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佐高 信
経済評論家
JUNE 2010 68
どうして、そんなに「神」を求めたがる
のか? 神は神と崇められることによって「虚
飾」に包まれる。 そして、信者はそれを剥
ごうとはせず、いよいよ虚飾のベールは厚く
なる。 ?中小企業の神様?などと言われ、先
ごろ、日本航空会長になった稲盛和夫(京
セラ名誉会長)のことだが、『リベラルタイム』
は六月号で「稲盛和夫研究」という特集を
組み、彼を「徹底検証」している。
皮肉なのは、稲盛が『日経ビジネス』の
二〇〇二年七月一日号で「我々は退場しよう」
と呼びかけていること。
八年前のそのインタビュー記事から、孫引
きすると──
「日本再生の切り札は世代交代」と力説し
た稲盛は「私を含めた七〇代は退場しよう」
と言い、「五〇歳にもなれば、(中略)己の
信念や志に殉じてもいいという気持ちが少な
くなる」ので、「いっそのこと三〇代、四〇
代の人材にまかせてはどうか」と提案し、「八〇
歳になっても政治家を続けるなんてとんでも
ない話」と続けている。
それを引きながら、同誌の筆者は、稲盛
は七八歳であり、「政治家はダメで、経営者
は八〇歳になっても続けていい、という道理
はないだろう」と批判する。
そう言えば、「みんなの党」の渡辺喜美の
父親の渡辺美智雄は、自分が五二歳の時に
「国会議員七〇歳?定年制?」を主張したが、
七〇歳近くなったら、まったくそれを言わな
くなった。
ちなみに、これを適用すれば、「たちあが
れ日本」はたちゆかなくなる。
ともあれ、稲盛が主宰する中小企業の経
営者の勉強会が「盛和塾」であり、群れた
がるメダカのように五〇〇〇人を超える会員
がいるらしい。 国内だけでなく、その拠点
はロサンゼルスやサンパウロにまで広がって
いるという。
稲盛は小沢一郎の相談相手としても知ら
れるが、四月三日には京セラのゲストハウス
「和輪庵」に小沢と鳩山由紀夫を招いたとか。
前記の特集の須田慎一郎の指摘によれば、
「この会合で上座に着いていたのは、稲盛
和夫京セラ名誉会長、そして末席に座
・ ・・・
らせら
れ・
・ た
の
が
鳩
山
由
紀
夫
首
相
だ
っ
た
」
この通りなら、稲盛は何と傲慢な男か。 招
いた人間が上座に着くなど、よほどの田舎者
でも、そんな無礼なことはしない。
斎藤貴男著『虚飾の経営者 稲盛和夫』(金
曜日)で私は斎藤と対談したが、斎藤は稲
盛を「カルト資本主義」の経営者と断罪して
いる。 おぞましいのである。
それの極みが京都府八幡市円福寺にある
「京セラ従業員の墓」だろう。 希望者が死後
入れるというその薄気味悪さに、もちろん
稲盛自身は気がついていない。 だから私は「京
セラ」とは書かず、「狂セラ」と書くことに
している。
これについては、何度か、欧米のジャーナ
リストから、なぜ、社員の心の中にまで入る
ような墓をつくるのかと質問されたが、馬鹿
馬鹿しいのと恥ずかしいのとで答えられなか
った。
斎藤は『月刊現代』に書いたコラムで稲盛
に訴えられたことがある。 斎藤は、かつて、『日
本工業新聞』にいて、一部上場企業のトッ
プは訴えたりしないものと思っていた。 そう
述懐したので、私は、
「訴えるというのは、エスタブリッシュメン
トではない。 つまり、選ばれた正統派と言
うかな、そういう歴史を背景にした支配階
級ではないことを意味しているわけですね。
イコール、稲盛が成り上がりということにな
るわけですよ。 稲盛は非正統派、エピゴーネ
ン、まさに、ここでもカルト的と言える」
と応じた。
批判は辛いものであり、だから大事なの
だということがわかっていないのである。
批判には訴訟で対抗する?神様?稲盛和夫
受けとめる度量のなさは非正統派ゆえか
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