ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2005年11号
現場改善
生花販売チェーンF社の物流網刷新

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

NOVEMBER 2005 62 鮮度管理がカギ握る F社は関東圏で生花の販売店をチェーン展開 する年商約二〇億円規模の小売業者だ。
店舗数 は六七で、その大半が直営店となっている。
鮮 度の高さと割安な価格、丁寧な接客を武器にし て、これまで順調に業績を伸ばしてきた。
鮮度が商品価値を大きく左右する生花の物流 管理は容易ではない。
そのため一部の大企業を 除いて、これまで生花を多店舗販売する企業は まれだった。
二〇〇四年十一月には同業界でベ ンチャー企業として台頭したハナ・プレンティ が倒産しているが、これも適切な物流体制を構 築できなかったことが倒産原因の一つに挙げら れている。
実際、生花の物流は温度と時間との戦いだ。
こ れまでF社は、それを物流会社に頼らず自社で 行ってきた。
しかし出店数の増加に伴い、従来 の自社配送体制は限界にきていた。
これを機会と してF社は、物流業務の外注化とともに、将来 の出店計画まで視野に入れた新たな物流の?シ クミ〞作りを決意した。
そのパートナーとして、 オペレーションの委託先となる3PLのH社、そ して我々日本ロジファクトリー(NLF)が参 画することになった。
F社の仕入れには、中国を中心とした海外か らの調達と、国内の生花市場のセリで仕入れる 二つのルートがある。
中国からの輸入には温度 管理の可能な四〇フィートのリーファー・コン テナを使う。
七℃に設定したコンテナを上海港 から出荷して横浜港で陸揚げ、本社兼加工セン ターまでドレージ輸送する。
このプロセスでは通関業者の選定に加え、薫 蒸(くんじょう)、検疫からドレージ輸送までの 業務の流れに課題があった。
一方の国内生花市 場からのルートでは、市場側で手配した物流会 社が物量の増加に対応できず、商品の積み残し が頻繁に発生していた。
生花は採取後、外気の温度だけでなく、自ら 発する熱によっても傷んでしまう。
そのため産地から市場、市場から買い手に至るリードタイ ムを可能な限り短縮する必要がある。
自社の加 工センターに商品が届いてしまえば、後はF社 のノウハウとも言える加工技術によって鮮度を 維持することはできる。
それを確認した上で、 我々は今回、改善のポイントを以下の三点に絞 った。
?店舗配送業務の外注化とその安定化 ?輸入陸揚げ後の業務フローの見直し ?出店計画と配送網構築の調整 このうち「?店舗配送業務の外注化とその安 定化」については、自社配送を担当してきた四 第34回 生花の販売店をチェーン展開するF社が物流網の再編に乗り 出した。
事業規模の拡大によって、従来の自家物流体制は限界 にきていた。
そこで新たに3PLへのアウトソーシングを実施。
これと並行して商品の調達から店舗配送に至る一連のプロセスを 見直した。
生花販売チェーンF社の物流網刷新 63 NOVEMBER 2005 ことを重視し、さらには今後出店を加速させる ための物流体制構築に目を向けていたからだ。
そ のため外注化にあたっての最大の優先順位も、円 滑な運営ができることに置いていた。
とはいえ、コストが高くなることを簡単に容 認するわけにもいかない。
そこで3PLのH社 には運賃の計算方法を工夫してもらうことにし た。
一日当たり料金と一ルート当たり料金につ いて、それぞれF社の車両を使用した場合と通 常のH社の車両を使用する場合の計四パターン を提示してもらった。
物量の多寡に応じて車両 の利用方法を変えることで、コストを抑えよう という狙いだ。
生花業界の物量の波動は三〇倍 にも上る。
閑散期と繁忙期で料金体系を切り替 えることができればメリットは大きい。
弾力性 のある料金体系が実現したことでF社の物流担 当者のK氏も大変喜んでくれた。
人の正社員ドライバーの処遇がまず問題となっ た。
幸いにして四人は配送専属ながらも繁忙期 には他の業務を手伝っていたことから加工セン ターへ異動させることができた。
そのうち一人 は客注や別注などの突発的配送業務に対応する かたちとなった。
次にコスト。
自社配送から外部委託への切り 替えにあたり、荷主企業は往々にして既存社員 の人件費のみを基準にしてしまう。
運行三費(燃 料・油脂費/タイヤ・チューブ費/修繕費)と 減価償却、保険料を無視してしまうのである。
そ の結果、外注はむしろ高くつくと判断し、価格 交渉の段階で外注化を断念するケースが少なく ない。
その点、F社は物流会社の必要経費には理解 を示した。
右肩上がりの成長期ということもあ り、まずはしっかりとした店舗配送を実現する こうして配送業務を外注したことで、結果と して配送効率は飛躍的に高まった。
もともとF 社には配送ルート表や配車という機能がなく、ド ライバーが自らの判断で店舗、物量、商品を選 択している状態だった。
その体制でも納品先は 直営が大半であったため、破損などがない限り、 ほとんど問題は発生していなかった。
これをH 社のプロドライバーに切り替え、配送体制やル ールを整備したことで、車両回転率や配送時間 短縮が大幅に向上した。
通関業者を変更 「?輸入陸揚げ後の業務フローの見直し」は、 通関業務を委託する協力物流会社の見直しから 入った。
既存の協力会社はバースクレーンなど の港湾設備を自社で所有しない中間通関業者で あった。
この協力会社との契約を打ち切り、新 NOVEMBER 2005 64 は良いのだが、その後で実際に運用を開始して から、商品に応じた処理、加工施設の有無や能 力、寄港スケジュールなどの問題が発覚して、着 地の変更を余儀なくされる場合が多い。
それによって横持ちによる陸送費、いわゆるドレージ 料金が予定していた以上に跳ね上がってしまっ ているケースが多々見られる。
物流の視点で店舗展開を検証 「?出店計画と配送網構築の調整」では、F社 と最も多くの議論を交わすことになった。
F社 の店舗は商品鮮度、接客、価格などの面での評 価が高く、以前から食品スーパーやショッピン グセンターなどから多くの出店依頼が寄せられ ていた。
これに対してF社は、品質の悪化を招 きかねない急速な店舗数の拡大や安易な立地選 定には慎重な姿勢をとっていた。
それでも出店ペースは従来の年間二〜三店舗 から四〜五店舗へと、徐々に上がってきていた。
これに伴い出店エリアも拡大する傾向にあった。
従来は東京都内と横浜を中心に展開していたが、 新たに大宮や船橋といったエリアまでが候補に 挙がるようになっていた。
我々NLFはセブン イレブンを例にとってドミナント出店による物 流面での優位性を指摘、出店コストおよび店舗 維持コストに物流コストを含めたトータルコス トを検討した上で出店エリアを選定するよう提 案した。
この提案に物流担当のK氏はすぐに理解を示 したが、M社長は納得しない。
どうしても出店 する食品スーパー、ショッピングセンターの賃 料や保証金、出店ゾーンなどの条件にこだわっ たにハードを自社で所有する乙仲会社に切り替 えた。
さらにF社から輸入に関する書類一式(イン ボイス、パッキングリスト、BL、アライバル、 中国でのサニタリー証明書、輸入許可書、植物 検疫合格証、薫蒸証明書など)を提出してもら い、分析を行った。
その結果、まず短期的な課 題として横持ち費用を解消するための改善に手 を付けた。
従来は薫蒸や保管などのプロセスをそれぞれ 別の物流会社が担当していたことから、陸揚げ から本社加工センターの納品までに多い時には 四カ所の倉庫を経由していた。
これを改め、一 カ所あるいは二カ所の倉庫で全てのプロセスに 対応できる倉庫会社に委託先を集約したことで、 横持ち費用を一〇%削減することができた。
さらに中期的な改善課題として、輸入品の流 通加工業務を割安な中国に移管する改善を試み た。
輸入した生花の薫蒸には臭化メチルや青酸 などの多くの薬品処理が必要で、コストと時間 がかかる。
そこで上海現地の出荷品質を向上さ せることで国内での薫蒸処理をできるだけ少な くしようという取り組みだ。
具体的には、これまでF社が直接現地の仕入 れ会社と出荷のやりとりを行っていたのを改め、 今回新たに選定した乙仲会社の上海支社経由で 現地のチェック機能を向上させた。
その結果、業 務切替え後、約三カ月間は従来通りの薫蒸処理 が発生したが、約五カ月目にしてその処理を三 分の二にまで減少させることができた。
このF社のケースに限らず、一般にこの手の 輸入対応では船港や空港の着地決定を行うまで ていた。
しかし生花のような鮮度品を運ぶには、 保冷車を投入したとしても、できるだけ配送時 間を短くする必要がある。
また開店と同時に納 品させ、販売機会のロスを無くすためにもドミ ナント戦略は大前提だ。
再三の話し合いの末、年度ごとに出店エリア を設定し、その中で出店条件の合う商業施設を 選ぶという方法をとることになった。
今年度は 東京都内と横浜に集中。
来年は北関東エリアと いったやり方である。
こうしてF社は物流体制 を整備し、我々から見ても磐石な店舗網を構築 することができた。
小売業や外食産業においては、確かに「立地」 は最重要項目だ。
しかし同時に配送コストまで 含めた商材調達の効率、鮮度維持やそれに伴う 販売機会損失など、出店計画は物流の視点から も検証する必要がある。
F社のように単価の低 い商品を扱っている場合は、なおさらそれが重要になるのである。

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