ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2010年1号
ケース
豪トール・ホールディングス M&A

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JANUARY 2010  50 M&A 豪トール・ホールディングス 70社超の物流企業を吸収した豪最大手 フットワーク買収で日本市場に本格参入  住宅メーカーの積水ハウスは業界で初めて、新築 施工現場で発生する廃棄物のゼロエミッションを達 成した。
現場で分別を行い、集荷拠点を経由して 自社のリサイクル施設に回収する仕組みを作ること で、廃棄物の発生量を大幅に削減した。
さらに部 材の設計段階から発生抑制を図るため、回収時に ICタグで廃棄物情報を収集するシステムの構築を めざしている。
「フットワークを一年で黒字化する」  オーストラリアのメルボルンに本社を置く物 流大手のトール・ホールディングスは二〇〇 九年一〇月、経営再建中のフットワークエク スプレスの全株を取得して完全子会社化した。
 それ以前からトールは子会社でシンガポー ルに拠点を構えるセムコープ(SembCorp)を 通して、フットワークの株式の三六%を保有 していた。
残りの六四%を九五〇〇万豪ドル (七八億八五〇〇万円)で買い取った。
 フットワークは、かつては西濃運輸、福山 通運と並ぶ路線便の?御三家?の一角に数え られる名門企業だった。
ところが一九九〇年 代に実施した過剰投資で財務体質が悪化。
〇 一年に負債額一四〇〇億円を抱えて民事再生 法の適応を申請した。
 その後、前述のセムコープやオリックス系 投資ファンドの支援を受けて経営再建を進め ていたが、依然として一〇〇〇億円近い負債 を抱えている状態だった。
?火中の栗?とも いえるフットワークの買収を決めたトールの勝 算はどこにあるのだろうか。
 トールグループの経営トップで一〇月にフ ットワークの会長にも就任したポール・リト ル社長(Managing Director)は次のように 語り、これまでの買収で培った経験から、フ ットワークの再建にも自信を見せている。
 「日本はアジア最大の経済大国であり、世 界二位の経済大国でもある。
今回の(フット ワークの)買収によって、トールはこの大き な市場で重要な基盤を持つことができた。
当 社は九八年にオーストラリアでIPECとい う宅配業者を買収したことがあった。
買収当 時は財務体質も悪く、同業他社に大きく水を あけられていた。
しかしその後二年で経営の 基礎を固めて、今日ではオーストラリア国内 の市場をけん引するまでに成長している。
フ ットワークも、一年後には一株当たりの当期 利益(EPS)を黒字にする」  トールは八〇年代以降、買収に次ぐ買収を 重ね企業規模を拡大してきた。
これまでに買 収した企業数は七〇社を超える。
〇九年六月 期の主な買収件数だけでもフットワークを含 め七社を数える。
買収した七社合計の売上高 は一〇億豪ドル超、〇九年の買収にかかった 金額は三億七〇〇〇万豪ドル超だ。
 同社は企業買収を成長の主要戦略と位置付 けている。
買収によって、スケールメリット を拡大しサービスメニューを増やすと同時に、 「相乗効果によって企業価値を高める技術」を 同社の重要な資産としてとらえている。
 トールの創業は一八八八年にさかのぼる。
創業者のアルバート・トール氏が馬車を使っ た石炭輸送事業で起業した。
一九六〇年代に 入ってトール氏が亡くなると、鉱山会社が会 社を買い取った。
その後、現在のリトル代表 らがMBO(マネジメント・バイアウト、経 営陣による買収)によって経営権を握ったの が八〇年代のこと。
2009年10月、オーストラリアの物流最大手トー ルが日本のフットワーク・エクスプレスを完全子会 社化すると発表した。
トールはこれまでに70社を超 える物流企業を買収し、地元オーストラリアからア ジア全域にネットワークを拡大しているフットワ ークの買収を機に日本市場にも本格参入することなる。
51  JANUARY 2010  
唯贈賄時の同社の売上高は一六〇〇万 豪ドルで、従業員は一〇〇人に満たなかった。
オーストラリアのどこにでもある中小輸送業 者にすぎなかったわけだ。
それが九〇年代 に入ると、九三年の株式の上場と相前後し て、積極的な企業買収に乗り出していった。
その結果、現在の同社はオーストラリアを代 表するロジスティクス企業へと変貌を遂げて いる。
 トールの〇九年六月期の決算数字は、売 上高が六四億九一五〇万豪ドル( 五三八 七億九四五〇万円、前期比一五・八% 増)、営業利益が三億九二四〇万豪 ドル(同一・五%増)、EBIT= 支払い利息・税金控除前利益が四 億六六〇〇万豪ドル( 同八・六% 増)、最終利益が二億七五二〇万豪 ドル(同六億九〇八〇万ドルの赤字) ──の増収増益だった(図1)。
 潜在株式調整後一株当たりの利益 は三九・九二豪ドルだった。
キャッシ ュフローも、前期末の三億五四〇〇 万豪ドルから八億八五六〇万豪ドルへ と二倍以上に増やしており、堅実に経 営されていることがわかる。
 同期の業績についてリトル代表は投 資家向け資料の中で「われわれは、ロ ジスティクス業界の平均を上回る成長 を果たし、ほかの多くの同業他社に比 べて、経済全体の落ち込みをうまく乗 り切ることができた」と説明している。
 ただし、過去五年の業績推移をみると、売 上高は右肩上がりだが、最終利益には大きな 波が見られる(図2)。
 このうち〇七年六月期の最終利益が、前期 の五倍以上に跳ね上がったのは、その前年の 大型買収によって、トールの市場占有率が大 きくなりすぎたことから、豪政府が、同社に 事業部門の一部を売却するように命じたこと で、特別利益を計上したことによる。
 また〇八年六月期は、同社の傘下にあった 旅客航空会社のバージン・ブルーの「のれん 代」として九億豪ドル以上の特別損失が発生 し赤字決算となった。
 それでも、そうした特別利益や特別損失 を除けば、売上高に占めるEBITの比率は、 この五年間を通して六%台から七%台で安定 的に推移している。
豪&NZを基盤にアジアに進出  同社の売上高構成は、地元の「オーストラ リア&ニュージーランド部門」の売り上げが 四八億六〇三〇万豪ドル(前期比四・七% 増)と、全体の七割以上を占めている。
同部 門の売上高EBIT率は七・七%という高水 準で、金額的にも三億七二〇〇万豪ドル(同 四・八%増)と、全体の八割を占める稼ぎ頭 だ。
 〇九年六月期に同部門は、コカ・コーラや GM傘下のシボレー、豪鉄鋼会社のブルース 図1 トールの2009 年6 月期の損益計算書(%は対前年比) 売上高 64 億9150 万豪ドル 15.8% トール・オーストラリア&NZ 48 億6030 万豪ドル 4.7% トール・国際フォワーディング 9 億730 万豪ドル 153.7% トール・アジア 7 億2390 万豪ドル 19.6% その他の収入 2270 万豪ドル −15.9% 営業経費 61 億2180 万豪ドル 16.7% 輸送やロジにかかる費用 33 億5470 万豪ドル 20.0% 修理や維持費 1 億2200 万豪ドル 5.7% 人件費 15 億5900 万豪ドル 13.3% 燃料費など 2 億3100 万豪ドル −7.7% 不動産費用 2 億9710 万豪ドル 12.6% 原価償却 1 億9220 万豪ドル 14.6% その他の営業経費 3 億6580 万豪ドル 32.5% 営業利益 3 億9240 万豪ドル 1.5% JV などからの利益 2120 万豪ドル 307.7% 金融収支と法人税前の利益 4 億1360 万豪ドル 5.6% 金融活動の収支 −2500 万豪ドル ─ 金融活動の利益 3390 万豪ドル −5.6% 金融活動の損益 5890 万豪ドル −14.6% 税引き前の利益 3 億8860 万豪ドル 8.3% 法人税 1 億520 万豪ドル 0.8% 継続事業からの利益 2 億8340 万豪ドル 11.4% 非継続事業からの損失 820 万豪ドル −99.1% 最終利益 2 億7520 万豪ドル ─ 潜在株式調整後一株当たりの利益 39.92 豪ドル ─ 14 12 10 8 6 4 2 0 -2 -4 -6 -8 最終利益(右軸) 70 60 50 40 30 20 10 0 05/6 06/6 07/6 08/6 09/6(月期) 単位:億豪ドル 図2 トールの業績推移 EBIT(右軸) 売上高(左軸) JANUARY 2010  52 コープ・スティール、同じく豪の石炭開発の 大手エクストラータ──といった大手荷主と 新規契約を結んでいる。
 しかし特定の荷主への売上依存度は低い。
同部門の荷主上位二〇社の売り上げを合計し ても、全体の三分の一にも満たない。
数多く の荷主と取引することが業績の安定につなが っている。
 トール全体の売上高に占める荷主の産業別 の割合で、一番多いのは「小売り・日用雑 貨」で四五%を占める。
次いで「鉄鋼などの 天然資源関連」が二〇%、「生産財」一五%、 「政府関連」八%、「自動車」五%──となる。
この割合は、「オーストラリア&ニュージーラ ンド部門」にもほぼ当てはまる(図3)。
 〇九年六月期の同部門で最も成績がよかっ たのは、食品や飲料関連の3PL業務だった。
「in2store(イン・ツー・ストア)」と呼ぶ物流 センター業務の受注を専門とする部署が、食 品や飲料関連の荷主に積極的に営業をかけて 新規顧客を開拓した。
 既存荷主の契約更新も順調で各荷主の物量 も増加した。
オーストラリアでは「小売りや 日用雑貨」産業の八〇%前後が成長を続けて おり、同産業を得意先とするトールには追い 風となった。
 一方、「鉄鋼や天然資源」と「自動車」産 業の荷主は、〇八年秋以降の世界同時不況の 影響を被って、荷動きが低迷している。
しか し自動車産業については、同社はオーストラ ル・グローバル・フォワーディング部門」だ。
業務の六〇%は海上貨物のフォワーディング で、三〇%強が航空貨物だ。
二六カ国に六五 カ所の拠点を構え、二五〇〇人の従業員を抱 えている。
 同部門の〇九年六月期の売上高は九億七三 〇万豪ドル(前期比一五三・七%増)で、E BITは一八〇〇万豪ドル(同六二・六% 増)だった。
売上高、EBITとも大幅に増 加しているが、これは前期に香港のバルトラ ンス(BALtrans)と豪グルック(Gluck)を 買収したことに起因している。
売上高EBI T率は二・〇%と収益性は決して高くはない。
 またグローバル市場で競合するドイツポスト DHLやキューネ+ナーゲル、DBシェンカ ーなどのフォワーディング部門と比べると、ト ールのフォワーディング部門の事業規模は大 きく見劣りがする。
 今後、エンド・ツー・エンドのサプライチ ェーン・マネジメント業務を拡大していくた めには、同部門をさらに成長させることが必 要だとトールは考えている。
その中心手段と なるのは、やはり買収だ。
 同社は、約一七〇〇億米ドル(一四兆九六 〇〇億円)とされる世界のフォワーディング 市場において、現在は上位一〇社の売上高を 合わせても四〇%の市場占有率しか持ってい ないことを挙げ、今後この市場で企業買収を 軸にシェアを拡大していくことは十分に可能 だと説明している。
リアとニュージーランド国内の物量の落ち込み を、国際輸送で取り返している、という。
オ ーストラリア国内で荷動きが落ち込んだ分を、 アジア発着の貨物増加を取り込むことによっ て相殺している。
 リトル代表は「アジア地域における当社の ネットワークの拡大と輸送モードの充実によ って、二方向(豪州→アジアとアジア→豪州) の輸出入が増えることを収入につなげること ができるようになった。
荷主は、リードタイ ムや料金に応じて、輸送モードを鉄道輸送か ら航空輸送に変えたり、また鉄道輸送から海 上輸送に切り替えることができる。
これがト ールのクロス・セリングにつながって、売上 高とEBITを押し上げる要因となっている」 という。
フォワーダーの買収に意欲  オーストラリアとニュージーランド部門に次 いで、売上高構成比率の高い部門が「トー 図3 売上高に占める各産業の比率 2009 年6 月期 売上高 65 豪ドル 政府関連 8% 鉄網や 天然資源 20% 生産財 15% 小売り・ 日用雑貨 45% その他 6% 自動車 5% 53  JANUARY 2010 中国、台湾、韓国、ベトナムといった市場で の取り扱い規模も上昇傾向にある。
 〇七年に買収したシンガポールの鉱物輸送 会社のセンバワン・キムトランス(Sembawang Kimtrans)の業務統合が進み、同社の輸送能 力を活かすかたちで中国やベトナム、インド で新しい物流センターを立ち上げ、またセン ターを増改築したことが、売り上げの拡大だ けでなく業務の効率化とコスト削減に寄与し ている。
 また〇七年には香港のカーゴ・サービシー ズ(Cargo Services)の株式の二五%も取得 している。
同社の主要顧客だった豪小売り大 手のウールワース(Woolworths)の北米発オ ーストラリアの業務を買収後も引き続き受託 し、しかもウールワースから、優秀サプライ ヤーに選ばれたことで、アジア発欧州向けの 業務量が大幅に増えた。
その結果、カーゴ・ サービシーズの売上高と利益はともに二ケタ の増加となっている。
敵対的買収で法廷闘争も  これまで積極的な企業買収によって成長を 果たしてきたトールではあるが、そうした企 業の常として、組織が非常に入り組んだ様相 を呈している。
 先に挙げた三部門は損益計算書上の事業区 分であり、それとは別に、社内はグローバル 資源部門、グローバルエクスプレス&国内貨 物部門、グローバル・ユニトラクト・ロジス ティクス部門、グローバル・フォワーディン グ部門の四つの部門に分かれて日常の業務を こなしている。
各部門の業務内容は多種多様 にわたっておりパッチワーク的で、これで効 率的な企業運営や買収による相乗効果を上げ ることができるのかという疑問を拭い去るこ とはできない。
 加えて、これまでの買収もすべてがスムー ズにいったわけではない。
〇五年に敵対的買 収を仕掛けたオーストラリアの港湾荷役大手 のパトリック社とは、法廷闘争を経験してい る。
最終的には買収に成功したものの、この 法廷闘争と並行して、オーストラリア政府か らトールは事業分割を命じられている。
 パトリック社の買収が成功すればトールのオ ーストラリア国内における市場占有率が高く なり過ぎて独占的になることを懸念したオー ストラリア政府が、トールに対して、港湾や 鉄道といったインフラに関わる事業を切り離 すよう命じた。
 これに従い、〇七年にトールはインフラ運 営会社のアスチアーノ社を分離している。
こ のときの事業部門の売却益が、先に書いたよ うにトールの〇七年度の最終利益を押し上げ たわけだ。
 こうした試練も経験し企業買収のノウハウ を蓄積してきたトールが、フットワークの経 営再建にどんな手腕を発揮するのか。
日本の 物流業界から熱い注目が集まっている。
(ジャーナリスト 横田増生)  日本を含めた「トール・アジア部門」の〇 九年六月期の売上高は七億二三九〇万豪ド ル(同一九・六%増)で、EBITは七六 〇〇万豪ドル(同二〇・六%増)だった。
他 の二部門と比べて事業規模は小さいが高い成 長率を示している。
しかも、売上高 EBIT率は一 〇・五% と三部 門の中で最も高い。
 八〇年代には じまり、同社の アジア進出の足掛 かりとなったシン ガポールの国防省 向けロジスティク ス業務が順調で、 1豪ドル= 83円で換算、1米ドル= 88円 企業概要 社名 トール・ホールディングス 本社 オーストラリア・メルボルン 創業 1888 年 最高経営責任者 ポール・リトル代表 株式上場 1993 年、オーストラリア証券取引所 総売上高 64 億9150万豪ドル(5387億9450万円) 最終利益 2 億7520万豪ドル(228 億4200万円) 従業員数 3万5000人超 (注)2009 年11月の数字 トールの略史 アルバート・トール氏が馬車を使って石炭輸 送を開始 トール氏の没後、鉱山会社が買い取る 社名をトール・トランスポートに変更 経営陣による買収(MBO)でポール・リトル 氏らが経営権を握る オーストラリア証券取引所に上場、積極的 なM&Aをはじめる 同業のパトリック社と鉄道会社のパシフィッ ク・ナショナル社を立ち上げる パトリック社への敵対買収を仕掛ける シンガポールのセムコープ・ロジスティクス を買収 法廷闘争の末、パトリック社を買収 物流事業における独占的地位を排するため 港湾施設などのインフラ整備部門をアスチ アーノ社として分離 フットワーク・エクスプレスの全株を取得 1888 年 1960 年年代 1985 年 1993 年 1986 年 2002 年 2005 年 2006 年 2007 年 2009 年

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