ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2009年12号
特集
第3部 ポスト人材派遣の2つの選択肢 「実態無視の労働規制強化は逆効果」

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

DECEMBER 2009  26 マニフェスト至上主義の問答無用 ──民主党政権が誕生して二カ月余りが経ちましたが、 これまでの政権運営をどう評価していますか。
 「マニフェスト至上主義に陥っているという印象を 強く受けます。
国民に示したマニフェストを実行しよ うと努力することは大事ですが、現実に即さないこ とが起きると分かれば軌道修正をするべきです。
民 主党のマニフェストは選挙に向けて一部の人が短期間 で練ったもので、既に種々の綻びが生じているのは事 実です。
無理なことを躍起になって実現しようとする のではなく、仕切り直して議論するという姿勢も必 要でしょう」  「特に懸念しているのが市町村との関係です。
八ッ 場ダムの問題が象徴的ですが、地方との関係は対等 と言っておきながら、実際には問答無用です。
マニ フェストに謳っているという理由だけで、地元住民の 声はまったく聞き入れられません。
これでは地方との 信頼関係を築くことはできない。
地方からの信頼が 薄れれば、政策の履行スピードもそれだけ遅くなって しまいます」 ──ブルーカラーの人材派遣も禁止に向かって動いて います。
物流も含め、多くの産業で派遣が使えなく なる。
 「現時点では最終的な法案が上がってきていないの でコメントしにくい部分はありますが、企業の立場か らすれば大変な法案です。
そこも一〇〇年に一度の 不況と言われる経済状況の中で、実態に即した議論 をするべきではないでしょうか。
雇用を増やさなけれ ばいけないのに、逆の結果になってしまう。
確かにピ ンハネ率が高かったり、安全基準を守らないなどの問 題がある派遣会社もあります。
そこにはしっかりメス を入れる必要がある」  「しかし、法令的にも安全基準的にも何の問題もな く、雇用者と労働者のニーズが合致しているケースも 多々あります。
それは継続すべきでしょう。
派遣と いう働き方を進んで選んでいる人だって数多くいるの ですから」 ──最低時給を一〇〇〇円に引き上げるという施策 も大きな影響がありそうです。
 「最低賃金は我々の時代にも毎年少しずつ上げてき ました。
働く以上、しっかりした生活が出来る環境に していかなくてはいけないのは確かです。
私も最低 時給が現状のままで良いとは思いません」  「ただし、全国一律で急に八〇〇円、一〇〇〇円 に引き上げるというのは現実的ではない。
本当にそ んなことをすれば、企業は雇用を止め、工場は海外 に逃げていきます。
労働者保護を謳いながら、雇用 のパイが縮小する方向に導いてしまう。
最低賃金は 企業に力を付けて貰いながら、少しずつ上げていく しかない」 ──経済成長と労働者保護とのバランスをどう考えま すか。
 「企業が雇用を守ることは社会的責任だと思います。
企業は最大限の努力をしなければなりません。
ただ し、経済環境や事業の悪化等で雇用が守れなくなっ て従業員を解雇せざるを得ない時だってある。
企業が デフォルトしてしまえば、雇用の機会は永遠に失われ てしまいます。
それは避けなければいけません。
問 題は、真っ先に切られていくのが非正規と呼ばれる従 業員だという点です」  「理由の一つは正社員の待遇が厚すぎることにあり ます。
経済環境や業績へのリスクは、本来、正社員 も同じように負うべきものです。
しかし正社員の権利 「実態無視の労働規制強化は逆効果」  経済の実態を無視して人材派遣の規制強化や最低賃 金の大幅な引き上げを実施すれば、雇用のパイが減少し てしまう。
経済成長に必要な改革は今後も進め、同時に セーフティネットを強化する、トータルな政策が必要だ。
しかし、マニフェスト至上主義に陥った民主党は耳を貸 そうとしない。
    (聞き手 大矢昌浩・石鍋 圭) 加藤勝信 自民党衆議院議員 自民党厚生労働部会長 第 3 部 ポスト人材派遣の2つの選択肢 特集 新しい物流労務管理 27  DECEMBER 2009 が強すぎて、非正規社員にしわ寄せがいってしまって いる。
高校や大学を卒業する一八歳か二二歳の時に うまく就職できるかどうかで、その後のリスクへの晒 され方が全然違ってしまう。
そこはやはり議論しな ければいけない」 ──例えば正社員の解雇規制を緩和する?  「それも一つです。
ワークシェアリングも一つ。
し かし、部分的な議論を積み重ねても限界があります。
全体を見通す形で、制度改革を実行していく必要が ある。
トータルとしてリスクをどうヘッジするのかと いう視点が大切です」  「雇用の流動化は、経済を成長させて雇用のパイを 増やすためには必要でした。
しかし雇用の流動化に 合わせて十分なセーフティネットを整備してきたかと いえば、必ずしもそうしてこなかった。
そこは我々自 民党の反省点です」  「例えば完全失業者のうち失業保険でカバーでき ているのは二割強しかいない。
明らかに不十分です。
我々は職業訓練期間中、月一〇万円〜十二万円が支 給される『訓練・生活支援給付金』などを含むいわ ゆる『第二のセーフティネット』を創設し、今秋から 本格的に動き出しましたが、このような制度のさら なる充実が必要です」 ──民主党への政権交代と規制緩和路線のゆり戻し も、セーフティネットの欠如による社会不安が原因な のでしょうか。
 「一つの要因に過度な規制改革があったのは事実で す。
ただ、規制改革とは関係のない国際化などの流 れの方が大きかったように思います。
規制改革を進 めているタイミングで、生活への不安が高まってきた。
問題はそれに対応できる十分な仕組みが作れなかった ことだと考えています」  「今後も改革すべきは改革し、この国を成長経済に もっていかないといけません。
このままでは経済全 体がシュリンクしてしまう。
残念ながら現政権には経 済成長という視点がありません」 ──郵政民営化は事実上の国営化に向かっています。
これはマニフェストにはなかった。
 「自民党の中でも郵政事業の四分社化ということに ついては見直しの声がありましたが、最大のポイント は、今の議論がこれからの時代を見据えた議論になっ ているのかどうかです。
金融事業で郵便事業の赤字を 補填するようなイメージで議論が為されてますが、本 当にこれからの金融事業はそれほど多くの利益を出し ていけるのか疑問です」 「脱官僚・天下り規制」はどこへ ──日本郵政の社長には元大蔵次官の斉藤次郎氏が 起用されました。
 「私も大蔵省出身で、斉藤氏が主計局長の時代には 主査をしていました。
当時の主計局では『斉藤学校』 と呼ばれるほど影響力を持った人物でした。
ただ、斉 藤氏が日本郵政のトップに相応しいかどうかという議 論の前に、民主党がこれまで官僚出身者の人事にど ういうスタンスをとってきたかが問われなければいけ ません」  「日銀総裁ポストをめぐる人事では、自民党が挙げ る候補者に対し、民主党は官僚出身という理由でこ とごとく『NO』を突き付けてきました。
人物の是 非などまったく聞く耳を持たなかった。
そういった経 緯と今回の郵政人事とどう整合性をとるのか。
『脱官 僚・天下り禁止』を高らかに謳いながら主要ポストに は官僚出身者がひしめいています。
まったく筋が通 りません」 PROFILE 加藤勝信(かとう・かつのぶ) 1955年、岡 山県生まれ。
東京大学経済学部卒。
79年に 大蔵省入省。
主計局主査などを経て95年に 退官。
義父である自民党の加藤六月氏の議員 秘書、川崎医療福祉大学の客員教授を経験後、 2003年の衆議院選挙で自民党から出馬し初当 選。
以来、05年、09年の衆院選で当選。
今 年10月、自民党の厚生労働部会長に就任。

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