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物流指標を読む
JANUARY 2010 40
世論の反発必至! 環境税の行方
第13 回
●環境省が地球温暖化対策税の具体案を提出
●実現すれば2兆円規模の税収が見込まれる
●産業界や世論の反発など実現への障壁は高い
さとう のぶひろ 1964 年生まれ。
早稲田大学大学院修了。 89年に日通
総合研究所入社。 現在、経済研究部研
究主査。 「経済と貨物輸送量の見通し」、
「日通総研短観」などを担当。 貨物輸
送の将来展望に関する著書、講演多数。
自信満々の環境省
環境省は、二〇一〇年四月からの導入を目指す
地球温暖化対策税(環境税)の具体案を決定し、
政府税制調査会(会長:藤井裕久財務相)に提出
した。 同税は、原油、石油製品(ガソリン、軽油、
重油、灯油、航空機燃料)、ガス状炭化水素(天
然ガス、LPG等)、石炭などあらゆる化石燃料
を課税対象としており、「炭素税」(化石燃料に対
して、炭素の含有量に応じて課される税金)をイ
メージしているようだ。
地球温暖化対策税の具体案は、表に示すとおり
である。 まず、課税の仕組みであるが、?全化石
燃料について、輸入者、採取者の段階で課税(石
油石炭税の納税システムを活用)することに加え、
?ガソリンについては、?に加えて、ガソリン製造
者等の段階で課税(揮発油税の納税システムを活
用)する。
税率は、炭素含有量や燃焼の際に発生する二酸
化炭素の量などをベースに、輸入者、採取者の段
階で、原油および石油製品が二七八〇円/
kl
、ガ
ス状炭化水素が二八七〇円/トン、石炭が二七四
〇円/トン、ガソリン製造者等の段階で、ガソリン
が一万七三二〇円/
kl
となっている。
軽減措置として、諸外国と同様に、?製品原料
としての化石燃料(ナフサ)、?鉄鋼製造用の石
炭・コークス、?セメントの製造に使用する石炭、
?農林漁業用A重油については免税とし、その他、
国際競争力強化等の観点からの特定産業分野への
配慮や低所得者等への配慮については、使途とな
る歳出・減税で対応するとしている。
見込まれる税収規模は、全化石燃料への課税で
一・〇兆円強、ガソリンへの上乗せ課税で一・〇
兆円弱、総額で約二・〇兆円となっている。
環境省の試算によると、ガソリン一リットルあた
りの地球温暖化対策税の税率は二〇・一円で、新
税導入とガソリン税などの暫定税率廃止がセットで
実施された場合、ガソリン一リットルあたりの税負
担は、現行(暫定税率あり)の五五・八四円から
五〇・八四円へと、五円引き下げられることにな
る。 なお、ガソリンに対する税率は現行よりも引
き下げられるが、他の化石燃料に比べるとかなり
高く設定されている。 これは使用量の多いガソリ
ン消費の抑制を強く意識したものだ。
さらに、電力、ガス、灯油などに対する課税額
が増加することによって、一世帯あたりの年間税
負担額は、現行の四万八四四円から四万一九七一
円に増加し、家計は一一二七円の負担増となる。
環境税の創設は環境省の長年の悲願であり、環
境省が環境税導入の要望を出すのはこれで六年連
続となる。 その都度、産業界などからの強い反発
を受けて実現できなかったが、今回は導入に自信
満々らしい。 鳩山由紀夫首相が二〇二〇年の温室
効果ガス排出量を「九〇年比で二五%削減する」
との国際目標を掲げたからである。
増税歓迎の財務省も本音では賛成の口である。 景
気悪化のあおりを受けて税収不足が深刻化してい
る状況の下で、暫定税率の廃止に踏み切ればさら
に二・五兆円の税収減が発生するが、環境税を導
入できれば暫定税率廃止の「穴」を埋めることが
できるからだ。
しかし、本稿の執筆時点(〇九年十二月上旬)
環境省「地球温暖化対策税について」
41 JANUARY 2010
ている。 〇九年七月に発行された民主党のマニフ
ェストで、「目的を失った自動車関連諸税の暫定税
率は廃止する」、「二・五兆円の減税を実施し、国
民生活を守る。 特に、移動を車に依存することの
多い地方の国民負担を軽減する」と謳っておきな
がら、舌の根も乾かないうちに、暫定税率廃止の
代わりに環境税を導入することになったら、国民
の反発を招くことは必至だからだ。 たしかにマニフ
ェストのなかには、「将来的には、ガソリン税、軽
油引取税は、『地球温暖化対策税(仮称)』として
一本化」という記述があるのは事実だが、「将来
的に」が、まさか翌年のことだと思う国民はまず
いまい。 これでは、「公約を守らない
ことは大したことではない」と言い
放った元某首相と何ら変わらないで
はないか。
こうした情勢を勘案するならば、一
〇年度からの地球温暖化対策税の導
入はかなり難しいように思う。 なお、
新聞報道によると、暫定税率廃止と
財源確保を両立させる方策として、単
刀直入に言えば、暫定税率廃止に伴
う税収減をなるべく少なくするため
に、地球温暖化対策税の一〇年四月
の導入が実現しなかった場合に、暫
定税率を全廃したうえで、同年四月
から一年間、ガソリン税と軽油引取
税の税率を現在の暫定税率を下回る
範囲で上乗せする新税を導入し、暫
定税率の一部を事実上残すという修
正案が政府内で浮上しているそうだ。
効果はあるのか?
ところで、この地球温暖化対策税、果たして
二酸化炭素排出量の削減に効果があるのだろうか。
環境省は、地球温暖化対策税など環境税の効果と
して、以下の三点をあげている。
?機器の買換等を促進する価格インセンティブ効
果:化石燃料に課税することで、燃料を割高にし、
省エネ機器への投資や買換えを国民の皆様に広く
促すとともに、エネルギーの節約を促すという効
果があります。 価格効果によって、ランニングコ
ストの差が大きくなれば、省エネ・新エネ機器は
従来型機器より一層有利になります。
?税収を活用して温暖化対策を推進する財源効
果:税収を温暖化対策に充て、対策を担う人々に
対し、新たな補助金を差し上げたり、他の税の負
担を今より軽くしたり、といった経済的な支援を
行うことも可能になります。
?環境税の導入という強いメッセージによるアナウ
ンスメント効果:国民・事業者が環境税の導入を
認識することにより、ライフスタイル・ワークスタ
イルの変革が望めます。
財政学者の端くれとして、右記の説明には違和
感を禁じえない。 経済学的には、環境税の効果と
言えば、燃料を割高にすることにより、燃料自体
の需要を抑制する「価格効果」が真っ先に挙げら
れるが、その点についてぼかしているからである。
産業界の反発をかわそうという姑息な魂胆が見え
見えだ。 もっとも、先の環境省案では、税負担は
現状とほとんど変わらないわけであるから、価格
効果はほとんど見込めないことになる。
では、一〇年度税制改正大綱の取りまとめが遅れ
ている関係で、同年度からの地球温暖化対策税の
導入が決定されてはいないが、そのハードルは極
めて高そうだ。
これまでと同様に産業界の反発は強く、たとえ
ば経済産業省が〇九年十一月末に行った意見聴取
では、多くの経済・業界団体が導入反対を表明し
ており、経団連も「海外への生産流出を助長しか
ねない」、「企業活動の活力をそぎかねない」とし
て慎重な対応を求めている。
また鳩山首相も、暫定税率は廃止する意向を表
明する一方で環境税の導入には慎重な姿勢を示し
地球温暖化対策税の具体案(2010 年度税制改正要望)
課税の仕組み税率税収額軽減措置時期等
実施使途
○その他
・軽油についての個別の課税については、税制調査会において別途ガソリンに準じて検討が必要
●
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●●
●
?原油、石油製品(ガソリン、軽油、重油、灯油、航空機燃料)、ガス状炭化水素(天
然ガス、LPG 等)、石炭を対象に、輸入者、採取者の段階で課税(石油石炭税の納
税システムを活用)
?ガソリンについては、?に加えて、ガソリン製造者等の段階で課税(揮発油税の納税シ
ステムを活用)
?(輸入者・採取者)
・原油、石油製品2,780 円/ kl( 1,064 円/二酸化炭素トン、3,900 円/炭素トン)
・ガス状炭化水素 2,870 円/トン( 1,064 円/二酸化炭素トン、3,900 円/炭素トン)
・石炭 2,740 円/トン( 1,174 円/二酸化炭素トン、4,303 円/炭素トン)
?(ガソリン製造者等)
・ガソリン17,320 円/ kl( 7,467 円/二酸化炭素トン、27,380 円/炭素トン)
○総額約2.0兆円
?全化石燃料への課税1.0兆円強
(うち石炭の税率の天然ガスとの均衡化0.03 兆円)
?ガソリンへの上乗せ課税1.0兆円弱
○以下については、免税とする
・製品原料としての化石燃料(ナフサ)
・鉄鋼製造用の石炭・コークス
・セメントの製造に使用する石炭
・農林漁業用A重油
○その他、国際競争力強化等の観点からの特定産業分野への配慮や低所得者等への配
慮については、使途となる歳出・減税で対応
○2010 年4 月より実施
○次年度以降、国内排出量取引制度が導入される際には、各国の例も参考に、排出量
取引の対象となる事業者の負担の軽減措置を検討する
○「チャレンジ25」実現に向けた政策パッケージに盛り込まれる地球温暖化対策の歳出・
減税に優先的に充てることとするが、特定財源とはしない
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