ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2011年6号
ケース
商船三井ロジスティクス 3PL

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JUNE 2011  50 フォワーディング+3PLでシナジー  商船三井ロジスティクスは、商船三井グル ープの三井航空サービスと商船航空サービス が一九八九年に合併して発足した「エムオー エアシステム」を前身とする。
発足時は貨客 兼業だったが、二〇〇一年に旅客部門を分割 して物流に専業化、社名を商船三井ロジステ ィクスに改称した。
 それ以降、同社は商船三井グループの中核 物流会社として事業展開を図っている。
現在、 海外二二カ国に七〇カ所の拠点を持つ。
二〇 一〇年三月期の売上高は約三二六億円。
う ち六三%を海外で売り上げている。
 事業部門別の売り上げ構成比は航空貨物フ ォワーディングが五二%、海上貨物フォワー ディングが三〇%で、現状ではフォワーディ ング事業が八割超を占めている。
これに続く 三つめの柱として近年は3PL事業(同社で はコントラクト・ロジスティクス事業として区 分)に力を入れている。
 〇八年六月、同社は3PL事業の営業体 制を強化するため、ロジスティクスソリュー ション部を新設し、それまで管理部門のプロ ジェクト推進室が管轄していた3PL事業を、 独立した営業組織である同部へ移管した。
同 部が商品開発までを担当し、案件が成立した 後は、各地の現地法人が3PLを運営し事業 の採算を管理する。
 同社のフォワーディングサービスの営業部 門や海外の現地法人などが顧客開拓を進める 際にも、ロジスティクスソリューション部のメ ンバーが同行し、顧客のグローバルなサプラ イチェーンを最適化するためのソリューション を提供するという営業形態をとっている。
 親会社の商船三井の定航部門やほかのグル ープ企業からの紹介でロジスティクスソリュー ション部が3PLサービスを構築することも ある。
グループの3PL事業展開の核となっ ているといって過言ではない。
 同社の3PL事業の狙いは主力事業とする フォワーディング事業の付加価値を高めるこ とにある。
峰松英俊取締役ロジスティクスソ リューション部長は「現地の倉庫やフォワーデ ィング業務を結びつけることでシナジー効果 を期待できる」と説明する。
 古くは一九九〇年代の初頭、エムオーエア システムの頃からオランダに一万坪の倉庫を構 え、日系メーカーの現地工場の製品や輸入品 の入出庫・保管、欧州域内配送の手配、通 関業務などを手がけてきた。
最終製品のほか 化学品原料の現地工場での詰め込み・保管・  フォワーディング事業とのシナジー効果を狙い海外 で3PL事業を強化している。
中国では上海の保税物 流園区へ日系企業として最も早く進出し、同地区の 優遇制度を活かしたバイヤーズコンソリデーションの スキームを確立した。
今年3月には北京ベンツ向けに 部品の広域集荷サービスも開始した。
3PL 商船三井ロジスティクス 中国でバイヤーズコンソリデーション展開 北京ベンツ向けに国内調達輸送網も構築 峰松英俊取締役ロジスティク スソリューション部長 51  JUNE 2011 出荷など構内作業にも実績がある。
 峰松取締役は「既存のアセットを売る?プ ロダクトアウト?の発想ではなく、顧客のニ ーズを吸い上げてテーラーメイドのサービスを 組み立て、それを他の顧客にも展開する?マ ーケットイン?の考え方に当社の3PL事業 の特徴がある」と強調する。
 最近では中国を中心としたアジア地域で、 この?マーケットイン型3PLサービス?を充 実させている。
 中国では九九年に、香港の「商船三井物流 香港有限公司」に次ぐ二つめの現地法人とし て「上海華加国際貨運代理有限公司」を立 ち上げている。
当時は独資による進出が困難 だったため、直接出資ではなくカナダの関係 会社を通じて合弁会社に出資する形をとった (現在は商船三井ロジスティクスが七五%を直 接投資している)。
 その後、上海華加は、北京・大連・天 津・青島・張家港・無錫・蘇州・寧波・ア モイ・広州・深圳に支店・事務所を設けネッ トワークを拡充してきた。
このうちこれまで に上海・大連・張家港・深圳の四拠点で3 PL事業を展開している。
「保税物流園区」にいち早く注目  中国での3PL展開で大きな契機となった のは「上海外高橋保税物流園区(WBLZ= Shanghai Waigaoqiao Bonded Logistics Zone)」への進出だ。
保税物流園区は外国企 業誘致などを目的に中国政府が〇四年に設け た物流エリアで、従来の保税区にはない税制 の優遇措置が盛り込まれている。
 一般の保税区は、国外から輸入した原料や 部品を区内で保税状態のまま加工し再輸出す ることなどを認めるもので、加工貿易や中継 貿易には有利な制度だが、中国で現地調達し た部品や製品を輸出する場合には難点がある。
 中国国内で生産された部品や製品について はいったん日本の消費税に相当する「増値税」 がかかり、保税区に搬入された後も輸出のた めの船積みが済むまで還付手続きを行うこと ができない。
このためその間は税の立て替え が発生する。
 これに対して保税物流園区では、中国国内 製品を区内に搬入した時点で輸出とみなされ、 増値税の還付手続きが可能になる。
 「非居住者在庫」が認められていることも 保税物流園区の特徴の一つだ。
海外の企業が 中国各地のサプライヤーから調達した製品を 自らの資産として保税物流園区に保管できる ため、在庫のコントロールが容易になる。
 商船三井ロジスティクスはこれらの優遇策 に注目し、日系企業のなかで最も早くWBL Zへの進出を決めた。
〇四年七月、同社と現 地法人の上海華加および商船三井の中国現地 法人との三社で倉庫会社「上海外高橋保税物 流園区商船三井物流有限公司(MLG─�
廝� LZ)」を設立、園区内に一万三〇〇〇平方 メートルの倉庫を設けて営業を開始した。
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廝贈味擇亙��犇茲離瓮螢奪箸� 活かしたサービスを相次ぎ構築する。
 最初に手がけたのはヨーロッパからの輸入 酒のコンソリデーション(混載)サービスだ。
その荷主は従来、ヨーロッパ各国で調達した ワインなどを日本に輸入するために、オラン ダの倉庫にいったん商品を集約してコンテナに 混載するか、あるいは各国で直接コンテナを 仕立て、それを日本の主要港で陸揚げし、各 地の配送センターまで陸送する方法をとって いた。
 この荷主に対して商船三井ロジスティクス は、WBLZの利用を提案した。
ヨーロッパ から輸入する商品をすべてWBLZで保管し、 従来はオランダまたは日本で実施していた検 品やラベル貼り業務もWBLZに集約する。
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廝贈味擇任脇鐱椶�蕕離�璽澄爾鮗�� てから仕向け地別にコンテナに混載して出荷。
日本の各地方港で陸揚げする。
これによって ヨーロッパからの輸入リードタイムを大幅に短 縮できるだけでなく、地方港を活用して陸揚 げ後の長距離陸上輸送を回避することで、サ ービスレベルの向上とトータルコストダウンを 両立した。
 続いて通販会社向けに、中国各地のサプラ イヤーから調達した商品をWBLZでコンテ ナに混載して日本へ輸送する「バイヤーズコ ンソリデーション(買付物流)サービス」を 開始した。
 その通販会社はそれまで、中国のサプライ JUNE 2011  52 ヤーからコンテナ単位で商品を買い付けて輸 入し、日本の配送センターに在庫保管してい た。
商品は主に家具や布団などの大型雑貨で、 自社の配送センターだけでは保管スペースが 足りず、周辺に外部倉庫を何カ所も手当てし なければならない状態だった。
分散化で在庫 管理が煩雑となり、拠点間の横持ち費用も発 生していた。
 同社が提案したのは輸入酒のケースと同様、 調達した商品を日本の配送センターではなく WBLZに保管しておき、日本国内の販売状 況を見ながら必要な数量だけコンテナに積み 合わせて日本へ引き取るという方法だ。
 日本国内よりも保管料を抑制できるうえ、 仕入れた商品が見込み通りに売れなかった場 合には、日本以外の国へ輸出先を変えるなど の対策を講じて在庫を有効活用できる。
日本 の倉庫に売れない商品の在庫を大量に抱える リスクを避けられる。
バイヤーが倉庫に出荷指示  さらに同社はバイヤーズコンソリデーション サービスの顧客を想定して、顧客が日本にい ながらWBLZの在庫や輸送中のステータス を管理できる情報システムを構築した。
既存 の貿易物流管理システム(TMS)と倉庫管理 システム(WMS)のパッケージをリンケージ させて運用するシステムで、「L'vis(Logistics Visibility =エルビス)」と名付けた。
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圍唯咾砲蓮屮僉璽船Д好�璽澄次複丕蓮� て汎用性を高め顧客の拡大を図る考えだ。
 中国では上海以外にも保税物流園区または それに準ずる制度が適用されている地区があ る。
同社はWBLZで構築したバイヤーズコ ンソリデーションをモデルに、同様の3PL サービスを深圳や大連でも展開し、サプライ ヤーの拠点が集まるタイやベトナムにも既に導 入している。
発注書)」や「シッピングオーダー(SO=出 荷指示)」単位で配送状況をトラッキングする 機能がある。
このシステムをWMSと連携さ せることによって、日本のバイヤーはWBL Zの倉庫の在庫状況をPOやSO単位で確認 しながら出荷指示を出せる。
 通販会社のバイヤーは日本から中国のサプ ライヤーに対してPOを送ると同時にエルビ スのTMSにPOを入力。
この情報がWMS に自動的に流れる。
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廝贈味擇任漏� サプライヤーと発注内容や納期を確認し、P Oに対する入出荷実績をWMSで管理する。
 一方、出荷に当たって、バイヤーはエルビ スの画面で商品の入荷状況を見て発注残など の確認を行い、これをもとにSOを作成。
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廝贈味擇錬廝唯咾冒�蕕譴殖咤呂砲� ってコンテナへの積み付け計画を立てる。
 エルビスではWBLZでの出庫から日本の 配送センターへ輸送するまでの間もフォワーダ ーの業務システムなどと連携してトラッキング を行い、SOやPO単位で商品がどのコンテ ナに積まれたかをバイヤー側で確認できるよ うにしている。
 峰松取締役は「WBLZの活用によって顧 客は日本国内の在庫を極力減らすことができ る。
日本の配送センターと同じように中国側 の在庫をコントロールできる点も大きなメリッ トだ」とアピールする。
 現在、TMSは顧客ごとに専用のサーバー で運用しているが、今後はクラウド化によっ 見える化システム「L’ vis (Logistics Visibility)」を開発した ●P/O、S/Oによる、配送状況のトラッキングが可能 ●複数拠点の配送状況の可視化が可能 ●EXCELフォームに登録したP/O、S/O ●情報の一括取込が可能 ●アラート情報をメールにて配信可能 従来の貨物トラッキングは、検索したい項目ごとに複数(例は5つ)のシステムを検索、 あるいは直接コンタクトを取る必要があった 「L’vis」の導入によって、あらゆるトラッキング情報の検索が可能 輸出国 サプライヤー保管倉庫フォワーダー NVOCC ●入出庫履歴 ●在庫保管履歴 ●顧客の希望引当条件の設定可能 ●Microsoftアプリケーションへのインポートが容易 輸入国 保管倉庫納入先 ?サプライヤー ?倉庫業者 ?フォワーダー ?倉庫業者 ?配送業者 TMS 機能WMS 機能 53  JUNE 2011 半。
武漢や重慶など内陸部の拠点となると、 工場から最長で一五〇〇キロも離れている。
 広域にわたる集荷エリアから三通りの輸送 方法で部品を調達する。
遠距離のサプライヤ ーからの集荷はトラックを一台ずつ仕立てて 工場へダイレクト輸送。
サプライヤーの拠点 が集積しているエリアへはミルクラン(巡回 集荷)。
数量の少ないサプライヤーへは小型車 で集荷に行き、クロスドック用の倉庫で大型 車に積み替えて工場へ輸送する。
 上海華加は〇四年に、中国全土に配送網 を持つ現地の運送会社を買収し、自社便によ るトラック輸送を開始している。
この子会社 「上海華国運輸有限公司」の車両と現地の協 力会社の車両を合わせおよそ五〇台で部品輸 送網を構築した。
 北京ベンツの工場内の事務所に上海華加の スタッフが常駐し、工場の集荷依頼に対して、 部品倉庫の在庫状況やサプライヤーの受け渡 し準備がどこまで進んでいるかを確認したう えで最適な集荷計画を立てる。
 すべての車両にGPSの端末を搭載して、 北京や上海の事務所でパソコンの画面から車 両の運行を管理し、輸送状況によって柔軟に ルート変更などの指示を出せるようにしてい る。
また緊急の場合などは航空輸送や鉄道輸 送にも対応できるバックアップ体制を整えて いる。
 なお倉庫へ部品を集荷した後の在庫管理や、 部品をモジュール化して工場の生産ラインサイ ドへ搬入する業務は同社の協力会社が担当し ている。
 中国では今後、部品メーカーによる部材の 現地調達が拡大すると見られており、同社は ミルクランなど集配サービスの新たなターゲッ トとして需要開拓を進める考えだ。
 このため中国での拠点はこれまで主に沿岸 部に集中していたが、今後は日系企業の進出 が目立つ内陸部への展開も図る。
内陸の三都 市に今年度中の拠点新設を検討中だ。
 近年、中国では主要都市間で高速鉄道が開 通し、貨物専用列車の運行も増えている。
ト ラック輸送よりも運行時間が正確なうえ、貨 車には防犯カメラが設置されセキュリティ対策 も万全なことから、鉄道輸送のメリットを活 かした3PLサービスの開発も進める。
 同社の現地法人の倉庫には日本から派遣 された社員はいない。
現地採用のスタッフが 3PLサービスのマネジメントを任されてい る。
事業運営を通じたノウハウの蓄積によっ て、最近では現地スタッフが中心となり3P Lの顧客開拓やサービス開発にあたるケース も増えているという。
 峰松取締役は「むこう(現地法人)でフォ ワーディングの営業を担当する社員も3PL 案件に前向きだ。
もともと部門間の垣根がな い社風で、われわれも積極的にサポートし現 地と一体で需要を開拓していきたい」と意欲 を見せている。
(フリージャーナリスト・内田三知代)  このうち大連、タイ、ベトナムでは提携先 の倉庫を活用して3PL事業を展開する形を とっている。
管理責任者だけを配置してその 管轄のもとにオペレーションを提携先に委託、 倉庫にエルビスの端末を設置して同社側で業 務をコントロールできるようにしている。
 今年に入って、商船三井ロジスティクスは 3PL事業者として新たな領域にも踏み入っ た。
上海華加が北京ベンツ汽車有限公司から 北京の工場向けに自動車部品の集配サービス を受託した。
三月から業務を開始している。
 商船三井ロジスティクスではこれ以前にも、 上海にあるWBLZとは別の倉庫で日系自動 車メーカーからサービス部品の入出庫・在庫 管理を受託している。
しかし、組立用部品の 本格的な調達物流を手がけるのは今回が初め てだ。
 北京ベンツは〇八年に北京の工場で高級車 の生産を開始、一〇年度の生産台数は五万 台で、今後は大幅に台数を増やしていく計画 だ。
これに伴って調達物流の再構築に着手し た。
部品の調達エリアを海外と中国国内の北 部地域および南部地域の三つに分け、このう ち南部地域で調達する部品の物流業務を上海 華加に委託した。
GPS付き専用車で集荷  北京ベンツのサプライヤーの拠点は南部地 域の数十カ所に分散している。
輸送リードタ イムは上海から北京間のトラック輸送で二日

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