*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。
MAY 2010 26
ジャパネットたかた
──在庫保有を肯定し現場運営も自前で
昨年10月、愛知県に大型物流センターを開設した。
在庫の保有を肯定的に捉えることで、欠品を防ぐと
同時に納品リードタイムを短縮し、売り上げ機会の損
失を防いでいる。 物流現場も自前で運営し、アウト
ソーシングでは達成できないレベルの生産性向上を目
指している。 (梶原幸絵)
物流拠点を佐世保から愛知に移転
家電のテレビ通販で知られるジャパネットたかたは、
昨年一〇月、愛知県春日井市に延べ床面積約三万平
方メートルの「春日井物流センター」(以下、春日井
センター)を開設した。 愛知県愛西市と福岡県京都
郡に分散していた物流センターを統合した。
この数年、ジャパネットたかたの物流体制はめまぐ
るしく変化している。 一九九〇年の通販事業開始以
来、物流業務は本社を置く長崎県佐世保市から、全国
に出荷してきた。 二〇〇一年には物流センターや受注
センターを備えた本社ビルを建設している。
しかし、佐世保からの出荷では消費地への配送の
リードタイムがどうしても長くなってしまう。 午前中
に受注した商品の翌日配送が可能な地域は九州と中
国のみ。 かろうじて大阪圏も対象地域に入る程度で、
大消費地の首都圏や中部などへの配送は、翌々日に
なっていた。 輸送距離が長くなれば宅配便のコスト
もかさむ。 環境負荷という面でも課題だった。
そこで〇六年十一月、愛知県愛西市に新たに物流
センター(以下、佐屋センター)を設置して本社物流
センターを移転した。 日本のほぼ中央に位置する愛知
県であれば、三大消費地を翌日配送でカバーし、そ
のほかの地域についてもリードタイムを短縮できる。
中部地区には家電メーカーの工場が多く立地している
ことから調達にも有利だった。
ただし返品、初期不良品の修理などを受け付ける
整備部門とキッティング(商品を使用するための設定
作業や組み立て)などの付帯サービスを提供する部門
は本社に残した。 キッティングの必要な商品は従来通
り本社から出荷を行うことにした。
整備やキッティングは商品開発やカスタマーセン
ターとの連携が欠かせない。 できるだけ本社の近く
に置く必要があった。 しかし、キッティング機能は保
管・出荷と同じ場所に置いた方が効率的だ。 これが
課題として残っていた。
一方、佐屋センターの開設により、九州向けのリー
ドタイムは一日伸びてしまった。 九州は物量ベースで
一〇%以上を占める重要市場の一つだ。 九州向けの
リードタイム短縮が必要だった。
そのため〇七年一〇月、整備とキッティング、保
管、出荷を行う物流センター(以下、苅田センター)
を福岡県京都郡で稼働させた。 岡山以西向け商品と
キッティングの必要な商品すべてを同センターから出
荷する体制に改めた。
佐屋センターと苅田センターの開設を機に、自社
で行っていたセンター運営のアウトソーシングに踏み
切った。 “自前主義”はジャパネットたかたの特徴の
一つといえる。 商品開発からアフターサービスまでの
全行程で責任を持つと同時に、業務のスピードを追求
するという考えだ。 本社には収録スタジオまで置き、
自社で番組制作を行っている。 物流センターの運営
もそれまでは自前で行っていた。
しかし佐屋センターと苅田センターの運営は佐川急
便に委託することにした。 建物も佐川急便からの賃
借だ。 本社を置いている佐世保と違って佐屋や苅田
では要員確保に時間がかかる。 物量の波動に対応す
るにも外部委託の方が有利という考えもあった。
アウトソーシングに先立ち、物流情報システムの構
築を済ませていたことも大きい。 〇六年頃、無線ハ
ンディターミナルを導入し、モノの流れをリアルタイ
ムで可視化して出荷精度と作業の進捗状況などを管
理する仕組みを構築した。 これによって全国の顧客
の注文情報や出荷情報、物流に関するコスト構造な
6 大手通販会社ケーススタディ
27 MAY 2010
どの一元管理と物流体制のシミュレーションが可能に
なった。 KPIの管理体制も整った。
この仕組みを佐川急便のオペレーションにも適用し
た。 センター運営の委託後も従来通りに物流情報を
把握するためだ。 「情報システムというインフラのな
いまま外部に委託してしまうと業務プロセスをコント
ロールすることができなくなる。 あたかも自社で物
流を運営しているかのように管理できなければ、お
客さまへのサービスに責任を持つことはできない」と
星井龍也専務執行役員は振り返る。
アウトソーシングは成功だったといえる。 委託に
よって出荷精度や品質、生産性に問題が発生するこ
とはなかった。 しかし拠点の分散は在庫や人員の重
複を招く。 管理も煩雑になる。 やはり在庫も人も集
約のメリットは大きい。
そこで昨年六月頃に物流センターの再統合を決定
した。 苅田センターに置いていたキッティングも新セ
ンターに集約することにした。 ただし、社内の他部
門やメーカーとの連携も必要とされる整備部門は本社
に移転した。 新センターは佐屋同様、リードタイムな
どでメリットの大きい中部に置くことにした。
物件を決めるに当たって重視したのは十分な在庫ス
ペースの確保だった。 在庫は一般に負の資産といわれ
ている。 ジャパネットたかたも以前はそうした考え
で、毎月月末にはキャッシュフローの観点から在庫量
を抑えていた。 しかし経営方針を転換し、売れ筋の
商品を中心に在庫を積極的に持つことにした。
同社は商品の欠品があっても入荷予定日などから
計算した配送リードタイムを顧客に提示し、注文を受
け付けている。 在庫をできるだけ持つことで、配送
リードタイムを短縮してサービスを向上できる.
売り上げ機会の損失も抑えることができる。
「倉庫で動かない在庫は完全に負債といっていいが、
負債ではない在庫もある。 売れる在庫はプラスの在
庫。 当社はそうした経営方針を持っている」と星井
専務。 現在、春日井センターでの在庫SKU数はお
よそ三〇〇〇〜四〇〇〇。 広いスペースで十分な在
庫を持つことによって受注から配送までのリードタイ
ムは平均二〜三日に短縮した。 主要地域への翌日配
送比率も向上した。
外部委託では改善スピードに限界
アウトソーシングも改めた。 春日井センターではセ
ンター業務を再び内製化した。 そのために現在は自
社で一三〇〜一四〇人のパート従業員や派遣社員を
抱えている。
センター作業の改善には物流だけで解決できない課
題が少なくない。 アウトソーシング体制では、そうし
た課題の解決が難しくなる。
星井専務は「アウトソーシングと自社運営では、改
善のスピードがまったく違ってくる。 実際の現場作業
を行う従業員と各ラインのリーダー、センター長、本
社との間のリアルタイムの意思疎通が血流のごとく回
るようにしている。 そうしなければ、ある一定レベ
ルでの生産性は実現できてもそれ以上にはならない」
と説明する。
現在、春日井センターの一人一時間当たりの出荷
ピース数は稼働当初に比べて一・五倍以上に向上し
ている。 わずか半年あまりで佐川急便が運営してい
た佐屋センターや苅田センターと遜色のないレベルに
引き上げた。 星井専務は「これからスタッフが作業に
熟練していけば、もっと生産性は上がってくる。 自
動化できる部分はマテハンを導入し、改善のスピード
を加速していきたい」と考えている。
星井龍也専務執行役員
本社1階の自社スタジオ。 物流
センターだったのを改装した
さまざまなセットを備え、商品
に合わせた背景を演出する
カメラ店時代の社屋の模型。 本
社1階に設置されている
春日井物流センター。 AMBプ
ロパティジャパンの施設の一部
を賃借した
1,400
1,200
1,000
800
600
400
200
0
(月期)
(億円) ジャパネットたかたの売上推移
00/
12
01
/
12
02
/
12
03
/
12
04
/
12
05
/
12
06
/
12
07
/
12
08
/
12
421.4 449
624.2
705.4 663
906.5
1080
1161
1370
|