流専門企業育成方案」の問題点こうして韓国政府は物流企業の3PL化に向けて 大きく舵を切ったわけだが、一連の政策はすべての物 流企業に歓迎されているわけではない。
例えば、中小 零細の物流企業は、荷主企業への税制支援が自分た ちにとって?圧迫カード〞になってしまうことに強い 警戒感を示している。
二%減税の恩恵を受けるためだけに、物流の取引 先を見直す荷主企業が増えるとは考えにくい。
取引先 の変更は情報システムの刷新など新たなコスト負担を 余儀なくされる可能性もある。
さらに、総合物流企業 とはいえ、既存のパートナーほど自社の物流競争力の 確保に寄与するという保証はないからだ。
むしろ中小零細の物流企業が懸念しているのは、荷 (注―1) ?施設・設備など施設投資額に対する法人税減免の除外 ?流通・物流合理化資金支援の廃止 ?政府支援物流拠点・施設の賃貸の抑制 (注 ―2) 韓国政府の「物流専門企業育成方案」における、「物流 専門企業」はいわゆる「総合物流企業」を意味する。
OCTOBER 2005 26 主企業が取引先の変更をちらつかせることで運賃の値 下げなどを要求してくるという事態である。
国内物流 市場を合理的に改変し、総合物流企業の育成を促す ために導入した制度が、結果として市場構造を歪曲す ることにもなりかねないと指摘している。
陸運会社の3PL化に期待 委員会では「物流専門企業育成方案」の報告書で 国内物流企業トップ7を発表した。
大韓通運、韓進、 韓傘CNS、汎韓総合物流、現代宅配、韓国物流、C JGLSの七社である( 表2)。
大韓航空、韓進海運、 現代商船、SK海運といった航空・海運分野で活躍 する国際輸送会社は含まれなかった。
発表された七社 が政策の対象として指定されたわけではないが、この ことからも、今回の政策が陸運サービスをコアビジネ スにしている物流企業を対象にしていることが窺える。
「物流専門企業育成方案」とは別に、韓国の近年の物 流政策の一つに「国家物流体系改善対策」(二〇〇四 年三月発表)というものがある。
この政策は、複合輸 送業者や中小零細の輸送業者、倉庫業者などを含む 物流産業全般の発展による物流体系の改善を目的と している。
「物流専門企業育成方案」では包括的なサービスを 提供できる物流企業の育成を掲げ、一方の「国家物流 体系改善対策」では既存の物流業者の発展を目指して いる。
この二つの政策は一見、矛盾していると受け取 られても仕方がない。
それでも韓国政府がこの二つの 政策を同時に走らせようとしているのには理由がある。
総合物流企業の育成にはそれなりの時間を必要と するが、既存の物流企業が総合物流企業として成長 を遂げるまでの間に、海外の有力物流企業によって有 望な韓国の物流企業が買収されてしまう可能性も否 定できない。
そこで「物流専門企業育成方案」を通じ て少数の大型物流企業に対し優遇措置を講じること と並行して、「国家物流体系改善対策」を通じて中小 零細規模の物流企業の底上げを図っておくことで、買 収などのリスクを回避しようというわけである。
市場規模は約十兆円に 交通開発研究院によると、韓国政府では一連の物 流政策によって、物流市場の規模は二〇一〇年に約 九三兆ウォン(約一〇兆三七〇億円)まで拡大する と試算している。
ちなみに韓国の物流市場規模は二〇 〇四年の段階で五九兆ウォンだった。
なお3PL市 場の規模は、二〇〇四年の三四兆ウォンから二〇一 〇年には五三兆ウォンに、年平均七・八%程度の成 長を期待している。
この目標を達成するには3PLへの転身を期待され ている大手物流企業の努力はもちろんだが、中小零細 の物流企業や荷主企業の理解も欠かせない。
中小零細の物流企業は「物流専門企業育成方案」などの物 流政策を?圧迫カード〞として捉えるのではなく、市 場の活性化によってパイが膨らみ、それによって業務 拡大のチャンスが生まれることに期待を寄せるべきで あろう。
一九七三年生まれ。
韓国の仁荷 大学国際通商学部卒。
韓国投資信 託で投資相談役として勤務。
現在 は東京海洋大学大学院博士後期課 程に在籍している。
専攻はロジス ティクス。
主な研究は「一九九〇 年代における日本の製造業の海外 進出と撤退に関する基礎的分析」、 「ロジスティクスの視点からみた日 本企業の海外進出と撤退の要因」 など。
PROFILE

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