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佐高 信
経済評論家
FEBRUARY 2010 82
?原発?おばさんと名づけて、荻野アンナや
幸田真音を批判したことがある。 日本の電力
会社が組織する電気事業連合会が主に原子力
発電への反対を抑える目的で広告する雑誌の
グラビア頁に登場する彼女たちを皮肉ってであ
る。
原発はクリーンエネルギーとか称して、アメ
リカのスリーマイル島やロシアのチェルノブイリ
の巨大事故を忘れたように、やはり原発をと
いうキャンペーンが繰り広げられているが、『世
界』二月号の斎藤貴男「民意偽装」が、検察
までが加わるその推進政策を明らかにする。
「知事は日本にとってよろしくない。 いずれ
抹殺する」
東京地検特捜部のある検事は、福島県が発
注したダムの建設工事をめぐる贈収賄事件で
逮捕された前知事、佐藤栄佐久について、こ
う言い放ったという。
佐藤は、それは「国策捜査」だとして、昨年秋、
自ら『知事抹殺──つくられた福島県汚職事件』
(平凡社)を刊行した。
そして全国知事会を舞台に道州制に反対し
てきたことや、何よりも、国の原発政策に異
議を申し立ててきたことが「抹殺」につなが
ったと述べている。
自民党の参議院議員だった佐藤は、最初
から原発政策に反対だったわけではなかった。
むしろ理解派だったのだが、次第に疑問を強
めるようになる。
「早い段階から疑問や不安は抱いていました。
参院時代に中曽根康弘首相の東欧訪問に随行
し、晩餐会に出される料理にいちいち『これ
はチェルノブイリの死の灰には汚染されていな
い肉です』と説明されたのが原体験ですね」
そして、福島県内に一〇基もの原発を擁す
る知事として、東京電力の安全無視の姿勢と
衝突するようになる。 もちろん、東電のバッ
クには国がいた。 いや、国と東電は一体であ
るとも言える。
佐藤は語っている。
「原子力政策というのは、民主主義の熟度を
図る素材なのだと思います。 国民的な合意が
なければ円滑には進まない。
だからこそ、たとえばヨーロッパの多くの国
では、国会の議決や国民投票などで決められ
ている」
「原子力発電環境整備機構」という組織があ
る。 略してNUMO。 そこでは昨年秋から「『電
気の廃棄物』問題を考えるキャンペーン」を展
開している。 「電気の廃棄物」などと名づけて
いるが、要するに原発による「高レベル放射
性廃棄物」である。
フジテレビでは、お笑いタレントや、エベレ
ストの清掃登山で有名な野口健が登場し、T
BSでは、みのもんたが「朝ズバッ!」でN
UMOの事業の意義を強調した。
『読売新聞』も極めて協力的で、元編集局長
の河野光雄がNUMOの評議員だし、国際ジ
ャーナリストの蟹瀬誠一がNUMO理事長の山
路亨と対談している。
斎藤貴男は、「著名人を囲い込んだNUMO
のPR戦略」に加わった俳優らの名前を次の
ように列挙する。
渡瀬恒彦、岡江久美子、浅茅陽子、池上季
美子、大山のぶ代、小林綾子、酒井美紀、酒
井和歌子、沢田亜矢子、佐藤B作、堤大二郎、
寺田農、布施博、的場浩司。
キャスターやタレントでは、伊藤聡子、酒井
ゆきえ、浅井慎平、北野大、弘兼憲史、舞の
海秀平、吉村作治。
これらの人は原発事故の恐さを知って、なお、
PRに参加しているのか。 原発おばさんや原
発おじさんに加え、原発俳優や原発教授まで
総動員である。
原子力政策に「待った」をかけて、架空の
事件で逮捕され、東京高裁でも有罪判決を受
けた前知事の佐藤栄佐久は、それでも、「最高
裁はわかってくれる。 私は日本の司法を信じ
ております」と言っている。
有名人を動員しての原発推進キャンペーン
他方では検察を使って反対派知事を「抹殺」
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