ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2011年3号
ケース
東レ 物流改革

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

MARCH 2011  42 キーワードは「連邦」と「環境」  東レは「連邦物流」と「環境物流」という 二つのキーワードを掲げて物流効率化を進め ている。
従来は東レ本体とグループの関連会 社が別々に物流効率化に取り組んでいたのを、 グループ全体で効果を出す「連邦物流」へと 考え方を改めた。
そして、二〇〇六年四月に 施行された改正省エネ法に対応する「環境物 流」を前面に据えて活動してきた。
 その結果、〇五年三月期に二・〇五%だ った同社の連結ベースの売上高物流費比率は、 一〇年三月期には一・七六%まで改善した。
一〇年三月期の同社の物流費(有価証券報告 書に記された「保管費及び運送費」)は約二 三九億円。
物流費比率が二・〇五%のまま なら六〇億円以上支出が多かった計算だ。
 東レは〇八年秋の?リーマンショック?で大 幅な減収に直面した。
〇八年三月期に一兆六 四九六億円だった連結売上高は、〇九年三 月期に一兆四七一六億円(前期比一〇・八% 減)に急減。
翌一〇年三月期には一兆三五九 六億円(同七・六%減)まで落ち込んだ。
 売り上げが減れば物量が減り、CO2の総 排出量も低下する。
実際、〇九年度末の物流 部門における二酸化炭素(CO2)の総排出 量は〇六年度比で三二%減った。
だが総排出 量の推移だけではエネルギーの利用効率が改 善したかどうかはわからない。
このため東レ は「CO2の排出量÷売上高」を環境対策の 原単位として活動している。
 〇六年一〇月にスタートした中期計画では 売上高当たりの排出量を「二〇一〇年度まで に〇六年度比で五%削減する」という自主目 標を掲げて物流効率化に励んできた。
結果と して〇九年度末までの累計で、目標値を大き く上回る一五%の削減を達成した。
 一連の改革は、〇六年四月に物流部に着任 した橘真一部長が牽引してきた。
七九年の入 社以来一貫して営業畑を歩み、フィルム、樹 脂、繊維、貿易とさまざまな事業部門を渡り 歩いた。
物流部長になる直前にはアメリカで 子会社の社長を務めるなど海外経験も豊富だ。
仕事で訪れた外国は三五カ国を数える。
 ただし物流部門の経験はなかった。
「私は 東レはじまって以来の?素人物流部長?と言 われている。
従来の当社では、入社してから ずっと物流に携わってきた人が物流課長とか 物流部長をやっていた。
しかし、東レの商売 はすでに半分が海外。
もはや海外経験のない 人物が物流をやる時代ではないという判断が あったのだと思う」と橘部長。
 グループ会社が個別に物流効率化に取り組む体制 を、東レ本体を中心とするグループ全体で最適化を 図る「連邦物流」へと切り替えた。
地方港の活用や 物流の共同化などで、連結ベースの売上高物流費比 率を過去5年間で2.05 %から1.76 %に改善している。
営業出身の物流部長が、環境意識の高まりを追い風 に推進してきた改革が成果につながった。
物流改革 東レ 営業出身“素人部長”が物流部の人心を一新 グループ最適化進め60億円規模の改革効果 東レの橘真一物流部長 43  MARCH 2011  グループ全体の現在の物流コストを一〇〇 とすると、東レ単体の物流費はもはや三五% にすぎない。
国内の主要関係会社二五社の合 計が約四〇%あり、残り二五%は海外で発生 している。
ますます加速する事業のグローバ ル化に対応していくには、物流部門も変わっ ていく必要があった。
 物流部長になった橘部長が、最初に感じた のは部内の保守的な雰囲気だった。
専門領域 に閉じこもり、幅広い観点から物流業務を見 直す意識が希薄だった。
新しいことをして営 業などから文句を言われるのを恐れ、果断な 行動をとれずにいるように見えた。
 スタッフの視野を広め、新しいことにチャ レンジする組織に物流部を変 えていく必要を感じた。
そこ で部長着任直後にまず部員全 員から提案を募った。
約六〇 程度の改革案が集まった。
こ れを一つずつ具体化していく ため、事業部や役員を巻き込 んだ複数の「物流改革プロジ ェクト」を発足させた。
 「改革はスピードが大事。
慎重にやるばかりではダメだ。
七〇%の完成度でもスタート させる。
仕組みは走りながら 作り込めばいい。
ただ七〇% の完成度で始めるとやはり問 題が起こって、営業が文句を 言ってくる。
そこは私が壁に なって、素早く立ちあげることを優先してき た」と橘部長は振り返る。
 改革をスタートさせると同時に、社内外に 「環境物流」の追求を宣言した。
橘部長が着 任した〇六年四月は、改正省エネルギー法の 施行と時期がちょうど重なる。
年間三〇〇〇 万トンキロを超える貨物を動かす「特定荷主」 は「エネルギー消費原単位を中長期的にみて 年平均一%以上低減する」ための努力を求め られるようになった。
 年間四〇万トン以上のCO2を排出してい た東レは、もちろん「特定荷主」だ。
他にも グループには数社の「特定荷主」が存在する。
橘部長は改正省エネ法による変化をチャンス と捉え、環境対応をいわば?錦の御旗?とし ながら物流改革を進めていった。
運賃の値下げ要請を禁止  〇七年から〇八年にかけての軽油価格の 高騰も、追い風として利用した。
あえて運送 会社に対する値下げの要請を物流部内で禁止。
これを機に、業務の仕組みを変えるように物 流部員の意識改革を促した。
 まず着目したのが輸出入業務における地方 港の活用だった。
近年、日本の主要港の国際 的な地位は低下し、釜山港や上海港といった 連結売上高と物流コスト(保管費及び運送費)の推移 05/3 売上高 06/3 07/3 08/3 09/3 10/3 保管費及び運送費物流費比率 18,000 16,000 14,000 12,000 10,000 8,000 6,000 4,000 2,000 0 2.10 2.05 2.00 1.95 1.90 1.85 1.80 1.75 1.70 1.65 1.60 売上高物流比率(%) 売上高(億円)・物流コスト(千万円) 2.05 13,596 2,396 1.76 CO2 削減(07・08)=▲400t CO2 削減(07・08)=▲500t 輸出入で地方港を活用しコストと環境負荷を削減 松山港 神戸港 釜山港 or 上海港海外ユーザー 愛媛工場 営業倉庫  製品 ABS 樹脂 フィルム 輸出港 千葉港 清水港 繊維製品の松山港出し 樹脂製品の八戸港揚げ 変更前 変更後 変更前 変更後 3000 2000 1000 2006 2007 2008 20% 45% 神戸港 80% 松山港 松山港 利用拡大 コンテナ本数(20F 換算) 営業倉庫 中国工場 釜山港 八戸港 東京港 お客様 MARCH 2011  44 アジアのハブ港における取扱量が急増してい る。
一方で、アジアのハブ港から日本の地方 港に向けて、支線としてのフィーダー船(小 規模輸送船)が数多く就航している。
こうし た変化を改革に結びつけてきた。
 従来の東レは、神戸や京浜の中枢港を利用 することが多かった。
たとえば愛媛工場で作 った繊維製品を海外のユーザーに供給すると きには、総出荷量の約八割を神戸港から輸出 し、残り二割を松山港から出していた。
愛媛 工場に近い松山港から出すほうがコストは圧 倒的に安い。
しかし松山港には釜山からの定 期便が週二本しかなかったため、運航便が多 い神戸港にわざわざ陸送していた。
 神戸港から松山港にシフトするためには、 運航便の頻度に合わせて、顧客からリードタ イムを余分にもらう必要があった。
従来の東 レの物流部であれば、営業を説得するのは無 理と端から決めつけていたところだ。
しかし、 橘部長は「環境物流」を前面に出すことで理 解を得られると考えた。
 着荷主の顧客が改正省エネ法の指定する「特 荷の低減によるメリットなどを顧客に説明する 書類を物流部門がつくり、これを営業担当者 に託して推進した。
さらに梱包改革では、木 枠梱包を段ボールに置き換えることによって 数億円のコストを削減した。
「連邦物流システム」で効率化を加速  「連邦物流」の推進では、グループ企業と 連携して帰り荷の確保に注力した。
リーマン ショック後の物量減少に対応するため、東レ 本体の輸送ルートと、グループ会社の輸送ル ートを往復で組み合わせて積載効率を高めた。
東レ本体が横断的に横串を刺すことで、従来 はほとんど連携していなかった関連企業との 共同化を推進していった。
 物流部の矢野茂物流第2課長は、「まずは 物流費をたくさん使っている三、四社を対象 にスタートして、徐々に『連邦物流』を拡大 してきた。
昨年六月にグループの主要一六社 で『連邦物流会議』もキックオフした。
これ を一二年度中に国内の主要製造業二五社に拡 大し、将来的には海外の関係会社にも横展開 していきたい」という。
 物流改革を進めるなかで課題も浮き彫りに なった。
東レ単体の管理手法が、関連会社と の間では通用しなかったのだ。
グループ内で 共同化を推進するには、各社の物流データの 共有がカギになる。
しかし各社の管理はバラ バラで、とうてい効率的にデータを共有でき る状態ではなかった。
定荷主」の場合は、顧客の調達業務の環境負 荷を低減できると営業担当者を通じてアピー ルした。
そうやって顧客と営業部門の双方か ら協力を取り付けながら折衝を進めた。
その 結果、現在では松山港からの輸出が全体の九 割を超えるまでになっている。
 輸入業務にも工夫を施した。
中国にある東 レの工場から日本の東北地方の顧客に樹脂製 品を供給する際、従来は東京港に輸入してか ら陸送していた。
これを釜山港経由で八戸港 に陸揚げするように変えた。
運航便の関係で リードタイムが伸びる点は、やはり環境負荷 の低減などを前面に出して関係者を説得した。
結果として、「コストは億単位で減り」、CO2 も約五〇〇トン削減できた。
 輸入港の見直しは、繊維製品を金沢港に入 れたり、フィルム製品を名古屋港から入れる など多岐にわたる。
「〇六年春には地方港は 四港しか使っていなかった。
それが今や一九 港を使っている」と橘部長は強調する。
 同様の発想で、地方にある営業倉庫の活用 も積極化した。
基本的に土地代に左右される 保管料を削減するため、都市近郊に構えてい た倉庫を、大口顧客の納品先などに近い地方 にシフトした。
顧客は間近に?門前倉庫?が できることを歓迎する。
あとは東レの社内で 事業部門と調整し、効率よくシフトできるよ うに物量をまとめればよかった。
 モーダルシフトも推進した。
鉄道を利用す ることでリードタイムが延びる点は、環境負 物流部の矢野茂物流第2課長 45  MARCH 2011 な機能を追加。
関係各社や協力物流事業者が 活用できる仕組みを構築した。
 新システムでは日常の物流管理や運賃や保 管料の計算はもとより、CO2排出量の計算、 東レの標準書式による請求書の発行などを自 動化した。
〇九年十一月に経営レベルで正式 な承認を受けて、「数億円」を投じたシステム 開発をスタート。
まだ一部の開発を続けてい るが、すでに主要機能は完成した。
 東レと契約している協力物流業者からは、 事前に見積書をとり、これに基づく料金を 「ATLAS」にマスターデータとして登録し てある。
そうすることで東レのグループ企業 は、出荷指図データ、入出庫データ、在庫デ ータさえ入力すれば、新システムの機能をす べて利用できるようになっている。
 プロジェクトリーダーとしてシステム開発を 主導してきた購買・物流企画推進室の高橋一 素課長代理は、「今も関連会社ごとに物流管 理のための組織はあるが、業務の窓口は『A TLAS』に一本化していく。
ここに蓄積 される実績データを活用して、新たな共同物 流の設計や、環境物流への対応を進めていく。
ITの力を借りることで交渉なども非常にや りやすくなるはずだ」とみている。
 今後は、グループ各社の物流担当者が適切 な意思決定をするための支援機能などを充実 させていく。
これによって、東レ本体のスタ ッフに比べると経験の少ない関連会社の物流 スタッフの業務を効率化する。
一一年度中を メドにまず一五社に導入し、一二年度に主要 二五社に展開する計画だ。
 東レは現在、グループ内に総元請けという 立場の物流子会社を持っていない。
関連会社 の子会社に輸送実務を担っている企業が一社 あるが、全国で五〇数社を数える元請け物流 事業者の一社にすぎない。
その一方で、過去 五年で二〇社を超す新規の協力物流事業者と の取引を新たに開始している。
 総勢二〇人余りの東レ本体の物流部門で全 ての契約を管理するのは容易ではない。
その 点でも「ATLAS」への期待は大きい。
契 約情報を共有化すれば既存の物流契約に自然 と牽制効果が働き、まちまちだった単価が適 正水準に収斂される効果も見込める。
 この五年間で東レの物流管理は様変わりし た。
その立役者である橘部長は、「今年四月 から新たに九つの『革新・変革プロジェクト』 をスタートする。
内容はまだ誰にも明かして いないが、三年先を見据えた物流戦略を展開 していく」と意気込んでいる。
(フリージャーナリスト・岡山宏之)  そこで東レ本体の物流部が主導して、「連 邦物流」のための新たな管理システム「AT LAS」の開発に乗り出した。
〇八年十二月 に社内で新システムの構想を表明し、それか ら関連会社の業務の実態などを調査して細部 を練り上げていった。
営業系で使っていた東 レグループ内の共通システムを手直しして必要 購買・物流企画推進室の 高橋一素課長代理 東レグループ各社物流会社(倉庫、運送) 東レ・関係会社 「連邦物流」のための新・物流システム「ATLAS」 各社 営業システム 各社 会計システム 出荷指図 出庫データ 入庫データ 前月末在庫 データ 支払データ 標準変換機能 CO2 計算 新・物流システム 取決登録 支払連携 料金計算 (運賃・倉庫料) 出荷予定 照会 料金照会 請求書発行 CO2 排出量 照会 追加請求 入力 契約 マスタ 支払確定 データ 実績照会請求書 ※ATLAS=All Toray Logistics Alliance System

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