ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2009年10号
物流指標を読む
第10回 妙薬となり得るか!? 民主党の物流政策

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

OCTOBER 2009  72 物流指標を読む 妙薬となり得るか!? 民主党の物流政策 第10 回 ●燃料油の暫定税率撤廃で運送費は低下 ●反面、荷主からの値下げ要求は強まる ●高速道路無料化の効果は極めて限定的 さとう のぶひろ 1964 年生まれ。
早稲田大学大学院修了。
89年に日通 総合研究所入社。
現在、経済研究部研 究主査。
「経済と貨物輸送量の見通し」、 「日通総研短観」などを担当。
貨物輸 送の将来展望に関する著書、講演多数。
業界への助成金は廃止  先の衆議院総選挙において民主党が圧勝した。
今 後、民主党がマニフェストに謳った政策を実行して いけるかに注目が集まっているが、それら政策の なかには物流業界に影響を及ぼすものも含まれて いる。
言うまでもなく、「ガソリン税(※1)、軽 油引取税、自動車重量税、自動車取得税の暫定税 率の廃止」と「高速道路の原則無料化」である。
参考までに、ガソリン税および軽油引取税の本則 税率と暫定税率を表に示しておいた(表1)。
 燃料油の暫定税率が廃止された場合、物流事業 者のコストが低下することは間違いない。
たとえ ば、日本通運の「CSR報告書二〇〇九」による と、〇八年度における同社および国内グループ会 社の軽油の使用量は二〇万七八八三キロリットル、 ガソリンの使用量は一万六七三二キロリットルで ある。
これらの使用量に軽油およびガソリンの暫 定税率を乗じてみると、軽油については約三五・ 五億円、ガソリンについては約四・二億円となる。
すなわち、軽油引取税およびガソリン税の暫定税 率が廃止された場合、日本通運グループにおいて は三九・七億円のコストが削減される計算になる (注:さらに消費税の支払額も減少する)。
 他のトラック事業者においても、程度の差こそ あれそこそこのコスト削減効果がもたらされるだ ろう。
石油情報センターのデータによると、〇九年 八月の軽油価格の全国平均は一〇五円/リットル (※2)である。
この額から暫定税率分を引くと 八七・〇円/リットル(※3)となり、価格は約 一七%低下する。
また、同様に八月のガソリン価 格は一二六円/リットル(※4)であるから、こ の額から暫定税率分を引くと九九・七円/リット ルとなり、価格は約二一%低下することとなる。
 全日本トラック協会「経営分析報告書(平成一 九年度決算版)」によると、〇七年度の一般貨物 運送事業(全体)における、営業費用に占める軽 油費およびガソリン費の割合は、軽油費が一五・ 七%、ガソリン費が〇・六%となっている。
〇七 年度と比較して、現在の軽油およびガソリンの価 格は二割前後低下しているので、単純に比較はで きないが、仮に現在も軽油費およびガソリン費の割 合が大きく変動していないものと想定すると、軽 油引取税およびガソリン税の暫定税率が廃止され た場合、上記のとおり軽油およびガソリンの価格 が低下することを受けて、軽油費の割合は十三・ 四%、ガソリン費の割合は〇・五%に低下する。
極 めてラフな試算であるので、あくまでも参考値と して捉えてほしいが、ざっと二〜三%弱のコスト が削減される計算になる。
 景気の低迷に伴う貨物量の落ち込みにより青息 吐息の経営を強いられている物流事業者において は、こうしたコストダウンを歓迎する向きも多かろ う。
しかし、荷主から運賃の引き下げ要求が強ま るのは必至である。
また暫定税率の廃止と同時に、 運輸事業振興助成金の廃止も検討されており、物 流事業者は果たしてどれだけのメリットを享受で きるのであろうか。
物価が下がるという?幻想?  次に、高速道路の原則無料化について考えてみ よう。
民主党のマニフェストには、「高速道路を原 73  OCTOBER 2009 高速料金の支払い額が非常に大きく、高速料金を 無料にすると、物流コストが大きく低下し、その 結果物価も低下するという?幻想?を抱いている のではないかということだ。
 高速道路の原則無料化を民主党のマニフェスト に盛り込むのに一役買ったと噂されている某氏が、 某夕刊紙にこんなことを書いている。
「高速道路 を無料化すれば、物流コストが大きく下がる。
大 手の運輸業者の年間の高速代は一〇〇億円規模だ し、郵便局会社は四〇〇億〜五〇〇億円の高速コ ストがかかっています。
およそ運送費の十二%が 高速代ですから、その分、物価が下がる。
」  いったい十二%という数値はどこから出てきた のだろうか。
時間選好性の高い貨物を取り扱う特 別積み合わせ事業者や航空貨物フォワーダー、ある いは長距離輸送を専門に行っている事業者のなか には、高速道路料金の支払い額が運送費の一〇% 以上に及ぶところもあるだろうが、せいぜい三〜 四%前後の事業者が多いのではないか。
たとえ ば、前出の全ト協「経営分析報告書(平成一九年 度決算版)」によると、〇七年度の一般貨物運送 事業(全体)における、運送費に占める道路使用 料の割合は四・六%(注:営業費用に占める割合 は三・九%)である。
また、国土交通省「自動車 運送事業経営指標(〇八年版)」では、〇六年度 の一般貨物運送事業(全体)における、運送費に 占める道路使用料の割合はさらに低く、僅か二・ 二%(注:営業費用に占める割合は二・一%)に 過ぎない。
 もちろん、上記の数値が決して小さな数値だと 申し上げているわけではない。
それにしても、先 に某氏が示した十二%という数値はあまりにも大 き過ぎるように思う。
そもそも、首都高などの都 市高速道路、東名高速や名神高速などの大混雑が 予想される区間などの料金は無料化されない可能 性が高い。
地方の高速道路が無料化されても、コ スト削減効果は限定されるのではないか。
 仮に営業費用が三%(※5)低下するとしても、 物価に跳ね返る分はおそらく微々たるものとなろ う。
日本ロジスティクスシステム協会「二〇〇八年 度物流コスト調査報告書」によると、全業種にお ける売上高物流コスト比率は四・八七%、物流コス トに占める輸送費の比率は五九・一%である。
こ の数値を用いて計算してみると、輸送費が三%低 下したとしても、全体のコストは〇・〇九%しか 低下しないことになる。
したがって、高速料金を 無料にしても物価はほとんど低下しないと言える。
 民主党には重箱の隅をつつくような話と片付け ることなく、現実をしっかり把握した上で政策を 立案していただきたいと願っている。
則無料化して、地域経済の活性化を図る」と謳わ れているが、その目的は、「流通コストの引き下げ を通じて、生活コストを引き下げる」、「産地から消 費地へ商品を運びやすいようにして、地域経済を 活性化する」、「高速道路の出入り口を増設し、今 ある社会資本を有効に使って、渋滞などの経済的 損失を軽減する」とある。
 麻生政権が経済対策の一環として、土日祝日の 地方圏の路線で、普通車は終日上限一〇〇〇円で 乗り放題とする政策をとったが、その結果、大渋 滞が発生し、トラック事業 者が大迷惑を被ったこと は記憶に新しい。
そうし た点を踏まえて、混雑緩 和のため、渋滞の発生が 予想される路線について は無料化を見送る模様だ。
 ところで、先に示したよ うに、高速道路の原則無 料化の目的の一つに「流 通コストの引き下げを通じ て、生活コストを引き下げ る」ことがあげられてい るが、言い換えれば、物 流コストを引き下げるこ とにより物価を引き下げ るということだ。
この点 に関して、世間が多大な 誤解をしている気がして 仕方ない。
すなわち、ト ラックの運送費に占める ※1、民主党のマニフェストでは「ガソリン税」 と記載されているが、正確には「揮発油税」 と「地方揮発油税」 ※2、給油所店頭現金価格(消費税込み) ※3、価格から消費税分を控除し、それから暫 定税率分を引いた金額に消費税を乗じて算出 ※4、レギュラーの給油所店頭現金価格(消費 税込み) ※5、全ト協と国交省の各経営指標における道 路使用料割合(対営業費用比)の中間値 表1 ガソリン税および軽油引取税の税率(本則、暫定) 課税客体 ガソリン 軽油 本則税率 24.3 円/リットル 4.4 円/リットル 28.7 円/リットル 15.0 円/リットル 暫定税率 24.3 円/リットル 0.8 円/リットル 25.1 円/リットル 17.1 円/リットル  税率 48.6 円/リットル 5.2 円/リットル 53.8 円/リットル 32.1 円/リットル 税目 揮発油税 地方揮発油税 合計 軽油引取税

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