ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2010年8号
keyperson
「食品産業はロジスティクスを欠いている」野口英雄 エルエスオフィス 代表

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

AUGUST 2010  4 食品メーカーが困っている。
賞味期 限が一年から一年半と長いので、こ れまでは鮮度管理、流通途上の品質 管理などには問題が起きないという 前提に立っていた。
ところが、消費 者は今や加工食品にも鮮度を求める ようになっている。
賞味期限の三分 の一、四分の一を過ぎた商品は受け 入れてもらえなくなっています」  「しかも最近は加工食品でも素材 の持ち味を活かした『半生タイプ』 などチルド帯で管理しなければなら ない商品が増えている。
そうした商 品は賞味期限も短く、生鮮品に近い 管理になっています。
常温系の管理 の延長上では管理できません。
常温 商品であれば在庫をバッファーにす ることで、生産と販売の機能が分断 されていても何とか処理できる。
し かし生鮮は寿命が短いから、生産と 販売を統合しないと管理できない」  「同じ食品でも、例えばビールメー カーは従来からロジスティクスを経 営の根幹と位置付けてきました。
ロ ジスティクス部門が生産や販売など の主要部門と同格に置かれている。
ビールはもともと流通コストのかさ む商品であるうえ、鮮度が命ですか ら製販配が一体になっている」  「他の加工食品メーカーにしても 現在は、決められた期間内にどうや 物流管理はもう卒業? ──「食の安全」に対する意識が社 会的に高まっています。
食品業界の ロジスティクスに変化は見られますか。
 「もちろん各社とも『食の安全』 が大事だとは謳っていますが、私か ら見れば建前で言っているとしか思 えません。
コンプライアンスに問題 が起きた時に、どう対応するかに備 えているだけで、問題を起こさない 仕組み作りに本気で取り組んでいる ようには見えない」  「賞味期限を改ざんしたり、一度 回収した商品をもう一度流通させ るといったことが起きてしまうの は、需給管理ができていないからで す。
それを解決するには、いかに在 庫を適正に管理するか、つまりロジ スティクスが必要です。
ロジスティ クスを欠いたままでは、コンプライ アンスの問題は必ず再発する」 ──もともと食品は売上高物流コス ト比率の高い産業です。
ロジスティ クスの重要性は理解しているのでは。
 「もちろん物流コストについては従 来から経営レベルでも強く意識され てきました。
物流コスト削減の取り 組みも進んでいる。
しかし、その先 のステップ、つまりロジスティクスに 進もうとはしていない。
食品業界の 経営者のなかには、『物流コストは そこそこ下がったから、物流管理は もう卒業だ』という人までいる。
ア ウトソーシングは済んだし、社内に 物流部門はもういらないという。
ロ ジスティクスがマネジメントの中に位 置付けられていない」 ──日本の主要な食品メーカーはい ずれも物流子会社を持っています。
そのことも関係していますか。
 「物流子会社を設立したタイミング で、本社の管理機能をなくしてしま ったというケースが少なくありませ ん。
オペレーションを外に出すのは もちろん構わない。
しかし、ロジス ティクスはコアとなる機能です。
オ ペレーションの延長で、管理体制の 曖昧なままロジスティクスまで子会 社に丸投げしている会社が多いよう に思います」 ──子会社に機能を移管したつもり でいて、それが実際にはそうなって おらず、本社にも管理機能がないの なら、どこにもロジスティクスを管 理する人がいないということになっ てしまう。
 「だから今になって困っているん です。
とりわけ常温商品で比較的賞 味期限の長い商品を扱っている加工 野口英雄 エルエスオフィス 代表 「食品産業はロジスティクスを欠いている」  日本の食品メーカーは、物流コストの削減には熱心でも、ロジス ティクス志向に欠けている。
「製・配・販」が統合されていないた めに、多くのムダが生じている。
原材料の調達から最終消費に至 るサプライチェーンにロジスティクスのメスを入れない限り、全体最 適だけでなく食の安全も守れない。
    (聞き手・大矢昌浩) 5  AUGUST 2010 って商品を納めるかという需給管理、 在庫管理に直面しているわけですが、 それがクリアできないことで、大量 の商品を廃棄しなければならなくな っている。
在庫を廃棄すればコスト がかさむだけでなく、環境負荷も大 きくなってしまう」 ──そうであれば、さすがにロジス ティクスに目覚めるのでは?  「しかし、そうなっていない。
今 や食品メーカーの商品ロスは非常に 大きくなっている。
ただし、それを ロジスティクスのコストとしては把 握していない。
期限切れだけでなく て、例えば新商品を開発してヒット すればよいが、売れ残れば廃棄にな る。
これをマーケティング部門のロ スや、会計上の雑損として処理して いて、ロジスティクスの問題だとい う自覚がない。
つまり目の前の物流 コストを把握しているだけで、ロジ スティクスのコストは管理していな いんです」 ──何が壁になっているのでしょうか。
 「とくに大手は伝統的に営業部門 が強い。
また生産部門も強い。
この 二つに挟まれて物流部門は何もでき ない。
そこにメスを入れたのがハウ ス食品です。
典型的な加工食品メー カーのなかでは私の知る限り、現在 最もロジスティクスの進んでいる会 く五〇%程度になっていると見てい ます」  「また食品のほかに化粧品や日用 雑貨品などでも温度管理しなければ ならない商品が増えています。
コン ビニが医薬品の取り扱いを始めたり、 またドラッグストアが食品の取り扱 いを始めたりといった小売りの変化 も注目すべき動きです。
食品と日雑 と医薬が一緒になって、多温度帯の 管理が必要になっている」 ──多温度帯管理を必要とする物流 市場で優位に立つのは、どのような 会社でしょうか。
 「従来の定温物流市場は、冷凍、 チルド、常温という温度帯別に分か れていました。
このうち多温度帯に 最も対応しやすいのは、チルドを扱 ってきた物流会社だと思います。
チ ルド商品は毎日配送で、しかも三六 五日二四時間の稼働を強いられます。
他の温度帯の物流会社にとってはそ れが高いハードルになるはずです」 社だと思います」  「ハウス食品は加熱殺菌しないで 流通させるチルド系のカレーなどが 増えて、従来の延長線上では管理 できなくなったことから、何年もか けて段階的に改革を進めてきました。
需要予測の権限を営業部門からSC M部に委譲し、SCM部が全体のコ ーディネイトをするかたちに需給管 理機能を統合した。
原料の調達など も全て集約しました」 ──他のメーカーも今後はハウス食 品のようなモデルに変わっていくの でしょうか。
 「そうなるでしょう。
そのために 改めて本社の管理機能、物流を含め たロジスティクス管理の機能を再構 築する必要があるはずです。
SCM は企業内で完結しません。
原料会社 や卸、小売りといった取引先にまで またがるサプライチェーンの管理は、 3PLはおろか物流子会社にだって アウトソーシングできない。
自分で やるしかない」 多温度管理はチルド系が有利 ──それは食品物流市場にどのよう な影響を与えることになるのでしょ うか。
 「3PLの限界が改めて認識され ることになるでしょう。
3PLは本 来、自分達ができるはずのない領域 の業務にまで、手を広げ過ぎてし まったところがあるように思います。
事前にどんなに詳細に契約内容を 詰めたとしても、実務が始まれば想 定外の問題というのは必ず出てきま す。
本来は荷主自身でないと判断が できない問題を、3PLが判断しな ければならない立場に置かれてしま う。
失敗すればペナルティが発生す る。
しかし、実務を続けている限り、 契約にはっきりと謳っていない問題 がいくつも出てきて、リスクはドン ドン大きくなる。
結果的に3PLに 可能な領域は、共同配送に多少の付 加価値をつけたレベルにまで後退す るかも知れません」 ──それでも食品物流、定温物流の 市場規模は拡大傾向にあると言われ ています。
 「食品産業の規模は変わりません が、常温商品が減って、その分だけ 定温商品が増えている。
定温物流市 場の規模は、冷蔵倉庫協会が倉庫事 業の売上高を出しているだけで、輸 送も含めた市場規模となると公的な 統計がないのですけれど、私が一〇 年前にざっくりと試算したところで は、一兆円ぐらいでした。
その時に は食品出荷額の約四〇%を定温商品 と推定しました。
それが現在は恐ら のぐち・ひでお 1943年 生まれ。
62年、味の素中 央研究所入社。
75年、本 社物流部に異動。
85年、 物流子会社に出向。
96年、 昭和冷蔵入社、取締役冷蔵 事業部長。
99年、カサイ 経営入社。
2000年、エル エスオフィス設立、代表に 就任し現在に至る。
低温物 流をメーンとしたコンサル ティング活動を行っている。

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