ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2010年1号
ケース
小学館 RFID

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JANUARY 2010  42 RFID 小学館 書籍の個体管理でICタグを実用化 責任販売の普及へ識別システム開発  住宅メーカーの積水ハウスは業界で初めて、新築 施工現場で発生する廃棄物のゼロエミッションを達 成した。
現場で分別を行い、集荷拠点を経由して 自社のリサイクル施設に回収する仕組みを作ること で、廃棄物の発生量を大幅に削減した。
さらに部 材の設計段階から発生抑制を図るため、回収時に ICタグで廃棄物情報を収集するシステムの構築を めざしている。
委託販売と責任販売を併用  書籍の返品率は一〇年以上にわたって四 〇%台で高止まりしている。
高い返品率は 出版社の利益を損ない、返品処理コストの負 担増によって出版取次の利益も圧迫している。
返品率が一向に改善されない理由の一つは、 売れ残った本を書店が自由に返品できる「委 託販売制度」にあるとされている。
 出版社や取次だけでなく、経営意欲のある 書店の間でも現行の販売制度への不満はくす ぶっている。
委託販売では出版社や取次の判 断で書店への配本数が決まるため、書店が希 望する部数の配本を受けられず、みすみす販 売機会を失うことが少なくないからだ。
 そこで近年は「責任販売制」が脚光を浴び るようになってきた。
出版社や取次が返品に 一定の制約を設ける代わりに書店のマージン を厚くし、書店の希望通りの部数を出荷する 制度だ。
 既に大手取次などが、ベストセラー本を対 象に返品可能な部数を制限する形の責任販売 制の導入に動いている。
マージンの増加によ る書店の収益向上と、返品の減少が期待され ている。
 ただし責任販売制にも問題がないわけでは ない。
 大手出版社の小学館は一〇年ほど前に一度、 責任販売制の導入を試みたことがある。
一九 九九年から二〇〇一年にかけて発売した六タ イトルの書籍に同制度を適用した。
書店のマ ージンを通常より一五ポイント上乗せし、返 品する場合には仕入れ額の半額程度しか返金 に応じないという条件にした。
 六タイトルのうち売り上げ部数が最も多か ったのは「 21 世紀こども百科」で、翌年に発 売した第二版と合わせ四〇万部以上を売った。
返品率は一%台という極めて低い数値だった。
これ以外のタイトルについても返品率は総じ て低く、六タイトルの平均で三・七%という 結果だった。
 この試みによって責任販売は返品率の抑制 に有効であることが実証された。
だが一方で、 制度の欠点も明らかになった。
 「 21 世紀こども百科」は小学館が出版事業 の柱の一つとする子供向け学習図書だ。
この ジャンルの書籍は、発売開始から時間の経過 とともに売れ行きが鈍化していった後も、定 番商品として細く長く売れ続けるという特徴 がある。
 そのため同社では「 21 世紀こども百科」を、 各書店の棚に一〜二冊常備してもらい、追加 注文に応じながら長い時間をかけて販売して いくという戦略を立てていた。
ところが発売 から半年ほど経った時点で注文がぱったりと 途切れてしまった。
 小学館のグループ会社で情報システムの開 発・運営に当たる数理計画・業務開発室の岡 野豊氏は「これらの書籍の発売から現在まで の売り上げ推移を見ると、九九%が発売後六 小学館は2008年秋から一部の書籍で、書店の返 品が自由な委託販売制と、返品に制約がある代わり にマージン率の高い責任販売制の併用を試みている。
ICタグで一冊ずつ販売条件を識別するシステムを導 入したことで二つの制度の併用が可能になった。
返 品率が大幅に下がり、売り上げの拡大にも効果を挙 げている。
43  JANUARY 2010 カ月間に集中している。
これは本が売れなく なったからではなく、書店が売らなくなった ことが理由だと考えられる」という。
 もともとこの手の?常備本?は、出版社か らの寄託で販売することが慣習となっている。
出版社が書店に在庫を預け、実際に売れた時 点で書店の仕入れが立ち、追加補充するとい う販売形態だ。
書店は棚のスペースを貸すだ けでリスクがない。
 ところが責任販売制度では、当然ながらリ スクを書店が負わなければならない。
新刊と しての販売期間が過ぎてしまうと、書店は仕 入れた部数がすべて売り切れても、リスクを とってまで常備本を追加発注しようとはしな かった。
 この経験から小学館は、責任販売制は初版 のスタートダッシュには有効でも息の長い販売 には向かないと判断した。
そしてその弱点を 補うため、書店のマージン率の高い責任販売 制と、書店にリスクのない委託販売制を併用 することを考えついた。
 返品が認められる委託販売では返品時に書 店は仕入れ額と同額の返金を受けられる。
一 方、責任販売では委託販売よりも仕入れ額が 安い代わりに、返品の際にペナルティーが課せ られ仕入れ額の一部しか返金が受けられない。
 書店は同じ本の仕入れに二つの販売制度を 使い分けることで?いいとこどり?ができる。
確実に売る自信のある部数については責任販 売で仕入れ、追加発注する分についてはリス クのない委託販売を選択すればいい。
製本工程でICタグを装着  ただし、販売制度の併用をむやみに行えば 大きな混乱を招く恐れがあった。
書店が同じ タイトルの書籍を委託販売と責任販売の両方 の条件で仕入れた場合、書籍によって仕入れ 額と返金額に差が出る。
それまでの返品処理 方法ではこれに対応できない。
 しかも、書店の多くは複数の取次から書籍 を仕入れているため、返品の際に責任販売で 仕入れた分が誤って委託販売で仕入れたルー トで返品されてしまう恐れもあった。
それで は逆ザヤまで発生してしまう。
 併用制を実施するには、その書籍に二つの 販売条件のうち、どちらが適用されているの か一つひとつの個体ごとに識別する仕組みを 整えることが大前提だった。
その手段として 同社はICタグに着目した。
 出版業界では〇三年からICタグの研究が 行われている。
当初は万引き防止対策として、 書店から出版社側に対し製本段階でICタグ を装着するよう要請があった。
これをきっか けに、出版社や取次、書店などの出版流通に かかわる各業界団体の上部団体である日本出 版インフラセンター(JPO)がICタグの 専門委員会を設けた。
そこでは防犯だけでな 数理計画・業務開発室の 岡野豊氏 IC タグシステムの概要 出版社取次会社書 店読 者 出荷作業 ピッキング、 出荷検品(タグ) 出荷作業 入荷検品、仕分け、 出荷検品 返品作業 条件確認 (スリップ、シール) 購入 プライバシー への配慮 (取り外して廃棄) 返品作業 返品仕分、 条件確認(タグ) 返品作業 条件確認 (タグ) 出荷記録 タグ番号、出荷先(書店)、 取引条件(委託、買切) 出荷記録 タグ番号、出荷先(書店)、 取引条件 受 注 販 売 注文記録 注文元(書店)、 委託冊数、買切冊数 参照する 参照する 記録する 参照する 記録する 返品する 注文する 送品する 送信する 返品する 送品する 注 文 JANUARY 2010  44 く流通在庫の把握や業務効率化なども対象に した活用法が検討されている。
 
複丕呂任呂海譴泙膿回に渡って実証実験 を行い、タグの性能や運用方法を検証してき た。
〇五年春には書籍やコミックス十一万冊 にタグを装着し、出版社・取次・書店の参加 による大掛かりな実売実験も行った。
 その際、客注品のトレースや棚卸しの効率 化とともに、同一タイトルで委託販売と責任 販売が混在するケースを想定し、ICタグで 識別を行う方法についても検証されている。
 こうした業界レベルでの取り組みを背景に、 小学館は〇八年にICタグの実用化に踏み 切った。
同年十一月、「ホームメディカ 新 版・家庭医学大事典」を発売した際に、書店 が委託販売と責任販売を選択できる併用制度 を初めて採用し、販売条件の識別を目的にI Cタグを導入した。
 
稗奪織阿烹稗咤贈離魁璽鼻幣ι淵魁璽鼻 と個体識別用のシリアルナンバーを書き込ん で書籍に貼付。
出荷の際に個体別に書店名と 取引条件を関連付けてデータベースに登録し ておき、返品時にICタグのシリアルナンバ ーをキーに取引条件の識別を行うという仕組 みだ。
 タグの装着についてはJPOの専門委で背 表紙に自動装着する方法も研究されていた。
だが「ホームメディカ 新版・家庭医学大事 典」はハードカバーの書籍で、背表紙にタグを つけると製本工程で破損する恐れがある。
こ バーコードの印字されたラベルを貼り、専用 のリーダーでバーコードと書籍のICタグを読 む。
これにより書店の注文情報(販売条件) と書籍の個体情報を紐付けて、個体別に販売 条件を識別することを可能にする。
 中小の取次のなかにはリーダーの設置が困 難なところもあり、その後も越谷センターで は一部の取次の業務を代行してデータの登録 作業を行っている。
〇九年十一月の「世界大 地図」では初版の三万部のうち一五〇〇部に ついて同センターが処理した。
のためハガキサイズの台紙にタグを付けて「貼 り込み」という製本工程で読者カードなどと いっしょに装着する方法をとった。
この方法 なら製本所は従来の製本技術で対応できるた め新たな投資がいらない。
 書籍にタグを付けたまま販売することから、 読者に分かるようタグ付きであることを明記 し、タグにはミシン目を付けて購入後に切り 離せるようにすることで、プライバシー問題 に配慮した。
 またタグのリーダーを設置できない書店な どが目視でも識別できるように、梱包テープ やスリップ(短冊)の色を変え、本のカバー に識別用のマークをつけた。
返品後に改装し て良品として再出荷する際には、カバーとス リップを付け替えるだけで責任販売と委託販 売を入れ替えることも可能だ。
物流子会社がデータ登録作業を代行  小学館はこれまでに「家庭医学大事典」の ほか、〇九年七月に発売した「くらべる図鑑」 「脳で旅する日本のクオリア」「太陽系大地図」 と同年十一月発売の「世界大地図」の計五タ イトルで併用企画を実施している。
 「家庭医学大事典」の発売時には大半の取 次でICタグシステムに対応した出荷体制が 整っていなかったため、小学館グループの物 流会社である昭和図書が取次の作業を代行し た。
同社の越谷物流センターで新刊を出荷す る際に梱包(結束)単位で出荷先(書店名) 書店バーコードラベルを貼 付 読者に分かるようIC タグ 付きであることを明記 リーダーでバーコードとIC タグを読む 台紙にタグを付け貼り込 み工程で本に装着 画面に書店コードと商品 コードが表示される 45  JANUARY 2010 は、発売からおよそ一年経った〇九年一〇月 時点で全体の返品率が一〇%程度、そのうち 責任販売分がおよそ六%、委託販売分が二 〇%という水準だった。
書籍全体の返品率と 比べればはるかに低い。
 しかも発行部数は発売から半年後に七万五 〇〇〇部を超え、予定部数の四万部を大きく 上回った。
岡野氏は「委託販売との併用で書 店の選択肢が広がったことが売り上げの拡大 につながった」と分析する。
他の出版社にも波及  大手書店チェーンのなかにはまだ責任販売 に慎重なところもある。
今回の併用企画でも、 責任販売ではなく従来の委託販売を選んで大 量に仕入れたチェーンがあった。
一〇年前の 時のように責任販売しか選択できない制度だ ったら、こうしたチェーンは仕入れを躊躇し ていた可能性もある。
 併用にすることで中小の書店にも販売機会 が広がった。
従来の責任販売では書店の注文 部数に下限が設けられていたため、販売力の ない中小の書店には事実上、責任販売への道 が閉ざされていた。
それを改め今回は、責任 販売の注文にも一冊から応じ、大量に注文で きない中小の書店も意欲があれば企画に参加 できるようにした。
 書店のなかには、客を待っているだけでな く学校や図書館、病院などを回り外商で売り 上げを伸ばしたところもあった。
かつては書 店でこういった外商が盛んに行われていたと いう。
 小学館が責任販売を導入した狙いの一つは、 そうした販売スタイルを復活させて売り上げ を拡大することにあった。
外商は店頭販売よ りもコストがかかる。
そこで書店のマージン を大きくして書店が費用を補填できるように と考えたのだ。
 このため併売企画の対象も「家庭医学大事 典」をはじめ外商に向いた書籍の中から選ん でいる。
今後も同社は責任販売の導入効果が 高い本で併用企画を実施していく考えだ。
 〇九年には小学館以外の出版社にも動きが あった。
講談社は一〇月末刊行の「CDえほ ん まんが日本ばなし」全五巻セットに責任 販売制を導入した。
 また筑摩書房、中央公論社、早川書房、 平凡社など中堅出版社八社は共同で、書店の マージンを通常よりも高い三五%にし返品の 際の引き取り価格を本体価格の三五%とする 責任販売システム「 35 ブックス」を立ち上げ、 十一月から実施している。
 返品の際に価格ではなく引き取る部数を制 限するかたちの取次の責任販売制も始まって いる。
さまざまなモデルが動き出した。
「責任 販売の機運が盛り上がるなかで、われわれの 考える委託販売と併用する方法が責任販売の 普及に最も有効なことを実証していきたい」 と岡野氏は話している。
(フリージャーナリスト・内田三知代)  また同センターではこれとは別に、取次ご との販売条件を出版社が識別するためのデー タ登録も同じ方法で行っている。
出荷時にI Cタグを読み、取次別の出荷情報と紐付けて おく。
これによって出版社は、どの取次経由 でどの書店へどんな条件で書籍を販売したの かを個体別にトレースできる。
 登録したデータは返品処理を担当する同社 の美女木物流センターへオンラインで送られ る。
美女木物流センターでは、タグの付いた 書籍が返品されると、リーダーでタグを読ん で登録されたデータと照合し、これをもとに 返金用の伝票を起票する。
返品センターには 取次から通い箱単位で多種多様な本が大量に 送られてくる。
その一点ずつについて販売条 件を識別する作業はICタグの導入なしには とても考えられないという。
 小学館は現状では初回の注文分以外は原則 として委託販売だけにしている。
客が購入す ることが確実な客注本については書店から責 任販売にして欲しいとの声もある。
だが新刊 の発売時に集中処理するのと違って、客注本 を出荷する際に、個体ごとに販売条件を区分 すれば管理が煩雑になる。
ICタグによる識 別システムの開発を担当した数理計画の岡野 氏は「その都度タグでデータを取ることは可 能なので物流上の問題はないが、その先の売 り掛け買い掛けシステムがまだそこまで対応 できていない」と説明する。
 最初の併用企画である「家庭医学大事典」

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